Trend & Illustrations #9/山下 航が描く「Compassionate Collective」 Adobe Stock ビジュアルトレンド

Adobeではビジュアルのニーズを様々な角度から分析し、その予測をトレンドリポートして毎年発表しています。2021年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。第9回目のテーマは「Compassionate Collective – 思いを分かち合う」。デジタルとアナログを使い分け、人や風景を緻密な描写で捉える山下 航さんに、作品についてのお話を伺いました。

山下 航
WATARU YAMASHITA

1979年、広島県生まれ。2004年、東京藝術大学大学院美術研究科修了。デザイン会社勤務を経てイラストレーターに。2013年、インドでのアーティスト・イン・レジデンス「土のつわもの」にスタッフとして参加、現地で壁画やスケッチを描く。2017年、東京・表参道で初めての個展「シアラの春」を開催。現在は雑誌やパンフレット、書籍、Web、パッケージなどで幅広く活動している。2020年4月から横浜美術大学助教。メキシコ・パンアメリカン大学/Brand Mascots lab メンバー。

https://wataruillust.tumblr.com/
https://tis-home.com/wataru-yamashita/

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「思いは輪を描く」2021年

思いは輪を描く

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Q:「Compassionate Collective – 思いを分かち合う」というテーマを選んだ理由を教えてください。

自分にとって、もっともビジュアル化しやすいテーマでした。Adobe Stockでイメージを検索するとサムネイルが小さく羅列されますよね。膨大な数が並ぶから、探している人には一瞬で良し悪しが判断される。自分の絵は細かい線画で、引いた画になると目立たない自覚はあったので、まずは円状の形をパッと見で認識してもらえるようにして、この作品を描きました。

Q:今回、TISサイドでアナログ作品、Adobeサイドでデジタル作品、2つのパターンをご用意いただきました。どのようなプロセスで描きましたか?

最終的に提出する予定だったのは、アナログの作品です。iPadでラフを描いて、色や明度の計画を立てて、印刷して、それをトレースしてアナログのほうを進めていって。途中でデジタルのラフとアナログと、両方のデータをAdobeスタッフの方に確認してもらうと、「デジタルのほうが汎用性が高いのではないか」というご意見をいただきました。デジタルのほうは、背景をホワイトで何もない状態にしているので確かに使いやすい。アナログのほうは、紙の地色が残っていて風合いも感じられる。データを使う人の目線によって変わるので、今回は2つとも提出することになりました。

Q:多種多様な人々が描かれていますね。

人種、国籍、年齢、ハンディキャップの有無。多様な人を描くことが「思いを分かち合う」というテーマにつながると考えました。実在する国同士の関係性や、信仰の違いなどの知識を、自分が十分に持ち合わせていないこともあって、特定の国や宗教と分からないように特徴をミックスして描いています。

Q:音楽を楽しんでいる人たちの姿が印象的です。

円形の構図で描いているうちに“何を分かち合うか”をもっと突き詰めれば、より今回のテーマを伝えられると気づきました。1つのことに対して人が集まるシーンを描こうと思ったんです。僕は音楽を聴くことが好きなので、音楽をその要素にしました。右上から、女の子がマイクを持って走ってきていますよね。完全なサークルにするのではなく、少し崩して絵のポイントにしてみました。皆が大きく手を振って迎え入れるシーンを描くことで、よりテーマ性を浮かび上がらせています。

Q:どの人物が、特にお気に入りですか?

どの人も好きですが、ダンスをしている子どもたちが特にいいですね。子どもたちって照れがない場合が多いじゃないですか。無邪気で、楽しいことが目の前にあったら自然と身体が動き出す。僕自身も意識が絵のなかに入りこむと、そこにいる人が笑顔だったり、驚いていたり、こんな格好だったらどうだろうか、と想像して描くのが楽しいです。視線が重なっている人もいますが、隣り合う人たちの関係性も丁寧に描くと観る人が感情移入しやすいのではないかな、と思いました。そういった細かな部分も「思いを分かち合う」につながりますね。

イラストレーターになるまで

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Q:絵を描き始めたのはいつごろですか?

兄が絵画教室に通っていて、僕も2歳のときから一緒に行っていたそうです。物心が付く前から絵を描いていました。大学はデザイン科で、イラストを主とした作品を多く制作していました。

Q:イラストレーターになるまでの経緯を教えてください。

大学卒業後、イラストレーションが好きである一方、本のデザインに興味があったので、エディトリアルデザインの会社で働くことになりました。そして、しばらくするとリーマンショックがあって、どんどんまわりの人が辞めていきました。予期せず僕も辞めることになり、イタリアとフランスを旅行することに。現地の美術館や教会、街の看板を見て、絵や彫刻、デザイン、建築に触れるうちにものを作りたいというモチベーションが湧いてきて、あらためて絵を描いて生きていこうと思い、イラストレーターになりました。

Q:制作において影響を受けた作家や作品は?

直接的に影響を受けたのは、漫画家の鳥山 明さんですね。週刊少年ジャンプで巻頭カラーのときは、幼心にときめいていました。色使いだったり、絵としても本当にうまくて。何より見ていて気持ちがよかったです。大友克洋さんの漫画やバンド・デシネにも好んで触れていました。2003年に川崎市市民ミュージアムで開催されていた「フランスコミック・アート展」でバンド・デシネの原画を見たことは大きかったと思います。

『NHKテキスト エンジョイ・シンプル・イングリッシュ』(NHK出版)

「Hello from Around the World」挿絵/2019年

漫画で使用されるスクリーントーンをパソコンに取り込んで、テクスチャーのように使うこともあるそう。

インドでの経験

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Q:これまでの画業で、ターニングポイントとなった出来事はありますか?

2013年に、インドの西ベンガル州にアーティスト・イン・レジデンスの企画で1ヵ月ほど滞在したことがあります。少数民族のサンタル族が暮らすシアラ村で甘味処兼居酒屋をつくり、現地の人々とコミュニケーションを図るプロジェクトに参加しました。僕はお店の看板やサイン、壁画を描く担当でした。

Q:現地の方々とは、どのようにコミュニケーションを取っていましたか?

村の若者は英語を少し話せますが、基本的には現地の言語を使います。当初は壁に何を描くか決めておらず、スケッチブックと画材を持って村のなかを歩き、スケッチを重ねるうちに村の人々の様子を描くことにしました。教わった現地の言葉と、その意味を日本語で並べて画板に書いていたので、画板が僕にとっての辞書代わり。似顔絵を描くと、村の人たちはよろこんでくれるので人気者でした(笑)。言語を越えて伝わるから、絵は強いと実感する出来事でした。機会があれば、また現地に伺ってみたいです。当時から8年ほど経っているので、小さかった子どもも大きくなっているでしょうね。

「食器を洗う人たち」2017年

Adobe Stockを利用して

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Q:Adobe Stockのようなクリエイティブクラウドでの販売は初めての経験ですか?

初めてですが、特に抵抗なく取り組むことが出来ました。アップする作品に検索キーワードを付けるのですが、AIによる自動生成の機能があって興味深かったです。キーワードを入れるステップは、自分の絵を分析することにもつながる気がしました。

Q:Adobe Stockでアップしてみたい作品はありますか?

多くの人に活用してもらえる絵を提供したいので、人物にクローズアップしたシーンも描いてアップしてみたいです。WEBページでも使えるような、汎用性の高い作品がいいかもしれませんね。

Q:あらためて、今回描いてみての感想をお聞かせください。

普段、社会的なテーマで描くことはあまりないので貴重な体験でした。難しさは感じませんでしたが、公な責任を感じながらの制作でした。今回描いた人々のように、みんなで和気あいあいと過ごせるようになったらいいですね。作品のような風景がまた観れることを願っています。

いかがでしたでしょうか?今回ご紹介した若林さんの作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションやビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくとお得にお求めいただけます。購入プランに関してはこちら を御確認下さい。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらをご覧ください。