【2022年1月施行開始】専門家に聞いた Adobe Signによる改正電子帳簿保存法への対応

電帳法について①

平成10年(1998年)7月から施行されている電子帳簿保存法。IT化の進展と共に過去4回改正されてきましたが、令和4年(2022年)1月1日に施行される電子帳簿保存法では検索要件の大幅な緩和に加え、電子化保管における要件が追加されております。一方、コロナ禍で手続きの電子化や電子契約の機会が増大し、取引に関わる契約書や発注書の締結・承認から文書保管までを一気通貫で電子化するニーズが増えています。

改正電子帳簿保存法施行まであと2カ月、法対応から電子取引、文書管理までトータルで業務効率化を実現するポイントについて、税理士資格を持つケインズアイコンサルティンググループ 甲斐浩一さん(株式会社ケインズアイホールディングス 代表取締役)、村上啓一さん(k&iソリューションズ株式会社 代表取締役)に、アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略部の岩松健史が聞きました。

専門家の電子帳簿保存法対応、Adobe Signとサイボウズkintoneで実現

岩松:令和4年の始まりと共に施行される改正電子帳簿保存法ですが、残された期間は2カ月程度です。税務・労務や法務分野のコンサルティングを手がけるケインズアイコンサルティンググループさんも、いまかなりお忙しいのではないですか?

(左から)ケインズアイコンサルティンググループ 甲斐浩一さん、村上啓一さん、アドビ 岩松健史

村上氏:そうですね、「そろそろ対応しないといけない」という状況になった9月〜10月からお問い合わせが増えてきました。

岩松:本題ですが、この分野のプロフェッショナルである御社では、電子帳簿保存法に対してどのように対応しているのでしょうか。

村上氏:当社ではAdobe Signを使って電子帳簿保存法に対応しています。電子契約サービス分野でAdobe Signを活用、さらにサイボウズ社の業務改善クラウドサービスであるkintoneを組み合わせることで、より強固に電子帳簿保存法に対応している形になります。

具体例を挙げて説明すると、税理士顧問契約を締結する場合、顧問契約書を作成してAdobe Signで相手方に署名をお願いし、署名後の文書を自動的にkintone内に格納・保管するというイメージです。コンサルティングやシステム開発を請け負うk&iソリューションズでは、発注書を当社側で発行してお客様から発注をいただき、請負書を返す流れなのですが、これもkintoneで自動的に文書の格納・保管を行なっています。

岩松:Adobe Signとkintoneの組み合わせで電子帳簿保存法にしっかり対応なさっているんですね。運用に当たって工夫された点などは?

村上氏:電子帳簿保存法に対応するにはいくつか要件が必要なのですが、当社では「真実性の確保」と「検索性の確保」にフォーカスしています。真実性の確保に関しては4点ほど要件がありますが、当社では「改竄防止等のための事務処理規程を作成し運用する」ことで対応しています。具体的には、当社の税理士法人で作成した事務処理規程を事務所に備え付け、文書を訂正・削除する際には、この規程にあるルールに沿って削除申請を出し、管理者が許可を出して処理者が削除するという運用をしています。

図1 電子取引における4つの要件

図1 電子取引における4つの要件

検索性の確保についても、kintoneで文書管理を行うことで、上記の要件にある主要項目による検索や、日付・金額の範囲指定検索、2つ以上の項目を組み合わせるand検索、ブランク検索を実現しています。ですが、改正電子帳簿保存法ではこの要件が変わってくるようです。

機能ではなく、税務業務から考える改正電子帳簿保存法への対応法

岩松:令和4年からの改正電子帳簿保存法ではどのような点が変わるのでしょうか。

甲斐氏:いろいろ変わってくるのですが、大きなポイントは「検索性の要件の変更」だと考えています。具体的には、範囲指定検索とand検索の2つが必須ではなくなります。ただ、国税庁からのダウンロード要求に迅速に対応できなくてはなりません。

つまり要件としては、「主要項目の検索」「ブランク検索」が可能で、税務調査時に税務官から「この書類を見せてください」「ダウンロードして渡してください」といわれた時に、文書を迅速に検索・表示できて、ダウンロードできる運用体制になっていれば、範囲指定やand検索機能の実装は不要ということになります。

図2 改正電子帳簿保存法における要件変更ポイント

岩松:最近、電子契約の検討を行う企業では、Adobe Signだけで電子帳簿保存法に対応できないか検討しているところも増えています。今回、要件が緩和される場合、Adobe Signで電子帳簿保存法にどのように対応できるのかを教えていただけますか。

甲斐氏:そうですね、結論からいうとAdobe Sign単体でも電子帳簿保存法には対応し得ると考えています。金額・日付・相手先の企業名などの情報で文書自体が検索できれば問題ありません。Adobe Signだけで検索要件を満たすには、たとえば文書のファイル名の付け方をルール化し、運用していく方法もあるでしょう。文書ファイル名を「日付_金額_企業名」とするように決め、それでAdobe Signで契約書を交わすことで、主要項目の検索性要件を満たすことができます。

and検索や範囲指定検索を行うには、やはりkintoneのようなクラウドサービスと組み合わせるほうが良いのですが、それも手段がないわけではありません。ほかのクラウドサービスの予算が確保できない場合、国税庁では「Excelの索引簿」を一般公開しているので、それを使ってAdobe Signで交わした文書データと索引を紐付け、検索できるように整えておけば、現行の電子帳簿保存法の検索要件にも対応できます。

岩松:お話を伺うと「機能要件に対応するためにITを作り込む」というより、人・組織を含めた運用体制もしっかり考えないといけないのですね。

甲斐氏:はい、要件を満たすサービスやシステムをきちんと選んで導入することはもちろん必要ですが、それで終わりではなく、その後の運用も考える必要があります。

Adobe Signだけで電子帳簿保存法に対応可能?

岩松:電子帳簿保存法は、企業規模によって対応の仕方や要件に違いはないのでしょうか?

甲斐氏:電子帳簿保存法自体が企業規模の区分けで規定されているものではないので、違いはありません。ただ、電子契約導入という点から見ると、大きな違いが出てきます。たとえば上場している企業さんは、印章管理規程などをお持ちです。これは物理的な押印や署名を前提とした規程なので、電子契約サービスを導入する際には、電子的な署名方法に対応した作りに変えていかなくてはなりません。一方、そうした社内規程がない中小企業の方は、規程の見直しというステップを一足飛びにできるという大きな利点があります。

村上氏:Adobe Signの導入はとても簡単ですし、1トランザクションから運用ができるので、スモールスタートで感覚を掴むには適していると思います。

甲斐:ただ1点、気をつけていただきたいことがあります。それは電子帳簿保存法の対応がゴールではなく、将来的なメリットも視野に入れて対応していくということです。そもそも電子契約サービスは、電子帳簿保存法の対応だけでなく、電子化対応することでの業務改善や生産性向上を目的としたものなので、こうした点や運用体制を踏まえて長期的なロードマップを引いて法対応や導入を進めていくことが必要だと考えています。

社内体制の面からいえば、「どういう文書を電子化しても良いのか」「電子化する際にはどういう運用体制が必要になるのか」「電子帳簿保存法に対応するにはどういう要件を確保すればいいのか」「事務処理規程はどのように作っていけばいいのか」など、法的な観点の検討も必要になります。

こうした上流工程から、「電子化で業務を改善するにはどういうツールが必要なのか」「どのように活用できるのか」といった現場の業務化まで、一気通貫で考えていくことが大切です。当社では、このように電子化や電子帳簿保存法に対応するためのご相談や、電子契約導入のご提案、社内管理規程の立て方、実際の導入までをサポートするコンサルティングサービスをワンストップで提供しているので、疑問点があればぜひお問い合わせいただきたいと思います。

法対応はゴールではない、業務改善・生産性向上を見据えた導入を

岩松:Adobe Signだけでも、運用を工夫することで電子帳簿保存法への対応はできますが、業務全体の流れや社内体制のことを考えると、もっと全体的な視点で改革・改善を進める必要があるということですね。

甲斐氏:そうですね。契約書の締結も署名をいただくだけではなく、まず社内で文書を作ってワークフローで申請を上げ、許可を得たものを相手に送り、そこで署名をいただく流れになります。

さらに署名をいただいて終わりではなく、基本取引契約なら振込先口座情報をいただいたり、与信が必要なら決算書を送っていただいたり、雇用契約であれば個人のマイナンバーカードを提出していただいたり、契約に付帯する手続きや業務、書類は多数あります。この一連のプロセスを踏まえて、どのように電子化していけば、電子帳簿保存法に対応し、かつ業務の効率化が図れるかを考えることが必要だと思います。

図3 Adobe Signとkintone連携による業務改善イメージ

図3 Adobe Signとkintone連携による業務改善イメージ


岩松:電子帳簿保存法と、電子契約/電子署名ソリューションの関連性は高いのですが、そうかといって電子署名ソリューションだけで電子帳簿保存法のすべてをカバーしている、またはしていないという話だけを行うのは、根本的な目的を見失う可能性があると考えられます。

なぜなら、Adobe Signで署名した文書だけが企業内の税務書類というわけではなく、手作業による紙ドキュメントもあれば、過去の取引記録も紙で保管されているでしょうし、Adobe Sign以外の電子署名ソリューションを使った文書や、メールもあります。こういった様々な書類への対応を考慮した導入や運用の検討が必要ということになりますか?

図4 電子帳簿保存法における電子サインソリューションの対応イメージ

村上氏:Adobe Signは電子契約/電子署名ソリューションとして、生産性向上や業務改善に資するサービスだと考えています。なので、これを使って電子帳簿保存法に対応していく進め方はありだと考えています。最初はAdobe Signを運用しつつ、Excelの簡略索引簿を併用したり、ファイル名の付け方で対応したりしながら、運用に慣れていただく。そこから先、生産性を向上させるためにkintoneのようなサービスと連携し、より生産性を高めていくように進めることが、より早く、正しく導入できるポイントだと考えています。

岩松:ありがとうございました。

▼これから電子契約を導入される方、または導入を検討されている方の疑問や不安について、弁護士・税理士の監修をもとにお答えします。
電子契約導入ガイド

▼【2022年追記】
2021年12月27日、国税庁は改正省令により、2022年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法における2年間の宥恕規定を設けました。

そして、その翌日12月28日に、関連通達の改正及びQ&AやパンフレットをHPに掲載しています。

電子帳簿保存法取扱通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」より抜粋

電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和3年財務省例第25号)附則第2条第3項((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関する宥恕措置))の規定の適用に当たって、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を要件に従って行うことができなかったことについてやむを得ない事情があると認められ、かつ、その電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の要求に応じることができる場合には、その出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存を行っているものとして取り扱って差し支えない。

今回、国税庁が周知している内容は「猶予」ではなく「宥恕(ゆうじょ)」となっており、宥恕とは、日本の法律では「刑事罰対象だが、今回は○○を理由に特別に刑事処罰を求めない」という意味で使われることがあります。

そのため、改正電子帳簿保存法は2022年1月1日に施行されていますので、義務化はスタートしており、納税地等の所轄税務署長が ”やむを得ない事情” があると認定せずに電子化保存に対応していない場合は「法律違反」となる可能性があります。

次に、「『やむを得ない』事情があれば、許容する」という意味の内容が「電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)」に掲載されていますが、「やむを得ない事情」とは何でしょうか?また、やむを得ない事情とは誰が判断するのでしょうか。

「やむを得ない事情」とは
・電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に係るシステム等や社内でのワークフローの整備未済等、保存要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難であること

「やむを得ない事情を判断する人」
・納税地等の所轄税務署長と書かれています。

※詳細は電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)

なお、もし「やむを得ない事情」で対応が間に合わない場合の対応については、以下のように記載されています。

やむを得ない事情の有無や出力された書面については、必要に応じて税務調査等の際に確認することとしており、仮に税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、対応状況や今後の見通しなどを伝えられるように準備しておく必要があります。

国税庁が提供している改正電子帳簿保存法に関係する情報ページ
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