Creators Meetup #2 | クリエイターのポートフォリオについて #AdobeResidency

Community Fund のメンバーで定期的に開催するクリエイターズミートアップ。毎回ゲストをお呼びして、あるテーマに沿ってお話いただいたり、質疑応答に答えてもらう学びの場。今回のゲストはイラストレーターのサタケシュンスケさん。仕事につながるポートフォリオづくりのポイントや、仕事をスムーズに運ぶためのクライアントとのコミュニケーション、普段はあまり聞くことのできないお金の話まで。クリエイターの方にとってすぐに活用できるノウハウ満載でお届けします。

サタケシュンスケ / イラストレーター

2007年よりフリーランスとして活動開始、2021年に法人化。京都芸術大学の講師も務める。デフォルメした動物や人物の絵を描き、国内外で数々の作品を出版。愛用するアプリはイラレとフレスコ。AdobeMAX登壇・2014/2017年にグッドデザイン賞を受賞。3児の父。作品集PRESENT(玄光社)


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過去 vs 現在のポートフォリオ

サタケ】:こんにちは。イラストレーターのサタケシュンスケです。フリーランスとして15年活動し、昨年法人を設立しました。現在は動物をモチーフにしたイラストを中心に制作を行っています。教育関係やおもちゃに関するイラストの制作や、国内外の雑誌や絵本のイラストなど、ありがたいことに仕事の幅は年々広がってきています。本日はよろしくお願いします。

--よろしくお願いします。まず初めにキャリアのスタート時期のお話から伺いたいのですが、サタケさんがイラストレーターとして独立きっかけはなんだったんですか?

サタケ】:僕は元々はグラフィックデザイナーとして会社に勤務していたのですが、いつかは自分の名前で仕事をしたいと思っていたこともあり、一念発起してイラストレーターとして独立しました。とはいえ会社にいた頃からイラストのお仕事をいただいていましたので、デザイナーからイラストレーターへは徐々にシフトしてきた形です。

--独立直後から現在のような作風でイラストを制作していたのですか?

サタケ】:いえ、最初は違うスタイルで制作をしていて、いま振り返ると迷走していた時期もありますね。それこそ、たくさん失敗もしてきましたよ。

過去の作風

サタケ】:当時はこうしたアクリルガッシュでの表現が中心でした。独立直後の頃は自分でも何を書いていいのか分からず模索していたのだと思います。今お見せするのはやはり少し恥ずかしいですね(笑)

独立後はすぐにポートフォリオを持って営業をしていましたが、なかなかお仕事に繋がらないことも続いていて。2008年ごろから軌道に乗り始め、2011年前後に今のスタイルが完成してきたという感じです。

--今の作風のイメージが強いので、それは意外でした。最初は上手くいかなかったということですが、ブレイクスルーとなった出来事があったのでしょうか?

サタケ】:ブレイクスルーになったのは、仕事のイラストではなく毎年開催している個展ですね。そこでは必ず新しい作品を発表するようにしています。最初は仕事になるかどうかは考えずインパクト重視で新しい作品を作っていたのですが、やはりすぐには仕事にはなりません。ただ展示を観た方からいただいた声を元に、どんな作品が求められているのかとか、需要を考えていきました。子供や動物に絞ってたのもそうした理由からで、自分の個性を出しすぎないバランスで、作品のトーンを模索していきました。

そして作風が落ち着いてきてからは、徐々に仕事でいただく依頼内容も変わっていきました。当時は依頼が来たらどんな仕事でも断らずにお引き受けするというスタンスでしたが、自分が得意なものや出来ることを自分でもよくわかっていなかったのだと思います。仕事の比重をコントロールできるるようになったのは最近のことです。

ポートフォリオは「やりたいこと」「できること」を明確にする

サタケ】:実例を元にお話ししましょうか。まず、こちらが初期の頃のポートフォリオです。

過去のポートフォリオ

サタケ】:説明や見せ方の具体的な提案が無く、僕の描いたイラストが並んでいるような状態です。当時は色のクセも比較的強く、今振り返ると自分の色を出したいと考えていたようにも見えますね。これでは見る方にとっても、「自分の作品がよければ使ってください」というような姿勢にうつったかもしれません。これでは、もしお仕事があったとしても「この人はこの作風じゃないと頼めないんだろうな」という印象を与えてしまいます。

現在のポートフォリオ

サタケ】:そして、これが今のポートフォリオです。一番の変化は「やりたいこと」と「できること」をはっきりと分けているところですね。

前半はパーソナルワーク、後半はクライアントワークという順序になっていますが、これはまず僕が何を描きたいかを伝えるための構成です。まず自分がやりたいことを伝えた上で、出来ることを提示する。そうした意識でポートフォリオを組み直しました。

クライアントワークのページではインパクトがあるものや露出度が高いものを手前に持ってくるようにしています。どこかで見てくださった作品があれば信頼につながりますし、もしなかったとしても記憶に残りやすいので。自分のスタイルばかりを押し付けないように、戦略的に提案することが重要だと思います。

--確かに、受ける印象が大きく違いますね。

サタケ】:加えてプロフィールも以前よりしっかりと書くようにしています。仕事をする上での第一印象は重要ですから、どんな風にみえるのだろう?と考えながら気を配るようになりました。些細な部分かもしれませんが「イラストを仕事にしている人なんだ」という印象をしっかりと持ってもらうことが大事です。

自分の強みを相手にしっかりと届けるには

--そのほかに、ポートフォリオを作る上でのポイントはありますか?

サタケ】:あくまで僕の経験を元にした一例に過ぎませんが、自分の絵をどう使って欲しいかどうかを伝えるという点は重要だと思いますね。

例えば広告のイラストを描きたいならば、自分でつくったモックアップでもいいので、そのユースケースと共に提案するべきです。ビジュアル全体の中でこういう見え方になるんだな、こんなことも出来るんだなという部分をしっかり見せてあげれば、クライアントも依頼がしやすくなります。

また、仕事につながるという点では、大きな規模の仕事だけではなく雑誌のカットのように限られたスペースで展開される仕事の事例も入れるようにしています。出来ることの幅を見せることが出来ますし、実績がないうちでも仕事を頼みやすくなるはずです。これは実際に僕が営業をする中でいただいたフィードバックを元に改善した部分でもあります。

--クライアントの目線になって考えるのが重要なんですね。

サタケ】:そうですね。仮にイラストを気に入っていただけても、依頼の仕方までを想像してもらえなければお仕事には繋がることは難しいですから。最初からやりたいことを押し出すのではなく、徐々にその割合を増やしていくという意識で営業をするのがいいと思います。

こういう意識を持つと、提案の仕方も自然と変わってくるはずです。やりたいことを伝えた上で、できることを提案する。両方を伝えておくことで、いつかピッタリな案件があったときに思い出してもらえるかもしれません。

--ウェブサイト、Instagram、Behanceそれぞれで掲載している作品が異なりますが、どのように切り分けているのですか?

サタケ】:露出のバランスはプラットフォームの客層を意識しながら常に見直すようにしています。Instagram、Behanceには基本的に動物のイラストだけを掲載していますね。それは僕のことを新たに知ってくださる方に、そういう第一印象を持ってもらいたいからです。

もし興味持ってくださったらウェブサイトにアクセスしてもらえますよね。そこで初めて色々なトーンで描いているということを伝える。切り分けるというか、奥行きを持ってもらうという表現が正しいかもしれません。

--では、SNSやウェブサイトでは公開していないイラストもあるのでしょうか?

サタケ】:沢山ありますよ。「なんでも描く人」という印象を持たれてしまうのはあまり良くので、公開するものは割り切って選択するようにしています。

特にBehanceには自分の作風が強く反映されたものだけを掲載するようにしています。海外から頂くことお仕事はほとんどBehance経由なのですが、やはり印象を強く持っていただけないとわざわざ国外から依頼をしていただくことは難しいと思います。

以前、チェコ語を入れたイラストを公開した時に、チェコのグラフィックデザイナーさんから反応があったんです。日本人の作品でチェコ語というのが珍しかったという理由もあると思いますが、ニッチなところに響く絵を描くというのは戦略としては効果的だと思いますね。

もちろん戦略を重視して無理をするのではなく自分の好きなこと、できることの中でというのは大前提です。でも、海外の人にも見てもらえるかなと思ったらワクワクしませんか? ポートフォリオは自分自身が楽しめるやり方で考えていくといいのではないでしょうか。

条件の交渉は最低限。仕事の進め方を工夫することで仕事の幅を広げる

--サタケさんは広告や書籍などさまざまな分野のお仕事をされていますが、どのような割合でお引き受けしているのでしょうか?

サタケ】:現在はこういった形ですね。キャリアをある程度重ねてくると、大きい仕事を中心にしていこうとする方もいらっしゃいますが、僕は可能な限りお引き受けするようにしています。

駆け出しの頃からお仕事をいただいているクライアントさんもいますし、そこから仕事が広がったご恩もありますから、なるべく断りたくないんですよ。すると仕事はどんどん増える一方で大変なのですが(笑)、自分のスキルも上がってきて描くスピードは以前より早くなっているのでなんとかなるかなと。この姿勢は大事にしていますね。

仕事・収入の割合

--長くお付き合いをしているクライアントに対して、条件面やギャランティの見直しを相談することはありますか?

サタケ】:条件の交渉はその都度最低限はしています。ただ、お金の交渉ばかり考えているとお互いに疲弊してしまいますし、あまりにも無理な条件でない限りは、積極的にはしないですね。それよりも提示いただいた予算の中で、自分のやり方を工夫するような意識をしています。この値段だったらこういうやり方がありますという提案をしたりとか。条件を帰るよりも、与えられた予算や条件の中でどう効率よく仕事を進めるかという風に頭を働かせるようになりました。

--具体的にはどんな工夫をされているのでしょうか?

サタケ】:自分用にイラストやアイデアのストックを貯めておいて、その組み合わせを使って制作をするなどして形にするまでの時間を短くできるようしています。

そうすると制作のスピードが格段に上がるんですよ。依頼の翌日にある程度完成が見えた状態でラフを提出することもありますね。そこでイメージが共有できていれば、修正も少なくなってその後の工程がスムーズになりますよね。何より、仕事が早ければクライアントさんにも喜んでいただけますから。

--それはすごく参考になりますね。今すぐ真似しようというクリエイターの方も多いと思います。

サタケ】:僕の家庭には子どもが3人いるのですが、子ども生まれてからは仕事に使える時間がどうしても減ってしまいます。なので、その中でどうすれば効率よく出来るのかというのは、考えざるをえなかったんですね。昔と同じやり方じゃいけないなと考えてこのやり方になっていきました。

とはいえ、これを続けていくと自分の中の引き出しがなくなってしまいます。毎年展覧会を開いて、新しい作品を作るというのは自分の中での引き出しを増やすという意味もあります。

--営業でもあり、自分の引き出しを増やすためのパーソナルワークなんですね。

サタケ】:フリーランスだと作品づくりの時間が取れない人も多いとは思いますが、パーソナルワークを頑張っているからこそあるから仕事がうまく回っている感覚はありますし、実際中長期の仕事に繋がっているという面もありますね。すぐに結果につながらなくても先のキャリアを見据えて発信していくという心構えが重要ではないでしょうか。

それに発信する場所を増やしていくことで、制作する上での判断軸、評価軸も増えていきます。例えばSNSで受けがいい作品だからといって、それがそのまま仕事につながるわけではありません。

色んな場所で見てもらって、色んな声を聞くことがまずは重要です。そのこと忘れないためにも、自分の作品を定期的に作って発信していくことはお勧めしたいですね。