情報アーキテクチャの力を最大限に引き出すための視点 | アドビ UX 道場 #UXDojo

Web の情報を整理するより良い方法を学ぶ上で、鍵になるのは物の見方です。これは UX デザイナーでもコンテンツデザイナーでも同じです。まず、大局的な視点を持つことが必要です。そして、ビジネス目標を意識しつつ、人々を尊重して人々の力になれる体験を、周囲と協力してつくり出さなければなりません。

Everyday Information Architecture」の著者であるリサ・マリア・マーキスは独立系コンサルタントで、企業がコンテンツをより意図的に理解し、整理し、構造化できるよう支援することが専門です。そうした企業が目指しているのは、自社の顧客が Web コンテンツをより容易に見つけられ、行動できるようにすることです。彼女は、サイトマップの作成、ナビゲーションメニューの設計、タクソノミーの設定を適切に行うことが、デジタル製品の枠をはるかに超えた影響を持つと確信しています。

この記事は、マーキスが語った情報アーキテクチャの重要性、プロジェクトの進め方、ナビゲーションの改善に必要な考え方を紹介します。

2017 年のコンテンツ戦略会議 Confab のステージに立つリサ・マリア・マーキス

情報アーキテクチャの実装が不適切だと、何が起こるのでしょう?

ユーザーの信頼を失う可能性があります。ユーザーは、デザインチームが構築した環境や情報を信頼できない場合、それらを実際に使用して、判断したり、行動したり、目的を達成できると感じられなくなってしまいます。

情報アーキテクチャを軽視したり、ユーザーを尊重し力を与えるように設計しない場合、一貫性のないリンク、本当の意味を伝えないラベル、確認したりやり直したりできない操作などが発生します。これらは、ユーザーがサイトで正しい選択を判断する際の妨げになります。

また、不適切な情報アーキテクチャの実装は、操作しているシステム全体に対する信頼をユーザーから失わせます。紛らわしいメニューのおかげで、ユーザーは自分の現在地がわからなくなるかもしれません。サイトで目にしたものを信用できなければ、サイトのその他の側面についても信用を失う可能性があります。その結果、ユーザーに数分間だけ不便をかけたり不愉快な思いをさせるだけでなく、最悪の場合は完全に顧客を失うこともあるでしょう。

そうではなくて、ユーザーが自身の体験をコントロールできていると感じられ、安心して扱えるデジタル製品を目指すべきです。優れた情報アーキテクチャは、全体をひとつにまとめる役割を果たします。そして、デジタルシステム全体の一貫性を実現します。

新しいクライアントと働き始める際、どのように進めていますか?

まず最初のステップでは、たくさん質問をします。重要なのは、即座に分析や解決策を考え始めることなく、相手の話を聞くことです。プロジェクトの最初は質問をしなければなりませんが、優秀な情報アーキテクトは、好奇心を持って熱心に答えを聞くものです。

できるだけ多くの人に質問することも重要です。特に、システムの経緯を理解すべきです。現状の把握だけでなく、過去にどのような決定がなされて現在のシステム構造に至ったかを把握するのです。それにより、システムの動作の仕組み、組織内の意思決定の手順、権力の関係や価値観が明らかになります。また、何がうまくいっていて、何がうまくいかなかったのかを理解できれば、良い面を無くしてしまったり、過去の失敗を繰り返さずにすむでしょう。これは本当に重要なことです。過去に起きたことを理解せずに、より良いシステムを構築することはできません。

サイトナビゲーションの設計において一般的に見られる失敗は?

ナビゲーションシステムが、Web サイトの構造を反映していないケースが挙げられます。ナビゲーションをシステム自身の一部ではなく、システムの上に載せる別のレイヤー、つまり、実質的に独立したインターフェースのように扱うと、その断絶にユーザーは気づきます。ユーザーは目にしているものを正確に表現できないかもしれませんが、矛盾する認知を抱えることになるでしょう。ユーザーは苦労しながら前に進んで必要なものを見つけるか、さもなければ、いったん戻ってやり直すことになります。このような状況ではユーザーが負担を感じるため、ミスを犯す可能性が非常に高くなります。

むしろ、ナビゲーションは透明性を高めるために使うべきものです。言い換えると、ナビゲーションは、システムの構造的な問題を解決するために使うべきではありません。もしデザインチーム自身が情報を明確に構造化していなければ、どこかで不整合が発生し、システムの構造は、ビジネスあるいはユーザーの現実を反映したものにはならないでしょう。まずはその問題を解決し、それからナビゲーションを通じて情報を公開するのであり、その反対ではありません。

ナビゲーションは、応急処置や隙間を埋めるものではなく、配線として扱うべきものです。情報アーキテクチャとメンタルモデルが整ってはじめて、それを外部に現わすことができるのです。

ナビゲーションを改善するため、実際に行っていることは何でしょうか?

リアルなユーザーとのテストは、何が起きているかを確認するための優れた方法です。私は、プロトタイプを使ったテストを本当に高く評価しています。どのバージョンの Web サイトが最もクリックを集めるかを確認するため、多くの組織が A/B テストを使っています。それは自体はよいことかもしれませんが、アクセシビリティやパフォーマンスの問題の原因になる可能性もあります。私の好みはオフラインのテストです。特にナビゲーションのテストにお気に入りのツールは、Optimal Workshop の Treejack です。これは、ナビゲーションのデザインや機能ではなく、ラベルの付け方と類似性をテストするツールです。これはナビゲーションのテストの最初のステップであるべきです。

ナビゲーションを設計するときは、このツールを使って、ユーザーに探しているものを見つけるよう尋ねます。これにより、メニューにつけたラベルが意味をなしているか、提示した情報の階層やグループ分けがユーザーのメンタルモデルに一致しているかを確認できます。最初にテストしたナビゲーションを基準として、変更したナビゲーションをテストすると、元のバージョンと新しいバージョンのどちらで、ユーザーがより意味のある操作をしているかを確認できます。そこから学んだことは、ナビゲーションを改善するためのヒントになります。

また、サイトマップ、ナビゲーション構造、あるいはタクソノミーを作成する際は、人々を巻き込むことをとても重視しています。すなわち、日々プロジェクトに関わっているたちです。彼らに迎合する必要はありませんが、改善する過程に協力してもらい、自分たちの声が届いていると感じさせ、彼らの洞察を使って新しいアイデアを練ります。プロジェクトに関しては、彼らの方がよく知っているからです。新しいアイデアは、実際のユーザーとテストする前に、まず彼らとテストしてフィードバックを得ます。

システムをデザインする際に、システムのエンドユーザー、中間ユーザー、システム管理部門の人々、そして顧客や訪問者など、全員が参加することはとても重要です。誰もが自分たちのことが考慮されていると感じられるべきです。

情報アーキテクチャの原則を適用して成功したプロジェクトの例を教えてください。

数年前、Posse Foundation という非営利団体の Web サイトをリニューアルするプロジェクトに携わりましたが、これは大成功でした。私たちのチームは、サイトのナビゲーションと情報アーキテクチャを通じて、彼らのミッションと価値を表現することができました。

この Web サイトについて気に入っているのは、ナビゲーションが組織のストーリーを伝えている点です。以前は目的別に誘導するナビゲーションになっていましたが、これを望ましいとは思いませんでした。というのは、私たちはユーザーを特定のセクションに誘導して、一か所だけに閉じ込めてしまいたくないと考えていたからです。そこで代替案として、ストーリーを体験して貰うというアプローチをとり、ユーザーが自分のペースであらゆる選択肢を探索できる形にしようと考えました。Web サイトのセクションを、新しく発見した親和性を基準にグループ分けし直したり、特定のコンテキストだけでなくさまざまなユーザーに意味を伝えるラベルを見つけられたことは、IA、デザイン、コンテンツが、ビジネスゴールに向けて一体となって機能した、まさに成功例と言えるものです。

リサ・マリア・マーキスは、奨学金団体 Posse のユーザーニーズとビジネスゴールの両方を理解するために、広範囲に構造的な監査を実施した

情報アーキテクチャのインパクトについて期待することは何ですか?

情報アーキテクチャは大きな影響を与える可能性を持っていますが、実際には様々な手段のひとつに過ぎません。それだけでは、インターフェースやコンテンツデザインよりも大きなインターネット上の問題は解決できません。そうした大きな問題を解決するには、多くの異なる分野や視点から、人々が協調して取り組むことが非常に重要です。

本当に影響を与える唯一の方法は、私たちがその一部である、より大きなシステムについて考えることです。単に、ある Web サイトのメニュー、あるセクションのナビゲーション、あるいはある個所のラベルだけを対象にするのではなくて、Web サイト、デジタル体験、インターネット、そして社会全体について考えるのです。こうしたシステムは非常に大きなものであるため、圧倒されるように感じるかもしれません。

1 人の人間、1 人の Web プロフェッショナルが、そこにどんな違いをもたらせるでしょうか?重要なのは、怯んだりせずに、自分がコントロールできる小さな変化を積み重ねられる方法を求め、大きなシステムについて考え抜くことです。そして、互いに協力し合い、集合体として働くことこそが、影響を最大化するために必要なのです。

リサ・マリア・マーキスの仕事や洞察をさらに知りたい人には、彼女の書籍「Everyday Information Architecture」をおすすめします。

この記事は Practicing Impactful Information Architecture: A Conversation with Lisa Maria Marquis(著者: Oliver Lindberg)の抄訳です