カッティングルームで生まれるリズム〜4Kマルチカム映像を駆使したドキュメンタリー映画「New Worlds: The Cradle of Civilization」編集の舞台裏

Photograph of Bill Murray at a podium giving a speech.

画像提供:Andrew Muscato

「New Worlds: The Cradle of Civilization」は、映画俳優のビル マーレイ(Bill Murray)氏が、チェロ奏者のヤン フォーグラー(Jan Vogler)氏と共に欧州を巡った「New Worlds」ツアーの最終公演で見せた、ある魔法のような一夜を捉えたものです。このドキュメンタリーは、米国ペンシルバニア州フィラデルフィア市フィッシュタウン地域在住のジョン コナー(Jon Connor)氏とクリスティーナ ヴァルディヴィエソ(Cristina Valdivieso)氏が夫婦で営む長編映画のポストプロダクション会社、Vamanos Postで編集されました。

今回、コナー氏にインタビューし、Adobe Premiere Proのお気に入りの裏技や、ビル マレー氏とやりとりしながら映像編集を進めた当時の印象を伺いました。

映像編集のスキルはどこで、どうやって身につけたのですか?

年齢がわかってしまいますが、私が初めて編集した作品は今も、オリジナルのVHSテープとして編集室に保存してあります。90年代半ば、中学校の課題で独自に編集した「ロビン・フッド」を友人たちと作ったんです。当時は、ビデオカメラをビデオデッキに繋げて「一時停止/録画」を繰り返すような古い方法で編集するしかありませんでした。高校卒業後は大学で映画制作を学びましたが、仕事に役立つ編集スキルが身についたのは大学卒業後に職に就いてからで、学びはいまも継続中です。編集作業を重ねていくことでそのコツが身体に染み込み、編集上の問題を自分自身で解決する経験を通じて豊富なトリックやテクニックを自分のものとしていくことができるんです。

通常はどのようにプロジェクトを始め、準備の作業をするのですか?

この映画の核となるのは、7つのカメラアングルで4K(4096x2160)撮影されたライブコンサート映像なので、そのようなマルチカムのワークフローを管理するためには、Adobe Premiere Proが不可欠だと最初から分かっていました。そして、最初にすべてのフッテージのプロキシをAdobe Premiere Proのプロジェクトから直接作成します。オンライン編集などで必要なときは、数クリックでフル解像度のフッテージへの置き換えられるので、この機能は私のお気に入りです。

Image of Bill Murray.

画像提供:Andrew Muscato

このプロジェクトでお気に入りのシーンや瞬間、またそれが印象に残っている理由を教えてください。

このプロジェクトで最も楽しかったのは、サウスカロライナ州チャールストンで、アンドリュー ムスカト(Andrew Muscato)監督とビル マーレイ氏と一緒にコンサート映像を編集したときです。私たちのコラボレーションは、とても素晴らしいものでした。マルチカム編集がリズムに乗ってくると、彼らが指揮者で私がオーケストラのような一体感を感じます。「6番まで上げようか」「次は4でやってみて」みたいに声がかかるんです。ある時、ビルが「楽しいよ!ジョン、君はどう?」と言い、私は笑って「人生最高の時を過ごしているよ」と応えました。編集作業では暗い部屋に1人で長時間籠もることになり、孤独を感じることもありますが、ビルと同じ部屋でジャムセッションのように作業できたのは、一生忘れられない経験です。

Image of Bill Murray.

画像提供:Andrew Muscato

ポストプロダクションで直面した、このプロジェクト特有の課題は何でしたか?また、それらをどのように解決していったのですか?

新型コロナに対応するため、プロジェクトの途中でリモートワークフローに切り替えざるを得なかったことです。すでにFrame.ioを使用していましたが、物理的に遠く離れた関係者からもフレーム単位の正確なフィードバックを私のタイムラインに直接取り込むことができるため、この機能はさらに不可欠なものとなりました。

Multicam timeline.

マルチカムのタイムライン(画像提供:Jon Connor)

このプロジェクトで使用したアドビのツールと、それを選択した理由を教えてください。

最近では、Adobe Premiere ProとFrame.ioを使わずに編集をすることはありません。Adobe Premiere Proのマルチカムワークフローは、私にとって本当に楽しいものです。まるで楽器を演奏しているかのように、リズムに乗れるんです。ジャムセッションのように粗編集を進めていき、後から戻ってカットの最終調整をするのも非常に簡単です。

それらのツールがこのプロジェクトに最適だった理由は?

大げさでなく、私にとってのポストプロダクション作業に革命を起こしてくれたからです。Frame.ioでフレーム単位でつけられたコメントが、Adobe Premiere Proのシーケンスに同期してタイムラインに直接読み込まれる。それだけでも、これまで電子メールで送られてくるコメントを「解読」するのに何時間も費やしていた無駄な時間を省くことができました。そして、Adobe Premiere Proのプロキシを使ったマルチカム編集のワークフローは、私にとっては退屈なテクニカルな作業を素早く片付け、最も好きなこと、つまり編集をすることを可能にしてくれるのです。

Adobe Premiere Proやその他のツールについて、どのような点が気に入っていますか?

Adobe Premiere Proでは、ラベルカラーとマーカーを組み合わせて使うのが好きです。一見、基本的な機能に見えますが、映画をセクションごとに、直感的に区切ることができるんです。私はいつも、後から検索できるようにマーカーにメモを残します。この映画では、演奏された楽曲ごとに色分けしておき、タイムライン拡大時であっても、コンサートのどのパートでも瞬時に移動できるようにしました。より具体的なシーンに移動したければ、マーカーパネルでキーワードを検索してサムネイルをクリックすれば、すぐに目的の場所にたどり着けます。

Adobe Premiere Proのあまり知られていない機能やお気に入りのワークフローがあれば教えてください。

私のお気に入りは、プロジェクトウィンドウに読み込んだクリップ、例えば50個をソースモニターに一気に読み込んで次々にプレビューしながらタイムラインに追加していくワークフローです。カスタムのキーボードショートカット(「Adobe Premiere Pro/キーボードショートカット」)を使い、キーボードから手を離さずに、すばやく必要なクリップを追加できるようにしています。

このようにショートカットを設定した状態で、50個あるクリップを全部選択して右クリックメニューの「ソースモニターで開く」でソースモニターに読み込みます。「J」(左へシャトル)、「K」(シャトル停止)、「L」(右へシャトル)を使ってソースモニター上でクリップの内容を確認し、イン点(「I」)アウト点(「O」)を設定してから「H」を押してクリップの欲しい部分をタイムラインに追加していきます。次のクリップに移るには「Shift+L」を押し、必要なら「Shift+K」でいつでも戻ることができます。この方法なら、キーボードから手を離さずにフッテージを自由に操ることができるのです。

あなたのクリエイティブなインスピレーションの源は誰ですか?

私の家族です。パートナーのクリスティーナ ヴァルディヴィエソは非常に才能のある映像編集者で、長年にわたって互いに学び合ってきました。オープンなコミュニケーションは、人生においても編集室においても重要です。彼女は、私の直感を信じるよう励ましてくれるし、何かうまくいっていないときは正面から伝えてくれるので、私は編集方法の限界をクリエイティブに超えられるんです。互いの好みや感性もとても似ていて、そのレベルで信頼できる人がいるということは、とても貴重なことです。私たちにはオリビアとステラという2人の娘がいますが、この2人にも毎日刺激を受けています。彼らは想像力が豊かで、人生に対する驚きと興奮の感覚が大切であることを常に思い起こさせてくれます。

これまでのキャリアの中で、最も困難だったことは何ですか?また、これから映画制作やコンテンツ制作を志す人たちにアドバイスをお願いします。

キャリアの初期に直面した最も困難なことは、"No"と言うべき時にそうすることでした。健全な境界線を設定し、職場環境が有害ならそこから立ち去れる自信を持つことは、非常に重要です。その仕事を引き受けなければ、もう二度と働けないのではないかという恐怖を感じることもあるでしょう。でも、自分のやっていることが好きで、人にやさしくしていれば、きっとうまくいくはずです。映画制作を志す人へのアドバイスとしては、もし早い段階で、自分が本当に大事だと思える情熱的なプロジェクトに取り組む時間が取れるのであれば、そうしたほうがいいと思います。私の経験では、年齢が上がるにつれて、お金にならないプロジェクトに参加することは、不可能ではないにしても、難しくなってきます。重要なのは、こういう仕事に携わりたかったと自分で思えるような作品を作れるなら、そうすべきだと言うことです。

どんな仕事場で作業をしていますか?好きなところとその理由を教えてください。

Workspace of Jon Connor.

画像提供:Jon Connor

Cristina Valdivieso editing at Vamanos Post.

Vamanos Postのスタジオで作業するクリスティーナ ヴァルディヴィエソ氏(画像提供:Jon Connor)

私の仕事場で気に入っている点は、共同作業者が私の背中を見つめるだけにならないようなレイアウトになっているところです。編集室内の私の編集ステーションはシアターチェアと平行に設置されているので、一緒にスクリーニングをするときも、ディレクターは私の後頭部に話しかけるのではなくコラボレーティブに対話できるのです。このような環境は、より共同作業に向いていると感じています。また、編集室にシアター環境があるのも素晴らしいことです。カットを臨場感たっぷりに確認できますからね。

この記事は2022年2月8日(米国時間)に公開されたFinding the rhythm in the cutting room — New Worlds: The Cradle of Civilizationの抄訳です。