映画『シン・ウルトラマン』 | VFXと連携し映画制作の中心的役割を果たしたAdobe Premiere Pro

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スーツを着た男の人の絵
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Ⓒ2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©️円谷プロ

『シン・ゴジラ』の製作陣が再結集したエンターテインメント超大作『シン・ウルトラマン』が公開され、大ヒットを記録しています。企画・脚本の庵野秀明氏も編集を担当し、その編集作業を担う中心的なソフトウェアとしてAdobe Premiere Proが採用されました。

編集期間はコロナ禍によってポストプロダクション自体が停滞したことも含め、約2年半の長期間に及びました。その間には編集作業の分担が行われた期間もありウルトラマンと禍威獣との対戦シーン(以下、バトルパート)等を樋口監督がPremiere Proを自らの手で駆使して編集することもありました。そして、このどの期間においてもPremiere Proは編集作業の中心で稼働してきました。

膨大な量の素材やプロジェクトの管理を実現し、完成間際までVFXと寄り添って編集全体を取りまとめたPremiere Pro。その活用の実態について、編集を担当した栗原洋平氏と、プリプロの段階から演出陣のパイプ役として動きポストプロダクションスーパーバイザーとして最終局面まで携わった上田倫人氏にお話を伺いました。

『シン・ゴジラ』の編集と比較して、変更点やグレードアップした工程を教えてください。

栗原:
基本的に『シン・ゴジラ』のやり方を踏襲しています。ただ今回のバトルパートは撮影前にプリヴィズを組むのではなく、撮影後に画コンテを描く方々にお願いをして、いろんなパターンのバトルを描いていただいて、Premiere Proでその静止画を組み合わせてバトルを構成するという作業が行われました。その後、そうして全体の流れを整理しつつ、複数あるバトルパートのコンセプトを明確にして、『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でも採用したプリヴィズ作業に立ち返ったという試行錯誤の連続の流れでした。『シン・ゴジラ』の編集を担当し、『シン・ウルトラマン』のVFXスーパーバイザーでもある佐藤敦紀さんは「本番の作業に入る前にやり直しを重ねたプリヴィズのスクラップ・アンド・ビルドの作業量は『シン・ゴジラ』の数倍はあった」とおっしゃっていました。

上田:
通常、バトルパートは絵コンテで描いたアングルでCGを作っていきますが、『シン・ウルトラマン』の場合はまず3Dアニメーションで動きの一連を作って、バーチャルカメラがどのアングルでも入れるようにしました。バーチャルカメラというものは、センサーのついた小型モニターを実際に手で動かしてCG上のカメラを動かす手法です。ウルトラマンのバトルはゴジラより動きが大きいので、より多くのアングルが必要になりました。

バーチャルカメラを操作したのは副監督の轟木さん、監督補の摩砂雪さんがメインで、私も少し担当しました。大量のアングルを探った上で更にアニメーションチームが、CGソフト上でしか作れない空中戦などのカメラワークを作りました。

それらの大量の素材を庵野さんと栗原さんで編集していただいて、初めてバトルシーンのプリヴィズができあがるわけです。

栗原:
庵野さんにプリヴィズの素材を見ていただく段階ではカメラアングルは絞らないので、300アングルくらいになっていたと思います。基本的に庵野さんがすべてのアングルを確認して、どのカットを使うかを選択しました。

上田:
プリヴィズ以降の作業では、VFXチームから仮合成が上がってきたらPremiere Proのタイムラインに載せてチェックをしていたので、Premiere Proは常にVFXに寄り添って稼働していました。完成間際のダビング作業期間中まで、演出上探らないといけないものはPremiere Proでギリギリまで作業しました。

あと、VFXは主にNUKEを使っていますが、モニター画面のグラフィックスや仮合成ではAfter Effectsも使っています。サーモグラフィなどの表現はAfter Effectsが活躍しました。

座る, テーブル, 飛行機, フロント が含まれている画像
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Ⓒ2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©️円谷プロ

バトルパート以外のいわゆるドラマパート(実写シーン)で使用したカメラ類を教えていただけますか。

上田:
今回は総カメラ数が17カメということで、さまざまなカメラを使用しています。全部いっぺんに回すことはありませんでしたが、それくらい大量のカメラがあり、収録した素材も膨大なものになりました。

メインカメラはARRI AMIRA2台。あとはPanasonic GH5を3台、Apple iPhone 11 Proを5台で主に撮影していました。そのほかGo Pro HERO6やRED EPIC、DJIのドローンMAVIC PRO2などを一部で使用しています。GH5もメインカメラと言っていいほど多用しました。ハンディタイプのiPhoneやGH5はキャストにも持っていただいたり、iPhoneはパソコンの内蔵カメラの位置にセットしたりもしました。

栗原:
すべての実写データはDITがオフライン用データとしてProRes 422 LT/ 2048x1152 / 24fpsにトランスコードしています。完パケは2Kサイズなので、VFXとの整合性をとって倍率や数値が混乱しないようにオフラインデータはすべて2Kに統一しました。プリヴィズのヴァーチャルカメラデータは.mp4だったので、オフラインで扱ったデータは基本的に.mp4とProRes 422 LTです。

オフラインで扱うファイルフォーマットは基本的に統一されていましたが、最終的には多くのデータを読み込んでの作業となりましたので、PCやPremiere Proの性能に頼るところは大きかったです。

ノートパソコンで作業をしている人たち
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Ⓒ2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©️円谷プロ

『シン・ウルトラマン』ではPremiere Proの「プロダクション機能」が活躍しています。プロダクション機能は他のプロジェクトの素材をインポートせずにリファレンス(照会)するだけで利用でき、CPUやGPUの負荷を大幅に軽減してプロジェクトの動作を軽くすることができる機能です。プロジェクトとの立ち上げを軽くするのはもちろん、ラッシュの作成時には素材管理の面で効果を発揮しました。

「プロダクション」の運用方法や便利だった点をお聞かせください。

栗原:
シーケンスが膨大になってくるとプロジェクトの立ち上げに時間がかかったりする恐れがありました。なので「プロダクション」の機能は非常に助かりました。

庵野さんのほかに樋口監督など、複数の人間が編集に関わるタイミングがあったので、それぞれのデータを保存しておくために編集シーケンスが膨大に生成されていました。それが「プロダクション」を使って一元的に整理することができました。また、庵野さんは編集作業中に過去のデータを引っ張ってくることが多々あったのですが、「プロダクション」では日付で管理していたので過去のデータをスムースに再構築することができました。

またバトルパートなどで素材が膨大になった際には、シークエンスで整理をしてしまうとプロジェクトが重くなる傾向がありました。その際も「プロダクション」でプロジェクトに分けていくことで、立ち上げが非常に軽くなって小回りが利きやすくなりました。

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シン・ウルトラマン制作時のPremiere Pro編集画面

「プロダクション」の提案をはじめ、アドビのサポート体制はいかがでしたか?

栗原:
今回はアドビのサポートがあったおかげで「プロダクション」の恩恵を受けることができました。サポートがあると新しい機能でもとっつきやすくて導入が楽ですし、実際に編集作業がスタートすると検証してる時間もなかなか取れないので、やりとりの中でアドバイスやフィードバックをいただけるのはとても助かりました。

VFXが多用された特撮映画かつ大量の素材を扱う実写映画の編集において、Premiere Proはメインのソフトウェアとして実績を積んできました。「シン・」の名前が付く映画の編集を担ってきたPremiere Proが製作過程の様々な局面で活躍しています。

コンピューターを使っている男性
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プロダクション機能のほかにPremiere Proを使用して良かった点を教えてください。

栗原:
庵野さんがアングルを選定する際は『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と同様にシーンをサムネイル化してPDFに出力した一覧を確認しながら選定していました。しかし撮ったカットをただ羅列しても編集上効果的な選択ができないので、選びやすいようにアングル別に並べています。たとえばヒキ画でまとめたり、ウルトラマンメインのカットや禍威獣メイン、外星人メインなどで分けました。その静止画をPremiere Proからどんどん書き出してAcrobat PDFにして印刷物として出力します。

実際の編集では最低限成立するカット割りが庵野さんの中にあるので、まずはそれに則ってラッシュを組みます。それに加えて、撮影者別やアングル別で組んだ素材ラッシュも渡してありますので、庵野さんは編集の流れを確認しつつ、サムネイルの中から一番良いカットを選んでいきます。ヒキのカットだったらどのヒキ画が一番良いのかを、サムネイルを参考に選択しました。

この作業をPremiere Proでサムネイルを作成してPDFで印刷という流れが簡単にできたのでとてもやりやすかったです。

上田:
樋口監督が何年ぶりかにPremiere Proを使ったと言っていましたが、それでも同じ操作ができたというのは大きいですよね。1年前はできた機能が、最新版では「これどうなってるの?」ということがないので、安心して使うことができます。

栗原:
あと、音についても最終段階で本番のものに差し替えなくてはならないわけですが、オフライン編集では現場からきた10chの音をそのまま生かして編集を進めました。シーケンス上のトラック数がどこまで耐えられるのかを試しながらでしたが、普通に動いていて、最終シークエンスまで各カット10chを残しても、メディアを含めたAAFで出力して次の工程に渡す作業を問題なくやってのけました。

「プロダクション」による素材管理が便利なのはもちろんですが、そもそもデータがシーケンスにたくさん載っていても稼働するというパワフルさも重要なポイントです。その両面があるからこそ、素材量の多い映画の編集で活躍できるのだと思います。

上田:
今回は日本の実写映画の中でも、一番といっていいくらい多くの素材を扱った編集だったと思います。

この膨大な量に耐えられたというのは、Premiere Proのおかげでしょうね。

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編集担当 栗原洋平氏(右)と、ポストプロダクションスーパーバイザー 上田倫人氏(左)

(*)アドビとのサポート協力体制

2018年、アドビはハリウッドの映画制作コミュニティに高度な支援を提供するため、ロサンゼルスにオフィスを開設。ハイエンドな現場のユーザーとコミュニケーションを重ねて、新しい製品リリースに現場のニーズを反映させる協力体制をスタートさせました。そして『シン・ウルトラマン』の編集においては、2019年からこのサポート体制に基づいてセッションを重ね、プロダクション機能などの提案を経て膨大な素材量のプロジェクトにおける作業効率化を実現しました。