EC への活用などアパレル業界 DX 最新事例が紹介された Adobe Substance 3D セミナー

目次

  • 三菱商事ファッションにおける DX への取り組み
  • swatchbook が提供するテクノロジー
  • Adobe Substance 3D Collection とアパレル業界の最新事例

アパレルは世界的に 3D の活用が進んでいる業界の一つです。EC での販売促進から、業務プロセスの全体的な効率化、そして無駄の削減によるサステナビリティの追及まで、ファッション産業には様々な 3D 技術導入によるデジタル化の機会が存在します。

アドビが 12 月 2 日にオンラインで開催した Adobe Substance 3D セミナーでは、日本におけるアパレル業界の DX 最新事例が、三菱商事ファッション株式会社 デジタル事業推進本部 デジタル事業開発部長 兼 営業第三本部 商品企画部長の谷本 広幸氏から紹介されました。続けて、デジタル化された素材データのハブとしてアパレル業界にエコサークルをつくることを目指している swatchbook から、自社製品や協業会社との取り組みについて紹介がありました。最後に、アドビから Adobe Substance 3D Collection の機能とアパレル業界での最新事例が簡単に紹介されました。

三菱商事ファッションにおける DX への取り組み

三菱商事ファッションでは、3D の導入により、業務フローを「バケツリレーからコンカレント」へと変革することを目指していると谷本氏は説明しました。アパレル業界では、以前より流れ作業を主とした仕事の進め方をしています。具体的には、デザイナーが企画をして、生産担当にその情報を回し、物流工程を経て、販売が行われるといった流れです。この進め方では、部門から部門へとバケツを渡すようにフローが進行するわけですが、フローの下流にいる部門はバケツを渡されるまでその中身が見えません。それが業務の非効率化の要因になっていると谷本氏は指摘します。

これに対し、谷本氏の推奨する業務フローが「コンカレント」です。企画段階のデザインをデジタル化してクラウド経由で全部門に共有すれば、各部門はバケツを待つことなく早い段階から業務に着手できます。全部門が同時並行で仕事を進められるため、業務の効率化が期待できるというわけです。実際に、この取り組みによる成果として、サンプルのコストを 30%削減し、開発のリードタイムを 40%短縮することができたそうです。

デジタルプロト活用による業務フローの効率化

「例えば、クラウドに共有された 3D モデルを見た PR 担当は、PR のアイデアを企画段階から検討できます。店長であれば VMD の設計や店舗レイアウトの調整を十分に余裕をもって考案できます。また、生産部門の品質担当は、デザインを確認して、縫製リスクがどこにあるのかといったフィードバックを早い段階でデザイナーにフィードバックできます」と谷本氏は、コンカレントな業務フローの具体的なメリットを挙げました。

こうした DX への取り組みは「e-Apparel」という名称でブランディングされています。従来からの活動の中心であった企画提案および OEM 取引業務に、新しい活動として e-Fabric(デジタル化した生地データを提供するサービス)と 3D・CG スキームを組み合わせたループにより、業務フローの効率化はもちろん、メタバース、ゲーム、AR のような新しい分野に対応できる体制も整えていると谷本氏は語っています。

e-Apparel

デジタルスキームで作成される 3D・CG データの種類

e-Apparel の主要な要素である 3D・CG スキームは、大きく 6 つのステージから構成されます。最初のステージでは CAD パターンを作成し、ステージ 2 ではそこから 3D モデルを作成します。ステージ 3 では生地をスキャンして、テクスチャとして使用する記事の物性値をデータ化します。そして、ステージ 4 では簡易 CG を、ステージ 5 ではより精緻な EC 用 CG を作成し、ステージ 6 で CG データが Web に掲載されます。

3D・CG デジタルスキーム 基本フロー

各ステージで使われる CG は、出来る限り費用をかけずにつくるリーズナブルな CG から、写真の代替とするべく時間とコストを掛けた CG まで様々です。各ステップの CG データの違いをわかりやすく紹介するために、同じアイテムの 4 ステップの画像を並べたものが下の図です。

左端の ① はステージ 2 で作成される 3D モデリングデータです。パターンやデザインの確認に使用されます。② はステージ 4 で作成される簡易 CG で、企画やカラバリの提案に使用されます。③ と ④ はステージ 5 で作成される精緻な CG で、カタログ写真や EC で使用する写真の代替として使用されます。企画開発用の ① と ② と比べると、販売用途に使われる ③ と ④ は本物のような素材感が再現されていることが見て取れます。

3DCG コンテンツの 4 ステップ

簡易 CG が EC サイトで使用されることもあります。紹介されたゴルフアパレルの 2022 年春夏商品の Web ページでは、モデル撮影と簡易 CG を併用した、ハイブリッドな EC サイト運用が採用されています。モデル着用分は実際に撮影を行い、平置き商品に関しては簡易 CG で作成することで、品質統一と撮影業務の軽減を実現できたと谷本氏は話しました。このように、モデルを採用した実写に加え、コストを抑えた CG を使ってサイト運用を調整する顧客が確実に増えているということです。また、サステイナビリティの訴求という側面からも、CG の採用は有効だと考えられています。

メタバース向けの CG は少し方向性が異なります。メタバース空間でスムーズに動かすために服のデータをリダクションをする必要があるためです。アパレルの専門家目線で使用シーンに合わせてリダクションする方法を提案し、キャラクターやリダクションした服のデータ制作が行われているそうです。

メタバース

デジタルスキームで作成されるその他のコンテンツ

ここまでに紹介した 5 つを含めて、現在 3D・CG スキームは全部で 9 つのコンテンツを供給しています。残りの 4 つは、BTOB 用の簡易 CG を 360 度回転させることができるターンテーブル、クラウド上に商品データを格納する商品台帳ツール、CG データに動きをつけるアニメーション、デジタルデータや物作りの情報を用いて作成される PR 動画です。全てのコンテンツをまとめたものが下の図です。

3DCG デジタルスキーム コンテンツ紹介

この記事では、セッションで紹介されたファッション事例の中から、実際に制作されたコンテンツを紹介します。まずはターンテーブルです。CG を 360 度回転して好きな方向から見ることができるため、商品のデザイン性が解り易くなります。下の例では、スポンサーロゴの角度による見え方も確認できます。

ターンテーブル

次は商品台帳ツールです。クラウド上に商品画像、360 度ビュー、品質表示、生地パンフレットなどの情報を格納することができ、リモートワークや出先から商品情報を確認したり、PDF 化された説明資料をダウンロードするなどの目的に利用できます。

商品台帳ツール

アニメーションは、着用したモデルの動きに応じた商品の見え方の変化を伝えるコンテンツです。生地のテクスチャー情報に加え、物性値も正確に取り込んで動きを再現しているそうです。下の図はアイテム単体のアニメーションのスナップショットですが、複数アイテムを組み合わせたアニメーションも作成できます。

アニメーションによる動きの表現

Adobe Substance 3D への取り組み

セッションでは、三菱商事ファッション社内の Adobe Substance 3D への取り組みについての紹介もありました。谷本氏によると、Substance 3D Sampler を中心に研究が進められており、その内容は、生地のタイリング、刺繍、テキスタイルの作成の 3 つのテーマに絞られています。生地のタイリングに関しては、量産生産を考えた場合に高額な機器を複数保有することが現実的ではないという考えから、スキャナーはスキャンだけに使用して Sampler でタイピングすることで生産性を上げることが目的です。刺繍やテキスタイル作成に関しては、CG での見え方を重視するという位置づけで Sampler が使用されています。

下の画像は、Sampler で作成したデニムのテクスチャです。スキャナは使わず、一眼レフカメラで撮影した画像からカラーマップだけを Sampler に読み込んで、ノーマル、ラフネス、ディスプレイスメントマッピングは Sampler 上で生成したものです。

Substance 3D Sampler で取り込んだ生地データを使用した

次の画像は元画像を使用せずゼロから作成した綾織のカーボン柄です。Sampler からデフォルトで提供されるパターンは使わず、研究チームが独自に作成したものです。現在、Adobe Substance 3D 専属の研究担当が 3 名配置されて、技術の研究を進めているそうです。

Substance 3D Sampler でゼロから作成されたパターン

swatchbook が提供するテクノロジー

次のセッションは swatchbook によるプレゼンテーションでした。swatchbook は、The New Home of Materials として膨大な素材のコレクションを構築し、「素材が必要になった時に訪れればその課題が解決される場所」を目指している企業です。現在、アパレル、フットウェア、アクセサリー、ホームグッズなどで使われる素材のソーシングと管理ができるクラウドサービスを、サブスクリプションベースで提供しています。

swatchbook の考えるアパレル業界の主要な課題は、サンプル作成の手間がかかる、サプライチェーンの繋がりが弱くやり取りに手間がかかる、パンデミックのような予想外の事態が起きると展示会や打ち合わせができなくなるなど影響を受けやすいの 3 つです。デジタルデータを使うことによりこれらを解決できるというのが swatchbook の主張です。

業界の 3 つの課題

swatchbook が提供するサービス

swatchbook 合同会社 藤代 愛氏によると、swatchbook は世界最大の 3D デジタル素材プラットフォームで、現在マーケットプレイスには、サプライヤーによる公開あるいは非公開の 5 万点以上の素材が収集されています。また、swatchbook は、サプライヤーのデータの取り込みとデジタル化の支援も行っています。デジタル化により扱えるデータには、スキャンしたテクスチャ、モデルを使用した 3D ビジュアライゼーション、動画などが含まれ、生地を様々な手段で詳細に確認できるようになっています。さらに、メタデータとして素材情報を細かく登録することが可能です。これらの情報はすべてモバイル、PC、タブレットから確認ができます。

マーケットプレイスの素材データ

「Color Branching」は生地の配色替えができる新しい機能です。swatchbook に素材データをアップロードすると、使われている色が自動的に検知されます。それらの色にカラーピッカーや RGB/HEX 値の指定などで新しい色を指定すると、その場で色を変えた生地を確認できるというものです。商品モデルに生地を適用して、実際に商品に使用したらどう見えるかを確認することもできます。

その場で生地の配色替えができる

コレクションの作成も可能です。生地のみのコレクションももちろんできますが、色、ドキュメント、3D モデル、その他添付資料を追加することができるため、共有する相手ごとに必要な情報をまとめたコレクションを作成して、それを共有するという使い方も想定されています。

コレクションの一覧

swatchbook モバイル版の機能

藤代氏からは、モバイル版 swatchbook で利用できるいくつかの機能も紹介されました。まず、キャプチャ機能です。これは、展示会や店頭で気になる素材を見かけたときに、手元のスマートフォンで写真を撮影して取り込み、その場でいろいろ試せるという機能です。

撮影した生地のどこからどこを使うかという範囲を選ぶと、それを実際に 3D モデルに適用できます。そのため、商品サンプルに候補の生地を使用したときの見た目を確認することが手軽にできます。商品企画の段階で、サンプル作成のためのデザイナーとのやり取りが軽減されることから、企画のスピーディーな進行が期待できます。また AR を使い、いろいろな角度から実環境に置いた商品サンプルを確認することもできるようになっています。

キャプチャ機能を使用しているところ

ビジュアルサーチは、この商品に似た柄が欲しいと思った場合にその柄を撮影すると、swatchbook のライブラリを検索して、似た素材を表示してくれる便利な機能です。

1:1 は、実寸大の柄サイズを表示してくれる機能です。正確なサイズを画面上で確認することが可能なため、手元に生地の実物が無い場面では重宝する機能になりそうです。

画面上に原寸大の柄を表示することができる

QR コードから swawtchbook にアクセスできる機能も提供されています。サンプル帳に QR コード付きで貼り付けておいて、それをスキャンして色違いの素材を確認するという使い方ができることから、サンプル数を減らし、サステイナブルな商品企画に貢献できる機能といえそうです。3D サンプルがよりリアルに近づいているため、 swawtchbook としては商品企画の最終段階の検討までサンプル数の削減に貢献できると考えているそうです。

QR コード機能を使って生地データを閲覧

協業会社、アドビ製品との連携

セッションのテーマであるテクノロジー・アグノスティックは「一つのテクノロジーに囚われず、バイアスを持たずに、志を共にする企業と協業することにより、常に最高の製品を目指す」という考え方です。この言葉通り swatchbook は様々な企業と協業を進めています。

そうしたパートナーの一社として紹介された VNTANA は、3D データの最適化プラットフォームを提供する企業です。VNTANA のサービスは、Diesel、Hugo Boss 等のブランドにより、軽量化された 3D モデルを B2B セールス、e コマース、メタバースなどに表示するために使用されています。両社の顧客として紹介されたアメリカのシューズメーカ Merrell は、「81%のコスト削減とモデルごとに一ヶ月の開発期間短縮を見積もっている」と述べており、統合された両社のサービスを利用するワークフローの動画も紹介されました。

軽量化されたポリゴンモデル

その他にも重要なパートナーとして、OTOY、Centric Software、そして、アドビとの協業についての紹介がありました。アドビとの協業のフェーズ 1 は、swatchbook による SBSAR ファイル形式のサポートです。これにより、swatchbook に登録されている素材データを SBSARファイルとして保存し、アドビ製品である Photoshop、Illustrator、Substance 3D 製品から利用することが可能になりました。次のフェーズでは、Substance 3D 製品のファイルを swatchbook にインポートする機能が予定されているそうです。

Illustrator 内で swatchbook の素材を使用

Adobe Substance 3D Collection とアパレル業界の最新事例

セミナーの最後は、アドビからの Substance 3D Collection の概要と、アパレル業界での最新事例紹介でした。現在 Substance 3D Collection は 5 つのアプリケーションとアセットライブラリーから構成されています。10 月にリリースされたばかりの 3D モデリングツールの Modeler が加わって、モデル作成、マテリアル作成、そしてバーチャルセット上でのレンダリングまで 3DCG 制作のワークフローを最初から最後までサポートできる製品構成になりました。

Adobe Substance 3D Collection 製品一覧

アパレルやフットウェアの 3DCG 制作プロセスに、Substance 3D 製品をあてはめたのが下の図です。左から、モデリング、マテリアル制作、テクスチャー生成、そしてレンダリングと、各工程に特化したツールがデザインワークを支援します。

Adobe Substance 3D Collection とアパレル

セッションではアパレルに関連する Substance 3D の使用例として、プルオーバーのパーカーからフルジップのバリエーションを制作する例、ジーンズのバックポケットのステッチのデザイン調整を行う例、フットウエアの色を調整する例が紹介されました。

下の画像は、シェイプの表面の凹凸やロゴをテクスチャーに含めることにより、簡単に配置し直すことができるという Substance 3D の強みを紹介している場面です。

Adobe Substance 3D のテクスチャ表現

さらに、ロンドンを拠点とするラグジュアリーブランドのバーバリーの 3DCG チームが Substance 3D を採用したこと得られた効果も紹介されました。刺繍のパターンを作成して適用するワークフローに従来は 8 時間から 2 日ほどかかっていましたが、Sampler を使うことでそれが 10 分に短縮されたという事例です。

Adobe Substance 3D とバーバリー

最後に、ヒューゴボスの事例動画も公開されました。こちらの事例については、別途詳細な記事が公開されていますので、是非ご覧ください。