「創作活動と子育てを両立するため、自分の価値が発揮できる仕事にフォーカス―アーティスト・草野 絵美―」
アドビでは国際女性デー/月間である3月8日からの3週間、クリエイティビティの力を解放し、活躍されている女性のビジネスパーソン3名をご紹介します。連載3人目としてご登場いただくのは、NFTプロジェクト「新星ギャルバース」を手掛けるほか、芸大講師なども務める草野 絵美さんです。彼女の多彩な活動の原動力となっているのは、才能ある人々と何かを作り上げたいという強い想いと知的好奇心。プライベートでは二人の子どもを育てる草野さんに、出産・子育てをしながら創作活動を続けるためのTipsも伺いました。
インターネット以前の特異な日本のポップカルチャーを、新しいテクノロジーを通じ表現
――現在の活動に通じる、草野さんのこれまでのキャリアについて簡単に教えていただけないでしょうか?
草野:最初に自分で何かを作って発表する体験をしたのは、高校生のときですね。17歳でフォトグラファーとしてストリートスナップを撮影して、海外のメディアに向けて発信したり自分でも作品を作ったりしていました。その後、大学に入ってからはクリエイター向けのプラットフォームを作って、起業にも挑戦しましたが、こちらは共同創業者が学生ということもあってメンバーの就職を機に一旦クローズしています。並行して大学2年生ごろから歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」の活動を始めまして、そこでは作詞、作曲だけではなくてコンセプト作りを行ったり、ときにはミュージックビデオとインスタレーション作品を一緒に発表したりしていました。NFTに関しては一昨年の夏頃に、長男が「Zombie Zoo Keeper」を始めまして、私はそのプロデュースをきっかけに出会った人たちと「新星ギャルバース」をスタートしました。私はクリエイティブディレクターとしてコンセプトや作品作りの方向性などを、イラストレーター兼アニメーターでアートディレクターの大平 彩華さんと一緒に決めています。それ以外にもAIで写真を作って発表していたり、会社の経営をしたり、コラボレーションに向けパートナー企業と話し合いをしたり、書籍を執筆したり、複数のことを進めています。
――起業家、アーティスト、プロデューサー、クリエイティブディレクター、作家、コメンテーターなど草野さんは多岐に渡る活動を行なわれていますが、活動の原点、テーマとして掲げていることがあれば教えていただけないでしょうか?
草野:まず創作活動の原動力として、私は才能あるさまざまなクリエイターとコラボレーションしたいという想いが強くあります。例えば「Satellite Young」の場合、私は作詞、作曲、歌唱、コンセプト作りなどを担当していますが、それ以外にミュージックビデオの監督や、アートワークを手がけるジャケットのイラストレーターなどがいて、彼らとコラボレーションして世界観を作っていくことに非常に興味があります。NFTプロジェクトの「新星ギャルバース」に関しても、大平さんと一緒に「90年代のノスタルジックな雰囲気を持ちつつも、それを再構築した新しいタイプのアイコニックなアニメを作りたい」という想いが一致して、活動をスタートしました。これは、AIツールを使いながら、Web3コミュニティ発アニメとしても成功することが一つの目標としてあります。
もう一つ、私の創作活動に大きく影響を与えているのが、インターネット以前に生まれた日本のポップカルチャーへの憧れと哀愁です。80年代、90年代に生まれた日本の文化の異質さを、新しいテクノロジーを通して表現することに興味があります。例えば「Satellite Young」も私が80年代アイドルのコスプレをしてテクノロジーについて歌っていますし、「新星ギャルバース」も平成初期に流行した魔法少女のタッチで、女性を中心に描いたSFアニメにしています。いま手がけているAI Photography、AIアートも、80年代、90年代のストリートスナップを再現したものです。
――現在NFTプロジェクト「新星ギャルバース」を手がけられていますが、草野さんが考えるNFTアートの魅力について教えてください。
草野:NFTアートと一言でいっても多様です。コミュニティの会員権から、キャラクターのイラスト、はたまたコンテンポラリーアートに対しても、NFTアートという言葉が使われていて非常に広義です。その上で魅力的だと思うのが、いままで所有できなかったものを、所有できるということ。「キャラクターグッズを買う」という物質的な売買だけでなく、自分専用のキャラクターを買って、プロジェクトによりますがそのキャラクターの二次創作を商業利用できるといった、いままでの常識では考えられなかったようなことが起きています。
また、いままで以上にクリエイターの活躍の場が増えたことも特徴的だと思います。クラウドファンディング以上に集める資金額が増えていて、そこまでフォロワーがいなかった私たちでもアニメが作れる程度の資金を調達できるようになりました。それはNFTがクラウドファンディング以上に流動性を持っていて、資産として認められているという側面も大きいと思います。私個人としては「何か新しいものを作ろう」とポジティブな人たちが世界中から集まり、非常に濃いコミュニティの中で創作活動ができる、そしてNFTアートの黎明期に立ち会えてワクワクしています。
創作活動と育児両立のため、他人の手を借り独自性の高い仕事にフォーカス
――長男も「Zombie Zoo Keeper」の名前でNFTアーティストとして活動されていますよね。お子さんのクリエイティビティを引き出す子育てをされているのも印象的です。
草野:自著の『ネオ子育て』も「子どもの知的好奇心を伸ばす」ではなく「親子で知的好奇心を伸ばす」を掲げていて、私自身も親と子でいろいろなことに興味を持つことを心がけています。物事を楽しむためには知的好奇心を持つことが大切で、子どもが勉強嫌いになるか、好きになるかも知的好奇心がどう働いたかが影響していると思います。親の興味があることに子どもも一緒に興味を持ってくれることが多いので、親側も何にでも興味を持ってみる。そして、子どもが興味を持っているものに対して、親も興味を持つと子どもの自信に繋がります。結果的にあらゆることに対して興味を持つことが、困難を楽しみながら乗り越える力を育みますので。親と子で無理なく一緒に楽しめることを探せるといいですね。
――草野さんは育児と創作活動をうまく両立させているイメージがありますが、何か工夫されていることはあるのでしょうか?
草野:時間を切り売りせずにバリューを出すこと。時には、他の人に頼む勇気を持つことですね。「自分でやった方が早いな」と思ったとしても、人に仕事を振ることによって、自分にしかできないバリューのある仕事をする時間が捻出できます。それは仕事に限らずプライベートでも同じで、「人に頼っていい」というメンタリティを持つことが大切だと思います。加えて「とりあえず仕事を終わらせよう」とか「とりあえず実績になるところまでやって次に行こう」というように、完璧主義より完了主義を取るように心がけています。
――ご自身なりに工夫して創作活動と家事、育児に取り組まれているということですが、これまで何か苦労したご経験はありますか?
草野:基本的に私は周りの人たちにすごく恵まれていると思います。長男が3年生ぐらいまで「ゲーム性を持って子育てする」などいくつか子育てのTipsもたまっていて「自分は子育てが得意だ」とも思っていました。でも、最近長男は塾の勉強も大変になってきて宿題も多い中、こちらも忙しいと限られた時間しか向き合うことができないので、どうしても厳しく接してしまうというのが課題としてあります。反抗期というのもあり命令口調で接すると、それが反発として返ってきますし。本来だったら限られた時間で一緒にゲームをして盛り上がるとか、ポジティブな感情のすり合わせができるようにしたいのですが、時間を割くのが難しく。「干渉しすぎないようにする」「ルールを守ってもらうためにちゃんとルールを作る」というのも必要だと思いますが、難しいですね。子どもとの接し方は毎年更新しなくてはいけないと実感しており、子育ての本も第二巻を書かないといけないなと思っています。
――「創作活動がうまくいっているときに出産や育児をすると、キャリアが止まってしまうのではないか」と不安になる方もいるかと思うのですが、そういった方々にはどういうアドバイスをされますか?
草野:男女問わず、人生には楽しくハードワークができるときと、そうでないときがあるので、そういったライフステージの変化に合わせて働き方を変えることでしょうか。具体的には時間をかければかけるほど成果が出るような働き方ではなく、独自性の高い自分が得意な仕事に絞り、他の人と互いに協力し合いながら、成果が出せる働き方にシフトしていくのがいいと思います。また私の場合、新卒で会社に入社した時点で子どもがいたので、夕方6時には仕事を必然的に終わらせなくてはならず、その頃にかなり無駄を減らせました。「この会議は事前に資料を共有して、読み込んでおけば1時間ではなく30分でいい」と工夫するようになって。ある意味、子どものおかげで時間の使い方が上手になったかもしれません。
夢を具体的にリスト化して温めておくと、チャンスが来たときに実現できる
――草野さんはこれまで幅広いプロジェクトを手掛けられてきましたが、クリエイターとして夢を実現するためにしていることがあれば教えてください。
草野:いつか実現したいと思っていることはリスト化し、事前に温めていますね。例えば「新星ギャルバース」は元々NFTが登場する以前から、大平さんと「私たち原作のアニメを作りたいね」と話していたことが原点です。お金や技術がないため自分たちでは実現が難しいと思っていたところ、「Zombie Zoo Keeper」のホルダーさんが「一緒に何かプロジェクトをしよう」と連絡をくれて実現できました。
私の場合、年始に「こういうものを作りたい」「こういうところで作品を発表したい」「この人とコラボしたい」「毎日これはやる」という大きな目標を書き、週ごとに細かい目標を書き、それにそって日々行動しています。
作品のアイディアが思い浮かんで、どう実行すべきかわからないときは「ChatGPT」を使うのも手です。「これを作りたいんだけど、どういう方法で作れる?」と質問すると、会議で2時間ブレストしたら出てくるような普遍的なアイディアを全部洗い出してくれるので助かっています。
――創作活動をする上では創作意欲を絶やさないことも大切だと思いますが、草野さんはどのようにモチベーションをコントロールされていますか?
草野:活躍している人の話を聞いたり、インタビューを読んだり、展覧会に行ったりInstagramで素敵な作品を見たりして、モチベーションを高めています。そうすると「私も何かやりたい」という気持ちが溢れてくるんですよね。
また、絶え間なくインプットすることも心がけています。健康のために1日30分以上は歩くようにしているのですが、その歩いている時間や家事、育児をしながらオーディオブックやポッドキャストを聞いていますね。自分のモチベーションが上がるスイッチとなるようなものを、生活の中にうまく組み込む工夫をしています。
世界を見渡せばロールモデルはいる。やらない理由を設けず、何でも行動してみることが大切
――アーティスト、クリエイターとして活動する中で、女性であるが故の苦悩を感じられたご経験があれば、可能な範囲でお話いただけないでしょうか。
草野:例えば男性の起業家は毎晩のようにベンチャーキャピタルの人と飲みに行って、そこで出資の話が決まっていて、オールドボーイズネットワークが存在するように思います。また、私がイベントなどで名刺交換したときにおじさんたちに「なに?アイドル?」と言われるなど、同じ起業家であるのに軽んじられていると感じたこともありますね。
アーティストとしては、男女関係なく活躍の場をもらえていると感じます。むしろイベントで男性アーティストが多いときに、女性枠として呼ばれる機会も多く良いこともありました。とはいえ女性アーティストはまだまだ数が少ないので、割合を増やしていきたいです。芸大も学生の約半数以上が女性である一方、教授となると女性が極端に少なかったり、ロールモデルが少ないこともあるかと思うので、そこは何とかしたい部分です。
現代アーティストとしても成功しながら、フェムテックの会社を経営しているスプツニ子さんの存在が私にとっては大きくて、彼女の活躍が励みになっています。世界に目を向ければいろいろなロールモデルがいると思うので、そういう方々を真似して、一歩踏み出してみるのもいいかもしれません。
――最後に女性クリエイターや、アーティストを志す女性の背中を押せるようなアドバイスがあればお願いできないでしょうか?
草野:「女性だから」「日本語しか話せないから」「テクノロジーのことがわからないから」など、やらない理由はいくらでも挙げられると思うのですが、そこに対してリミテーションを設けないことがとても大切だと思います。「DeepL」などのツールで翻訳して自分のプロフィールをSNSにあげているなどして、海外からの仕事をたくさん受けてる活動的なクリエイターもたくさんいます。やろうと思えばできることっていっぱいあるんですよね。
例えば「自分の絵をアニメーションにして動かしたいけど、自分では作れない」という場合は、アニメを既に作っている人に「一緒にコラボしませんか」と連絡してみてもいいでしょう。とはいえ、実績がない状態でただ連絡するだけでは受けてもらうのは難しいと思うので、日頃からInstagramで発信するなど自分のポートフォリオはしっかりアップして、自分自身を知ってもらうことも大切です。とにかく行動あるのみですね。
加えて、自分の得意なこと、苦手なことをある程度把握しておいて「こういう人がいると、こういう環境だと自分のクリエイティブを最大化できる」と理解しておくのも大切だと思います。苦手なことを克服することに時間を費やすよりは、自分が得意なこと、自分の尖っている部分、個性的な部分を磨いた方が、アーティストとしての作家性に繋がると思います。
二人の子どもを育てながらも、創作活動や経営など幅広い活躍をされている草野さん。そこにはご自身の得意、不得意などの特性をしっかり理解した上で、人に頼り、自分のクリエイティビティが最大限発揮される環境に身を置くなど、限られた時間の中で夢を実現するための仕組みづくり、心がけがありました。そして一貫しているのが、知的好奇心を大切に、気になることは何でも取り組んでみるという姿勢。「自分が楽しい」と思えることに愚直に向き合い続ける力が、クリエイティブな活動を生むのかもしれません。
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撮影:小林 真梨子