非営利団体 Limbitless では、AI の力で、誰もがビジュアルストーリーの語り手になる


義手をつけた少女。

全ての画像の提供は Limbitless

2015 年のことです。7 歳の Alex は、半袖の黒いシャツに赤い蝶ネクタイの粋な服装で、謎めいた廊下を案内されていました。スーパーヒーローと自転車に乗ることが大好きな Alex は、生まれつき右腕の一部が未発達で、世界屈指の生体工学の専門家、アイアンマンこと Robert Downey Jr. の助けを借りようとしていたのです。

アイアンマンは架空のキャラクターかもしれませんが、Alex の義手は 100% 本物で、それを設計し製作したセントラルフロリダ大学(UCF)を拠点とする NPO の Limbitless も同様です。米国だけでも 270 万人以上の人々が、四肢の未発達や欠損を抱えて暮らしています。そして Alex のスーパーヒーロー活劇のような感情的なストーリーテリングを通して、Limbitless はメッセージを発信し、多くの人々に手頃な価格の人口装具を提供しています。Alex 自身はといえば、現在は高校のアメフトチームでプレーして「ヘビーヒッター」の評判を確立するに至っています。

創業者 Albert Manero が小さな研究室で始めた情熱的なプロジェクトは、フロリダ州オーランドの UCF で、アートデザイン、エンジニアリング、ビデオゲーム開発など、9 つ以上の専門分野にまたがる 50 人のインターンのチームに成長しました。クリエイティブディレクターの Matt Dombrowski が重視していることは、創造性を育み、Limbitless のストーリーテリングの一端を担うように、インターンの一人ひとりが促されている環境の実現です。

そこでアドビの出番です。

「数年前、私たちは手一杯で、臨床試験を実施するのに十分な部屋もありませんでした」と Dombrowski は振り返りました。「アドビは、より大きな研究施設の建設を支援するために、状況を変える引き金となった資金を寄付してくれました。さらに、それだけでは不十分だったかのように、Limbitless の UCF 学部生インターン全員に Adobe Creative Cloud への無料アクセスを提供し続けています」

Limbitless の科学者やエンジニアは、イベントやシンポジウムのための、独自の研究ポスターや創造的なインフォグラフィックをデザインする際に Adobe ExpressAdobe InDesignAdobe PhotoshopAdobe Illustrator を使用しています。感心させられることに、彼らはクリエイティブアートの訓練を受けていないにもかかわらず、ポスターで繰り返し賞を勝ち取っています。

「私たちにとって、これは義手だけの話ではありません。それを身に着ける人々の背景にあるストーリーが重要なのです」と Dombrowski は言います。「だからこそ、そうしたストーリーを説得力があり人間味のある方法で語るため、全ての Limbitless のインターンが必要なツールにアクセスできることが重要になるのです」

義手の女性。

私たちにとって、重要なのは義手だけではありません。それを身に着ける人々の背景にあるストーリーが重要なのです - Matt Dombrowski, Limbitless

義手の女性。

AI を活用したストーリーテリング

Limbitless のオープンな精神は、3D デザインや生成 AI のような新しいテクノロジーに対するアプローチにも表れています。Manero は、3D プリントを早期に取り入れた人物の一人で、それは義肢の設計と製造のプロセスを限りなく安価でスケーラブルなものにしました。その結果、日々の暮らしを変えるテクノロジーが、これまで以上に多くの人に入手可能なものになりました。

AI に関しては、Limbitless は、クリエイティブワークフロー全体にこの技術を適用し、さまざまなマーケティングチャネルに向けたコンテンツの強化や適応を行っています。Dombrowski は、彼のチームが Adobe Creative Cloud の AI 機能を使い、数年前に撮影した彼と義手の子供が写っている横長の写真を、インスタグラムに適した縦長のデザインに再構成したことを詳述しました。

Dombrowski は、特に生成 AI の可能性に期待しています。Adobe Firefly に含まれる生成 AI のアルゴリズムは、Limbitless のインターンからのデータや入力を組み合わせて、美しく感情的な、まったく新しいコンテンツに変換することができます。

Limbitless がアームスリーブのフラットレイをデジタルで作成する手順を考えてみましょう。以前であれば、Dombrowski が手芸店に行ってさまざまな小道具を購入し、コンテンツ制作に使用するためのフラットレイを作成していました。今では、彼のチームは、腕の写真と Adobe Firefly に入力する適切な言葉さえあれば、1 つの義手に複数のフラットレイを作成できます。

義手の画像。

Adobe Firefly があれば、Limbitless は写真とクリエイティブな入力だけで、1 つの義手に複数のフラットレイを作成できる

義手の画像。

「デジタルコンテンツ制作に関しては、多くの場合に、つくり方にエネルギーが費やされます。どのようにこのアセットを制作するのか?どのように異なるフォーマットに対応させるのか?ストーリーを伝えるユニークな色の組み合わせをどのようにつくるのか?」と Dombrowski は言います。「生成 AI は、つくり方を考慮する必要を排除して、なぜストーリーを伝えようとしているかという問いに集中させてくれます。これは本当に重要なことです」

ポジティブ思考がポジティブな結果を生む

世界に多くのポジティブな感情をもたらす非営利団体として、Limbitless は、AI が社会に与え得る価値に対する独自の視点を持っています。Dombrowski は、偏見から盗作まで、人々の AI の使い方についてもっともな懸念があることに同意しつつ、オープンかつ前向きな考え方で、このテクノロジーと向き合うよう生徒に教えています。

「AI のように破壊的なテクノロジーは、人々を不快にさせるものです。ですから、お決まりの反射的な反応は、若者達に、そもそもそれを使用すべきでないすべての理由を語ることです。しかし、子供がいる人なら誰でも、それが上手くいかないことを知っています」と Dombrowski は言います。

この任務には、Firefly の開発における、アドビの倫理的なアプローチが助けになります。このアプローチに含まれるものは、厳格な AI アルゴリズム、継続的なテストによる無意識の偏見や固定観念の回避、すべての AI イノベーションが倫理的な慣行に基づき責任ある結果を提供することを保証するための影響評価などです。

義手の画像。

Limbitless はオープンかつ前向きな考え方で AI と向き合うよう学生に教えている

義手の画像。

「Limbitless では、開かれた議論を好みます。学生達には、独自の倫理的な疑問を形成して私たちに指導を求めることを奨励しています。Firefly の AI に対する責任あるアプローチは、このような議論に合致しています」と Dombrowski は付け加えました。

さらに、Dombrowski は、クリエイティブな思想家が、仕事を高みに引き上げるために、常に新しいツールやインスピレーションの源泉を用いてきたと主張します。そして、コンテンツ制作に関して、クリエイターの仕事は、ストーリーを語ること自体であるのと同時に、ストーリーテリングのプロセスを合理化することです。

模範となるため、彼は学生たちと、Limbitless があらゆるタイプのユーザーに向けた義手の製作やカスタマイズを行う手順を、どのように Adobe Firefly が変えるのか模索しています。例えば、Limbitless は常に義手を使う子供たちを招待し、自分の腕の配色や外観を選んでもらってきました。彼らは、AI が、さらにパーソナライズされた形で、彼らの物語に命を吹き込むのに役立つと信じています。

「6 歳児が、6 歳児だからこそ持っている豊かな想像力を使って、自分の四肢の状態についての夢のようなストーリーを語ることを想像してみてください。そのストーリーの意味を解釈し彼らの興奮を形にすることをデザイナーに頼むのではなく、代わりに Firefly のプロンプトに入力したらどうなるでしょう」と Dombrowski は問いかけます。

「その成果は、私たちのアート面のアプローチを再考させるかもしれませんし、装具トレーニング用の新しいビデオゲームをつくるきっかけになるかもしれません。可能性は無限にあり、信じられないほど興奮させられます」と彼は付け加えました。

非営利団体にとっての障壁を乗り越える

あらゆる組織にとって、特に技術的な製品を開発する組織にとっての最大の課題のひとつは、技術者ではない人々の心に響くようにストーリーを伝えることです。Dombrowski にとって、生成 AI の素晴らしさのひとつは、この障壁を取り払ってくれることです。アーティスト、エンジニア、科学者が、それぞれの知識を共通のプラットフォームに提供して、個々の専門知識と視点を組み合わせた何かをつくり出すことができます。

「Firefly を使えば、伝統的にはアーティストに分類されなかった人てもクリエイティブな会話に貢献することができます。私たちのように、高度な技術的で、高度に感情的なものをつくる組織にとって、これは信じられないほど価値のあることです」と Dombrowski は言います。

垣根を破るという点に関して、Dombrowski は AI が NPO の存在を世間に伝える大きな存在になると考えています。従来、非営利団体では、中核となる業務に加えて、コンテンツやマーケティングに注力するには、時間もリソースも不足していました。Limbitless はここでも模範を示し、クリエイティブな活動を支援する AI の力を示しています。

「生成 AI の素晴らしさは、想像と創造の間にある垣根を取り払うことです。思いついたことは何でも、Firefly に渡すと、多くの場合に驚くような方法で、命を吹き込むことができます」と Dombrowski は言います。「このレベルの創造力は、リーチとインパクトを拡大するために、可能な限りのアドバンテージを必要とする非営利団体にとって、実にかけがえのないものです」

科学と共感の融合

Limbitless の共同設立者は、全員が航空宇宙とエンジニアリング分野の出身です。しかし、組織のストーリーを世界中の人々と共有することは、それらとは別領域の課題でした。実際、そのギャップを埋めるためにアーティストを加えるように Limbitless に働きかけたのは、プロの写真家である Manero の妻でした。

Dombrowski はといえば、セントラルフロリダ大学ビジュアルアート & デザイン学部 Emerging Media の准教授で、Limbitless に参加してから、ビジュアルストーリーテリングを組織の中核的な価値にした人物です。彼の生徒は、デザイナーでも、研究者でも、ゲーム開発者でも、全員が創造力を発揮するように奨励されています。

また彼らは、その素質を育む力を得るために、アドビのテクノロジーを与えられています。例えば、Limbitless の social media and advocacy チームは、Adobe Express を使用して、魅力的な画像、ビデオ、ロゴなどを作成しています。一方、paint チームは Adobe Photoshop と Adobe Fresco を使い、デジタル描画と編集を行っています。Dombrowski の学生の一人は、Adobe Substance Painter を使い、新しい義手のデザインを 3D モックアップとして制作しました。

「アドビは、私たちの業務を結びつける、共感的な鎖のようなものです」と Dombrowski は言います。「たとえば、私たちは幼稚園から高校までの学生コミュニティと多くの仕事をしています。私のチームが、多くの STEAM イベントの宣伝用コンテンツを制作するために使用しているのは Creative Cloud です」

更なる変化を促進するために

Limbitless は、Alex をはじめとする手足の不自由な子どもに多大な影響を与えてきました。まもなく、大人もその対象に含まれるようになります。そして、これはまだ旅の始まりに過ぎません。

同団体は現在、人口装具が人々の内面と外面の幸福に与える影響を理解するために、装具を身につけることの心理的な側面を追及しています。「新しい義手を手に入れるということは、物理的な行為に留まらず、マインドフルネスや心理学が関わります」と Dombrowski は言います。「私たちが開発するテクノロジーと、私たちが語るストーリーが、そうした全体的な体験を伝えることが、私たちの目標です」

「私たちには大きな野望があります。私たちが獲得したけん引力を見るのは刺激的です。それでも、私たちが真の目標を見失うことはありません。それは、創造性を通じて他の人々に力を与え、できるだけ多くの義手を世に送り出すことです」と Dombrowski は言います。「アドビの支援により、私たちはその実現に向けた軌道に乗っています」

Limbitless について詳細を知りたい方は、彼らのウェブサイトを訪問するか、Instagram アカウントの @limbitless3d のフォローをおすすめします。 また、組織の創造性を解き放つ生成 AI の力について、さらに詳しくは Adobe Firefly の紹介ページをご覧ください。

この記事は At Limbitless, AI makes everyone a visual storyteller (著者: Rani Mani)の抄訳です