【イベントレポート】アドビと漫画家が語るAI最前線 ─ AIは創作のアシスタントになりえるか?

A group of people sitting at tables with laptops Description automatically generated

AIを活用した創作活動は、さまざまな可能性を秘めています。今回は8月29日(火)に実施されたクリエイターエコノミー協会共催「アドビと漫画家が語るAI最前線 ─ AIは創作のアシスタントになりえるか?」のオンラインイベントの様子をレポートします。

司会は、メディアプラットフォーム「note」のプロデューサーである徳力基彦さん。登壇者には自身の創作にAIを活用している漫画ユニット『うめ』の小沢高広さん、画像生成AIに関する書籍を刊行するなど、AIについての洞察を発表し続けるnote株式会社CXO(Chief Experience Officer)の深津貴之さんをお迎えし、アドビ株式会社CDO(Chief Digital Officer)の西山正一とともに生成AIの可能性や将来像、クリエイターの創作活動における活用事例などを深堀りしました。

生成AIは人々の仕事を奪うのか

AIについてよく議題に挙がるのは「生成AIは、人の仕事を奪うのか」という点です。漫画家ユニット『うめ』の小沢さんは「生成AIは人々の仕事のサポーターとして機能する」と語ります。

生成AIは“もっともらしい嘘をつく”と言われます。いわゆる「ハルシネーション(幻覚)」という現象を起こすため、事実の検索には不向きな面もあります。

しかし、小沢さんは漫画のことを「最高に面白い嘘をついた人が勝ち」と表現し、「嘘をつきがちなAIは、創作のアシスタントに向いている」という論を展開。「クリエイティブ領域でさまざまな手助けをするツールとして機能する」と語りました。

漫画制作は大きく、ストーリーと作画の二工程に分けられます。生成AIをアシスタントとして使う際、小沢さんはストーリー面の支援としてはプロット創作やタイトル、セリフ案や設定監修、作画の面ではキャラクターデザインやメカデザイン、着色、架空の風景、LoRA(イラスト学習)を使った画像生成などを利用されているそうです。

A screen with text and arrows Description automatically generated

生成AIをアシスタントとして使う

小沢さんは、キャラクターの台詞や設定上のヒント、背景の作画、キャラクターデザインやメカデザインのアイデアまで、幅広い形で生成型AIを活用しているそうです。

漫画家は台詞を考える必要がありますが、時には自分の頭では想像しにくい、守備範囲外とも言えるキャラクターを描く必要性が出てくることも。

ここで対話型AIチャットボットの出番です。AIにキャラクターの性格をインプットし、一般的な言葉をキャラクターの台詞に置き換えるよう指示すると、キャラクターの台詞を返す形で、自由自在に変換することができます。

また、ファンタジー作品を作るにあたっては、想像上の設定を用いてつじつまを合わせたいこともあるかもしれません。その場合も「可能な限り科学的な知識を用いて、つじつまの合う設定を考えてください。ドラゴンが口から火を吐けるのはなぜですか」などと指示することで複数の案が生成され、アイデアのたたき台として使うことができます。

A screen with a picture of a street and buildings Description automatically generated

小沢さんは画像生成AIを背景の作画にも使用しているとのことで、漫画に使う際の注意点についても語っていただきました。

Adobe Fireflyが目指すのは“クリエイターの味方”

アドビは同日、画像生成AI「Adobe Firefly」を搭載したデザインアプリ「Adobe Express」とnoteとの協業を発表。Adobe Expressとnoteの記事投稿画面をシームレスにつなぐことで、noteのエディター上から誰でも簡単に画像生成AIを使って見出し画像を作成できるようになります。

A screenshot of a computer Description automatically generated

Adobe Expressの生成AI機能を使用して見出し画像の作成が可能に

この機能連携について、noteの深津さんは「あくまでも自分で見出し画像を用意できない人たちの可能性を広げるためのもので、自分で作品を作りたい人は作り続けてほしいです」と補足します。クリエイターの可能性を阻害するのではなく、むしろ創造性を「拡張する」機能として使って欲しいという思いがあるそうです。

Adobe Fireflyは、商用利用可能な画像生成を念頭に設計されていることが特徴です。生成AIを語るにあたり、外せない議論として著作権の問題があります。既存の画像データをトレーニング(学習)させる生成AIは、許諾を得ないまま権利元画像を使用していると言えるため、「生成AIで作成した多くの画像に著作権侵害の可能性がある」と、SNSをはじめとするさまざまな場で議論が起こりました。

一方で、Adobe Fireflyがトレーニングさせている素材は、Adobe Stockの画像、一般に公開されているライセンスコンテンツや、著作権が失効しているパブリックドメインコンテンツからなり、商用利用の際にも安全性を考慮したコンテンツを生成するように設計されているため、より安心して使用できるツールである点が特徴です。

またAdobe FireflyはAdobe IllustratorやAdobe Photoshopにも搭載されているため、精度の高い画像加工やデザイン制作ができるようになります。

アドビの西山は、「AIは敵対するものでなく、クリエイターの頭の中にある創造性が最終成果物としてアウトプットされるまでのプロセスを短く、早くするものです」と語ります。

それを受け、深津さんは「AI機能を提供する各社はAIモデルをそのままプロダクトに持って行こうとするから、クリエイターが求めていることと微妙にズレが生じていますよね。クリエイターの事情に寄り添えている会社は少ない。そのなかでもアドビさんは寄り添っている企業の一番手という感じがします」とコメント。

A person sitting in a chair holding a microphone Description automatically generated

AIのサービスを提供する企業の課題を定義しつつも、「1〜2年でズレが埋まってくるかもしれません」と予想しました。ものの数年で大きく発展し続けるAI技術がどう変化していくのか、今後の動きにも注目です。

AIの進歩によって創造性はどう変化する?

AIの進歩によって、我々の創造性はどう変化していくのでしょうか。

登壇者3人に問いかけたところ、「これからも創造性は変わらない。しかし、変化する部分がある」とそれぞれの着眼点で語って頂きました。

「クリエイターは皆そうだと思うのですが、我々の仕事は突き詰めると『俺の妄想を聞け!』なんですよね。脳内にある妄想、つまり創造性をアウトプットするためのツールとしてAIがある。AIによって効率化されるので連載数は増えるかもしれませんが、創造性自体は変わらないと思います」と小沢さん。

アドビの西山は「作曲AIで挿入歌は作っても、生成した音楽でメジャーデビューを目指す人はいません。あくまでも不得意な部分を補完するためにAIが使われていくと思います」と共感を示しました。

深津さんは、ここで「従来のクリエイティブは肉体技能です」と話を切り出します。絵や音楽のようなクリエイティブは精神的な活動だと思われがちですが、実は「線をまっすぐ引く」「手首を良いタイミングでひねる」など、身体的な技術でクオリティが変化する側面があります。

AI時代は作品の良し悪しを考える目のスキルや、作品を思案する頭のスキルが必要となるかもしれません。深津さんはAIの進歩によって「身体性が減る代わりに、精神性が増えるんじゃないかなと思います」と見解を示しました。

三者三様の立場から、AI時代のクリエイティブについて見解を示した充実のイベント。配信アーカイブは、以下よりご覧いただけます。