FAIR法:AIの時代にアーティストを保護する新しい権利
Yeti Studios/stock.adobe.comからの画像
公平性についてお話ししましょう。
AIの世界ではスキルレベルを問わず誰でも、かつてないほど簡単に創作することができます。絵心がない「画伯」とネタにされてきた人でさえもです!まだAIの画像生成機能を自分で試したことがない人は、Adobe Fireflyをチェックし、「星降る夜に宇宙ジャングルを歩く宇宙飛行士」などとプロンプトを入力して、AIのマジックを目の前で体験してみてください。
プロのクリエイターもまた、この新しいテクノロジーの力を活用しています。生成AIを使うことは、クリエイティブのプロセスにおける重要なステップとなっています。仕事の繰り返し部分を自動化し、一番の差別化ポイントとなるアイデア出しに時間を使うことができるのです。
しかし、アドビのクリエイティブ・コミュニティのメンバーを含む一部の人々にとって、生成AIのある側面は厄介なことかもしれません。世の中にあるすべての画像、イラスト、動画でAIモデルを学習させれば、AIはそれらの画像、イラスト、動画のオリジナル制作者とまったく同じスタイルで新しい作品を再現できるわけです。もちろん、スタイルや芸術の模倣は、物理的な芸術の世界では長年行われてきたことです。今日、アーティストが他のアーティストの作品をそのままコピーすれば、著作権侵害で有罪となる可能性があります。しかし、著作権はスタイルをカバーしていません。なぜなら、物理的なアートの世界では、新しい作品に特定のスタイル要素を取り入れることは、高度に熟練したアーティストにしかできないからです。そして実際にスタイルを模倣した場合、そこに費やした努力とスキルのおかげで、出来上がった作品は元のアーティストのものというより、もはや模倣したアーティストのものだといえるわけです。しかし、生成AIの世界では、訓練されたスキルがなくても、わずかな単語とボタンをクリックするだけで、特定のスタイルの作品を作ることができます。このため、誰かがAIツールを悪用して意図的にアーティストのスタイルを模倣し、そのAIが生成したアートを使って市場で競合する可能性が生まれます。これは、そもそもそのAIモデルの学習に使われたオリジナルの作品を持つアーティストに、深刻な経済的影響をもたらす可能性があります。それはフェアではありません。
アドビは、生成AIモデル「Firefly」を、自社でライセンスを取得したAdobe Stock画像、その他のパブリックドメインの作品、モデレートされた生成AIコンテンツ、および権利者によってオープンライセンスされた作品のみを使ってトレーニングしました。このようなトレーニングセットを使用することで、上述のスタイル偽装のような状況が起こりうるリスクを最小限に抑えることができます。しかし、主にウェブ以外でトレーニングされた他のツールが存在するため、AIツールの意図的な悪用は、クリエイティブ・コミュニティにとって現実的な問題となり得ること、そして今現在、確かに正当な懸念であることを、私たちは把握しています。
そこでアドビは、この種の経済的被害に対処するため、米国連邦議会に対し、なりすまし防止権(「FAIR」法)の制定を新たに提案しています。このような法律は、AIツールによって意図的かつ商業的に自分の作品や肖像になりすましているものに対して、アーティストに訴権を与えるものとなります。この保護するアプローチは、著作権やフェアユースに関する法律だけに頼ることなく、アーティストがこの新技術を悪用する人々から生活を守るための新たな仕組みを提供することになります。この法律においては、商用利用のためにAIツールを使って意図的になりすますことはフェアではないということになります。
このアプローチに関するいくつかの重要なポイント
- この権利は特にAI作品に適用される(物理的世界における既存の権利には及ばない)
- この権利はAIツールの不正使用者に責任を生じさせ、アーティストは不正使用者を直接追及できる
- この権利にはなりすましの意図を必要とする。AIが偶然に似たスタイルの作品を生成した場合、責任は生じない。さらに、生成AIクリエイターがオリジナル・アーティストの作品を知らなかったとしても、責任は生じない(今日の著作権と同様に、オリジナルの創作は防衛手段となる)
- このなりすまし防止権は、誰かの肖像権(ニューヨーク州、カリフォルニア州、テネシー州などのいくつかの州で見られるパブリシティ権に似ている)も保護し、みなさんの画像で訓練されたAIモデルが、本人の許可なく商用利用のための肖像を作ることを防ぐ。通常のモデルリリースは適用される
- この権利は矛盾する複数の州法を避けるために連邦レベルで制定されるべきである
- この権利には実際の経済的損害を証明するアーティストの負担を最小限にするために、あらゆる損害に対してあらかじめ設定された料金を授与する法定損害賠償を含めるべきである
スタイルと創造性の進化をサポート
物理的なものであれ、デジタルなものであれ、すべてのスタイルの革新にはある程度の派生が伴います。これまでの歴史を振り返ってみても、芸術家たちは前の世代の芸術家たちの作品やスタイルを参考にすることで、自分のスタイルを磨き、新しい芸術運動に拍車をかけてきました。もし私が芸術の道を志していたら、おそらくダナ・ラオ独自のスタイルを確立する前に、それ以前のスタイルを学んでいたでしょう。非常に特殊なスタイルで有名なフィンセント・ファン・ゴッホでさえ、初期の絵画技法の多くを印象派の作品を模倣することで学び、このスタイルをポスト印象派と呼ばれる新しいスタイルへと進化させたと言われています。つまり、AIツールの悪用による経済的被害からアーティストを守るために、なりすまし防止権が不可欠である一方、芸術が進歩・進化するためには、デジタル世界におけるスタイルの革新を保護する必要もあるわけです。
だからこそFAIR法は、商用利用を目的とした意図的ななりすましに特化した、狭義の草案となっています。例えば、あるアーティストの名前をプロンプトに入力し、そのアウトプットを自分の金銭的利益のために流用したとしても、それはそのアーティストのスタイルから学んだり、進化させたりしたことにはなりません。もし誰かのスタイルを探求し、それを独自の方法で構築し、自分の名前で自分の作品の商業的な販路を見出すとしたら、それはまったく別のユースケースであり、創造性と芸術の進歩を促進するために続けられるべきだと私たちは考えています。
コラボレーションが鍵
AIとその訓練方法については、まだ多くの問題があり、場合によっては答えを得るまでにしばらく時間がかかるでしょう。アドビは、アーティストを支援するための保護と政策を引き続き提唱していきます。そして、その解決策は、保護することを目的とするコミュニティからの情報に基づいて構築されたときに、最も効果的に機能することを理解います。だからこそ私たちは、クリエイティブなコミュニティが私たちと関わり、私たちのイベントに参加し、このテクノロジーがどのように彼らのニーズをよりよく満たすことができるか、そして業界と政府がどのように彼らの懸念に対処することができるかを私たちに伝えることを奨励しているのです。コラボレーションこそが、このテクノロジーが誰にとっても公正で正しい方法で開発・導入されるための鍵なのです。
この記事は The FAIR Act: A new right to protect artists in the age of AI(著者: Dana Rao)の抄訳です