低コストでユーザビリティテストができるコグニティブウォークスルー | アドビ UX 道場 #UXDojo

コグニティブウォークスルーは、ユーザビリティテスト手法の一つです。この手法では、製品の使い勝手を確認するために、デザイナーが鍵になる質問に答え、想定しているユーザーが行うことになるタスクに取り組みます。コグニティブウォークスルーの本質は、デザイナーがユーザーの立場に立って一定の作業を完了する点にあります。これは、初めて操作する人にとって使いやすいインターフェイスであること、そして、未来のユーザーにとって最終的な目標の実現が可能であることを確認するために役立ちます。

1989 年に、認知科学者の Don Norman は The Psychology of Everyday Things を出版し、ユーザーがインターフェイスを使用する際のどんなエラーも、ユーザーの責任ではなく、デザインの責任であると断定しました。(後にこの本は The Design of Everyday Things と改名されました)

この本の中で Norman は、人が何かをしようとするときに必ず通過する 7 つの行動段階を説明しました。

  1. 目標を設定
  2. 行動を意図
  3. 行動を計画
  4. 行動
  5. 行動による影響の知覚
  6. 知覚の解釈
  7. 解釈の評価

特にコグニティブウォークスルーに関係のあるステージは、2 番から 5 番の 4 つです。5 年後の 1994 年に、学者グループ(Cathleen Wharton、John Rieman、Clayton Lewis、Peter Polson)が論文を発表して、この手法をデザインの世界に紹介しました。

デザインの初期段階では、組織外部の存在であるリアルユーザーとのテストを正当化するのが難しい場合があります。ユーザーとのテストはどの段階で行っても価値があるものですが、ユーザビリティ評価に必須ではないこともしばしばあります。そんな場面で役立つのがコグニティブウォークスルーです。

コグニティブウォークスルーの準備

コグニティブウォークスルーは、デザイン中のインターフェイスを初めて使用するユーザーの立場に、デザイナー自身(またはチームや組織の他のメンバー)を置くプロセスです。

ウォークスルーを開始する前に、ユーザーの「ハッピーパス」を明確に記したドキュメントを手元に用意する必要があります。ハッピーパスは、プロトタイプを使うユーザーが目標を達成するために辿るべき理想的な道すじです。ハッピーパスのドキュメントを作成する過程で、インターフェイスにユーザビリティ関連の問題が見つかるかもしれません。その場合は、コグニティブウォークスルーを実施する前に、その問題を解決するために最善を尽くしましょう。

ハッピーパスはいくつかのステップに分けられます。それぞれのステップは、ステップを完了しようとするユーザーの意図から始まり、ステップが完了したことをユーザーに提示するインターフェイスからのフィードバックで終わります。

ハッピーパスを文書化したら、次はどのユーザーペルソナの視点から評価するかを判断します。そして、評価するパスに対するそのペルソナの最終ゴールを決める必要があります。

コグニティブウォークスルーで確認する 4 つの質問は、すべて「はい」か「いいえ」で答えられます。「質問・回答・推奨」の 3 カラムから構成されるシンプルなグリッドをレイアウトして、「質問」のカラムに以下の問いを書き込みます。

  1. ユーザーは正しい効果を得ようとするか?
  2. ユーザーは正しいアクションが利用できることに気づくか?
  3. ユーザーは達成しようとしている効果と正しいアクションを関連付けるか?
  4. ユーザーはタスクの解決に向けて前進していることがわかるか?

「回答」のカラムは、それぞれの行に「▢ はい ▢ いいえ」を記述します。このグリッドを、ハッピーパスのステップごとに一つずつ作成します。

コグニティブウォークスルーの実施

いよいよ、プロトタイプを注意深く操作しながら、4 つの質問に答えます。これを遂行し終わると、チームに持ち帰ってプロトタイプに適用するための作業項目の一覧ができます。

1. ユーザーは正しい効果を得ようとするか?

メッセージを送るために銀行アプリを開くことはないでしょう。友人の電話番号を探すためにブラウザを開いて検索エンジンを使うこともないでしょう。この最初の質問は非常に基本的なもので、「ユーザーが製品を自身の目標達成に役立つものとして認識すると期待することは妥当か?」というものです。そもそも、アプリを開いたり、デザインを画面に読み込んだりする地点まで達することを期待するのは妥当でしょうか?ウォークスルーの開始地点は適切でしょうか?

2. ユーザーは正しいアクションが利用できることに気づくか?

これは、言い換えるなら「最初の一歩は十分に明白か?」という質問です。タスクを開始するための最初の一歩は、インターフェイスに表示されているか、少なくとも、直感的に見つけることができる場所に配置されていなければなりません。

3. ユーザーは達成しようとしている効果と正しいアクションを関連付けるか?

ボタンは見えているかもしれません。しかし、ユーザーはそれを自分が使うべき対象だと認識するでしょうか?ユーザがどのように要素を見つけたり認識したりするのかを判断するには、インターフェイスのヒューリスティック評価が利用できます。通常、「追加」「編集」「開始」などのラベルの採用が役に立ちます。この点もウォークスルー中に見逃さないようにしましょう。

4. ユーザーはタスクの解決に向けて前進していることがわかるか?

これはフィードバックに関する問いで、ハッピーパス内の各ステップの終わりにすべき質問です。ユーザーは、自分が次のステップに進めるということを、どのように分かるのでしょうか?タスクの完了を示すために、インターフェイスはどのようなフィードバックを与えるでしょうか?

この時点で、エラーメッセージも評価するべきです。もしユーザーが設定したハッピーパスから外れてしまったら、どのように正しい次のアクションに導かれるのでしょうか?ユーザーは直前のアクションを取り消したり、キャンセルしたり、あるいはスタート地点に戻ったりできるでしょうか?

ウォークスルーの担当者を選ぶ

デザイナーは自分がデザインしたプロトタイプに愛着を持つことがあります。また、インターフェイスの個々の要素を考え抜くのに相当な時間を費やすのが普通です。コグニティブウォークスルーを担当する誰かを選ぶときは、声を掛けられる範囲で最も客観的な人を選ぶのが得策です。つまり、インターフェイスや特定の要素に思い入れも反感を持たない人を探すのです。

この手法に適用されるべき最も重要な特性は、想像力、共感力、客観性です。これらの特性を持つ人は組織の様々な場所で見つけられます。また、これはデザイナーではない人をデザインプロセスに参加させる絶好の機会です。人事部門と協力すれば、共感トレーニングとして活用することもできるでしょう。コグニティブウォークスルーは、低コストで時間効率の良いユーザビリティテスト手法であるという価値に加えて、他の人の立場に立つ訓練に役立つという側面を持ちます。

そして、それこそが UX デザインの本質に他なりません。

この記事は The Cognitive Walkthrough: A Low-Cost Usability Testing Method and Empathy Training Tool(著者: RC Woodmass )の抄訳です