Adobe Firefly をクリエイター研修に採用し、次世代の人材育成を進めるサイバーエージェントの取り組み

目次

  • 公開された直後の Adobe Firefly ベータ版を社内研修に採用
  • Firefly を活用して制作された絵本
  • 画像生成 AI のクリエイティブ業務への活用に向けて
  • Adobe Express と Firefly による効率的なマーケティングワークフロー

AI 活用によるオペレーション業務の効率化を推進する AI オペレーション室の新設や、独自に開発した日本語 LLM の一般公開など、株式会社サイバーエージェントは、AI の分野でもリーディングカンパニーとしての存在感を示しています。同社は、クリエイターにとっても今は大きな変化のタイミングであると捉えており、つくる役割だけではなくて、市場を理解し、より広義にクリエイティビティを発揮できる人材育成への取り組みを始めています。

クリエイターはこれまでも、DTP、インターネット、スマートフォンと、新しいテクノロジーの普及とともに、自分たちの役割を洗練させてきました。「これからは、一定の品質までは、誰もが素早く大量につくれる時代になります。そのためクリエイターは、AI をツールとして扱えるだけでなく、価値を創造するためのディレクション能力を持つことが重要になります」とサイバーエージェント 執行役員 クリエイティブ担当 佐藤洋介氏は指摘します。

「例えば、今までは、Adobe Illustrator でラフを描いて展開していく、その下絵の段階でもバリエーションをつくる必要がありました。今は、バリエーションは生成 AI で一気につくれる時代で、既に社内でもそうした利用は進んでいます。これからは、コンセプトメイクやキャラの世界感や事業の方向性、その辺と噛み合わせた仕事ができる人材が伸びていくだろうと認識しています。2024 年から 2026 年ぐらいまでに、AI の活用によりオペレーション業務を圧縮して、ディレクション業務の方にクリエイターが職域を伸ばしていくというのが、組織として目指すべきところかなと思っています」

佐藤氏はさらに、クリエイターには、自分達の職域をどう広げていくか、そういう面にもクリエイティビティを発揮していって欲しいと述べました。

サイバーエージェント 執行役員 クリエイティブ担当 佐藤洋介氏

公開された直後の Adobe Firefly ベータ版を社内研修に採用

昨年サイバーエージェントは、ベータ版が公開されたばかりの Adobe Firefly を、いち早く企業研修に採用しました。企業としての動きの速さと、新しい技術の採用に対するポジティブさを示すエピソードです。その際、画像を生成する AI に Firefly を選択したのは、学習データの透明性が大きな理由でした。サイバーエージェント子会社の株株式会社シロク 取締役 デザイン本部 本部長 石山貴広氏は、次のようにその背景を説明します。

「サイバーエージェントはたくさんのコンテンツをつくってきた、IP で勝負をしている会社でもあるので、クリエイターにとって嫌なことはしたくないという考えが根底にあります。出自の分からないものを学習してるデータモデルが多くありますが、自分たちの中にも作品をつくってきているメンバーが大勢いますし、それが不本意に学習されていたりすると 、嬉しい気持ちにはなりません。クリエイターの権利を最大限尊重しながら画像生成 AI を使いたいと思ったときに、その条件に一番近かったのがアドビの Firefly でした」

Firefly は、Adobe Stock のアセット等の、権利がクリアなデータだけ学習している点が、クリエイターへの配慮の面からも、著作権などの法律に関わる面からも、石山氏には他社との大きな違いに感じられたそうです。

株式会社シロク 取締役 デザイン本部 本部長 石山貴広氏

Firefly を活用して制作された絵本

この研修には、2023 年度入社の新卒クリエイター 24 名が参加して、生成 AI を活用しながら絵本を制作するという課題に取り組みました。併せて、AI 生成物の完成度を向上させる方法や、プロンプトに指定するワードの選定方法、さらに、セキュリティ等の注意事項も学んでいます。参加者からの Firefly を使ってみての感想には、以下のようなものがありました。

研修で作成された絵本から

AI で画像生成をすると、同じプロンプトでも同じ絵柄になるとは限りません。そのため、スタイルに一貫性のある絵本を AI を使ってつくるのは困難です。「本来は、スタイルの指示をプロンプトで細かく記述しないといけないのですが、Firefly の良いところは、それを直感的に決められることです。パラメーター等でスタイルをある程度まで固定できる機能を、Firefly は初期から提供していたのが、一貫性のある絵本ができた理由だと思います」と石山氏は研修を振り返りました。

研修で作成された絵本から

研修では、AI から出力されるアウトプットが優れていたため、そのまま採択する人が多く見られたそうです。この点について佐藤氏は、「特に経験の浅いクリエイターは、クリエイティブ制作における思考回数が減ることで、クオリティへの執着や向上心が生まれにくい環境にあるだろうと思います。また、自身が想像していたものと違うアウトプットに対し、無意識に目的からブレていってしまう危険性もあります。目的からストーリーをつくり、生成された結果をディレクションしていくことが必要です」と、生成 AI を活用する際に目的意識をしっかりと持つことの重要性を強調しました。

研修で作成された絵本から

画像生成 AI のクリエイティブ業務への活用に向けて

「クリエイターは、以前から Adobe Sensei を使って生成しています。ですので、それがさらにプロンプトで便利になったぐらいの感覚ではあるんです」と佐藤氏は生成 AI を表現します。そのため、社内に抵抗のあるクリエイターは少ないとしつつも、どういうものか分からないと思っている人はまだいるだろうということと、特に画像生成については法的にグレーな面があることから、画像生成 AI の業務利用に関しては、闇雲に進めることなく、むしろ慎重な態度で臨んでいます。

「今は、上長に確認して活用してくださいとアナウンスをしています。これを、画像生成 AI をクリエイティブ業務に使ってもいいと言えるようにするためのガイドラインを整備しているところです」と佐藤氏は話しました。クリエイターが、画像生成 AI を安全に、かつ積極的に使えるようにするためのガイドラインです。

石山氏は、ガイドラインは、画像生成 AI を使う側の倫理観を育成するための全社的な取り組みであると説明しました。規制をするためのものではなく、なぜこれが正しいのか、なぜこれが推奨できるのかという意図や理由をきちんと理解した上で、社内のクリエイターが画像生成 AI を活用できるようになる手引きにしたいとのことです。

Adobe Express と Firefly による効率的なマーケティングワークフロー

世の中の変化に素早く対応してコンテンツを届けることが求められる昨今のデジタルマーケティングにおいて、企画、制作、配信、分析のワークフローがシームレスに繋がっていることが望ましいのは言うまでもありません。石山氏によると、シロクでも、ワークフロー改善の一環としてマーケターとデザイナーが近い距離で仕事をしています。そして、それをさらに効率化する手段として Adobe Express の導入が検討されています。

Adobe Express は、ブラウザ内で動作する、誰でも簡単な操作でデザインできるアプリです。そのため、マーケターはデザイナーに頼ることなく企画を視覚化できます。また Express には Firefly が組み込まれているため、AI の支援を受けながら、画像の追加や、背景の塗りつぶしといった作業ができます。さらに、共同編集ができるため、作成した企画案をデザイナーと共有し、完成度を上げるよう依頼することも容易です。

「Express は、ブラウザを開けば使えて、手元に素材が無ければ Firefly が補助してくれて、出来上がったものをそのままデザイナーに渡せるという、マーケターには嬉しいツールです。また Express は CC ライブラリと連携できるため、適切なデザインアセットを容易に同期できます。そのため、決められている色やフォントを使って欲しいデザイナーにもメリットがあります」。最初は、企画書を Express で作成してデザイナーがそれを修正するワークフローの構築を考えていると石山氏は話しました。

アドビには、Adobe Sensei GenAI という、Adobe Experience Cloud 製品にネイティブに統合された AI サービスにより、デジタルアセットの配信、分析を合理化し、迅速化するエンタープライズ向けのソリューションがあります。制作ツールである CC 製品だけでなく、マーケティング支援ツールにも Firefly が組み込まれ、マーケターには Express があることで、ビジネスニーズによりクイックに対応できるワークフローが実現できるのではないかと石山氏は期待しています。