グラフィックデザイナー+ 3DCG で企業と顧客をつなげるコンテンツをつくる キヤノン株式会社 総合デザインセンター事例

目次

  • 企業としてコンテンツ制作に取り組むことの意義
  • CG チームにグラフィックデザイナーを加えた理由
  • グラフィックデザイナーが 3DCG を学べる環境づくり
  • Substance 3D を使い始めたきっかけ

顧客の購買行動が変容し、様々なメディアで情報を探しながら商品を選択することが当たり前になった現在、企業が発信するメッセージの重要性はこれまで以上に高まっています。

こうした状況について、キヤノン株式会社で製品プロモーションとブランディングを担当する総合デザインセンター 岡田篤史氏は次のように語りました。

「SNS やメディアが多様化し、顧客ファーストで商品の企画や開発、デザイン、プロモーション、ブランディングを考えることが多くなってきています。私たちがつくるコンテンツも、その変化に伴って変わってきました。顧客と企業との距離が近くなり、コミュニケーションの機会が増えたことで、よりわかりやすく情報を整理し、つくること以上に顧客の求めるニーズや伝え方を考えることに多くの時間をかけています。商品の特長や技術を紹介するだけでなく、それらが顧客にどのような価値を提供できるのかを可視化して伝えることがマストになり、表現方法の幅や言語化のスキルが重要になってきています。 社内の様々な部門とアイデアを出し合いながら、コンテンツをつくりあげていくコミュニケーションデザインの役割と領域が拡大していることをすごく実感します」

キヤノン株式会社 総合デザインセンター 岡田篤史氏

企業としてコンテンツ制作に取り組むことの意義

「キヤノンデザインセンターは、企業としては珍しく3DCG を活用した映像やグラフィック制作を専門とする部門があります。CAD を活用した社内用途のビジュアライズ業務から始まり、現在はフル CG 映像の企画・演出・制作・音楽の全工程を内製化するまで業務を拡大しています。顧客は様々な手段で商品の情報を入手してから、共感できる商品、自分に最適な商品を選びます。どれだけ優れた商品であっても、その情報が顧客に届かなければ商品を選んでいただけません。その商品がなぜ誕生したのか、快適に使ってもらうために時間をかけて工夫したところなど、その多くの思いを顧客に届けるためには、社内でそのメンバーと身近に接してる私たちだからこそ、つくり出せるコンテンツがあると思っています。メディアに特性があると同じで、コンテンツにも特性があり、CG で伝えた方がわかりやすいコトやインタラクティブ性を持たせないと伝わらないコトなど、クリエイティブに関わる様々な表現方法の選択肢を日々アップデートしています」

下の画像は、岡田氏がディレクションした映像の一部です。Vlog カメラ、PowerShotV10 の特長の一つである大口径なマイクをパーツを分解することで見せていく 3DCG ならではの演出で表現している場面です。

岡田氏がディレクションした PwerShotV10 の技術訴求映像

CG チームにグラフィックデザイナーを加えた理由

3DCG を活用した映像やグラフィック制作をミッションとしてチームづくりが始まった岡田氏のチームにグラフィックデザイナーが加わることになりました。現在、同部門でグラフィックデザイナー/CG デザイナーとして活躍する松木愛華氏です。

「グラフィックデザイナーの松木さんにチームへ加わってもらったのは、本人に 3DCG・モーショングラフィックス・映像に強い興味と意欲があったことはもちろんですが、3DCG 表現の中にグラフィック要素を効果的にいれることで、今までにない映像表現が生まれ、アウトプットのクオリティアップとチームへの刺激になると期待したからです」

松木氏が参加したプロジェクトでは、モーションタイポグラフィの採用やフォント、レイアウト、色彩設計などにより映像全体の完成度が上がり、多視点でデザインすることで、チーム内が活性化されて、CG デザイナーがグラフィックを学ぶよいきっかけにもなっているそうです。

「チームとしての表現の“幅”や“視点”が増えたことで提案力や企画力が向上し、社内の依頼元との信頼関係の構築にも繋がっています」

キヤノン株式会社 総合デザインセンター 松木愛華氏

松木氏はグラフィックデザイナーならではの演出例として 2 つ事例を紹介しています。1 つ目は、オフィス向け複合機の紹介動画です。

「複合機のソリューションは日々の面倒な作業や、データ入力が自動化されたりと便利な機能が多いですが、前提となる課題が認識されないと、ソリューションの価値がうまく伝わらないため、課題をいかに端的に伝え、目に見えないソリューションを分かりやすく視覚化できるかがポイントでした。そのため情報を整理してシンプルに表現できる 2D のモーショングラフィックスの世界観で構成しています。ただ、 『スキャン』は自動化の起点となる大事なシーンなので、実際に人が使用する目線で再現したいと思い、3D で作成しています。イラストの世界観にあう見え方や、陰影の入り方を吟味し、シームレスに2D-3D をつなげることを意識して制作しました」

2 つ目は、キャラクターデザインを担当した農業向けソリューションの映像事例です。「専門分野の人向けのソリューションのため、農業生産者はもちろん、知見のない関係者にも分かりやすく状況を伝えるために、キャラクターを用いて映像を構成しています。3DCG で表現することでソリューションの世界観やユーザーの状況を分かりやすく、キャッチーに表現できるのが魅力だと思います」

「私は、全部 3D でつくりたいというより、適材適所でベストな表現を選択できるようにしたいと思っています。2D、3D、実写などを柔軟に使い分け、ベストな世界観を構築していくことが大事であり、自分のスキルに捕らわれない選択ができる状態を目指しています」

グラフィックデザイナーが 3DCG を学べる環境づくり

今ではグラフィックデザインと CG デザインを兼任する松木氏ですが、入社時、映像や CG 制作は未経験の領域だったそうです。そんな松木氏のために岡田氏が最初に行ったことは、CG ソフトの操作方法ではなく映像制作の流れ、企画や構成の大切さといった基礎を習得できるようにサポートすることでした。CG ソフトのオペレーションではなく、グラフィックデザインのスキルを活かすために、基礎を学んで自分自身で応用・表現できる力をまずは身に着けて欲しかったそうです。そして、徐々に OJT を繰り返しながら基本となる Adobe Premiere ProAdobe After Effects、Mayaのオペレーションを効率よく学んでもらいました。

「松木さんは、情報を整理し、わかりやすくまとめる能力が素晴らしかったので、早い段階でコンセプトやサービス系の映像の企画にも参加してもらい、CG デザイナーとグラフィックデザイナーを兼務しながら、現在はプランナーとしても活躍しています」

当時の体験を振り返って、松木氏は次のように語りました。

「最初は映像に興味があったので、まず映像の制作プロセスを教わりました。そこから実写映像の編集をして、Premiere Pro を触り始め、さらにモーションタイポグラフィも取り入れたいと After Effects を使い始めたという経緯です。その過程で 3DCG の案件に携わる機会があり、先輩方がギミックを細かくつくりこむ様子を見て強く興味を惹かれました。CG って自動でいろいろ出来るものでなく、質感設定やアニメーションする際の形状変化など手作業で設定する部分も多く、見えない技術が詰まってるんだなと感動しました。CG ソフトを使い始めてからは分からないことが次々出てきて調べても求める内容が出てこなかったりと大変でしたが、チームメンバーが親身に教えてくれたおかげで、途中で離脱することなく学ぶことが出来ました。すぐに相談できる環境があったことが本当に大きくて、今の自分があるのは周囲のサポートがあったことにつきます」と松木氏は振り返りました。

Substance 3D を使い始めたきっかけ

「製品をどう使用し、どんな体験をもたらすかは人と製品双方の描き方が重要になるため、人物自体も3DCG で表現する試みをチームでは行っています。チームメンバーでモデリング・テクスチャリング等役割分担をして、私はその中で人物の着る服装を担当しています。昨年から Marvelous designer を使用して衣服を作成をしており、その過程でフォトリアルな質感を作成することができる Substance 3D に辿りつきました」

プリセットのマテリアルを活用しながら衣服の質感を作成する様子

「Marvelous Designer から Substance 3D のリンクの機能があることや、チュートリアルも豊富だったことから、Substance 3D を触ってみたいなと思いました。Substance 3D では解像度に縛られないプロシージャルなマテリアルを作成できるため、カスタマイズにより手軽に任意の質感を再現出来そうだという期待もあります。まだ使い始めたばかりですが、衣服に限らず人間の肌のテクスチャや人物が登場する背景のインテリアも含め多くの活用用途が見込まれるので、もっとスキルアップを図り自分の表現の幅を広げ、よりユーザーに響くコンテンツづくりを目指していきたいと思います」

Substance 3D Painter でテクスチャ設定されたオフィスチェア