予告|Illustratorの文字組み機能・テキストエンジンが進化|いまから備えよう!Illustrator 2023(27.7)以降で再保存のお願い
アドビでは現在、Illustratorをはじめとしたデザインアプリケーションの文字組み品質向上のために、テキストエンジンの刷新に取り組んでいます。この記事では、テキストエンジンをアップデートする背景と、アプリケーション側の対応について紹介します。
品質向上のメリットを体験していただくには、みなさんがお手持ちのIllustratorファイル(.ai)を再保存をしていただく必要があります。 ぜひ、最後までご一読ください。
テキストエンジン=文字組みの品質を決めるプログラム
Adobe IllustratorやAdobe InDesign、Adobe Photoshop、Adobe Premiere Proといったクリエイティブアプリケーションには、世界中の言語を美しく組み上げるためのさまざまな機能が搭載されています。
この機能を実現するために、アドビではこれまで独自の組版プログラムを開発してきました。ほかの言語に比べて、使用する文字の種類や約物(句読点などの記号)が多い日本語も例外ではなく、この組版プログラムによって、標準的な組版ルールに準じた文字組みを可能にしています。このプログラムは一般的に「テキストエンジン」と呼ばれ、日本語環境において組版の中枢を担う、重要な機能と位置付けられています。
組版プログラムが機能していない状態(図・左)では、本来、行の先頭にあってはいけない読点(、)がそのままになる/連続する約物(図では か。」 の部分)がそれぞれ全角で流し込まれるなど、読みやすさ、美しさを損ねるケースが発生する
このテキストエンジンは用途に合わせて2つの系統があります。
ひとつはInDesignにのみ搭載されている豊富な日本語組版機能を対応したテキストエンジン、もうひとつはさまざまな言語・アプリケーション環境に対応した「統合テキストエンジン」と呼ばれるものです。IllustratorやPhotoshop、Premiere Proには、この統合テキストエンジンが搭載されています。
2023年11月に開催された「Adobe MAX Japan 2023」のセッション「文字組みに最新の魔法を★開発中の進化するテキストエンジン紹介!」や Adobe Blog にて、すでに先行告知されていましたが、アドビでは現在、この統合テキストエンジンのアップデートに取り組んでいます。
*以降、統合テキストエンジンをテキストエンジンと表記します。
*内容及び掲載のダイアログ等は、2024年4月の開発時点のものです。実装にあたっては機能や文言が変更になる可能性があります。
標準的な文字組み機能に加えて、文字同士の間隔をカスタマイズできる「文字組みアキ量設定」は、日本語版ならではの機能のひとつ。こうした機能も実装できるのも、独自開発のテキストエンジンがあってこそ
より美しい文字組み品質を実現するアップデート
アドビではこれまでも、技術の変化にあわせてテキストエンジンのアップデートを行なってきました。
なぜいま、テキストエンジンをアップデートするのか。その理由について、テキストエンジンの開発を担当するアドビのプリンシパルサイエンティスト ナット・マッカリーは次のように話します。
「Illustratorのテキストエンジンは、前回のアップデートから20年以上が経過しています。また、アプリケーションやそのバージョンの違いによって、テキストエンジンの挙動には差異が発生していました。そうした互換性の問題を解消し、ニーズが高まっているAdobe ExpressのようなiPad版アプリ、ブラウザアプリでも同等の美しい文字組みを実現できるようにするために、テキストエンジンを刷新、統一する必要がありました。このテキストエンジンが実装されることで、Illustratorの文字組み品質はより高いものになり、Adobe Expressのようなアプリケーションでも、シンプルなUIでプロクオリティの文字組みが可能になります。
Illustratorのテキストエンジンの大規模なアップデートは2003年、Illustrator CSの登場にあわせて実施され、Illustratorの文字組み品質は大幅に向上しましたが、今回もこのときと同じような大規模なメジャーアップデートになります」
アドビ プリンシパルサイエンティスト ナット・マッカリー
Adobe Express|https://express.adobe.com/ 多彩なデザインテンプレート、Adobe Fontsの豊富な書体、Fireflyによる生成AI技術によって、よりシンプルでスムーズなデザイン環境を提供している
レイアウトの保持/変更点を確認しながらの更新も可能
今後、Illustratorのテキストエンジンがアップデートされると、デザインワークにどのような影響が出るのでしょうか。
テキストエンジン変更以降のバージョンで、新規にデザインを開始する場合には、はじめから新しいテキストエンジンが適用されるため、作業に影響を及ぼすことはありません。
おもに影響を受ける可能性があるのは、変更前のテキストエンジンで作られたファイルを、変更後のテキストエンジンが搭載されたバージョンで開くケースです。この場合、文字の位置や改行位置が変更されることがあります。
新しいバージョンのテキストエンジンが搭載されるIllustratorでは、過去のデータの予期せぬレイアウト変更を防ぐために、従来のテキストエンジンで作られたファイルを新しいバージョンのテキストエンジンのファイルで開いた場合、テキスト全体をアップデートする/オリジナルを保持する、いずれかを選択できるようにします。
- 「更新」…新しいバージョンのテキストエンジンで文字位置を 「更新」 する
- 「後で更新」…従来のテキストエンジンの文字位置を 「保持」 する
新しいバージョンのテキストエンジンが搭載されたIllustratorで、旧バージョンのデータを開いたときに表示されるダイアログ。「後で更新」を選んだ場合、文字組みは変更されることなく、オリジナルの状態が保持される(開発中のため、変更になる可能性があります)
この選択肢に加えて、従来のテキストエンジンの文字位置を「保持」した場合、新しいバージョンのテキストエンジンではどのように変わるのかを、オブジェクト単位で確認できる機能の開発を進めています。この機能を使うと、以下のような確認が可能になります。
- 変更されるオブジェクトをマークする(全体)
- 変更前/後のレイアウトを比較する(選択)
- 新しいバージョンのテキストエンジンによるレイアウトを表示する(選択)
- 改行位置が変わった部分をハイライトする(選択)
- 字送りや行送りが変更された部分をハイライトする(選択)
「書式」メニューに追加予定の「文字組の更新」にはテキストエンジン変更によるレイアウトの変更点を確認できる表示オプションが揃う(開発中)
デザイン実務のうえで、この機能を利用するメリットは以下の2点です。
- 変更が事前に可視化できること
- 元のレイアウトを保持できること
「保持」されているテキストは、変更を加えない限り、もとのレイアウトのまま、正確に再現されます。文字を変更する/フォントを変更する/フォントサイズを変更する/文字の色を変更する/オブジェクトの位置を動かす等、テキストに対して修正が必要な場合は、「更新」をする必要がありますが、この際に発生しうる変更点は、上記機能を使うことで確実に把握することができます。
具体的な作業イメージを見ていきましょう。
「後で更新」を選び、オリジナルの文字組みを「保持」し、「変更されるオブジェクトをマークする」にチェックを入れると、変更が加わるテキストオブジェクトにはマークがつきます。新しいバージョンのテキストエンジンでも文字組みが変わらない場合、マークはつきません。
マークがつけられたオブジェクトは、オリジナルの文字組みが「保持」されていますが、編集の過程で「更新」されると、マークが外れ、通常のテキストオブジェクトと同じ扱いに変わります。
変更を加えたテキストは新しいバージョンのテキストエンジンで「更新」される(鍵のマークはイメージ)
“どこがどう変わったのか”をすばやく、かつ細かく確認したい場合にあるのが「新/旧レイアウトを重ねて表示」のオプションです。変更点を確認したいテキストオブジェクトを選択した状態で、「新/旧レイアウトを重ねて表示」をオンにすると、新旧2つのレイアウトが異なる色で重なって表示されます。
従来のテキストエンジンと、新しいバージョンのテキストエンジンの結果を比較(鍵のマークはイメージ)
新しいバージョンのテキストエンジンが搭載されたバージョンで旧バージョンのデータを開く場合、その用途・目的により、以下のように開き、作業することになります。
- 旧バージョンで作成したファイルを変更せずにそのまま利用したい→「後で更新」 を選択して開く
- 旧バージョンで作成したファイルの一部を修正したい→「後で更新」 を選択して開いたあと、変更点を確認しながら修正が必要なテキストのみを 「更新」 する
- 旧バージョンで作成したファイル全体を作り直したい。テキストは再調整するため、厳密な互換性は必要ない→「更新」 を選択して開く
お願い|Illustrator2023(27.7以降)で再保存
テキストエンジンのアップデートに備えて、ユーザーのみなさんにお願いがあります。
それは 「Illustrator 2023(27.7)より前のバージョンで作成・保存されたファイルを、Illustrator 2024(28.x)を含む、Illustrator 2023(27.7)以降のバージョンで再保存をすること」 です。
レイアウトの変更点を確認できる機能を最大限に利用するためには、Illustrator 2023(27.7)以降に搭載されている「レイアウト保存機能」が必要になります。この機能によってIllustratorファイルにレイアウトデータを含めておくことで、従来のテキストエンジンで作られた文字組みも、新しいテキストエンジンで更新されることなく、保存時のレイアウトのまま表示できるようになります。
より美しい文字組みを実現するIllustratorのテキストエンジンの登場に向けて、いまから準備をお願いいたします。
Illustrator 2023の詳細なバージョンは、Adobe Creative Cloudのデスクトップアプリに表示されるアプリケーション情報(左)、またはIllustratorを起動した状態で「Illustratorについて」を選ぶことで表示されるウィンドウで確認できる(右)
[再保存時の推奨設定] 保存時の「Illustratorオプション」ダイアログ。バージョンは「Illustrator 2020」、オプションの「PDF互換ファイルを作成」はオンにして保存する