日本からのリクエストに応える、Premiere Proのテキスト機能強化
日本からの強い要望に応え、テキストスタイル機能が強化されたAdobe Premiere Pro(ベータ版)が公開されました。カラーフォントへの対応と併せて解説します。
テロップとPremiere Proのテキスト機能
テロップワークの変化
テレビ、YouTubeを中心に、視聴体験を豊かにする演出として独自の進化を遂げた日本のテロップ文化。さらに近年の受信機器の多様化や消音・速見といった視聴形態の変化に伴い、テロップは音声だけでは伝えきれない情報を視覚的に補完する役割を担うようになりました。また、従来分業されることの多かったテロップワークが、編集中の作業のひとつとして一体化しつつあります。こうした環境の変化に対応するために、映像編集アプリケーションのテキスト機能は強化され、Premiere Proも着実に進化を遂げてきました。
レガシータイトルの廃止
かつてPremiere Proには、プラグイン的に独立して機能するレガシータイトルが搭載されていました。専用タイトルアプリケーション並みの機能を備え、多くのユーザーに愛されたレガシータイトルでしたが、その古いアーキテクチャゆえPremiere ProのワークフローおよびAdobe Creative Cloudのエコシステムに馴染まないものとなり、2020年10月に廃止されました。
レガシータイトルの廃止についてはこちらのFAQをご覧ください
エッセンシャルグラフィックスのテキスト機能
変わって新機能として搭載されたのが、エッセンシャルグラフィックスのテキスト機能です。アーキテクチャが刷新され、グラフィックとしての属性や検索、レスポンシブデザイン、テンプレートへの対応など、新時代の映像制作ワークフローに対応したテキスト環境を実現しました。しかし、当初のバージョンではテキストスタイル(文字を装飾する機能)は必要最低限のものだけで表現力は乏しく、テロップ文化を醸成させた日本のユーザーを失望させてしまいました。
機能の改善
その後、アドビの開発チームは番組制作者やポストプロダクション、Premiere Proユーザーグループを初めとする皆様から多くのフィードバックを集め、それを真摯に受け止めることでテキストスタイル機能の改善に努めてきました。その結果、複数の境界線とシャドウ、文字および境界線へのグラデーション、境界線の結合方式などを追加し、着実に表現力を強化したのです。
そして今回のアップデートでは、作業効率の飛躍的な向上をもたらす新機能が追加されます。ひとつずつ紹介しましょう。
2024年1月提供のベータ版におけるテキスト機能強化
テキストスタイルの参照用サムネイル
登録済みのスタイルを適用するには、エッセンシャルグラフィックスのドロップダウンで表示される一覧から、任意のものを選択します。しかしこれまではスタイル名が表示されるだけだったので、実際にどういった装飾が行われるのかを事前に確認することができませんでした。今回、参照用のサムネイルが表示されるようになったため、多数登録している場合でもすぐに目的のスタイルをみつけることができます。
新しいスタイルブラウザ
スタイルを一覧で見ることができたレガシータイトルと同様に、リストまたはアイコンビューで開くスタイルブラウザが新設されました。これは、特に日本のユーザーからの強いリクエストにより実現した機能のひとつです。ローカルのスタイルまたは開かれている任意のプロジェクトで作成、読み込まれたスタイルをマイスタイルとして一覧表示、ワンクリックで適用できます。これにより、多様なスタイルを試したり、多くのテキストに適用する際にもスピーディな作業が行えます。
スタイルの部分適用
スタイルブラウザを使用してテキストの一部に別のスタイルを適用できようになったため、ワンクリックで部分的にフォントや塗り、サイズなどを変えてアクセントをつけることが可能になりました。この機能はリンクスタイル(グラフィックスタイル:テキストレイヤーに適用)にのみ可能で、トラックスタイル(キャプションスタイル:常にトラック全体に適用)には適用できません。
スタイルの再定義
複数のテキストに適用したスタイルの設定を変更した場合、「スタイルの再定義」ボタンによってそのスタイルを使ったすべてのテキストに波及させることができます。Adobe Illustratorのシンボルのような考え方で、塗りやサイズの一括変更の必要がある際にとても便利です。
外観にのみスタイルを適用
スタイルを適用する際に、右クリックで「外観(塗り、境界線、背景、シャドウ)にのみスタイルを適用」を選択できます。この場合、フォントやサイズは変わらず、スタイルの再定義の影響も受けません。
スタイルの再利用と共有
スタイルを作成すると自動的に作業中のプロジェクトに登録され、プロジェクトパネルに表示されます。それらを右クリックして書き出すと.prtextstyleファイルとしてローカルの共有領域に保存されるため、他のプロジェクトでも読み込み操作なしで再利用できます。さらにこのファイルを別のユーザーに共有して、各プロジェクトのテロップを統一することも簡単にできます。
テキストスタイルの向上については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
新たなテキスト機能
テキストスタイル以外にもいくつかの新機能が追加されました。
段落テキスト
文字ツールでの入力時に、これまでのポイントテキストに加えて段落テキストが選択できるようになりました。段落テキストはAdobe Illustratorでお馴染みのエリア内文字と同様、指定範囲にテキストを流し込むことができます。文字が溢れた状態(テキストオーバーフロー)では、テキストボックスの右下に警告マークが表示されるので、誤って文章が欠けたまま書き出すミスも起こりにくくなります。
カラーフォント対応
テキストレイヤーでカラー絵文字を含むカラーフォントの表示が可能になりました。これにより、より表現力豊かなテキストや記号、アイコンを簡単に映像の中で利用することができます。カラーフォントについてはこちらのページを参照ください。またヒグミンや貂明朝などのグリフ(字形)も表示できるようになりました。
Apple Color Emoji対応
Apple Color Emojiに対応しました、macOS版のPremiere Proで利用可能です。iPhoneでお馴染みのフルカラーでリッチな絵文字を利用することができるため、画面上でSNSライクな表現を行うような場合にも、他のグラフィックアプリケーションを使う必要がなくなります。
これらは、多くのデザイン製品を手がけ、業界標準規格の策定や日本語フォントの開発に注力するアドビならではのアプローチです。今後も日本独特のテロップ表現やタイポグラフィの文化を尊重した研究開発に注力して参りますので、ベータ版プログラムを通して積極的なフィードバックをお寄せください。