アドビの生成AIとは? – Adobe Fireflyのご紹介と実践例、フェイクニュースを防ぐ取り組みCAI《Inter BEE 「Adobe Day 2024」レポート》
国際放送機器展Inter BEE 2024において、アドビは2024に発表した新しいプロダクトや新機能、生成AIに関する最新情報などをお届けする特別ステージ「Adobe Day」を開催しました。このイベントでは近年活用が加速している生成AIをテーマに据えたセッションが行われ、たくさんの方にご来場いただきました。話題のアドビの生成AI「Firefly」がに注目が集まったほか、生成AIを安全に利用するためのアプローチやその課題にも関心が寄せられています。
本記事でとりあげるセッション「アドビの生成AIとは? – Adobe Fireflyのご紹介と実践例、フェイクニュースを防ぐ取り組みCAI」では、生成AIを安全に使っていくポイントについて、アドビの生成AI「Firefly」が提供するモデルの実例やワークフローを取り上げながら解説を行っています。また、フェイクニュースや偽造コンテンツへの対策として、アドビがグローバルに推進している「CAI(Content Authenticity Initiative)」についても事例を含めて紹介しています。
さまざまな分野で急速に進化を続ける生成AIについて、安全な運用のための最新情報と効果的な事例などを紹介していますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
本セッションは、こちらのスライドの項目で進行しました。
①アドビのAIへの投資と取り組み
生成AIの登場で世の中は大きく変革しています。この急速な変革を牽引する波が押し寄せてきていますが、それはテクノロジーが「Web」から「クラウド」へと移行してきたのと同様に、「生成AI」もまた基盤となるテクノロジーの移行であるとアドビは捉えています。
生成AIは想像もできなかったスピードと規模で進化していて、コンテンツ制作にも大きな変革が起こっているのが現状です。その中で、アドビは「世界を変えるデジタル体験を」というミッションを柱に、クリエイターが魅力的なコンテンツを作れるよう支援をさせていただいて、約40年にわたってビジネスを続けてきています。
アドビはこれまで継続的にAIに投資をしてきました。
2010年にPhotoshop CS5に搭載されたAI機能が「コンテンツに応じた塗りつぶし」でした。選択範囲を消すことができる「アドビマジック」と呼ばれる機能です。
そして14年後のいま、FireflyがPhotoshopに搭載された時にも「テキストから画像生成」という、いわゆる選択範囲を塗りつぶす機能として搭載されました。Photoshopはコンテンツをしっかり理解してるので、選択範囲にふさわしい画像を生成して、湖の反射まで正確に表現しています。
このように、Fireflyはこれまでアドビが培ってきた技術の延長線上にあるものなのです。
アドビのAIに対する考え方やアプローチもお伝えしたいと思います。
「AIは人々の能力を拡張する《副操縦士》」という言葉は、アドビのCEOであるシャンタヌ・ナラヤンの言葉です。つまりクリエイターが創造性を最大限発揮できるように支援する。その役割を担うのがアドビのAIであるということを、この「Adobe Day」のセッションでも強調していました。
また、もう1つのメッセージが紹介されました。
2024年10月に行われたアドビのクリエイティブの祭典「Adobe MAX」において、デジタルメディア事業部門代表であるデイビッド・ワドワーニは「生成AIはツールであって、人の創造性を置き換えるものではない」と語っています。
そして、「アドビはクリエイティブツールと連携して使えるAIを開発している」ということを伝えるとともに、生成AIの開発の姿勢として以下の4つの点を挙げました。
・許諾のあるコンテンツのみで学習
Fireflyの学習には、高解像度・高品質が特徴であるアドビのフォトストックサービス「Adobe Stock」の画像が使われています。Adobe Stockの現在のアセット数は5億6000万点を誇ります。
そのほかオープンライセンスの画像や著作権がすでに切れているパブリックドメインのコンテンツのみで学習しているため、商用利用が可能となっています、
・ストックのクリエイターへの補償
クリエイターがストックのコントリビューターであるケースが多いので、そのクリエイターにはしっかりと報酬を支払っています。
・ユーザーのコンテンツでは学習しません
・インターネットにあるコンテンツを収集しません
以上が改めて表明されました。
製品化されてちょうど1年が経ったFireflyは、アドビのクリエイティブな生成AIという位置付けで、これまでに130億枚以上の画像を生成してきました。その使用量とスピードは、アドビにとっても前例のないものとなっています。
Fireflyはブラウザでも利用可能ですが、さまざまなツールと連携して使っていただくことができます。アドビは「プロのクリエイターにさらなる力を」という思いのもと、これまで以上にパワフルに、そして正確かつ迅速に作業を進められるように支援をしています。
②Adobe Fireflyの進化
Adobe Fireflyは当初からさまざまなモデルが発表されています。
Firefly Image Model、Firefly Vector Model、Firefly Design Model、Firefly Video Model、Firefly 3D Model、これらさまざまなモデルをリリースして、ようやく全てのモデルが揃いました。
「Adobe Day」でもメインのテーマとして扱われていた待望のモデルFirefly Video Modelは、2024年10月に正式発表となりました。これは、世界初の商用利用可能な生成AIのビデオモデルの登場でした。
<Firefly Video Model>
Firefly Video Modelについて、映像業界の常識を変えるような機能が発表されています。このセッションではFirefly Video Modelで生成された動画を上映しつつ、主な機能について解説が行われました。
まずは、上映された動画を生成した機能である「テキストから動画を生成」。これは文字通り、テキストを入力して生成AIが動画を作ってくれる機能です。
そしてもう1つが「画像から動画を生成」。これは静止画から動画を自動生成する機能です。
例えばこの猫の画像を使って、プロンプトに「猫はカメラのほうを見て、ゆっくり歩いていく」と入力すると、その入力どおりに猫が自然にカメラへ向かって歩いてくる映像が生成されました。ステージのスクリーンで再生されても違和感なく、自然な印象の猫の動画が生み出されています。
次の例では画像に対してプロンプトで「スパークリングウォーターがスローモーションでグラスに注がれる」と入力していました。自然に注がれるスパークリングウォーターが生成されましたが、注目すべきは「こうグラスのちょうどいいところでちゃんと止めてくれるんですね」とプレゼンターが語るように、ボトルから溢れないように注ぐ量や動きを調整してくれる点でした。
もう1つご紹介したのがフルーツの画像です。
プロンプトには「果実の鉢が内側から弾け、豊かなおいしさが爆発している」という、少々日本語としてはおかしい文言を入れると、なかなか通常では作れないような、まさに内側から弾けるように果実が膨れ上がっていく映像が生成されました。
このような非現実的な映像も含めて、ゼロから作るのが大変な映像を画像とプロンプトだけで生成することができます。
Firefly Video Modelは現在、商用利用に安全な設計の生成モデルとしてお届けできるように準備中です。限定的にご試用いただけるプライベートベータ版のウェイティングリストをご用意しています。ご興味のある方はこのQRコードからご登録ください。
<Adobe Premiere Pro 生成拡張>
もう1つの機能「生成拡張」は、Premiere Pro(ベータ版)に搭載されています。生成拡張については「Adobe Day」のほかのセッションで詳しい解説や事例の紹介が行われたほか、アドビがリリースしたこちらのクリップにもまとめられています。
https://www.youtube.com/watch?v=3x-QahB3PdQ
生成拡張は画は2秒、音が10秒まで拡張できる仕様です。
ぜひこちらもベータ版でお試しいただければと思います。
<自動翻訳とリップシンク>
新しくCreative Cloudのエンタープライズをお持ちのみなさまに使っていただけるベータ版の機能として「Auto Dubbing & Lip Sync」がリリースされています。
これは人が喋っている映像の言語を自動翻訳して、さらに口の動きもその言語に合わせてくれるという機能で、現在、英語とヨーロッパ圏の言語に対応しています。
こちらは事前にセッションプレゼンターがテストして、オリジナルの英語からスペイン語と韓国語に正確に翻訳される映像が上映されました。このように、Fireflyによってこれまで大変だった様々な作業が簡単に制作できるようになってきています。
③Adobe Firefly 活用事例
さまざまな業界でFireflyの事例が出てきており、企業における生成AIの活用による圧倒的な効果が報告されています。
例えば、オーストラリアのゲーム制作会社アリストクラットテクノロジーズでは、Fireflyを使うことで1つのキャラクターの開発に必要だった時間が2週間から6時間に短縮され、93%の時短につながったという事例があります。
IBMでもマーケティングのケースで使われており、特にソーシャル向けコンテンツでのエンゲージメントが26倍に増加しているということです。また、所属する1,600人のデザイナーの生産性は10倍に向上すると見込まれており、非常に大きなインパクトとなっています。
<ペプシコ社のゲーターレード>
活用事例としてペプシコ社のゲーターレードの例が挙げられました。ペプシコ社は、Fireflyによって生成されカスタマイズされたボトルを直接消費者に届けることができるようにしました。
ペプシコ社は「人々の個性ある生き方を尊重する」という点を非常に重要視しており、アスリートをはじめとするあらゆるタイプのコンシューマー向けに製品をパーソナライズすることを顧客体験の中核に置いています。Fireflyを利用したこの事例は、まさにこのビジョンを体現したプロジェクトでした。
実際にユーザーがどのようにボトルデザインをするかというと、UIは非常にシンプルで、独自のアイディアをプロンプトに入力して色調やスタイルを選ぶことができます。それによって世界に1つしかないボトルを作ることができるのです。
クリエイティブチームがこだわった点はゲーターレードブランドをしっかりと取り入れることでした。既存の色調やスタイルを、ユーザーのカスタムデザインのプリセットとして使えるようにすることで、ゲーターレードブランドを維持しながら自分らしさを表現できるボトルデザインの生成が可能になっています。
このカスタムボトルは実際にゲーターレードドットコムで作れますので、ご興味ある方はぜひチェックしてみてください。
https://www.gatorade.com/ai
<ドリトスブランドに拡大>
ドリトスでは様々なレシピの提案によるマーケティング活動を行っています。
世界各国でキャンペーンを行っているため、それぞれの国に合った異なるレシピが必要になります。例えば日本で好まれるものとインドで好まれるものは全く違うので、それらのイメージをゼロから作るのはすごく大変な作業でした。
そこで、FireflyサービスというAPIを使って自動生成しています。大量のコンテンツを一気に作ることができるこの技術は、実際にドリトスのブランドの拡大に役立っています。
ゲーターレードとドリトスの両方で採用していただいた理由は2つ。安全に商用利用できるという点、そして高品質のアセットでトレーニングされているという点でした。
<「前例のない企画」を加速させる生成AI活用術>
続いて紹介された事例は、電通のクリエーティブディレクター・CMプランナーであるクドウナオヤ様の事例です。
ミュージックビデオにおけるキラーカットがFireflyで作られました。スライドに表示されている上の画像がFireflyで生成したキラーカット。下の画像が実際に撮影されたMVのカットです。
この事例では生成AIが有効とされるポイントが5つ挙げられました。
1)前例にない企画をビジュアルで検証していくことが重要だった
2)人的、時間的、金銭的コストをすべて省き、その時間を企画に充てることができた
3)プレゼンをする時にビジュアルがあるととても有効
4)制作チームみんなで目線を合わせてプロジェクトを進めることができた
5)既視感のない印象的なビジュアルイメージを作るのにも有用だった
Fireflyは様々なクリエイティブコントロールができるようになっていますが、画像スタイルを参照できるのでトーンを統一して連続性のある画像を生成することができます。例えば動画のストーリーボードを作るときにも非常に役立ちます。
④商用利用を前提とした設計と信頼性を担保するための取り組み
信頼性を担保するための取り組みとして、CAIというイニシアチブもご紹介しました。
生成AIの技術が進歩したことで超現実的なものが登場し、現実との区別がなかなか難しくなっている現状があります。スライドの右側は主要なメディアが生成AIへの脅威に対して発信している内容です。
生成されたコンテンツがどのように生まれてきたか、その情報が欠落することに問題があるとアドビは認識しています。これに対抗する取り組みがこのCAI(コンテンツ認証イニシアチブ)です。元々アドビは、ニューヨークタイムスと旧ツイッターとともに2019年にこのCAIのコミュニティーを立ち上げ、そしていま、この活動の輪が大きく広がりを見せています。
コンテンツのトレーサビリティー、つまり作成者や生成AIが使われたかどうかの痕跡を、そのコンテンツの来歴情報として誰もが確認できる仕組みを作って、それを普及させる活動を行っているのがこのCAIです。現在、企業や個人など3,500を超えるメンバーで構成されており、最近ではOpenAIやGoogle、SNSの企業としてTikTokにも賛同表明をいただきました。そして、2024年の3月にはNHK、6月には日本経済新聞社にも参画いただきました。Inter BEE 2024のNHKのブースではCAIのデモも行われました。
CAIのコンテンツ認証のアプローチは、来歴を通して信頼性を担保するという考えのもとに作られています。この来歴というのは、デジタルコンテンツの起源そのもののことで、誰がどのような技術で作成して、そこにどんな加工が施されたか、そういった履歴の情報が改ざん不可能なメタデータとしてコンテンツに付与されます。
例えば、このFireflyで作られた画像のファイルを保存する時には、コンテンツ認証情報として「Fireflyで作られた」という情報がちゃんと埋め込まれるような仕様になっています。
CAIの活動で最近のニュースとしては、TIME誌のベストインベンション2024に選定されました。CAIの取り組みを認めていただき、最高の発明という称号でその重要性を認知していただきました。
また最近の事例として、アメリカ合衆国の国防省のサイトのフォトギャラリーには「cr」というマークが組み込まれた画像がいくつも出てきています。これらの画像は「cr=コンテンツクレディンシャル」のマークが施されたコンテンツとして、認証情報が全て確認できるようになっています。
さらにBBCニュースでは、記事内でコンテンツ認証情報が表示できるようになっており、コンテンツの信憑性をしっかりと確認できるようになっています。
このコンテンツクレデンシャルは視聴者の信頼を得るとともに、クリエイターの作品をしっかり守っていく取り組みであるということもご理解いただければと思います。
<OpenAIのDALL-E3 コンテンツ認証情報の埋め込み開始>
OpenAIは画像生成AIモデルのDALL-E3で、コンテンツ認証情報を埋め込んでいくという宣言をしています。このようにさまざまな企業がCAIに参加して、連携が加速しています。
<Adobe Contents Authenticityを発表>
アドビはクリエイターが自分の作品にコンテンツ認証情報を手軽に付与できる新しい無料のウェブアプリ「Adobe Contents Authenticity」を発表しました。これによってクリエイターは作品に著名ができ、自身の作品が生成AIモデルのトレーニングに使用されることを望まない場合にはその意思を表明できるようになります。
こちらは2025年度の第1四半期にパブリック版を提供する予定です。ぜひご期待いただければと思います。
本セッションはFireflyの最新情報をお届けするとともに、業界の発展を願って、コンテンツクレデンシャルの最新動向を共有する大事なセッションとなりました。
CAI(コンテンツ認証イニシアチブ)への参画は無料となっており、登録のステップもとてもシンプルでどなたでも気兼ねなくご参加いただけます。日本からの参加も増やしていきたいと思っていますので、ぜひ登録のご検討をいただければと思います。