動画内製化の最新事情や活用事例を紹介する「Video Offline Meeting」セミナーを開催
アドビは、企業内でビデオを社内制作、活用する方々向けのセミナー「Video Offline Meeting」を開催しました。
当日は株式会社火燵・安部貴士氏をお招きし、企業内で制作された動画の講評や、内製化における生成AIと動画編集のTIPSなど、盛りだくさんの内容をご講演いただきました。
また、内製化で成果を上げている企業事例として、株式会社ベルーナから動画チームの小川氏と森氏にご登壇いただき、「動画ワークフロー&レビューの時短術」をテーマに、具体的な取り組みをご紹介いただきました。
後半には、アドビからの最新情報としてお届けした「FireflyやFrame.ioのアップデート情報」についてもお伝えしています。
本記事では、当日の講演の模様を振り返りながら詳しくレポートします。
生成AI&動画編集のTIPS&QA
株式会社火燵の安部氏の講演からは、主に動画内製化における「生成AI&動画編集のTIPS&QA」というタイトルでお話されました。ここではいくつかのポイントをご紹介します。
画像生成のコツ
・画像生成におけるAI活用フロー
安部氏はおすすめの方法として、「まずAdobe Stockでイメージを検索しましょう。素材が見つかった時はそのまま絵コンテに使ったり作品に使っても良いですし、微調整が必要ならバリエーション生成からより理想に近いものを生成するのがポイント」と述べています。
また、素材が見つからなかった時は、Fireflyで理想のイメージを作っていく流れをおすすめしています。「基本的には画像をFireflyなどで動かして、Premiere Proで文字をのせて、アニメーションもPremiere Proで細かく制御するというのが良いんじゃないかと思っています。アプリケーションや指示を使い分けるというのが基本的な考え方になるのかなと思います」
・構成参照とスタイル参照を理解する
Fireflyの使い方としては、「構成参照」と「スタイル参照」を理解することをおすすめしており、「構成参照はレイアウトの指定、スタイル参照はデザインの指定のように捉えていただけたら」と述べています。
基本的には「ユーザーがある程度明確な方針を持っていて、強度設定によって生成結果から理想に近いものを選ぶ、という前提で使うのがおすすめです」と安部氏はかたりました。
うまく動画生成するコツ
安部氏はうまく動画生成するコツとして3つのポイントを挙げています。
①動きは「1つ」に絞る
②最初のフレーム(構図)を設定する
③活かしたい動画素材がある時は、Premiere Proで「生成延長」
ポイントとして強調されていたのは、「動きを絞り、最初の構図をしっかり設定することで、作業効率が上がる」ということでした。
講演の最後には、安部氏が香川県民であることにちなんで、「讃岐うどんの画像をSNS動画として動かしてみよう」という具体例が紹介されました。
Fireflyでは、最初と最後のフレームを指定し、カメラワークはズームアウトを設定。その途中にパーティクルも加えられました。このパーティクルのデザインについては、プロンプトを工夫することでより理想に近づけることが可能です。
元の画像は正方形に近い形でしたが、Firefly上では16:9の動画として生成されました。
企業の現場写真なども、少し動きを加えたりアレンジを施すだけで印象が大きく変わることから、こうした手法は、誰でも手軽に応用できるノウハウとして紹介されました。動画生成に対してまだハードルの高さを感じている初心者も多い中で、本セミナーでは、どなたでも気軽に始められる実践的なコツが丁寧に紹介されており、非常に有意義な内容となりました。
なお、株式会社火燵では法人向けのリスキリング講座をオンデマンドで配信しているようです。
TV会議による個別サポートとセットで動画の内製化を支援しているようですのでご興味があればご覧ください。
Frame.io導入による動画レビューの時短術
つづいて企業事例として、「Frame.io導入による動画レビューの時短術」というテーマで、株式会社ベルーナ様 のカタログ通販部門の動画チームから、小川氏と森氏にご登壇いただきました。
本講演では、同社におけるPR動画の制作依頼数の増加に伴って生じた課題と、その解決策として導入されたFrame.ioや、その他のAI機能の活用について、具体的な事例を交えてご紹介いただきました。
2022年から2023年の動画依頼の推移と発生した課題
同社では動画依頼数の推移として、2022年度は約60本だった制作本数が、翌年の2023年度には約130本と一気に倍以上に依頼数が増加しました。
依頼内容多様なジャンルに渡り、それにともなって動画の撮影依頼もかなり増えてきている状況だったということです。これにより発生した課題が2点挙げられました。
- 動画制作依頼&撮影依頼が急増し「制作時間が逼迫」
- 関連部門や人も増えたことで「レビューのチェックや修正に時間がかかる」
という課題でした。
動画の依頼数が増えても制作人数は変わらず、これ以上依頼が増えるのは厳しい状態にあったそうです。制作時間が逼迫すると動画のクオリティ低下を招いて売上にも影響が出る可能性があるため、特にレビューや修正時間の短縮は急務となっていました。
救世主となったFrame.ioの導入
従来のレビューチェックでは、編集者が動画を書き出して共有フォルダにアップロードをし動画を各担当者がチェックしテキストでコメント。そのテキスト内容をプロジェクトリーダーが取りまとめて編集者に戻すという流れでした。
「編集指示を戻す際には、テキストのみでは齟齬が発生する可能性もあるので、該当箇所のスクリーンショットを貼り付け、各タイムコードや指示内容などを入力した指示書を作成していました。動画1つあたり3回ぐらいの校正があるので、これらの作業にかかる時間は合計で約15分。2023年を例にとると、積み重なった時間は32.5時間もかかっていたことになります。(小川氏)」
そこで、同社は株式会社火燵の安部氏にこのレビューフローについて相談をします。そして、おすすめされたFrame.ioの導入を進めることとなりました。
Frame.ioにアップロードした動画はURLで簡単に共有することができて、ブラウザ上で再生が可能。Frame.io上では、好きなところにコメントを入力できる点や、ブラシのツールを使って直接書き込んだり、図形のツールを使って範囲を選択できることなどが紹介されました。
「直接書いたコメントは右側に追加されていて、クリックすると内容を確認できるようになっています。複数人で同時にコメントでき、遠く離れたところにいても同時に共有することができるので、誰がどこへ指示したのかも1目で分かるようになっています。(森氏)」
レビューフローの変化
Frame.ioを導入したことによって、レビューフローに大きな変化があったと森氏は語っています。
「従来、プロジェクトリーダーが作成していた指示書が不要になり、また動画チェック時も各担当が直接コメントを入れることで編集者がすぐに修正に取りかかれるようになりました。Farame.ioでは修正前と修正後を比較して表示することができるようになっています。バージョンを選んで並べて再生でき、コメントをタッチすると、ちゃんと修正できたかどうかが1目で分かるようになっています」
もう一つ便利な機能として、素材のアップロードを共有できる点も紹介されました。「今までは動画のアップロードをお伝えしましたが、簡単な画像やPDFなどもアップロードして共有することもできるので、レビュー以外でも効率改善ができたのではないかと思います」
これまで通常は約7日かかっていた制作が、レビューフローの改善によって4日ほどで制作できるようになりました。
Frame.ioを導入したことにより、23年度130本だった依頼本数が24年度は155本。約19%の依頼増加にも制作人数を変えることなく対応することができているそうです。また、画像やPDFなどもアップロードできるので、紙媒体のレビューでも活用して紙のコストカットや遠方とのやり取りも簡単になると見込んでいるとのことでした。
講演の締めくくりには、動画の内製化に取り組み始めてから現在に至るまでの心境の変化についてもコメントをいただきました。
「先月は新卒採用向けの動画として、いま働いているスタッフたちを撮影して編集まで行いました。そういったこともできるようになってきたので仕事の幅も広がっていて、すごく楽しく制作ができています(小川氏)」
森氏は2024年1月にチームに加わったばかりとのことでした。加入当初は動画をカットしてテキストを入れて、ほんのちょっとだけアニメーションを入れるぐらいしかできなかったのが、現在は新たな表現を模索できるようになったと語っています。
「商品に合ったより良い表現や、依頼者の抽象的な要望をうまく捉えるのは大変ですが、作ったものに対して『反応が良かったです』と言われるとすごく嬉しいですし、ああよかったな、楽しいなと思えるので、そこに目がけて色々学びながら頑張っています(森氏)」
アドビ製品最新情報 Firefly/Frame.ioアップデート情報
ミーティング後半には、アドビの最新情報としてFireflyやFrame.ioのアップデート情報などを紹介しました。
Fireflyは生成AIのエンジンとして2023年の9月にリリースしてから240億という画像生成数を達成。他にも様々なツールが登場していますが、一番大きなポイントは商用利用で使っていただいているということです。
この2年の間で、各メディアごとのモデルをリリース。これまで使っていただいているPhotoshop、Illustrator、InDesign、Lightroom、Premiere Proなど、皆さんの道具としてのAdobeツールにAI機能がどんどん導入されて、「生成塗りつぶし」「ベクター生成」「生成拡張」というような、普段使っている作業をフォローする機能として生成AIを実装しています。
Fireflyのアップデート
Fireflyの特徴的な機能を並べているポータルサイトにアップデート情報があります。
https://www.adobe.com/jp/products/Firefly.html
Image Model4 | Image Model4 Ultra
Image Model 4では、2Kネイティブ解像度での出力が可能となり、より精細なディテールの描写が実現しました。また、人間や建築物の表現も向上しており、これまで乱れがちだった窓枠やラインの描写が改善され、写真のような自然な生成が可能になっています。
さらに、英語テキストの生成精度も向上。これまでは看板内の文字が文字化けのように乱れていた部分も、英語であれば正しく読み取れる文字が生成されるようになりました。
そして知的財産への配慮や商用利用に関するコミットメントについては、Image Model 4においても従来と変わらず維持されています。
特筆すべき点として、これまで苦手だった日本人の画像生成もクオリティが向上しました。前バージョンのImage Model3では顔の部分に違和感がありましたが、Image Model4は普通の写真のようなクオリティで生成できます。さらに、Image Model4 Ultraでは奥行きのある画を生成できるようになりました。
パートナーAIモデル
アドビはクリエイティブ制作におけるプラットフォーマーという位置付けなので、他のAIも機能として実装して切り替えて使っていただけるようにパートナーAIモデルを採用しています。各アプリケーションでデフォルトのFireflyからプルダウンで切り替えて他の生成AIモデルをセレクトできるようなサービスを展開しています。こちらももちろん商用利用可能です。
Videoについて
・Firefly Generative Video Model
ビデオ生成AIは、Firefly Generative Video Modelという形でリリースさせていただいています。16:9もしくは9:16、24pの出力で、カメラコントロールの設定の中で切り替えられるのが便利なところです。スタイルを指定することもできます。
【素材生成のユースケース】
これまでCGで制作してもらっていた素材やクレジットをかけて用意していたストック素材のようなものにも生成AIを活用することができます。スポーツ中継でよく使用されるエフェクトやトランジション、背景素材など、「ワンカットまるごと作る」という発想ではなく、演出を構成する素材の一部として活用する例をご紹介しました。
例えばモニター内に合成する映像があります。広い家での撮影時にテレビ画面に映す映像や、スマートフォンの画面内でほんの少し動いているような映像など、本来であれば手間のかかる素材も生成AIを使えば比較的簡単に作成できます。
【Firefly Services】
Firefly APIは、Fireflyの機能をユーザー側で自由に設計・実装できるサービスです。
実例としてはタブレットでラフなデッサンを描き、それにプロンプトを加えることで絵コンテとして使えるようなビジュアルを出力するケースをご紹介しました。さらにその延長として、製造業において3Dデータを読み込み、それをデッサン風に出力したいというニーズに対応した実装例も取り上げました。
いずれの例も、完成イメージではなく制作工程の一部として生成AIを活用している点が特徴です。
Next GenAI Creation Apps
・Fireflyボード(ベータ版)
GUIの中央に大きなホワイトボードを配置し、その上に生成した画像や動画を共有できるという、非常に使い勝手の良いツールが登場しました。
縦型の絵コンテを添付したり、キャスト候補を並べたりすることが可能です。ロケハンの写真とあわせて、生成AIで作成した画像をボード上に並べて共有することで、チーム全体で同じビジュアルを確認しながらイメージボードとして活用することができます。iPhoneやiPadで撮影した動画も、そのままボード上で利用することが可能です。
・Mobile App
モバイルアプリもリリースしています。モバイルで生成したものをライブラリに保管して履歴として残すことができます。さらにデスクトップ上やワークステーション上など、PCで続きを追い込んで生成することも可能。ぜひインストールしてお試しいただければと思います。
動画生成はすでに多くのお客様にご利用いただいており、衛星放送局の制作部門や飲料メーカーのマーケティング部門、グローバルブランド、EC関連のイーラーニングコンテンツ制作会社、旅行代理店など幅広い業種で活用されています。皆さまの制作現場でもぜひご活用いただければと思います。
以上が多くのアップデートを紹介した講演の内容でした。
Frame.io V4
今回のミーティングの締めくくりでは、Frame.io V4(バージョン4)についてもご紹介しました。
ベルーナさまの企業事例で紹介された機能をおさらいしつつ、ポイントをピックアップしてお伝えしたいと思います。
Frame.io無料版のご紹介
コンテンツを制作する際にはさまざまなプロセスがあり、関係者やコミュニケーションツールも多岐にわたります。社内の連絡手段としてはSlackやメールなど、多様なツールやストレージが使われていることと思いますが、Frame.ioはこれらを一元化することを目的としたソリューションです。
動画はもちろん、静止画やPDFなどさまざまなアセットをアップロードでき、Webブラウザ上で閲覧やコメントの投稿、管理が可能な機能が一通り備わっており、多くの部分を無料で使用することができます。
いつでもどこからでもコラボレーション
ウェブブラウザーはもちろんモバイルのアプリから、いつでもどこでもレビューのやり取りが行えます。
ファイル形式やドキュメントもほぼすべてに対応しています。Photoshopの.psdファイルやイラストレーターの.aiファイルもそのまアップして、ビューワーで中身を見ることが可能。フィルター項目もたくさん準備しているので、映像の尺やフォーマット、フレームレートなど、いろんな項目を全てアップロード時に認識した上でフィルタリングして制御することもできます。
スマートフォルダのような「コレクション」機能で自動収集
一つひとつフォルダを作成し、その中にすべての素材をまとめておくことも可能ですが、それとは別に、あらかじめ設定した特定の条件に合致するアセットだけを自動的に表示する機能も備わっています。データを管理するうえで、特定のアセットだけを抽出し、特定のメンバーに共有したい場合には、このような「コレクション」機能を活用することで、さまざまな切り口からアセットを整理・表示することが可能になります。
Camera to Cloud
インターネット接続に対応したカメラとFrame.ioを直接つないで、撮影したデータをリアルタイムにFrame.ioのストレージにアップロードできます。SDカードなどのハードウェアに入れたものを直接渡したり、手動でアプリを経由して送る作業は手間がかかりますが、Camera to Cloudでは自動でアップロードできるのが特徴。
対応カメラはキヤノンやニコンをはじめ、さまざまなメーカーから対応機種が登場しており、撮影したデータをクラウド上で即座に共有できることで、地球の裏側にいるチームメンバーとも素材をリアルタイムにシェアできるワークフローが実現しています。
無償版について
Creative Cloudをご利用中のみなさまは、このFrame.ioの無償プランが使える権限をもっています。共同作業ができるユーザー数は限られていますが、100GBのストレージ容量を使用可能です。
Frame.ioに関するQ&A
講演の締めくくりには、Q&Aの時間が設けられ、今後のバージョンアップに関する言及もありました。
・アプリケーションをインストールしていない人でも利用できる?
Frame.ioはデスクトップアプリではなくクラウド上のサービスのため、共有を受け取る側はアカウント登録なしでも無制限に無料で利用可能です。
約2時間にわたる「Video Offline Meeting」は、生成AIやFrame.ioを活用した業務効率化に対する来場者の関心と期待の高さがうかがえる内容となりました。実際の導入を視野に入れた具体的なご質問も多く、Q&Aでは現場目線の実践的なやりとりが交わされました。オフラインならではの臨場感と熱気も相まって、情報共有の場として非常に有意義なセッションとなりました。