Adobe Illustrator の「生成拡張」でシンプルな人物イラストのバリエーションを作成しよう

デザイン資料を作成するとき、人物イラストはイメージを伝える有効な手段です。どんな状況の話なのか?何をしようとしている人についてか?どのような変化が望ましいのか?といった項目の共有に、人物イラストは力強い武器になります。

そうしたイラストを使う時には、次のことに気をつけることになります。

  1. リアル過ぎない(アイデアのスケッチであることが伝わるように)
  2. 特徴をわかりやすく(伝えたいポイントが見てすぐ伝わるように)
  3. 同じ人に見える(複数シーンの関係性が伝わるように)

特にストーリーを語りたいときには 3 番目が重要になりますが、同じ顔の人物を複数生成するのは AI 任せだと困難です。だからといって自分で描くのは手間がかかりますし、人によってはスキルの問題もあるでしょう。

これを簡単に実現できるものはないかなと探していたところ、発見したのが Adobe Illustrator の「生成拡張」です。この記事では Illustrator の「生成拡張」を使って、資料に使える人物イラストを生成する方法とその応用例を紹介します。

Illustrator の「生成拡張」機能とは

Illustrator の生成 AI 機能の一つ「生成拡張」は、ベクター形式のアートワークの存在しない部分を Adobe Firefly で補完しつつ、任意のサイズにアートワークを拡張する機能です。

アドビのヘルプ記事には、アートワークを左右上下に拡張してレイアウト変更に対応したり、立ち落とし部分を生成する使い方が紹介されています。(ベクターグラフィックを生成してアートワークを拡張

人物イラストを生成拡張で拡張する

それでは簡単な例を紹介します!女性の上半身のイラストを拡張して下半身を生成してみましょう。

まず、イラストを選択して「生成拡張」のアイコンをクリックします。ハンドル付きの枠が表示されたら、ハンドルを下方向に引っ張って使いたいサイズにします。生成ボタンを押すと、存在しなかった足が生成されます。

この例では、パンツルックの女性が生成されました。では、この人物にはスカートを履いて欲しかったという場合にはどうすればいいでしょう?

そうした指示はプロンプトを使います。先ほどは空欄のままだった入力欄に「スカート姿の女性」と入力して、もう一度生成拡張を実行してみます。

指定通りにスカートを履いていますね。

このように必要な指示を追加することにより、伝えたいイメージに必要な特徴を持った人物を生成できます。元のイラストのテイストを維持したまま拡張してくれるため、描画されていなかった部分を好きなように補完できるのです。

人物イラストのバリエーションを生成

今度は人物イラストのバリエーションを生成してみましょう。今回は次のようなプロンプトで人物イラストを生成してみました。

「斜め横から見た優しそうな女性デザイナー。日本人、黒髪、象牙色の肌、ショートヘア。シャツを着ている。手書き風カラー。」

生成されたイラストを選択して、生成拡張のアイコンをクリックします。幅と高さをだいたい 2 倍くらいに広げてから、プロンプトに次のように入力して生成してみましょう。

「この人物の 4 つのバリエーション。」

ポイントは、プロンプトにバリエーションの合計数を入れることと、バリエーションの数に合うサイズに生成拡張のための領域を広げることです。

生成拡張で人物イラストのバリエーションを作成する

すると、高確率で元のイラストのバリエーションが生成されます。上の図のように、ポーズや服はほぼ同じで、髪型や肌の色が異なるイラストが生成される傾向があります。表情のバリエーション生成はプロンプトで指定しても難しいようですので、髪型など少し雰囲気の異なるものが欲しいときにお勧めの使い方です。

同じ人物の違うアクションシーンを生成

首から上だけの人物イラストを用意すると、様々なシーンでアクションする人物を生成できます。 今回は、生成 AI で生成した女性を用意して、顔だけをクリップして使用しました。手順は次のとおりです。

  1. クリッピングマスクで首から上だけ見えるようにマスクする
  2. イラストを選択した状態で「生成拡張」アイコンをクリック
  3. 生成したいイラストの構図を意識しながらハンドルでサイズ調整
  4. アクションシーンをプロンプトに入力
  5. 生成

今回は、「スーツ姿で接客している女性」と「ランニングしている女性」を生成してみました。

顔と向きが固定されてしまいますが、同じ人物のアクションシーンをいくつも生成できます。

さらに、ほかのキャラクターを追加することもできます。結果が安定しないため生成を繰り返す必要はありますが、幅や高さを構図に合わせて設定すると、うまく生成された場合はこのような感じになります。

人物イラストを段階的に生成

上の例のように、生成拡張を使うと、顔だけのイラストから複数人物が登場するシーンも生成できます。しかし、補完する領域の割合が大きくなるほど、欲しい結果を得ることは難しくなります。何回も生成を繰り返すことはできますが、段階的に拡張すると、より確実に欲しいシーンに近づけます。

生成拡張は少しずつ広げることが可能です。顔から一人目のアクションシーンを生成し、さらに生成領域を広げて次の人物を生成という手順で複数のキャラを描けます。

今回は iPad 版 Illustrator で手書きした顔だけのイラストを使用して、二段階に分けて生成してみました。

手を繋ぐような接触している二人をこの手順で描くことはできませんが、まず一人目のシーンを確定し、次に二人目のシーンを探ってと、少しずつ確定しながらイラストを描けるのが使いやすい点です。

追加で生成されるキャラクターは、詳細を指定しないと同じ人物のバリエーションが生成されることがあります。一人目にはない特徴をプロンプトに書いて生成すると、結果を制御しやすくなります。

まとめ

自分の使用したいテイストと品質を備えたイラストを用意して生成拡張を使用すると、同じ人物に見えるキャラクターにさまざまな服を着せてポーズをとらせて、かなりイメージに近いイラストを生成できます。

デザイン資料の人物イラスト制作に時間をかけられないとき、スキル的に必要な人物イラストを描くのが難しいとき、複雑なプロンプトを書くことなくイメージに合う人物イラストを入手できる方法です。手持ちのイラストにちょい足しするくらいからぜひ試してみてください。

現在 Illustrator のパブリックベータで提供されているターンテーブルという機能を使用すると、生成したイラストを別の角度から見たように調整できるため、この機能が公開されればもっと生成拡張が使いやすくなるでしょう。

生成拡張時のトラブルシューティング

背景の塗りが勝手についてしまう

生成拡張は塗りつぶしで補完されるため、背景に何もない場合も背景の塗りつぶしが自動的に行われます。対処するには、生成後に背景のオブジェクトを削除するか、背景に単一塗りの長方形を配置してグループ化してから生成します。色のコントロールができることと、後で背景を消す際にベタ塗りの方が選択しやすいので、お勧めは後者です。

単一塗りの背景を配置してから生成すると均一な背景になる

変な隙間や線が出てしまう

生成拡張は連続性を乱さないように生成を行うため、境界に隙間があるとそれを再現してしようとします。クリッピングマスクなどで背景ごと綺麗に抜いておきましょう。

左は元絵の首元の隙間が残っている。右はクリッピングマスクで隙間を切り抜いたため生成後も隙間がない。

Firefly を利用するには生成クレジットが必要です。現在お持ちの生成クレジットを確認する方法は、こちらをご覧ください。

その他の生成クレジットに関するよくある質問は、こちらのページをご覧ください。