カンプ制作から動画生成、加工再現まで。SHA 竹林一茂さんの生成AI活用法|AI×CREATIVE 02

記事タイトル画像|竹林さん

Adobe Creative Cloudで提供されるアプリケーションはいま、数多くの生成AI技術を使った機能を搭載しています。
クリエイターたちがツールのなかでどのようにAIを使い、どのようなクリエイティブを作りあげているのか、その実践活用法を紹介する企画「AI×CREATIVE」。第2回目は、SHA inc.(シア)で代表を務めるアートディレクター・竹林一茂さんに登場いただきました。

竹林さん|ポートレート

SHA inc. 竹林一茂さん

関係ないと思っていた生成AIは、仕事に活かせる道具だった

芯のある、力強いグラフィックで広告、ブランディング、パッケージ等、幅広い分野でデザインを展開するSHA inc.。アートディレクターの竹林さんを軸に繰り広げられる多彩な表現は、目まぐるしく移り変わるビジュアルコミュニケーションの世界でもひときわ輝きを放っています。
精緻に作りこまれたグラフィックを支えるのは、圧倒的な量の思考、計算、シミュレーション。その中でAI/生成AIはどのように活用されているのでしょうか。出会いときっかけから聞きました。

「生成AIを本格的に活用するようになったのは、ほんの数ヶ月前からです。それまでもAdobe Photoshopで『被写体を選択』やオブジェクト選択ツールを使って切り抜きをする/『生成拡張』で背景を伸ばすというような作業のなかでAI系の機能は使っていましたが、プロンプトを使ってビジュアルを作り出すような機能は、僕たちデザイナーには関係のないものだと思っていました。
クリエイティブそのものをAIに頼っていたら、本質を見失ってしまうのではないか。そんな漠然とした不安もあったのだと思います。

ただ、ここ数年、カンプ出しのタイミングでスピーディーに精度の高いグラフィックを求められることが多くなり、現実的に手が足りない、時間が足りないということが増えてきたんです。10日は欲しい修正を3日で依頼されることもあり、これまでのようにすべてを手作業で処理していくことに限界を感じていました。

生成AIをカンプ制作に使うきっかけになったのは、ブランドのグラフィックのカンプを作っていたときです。水滴や氷を組み合わせたビジュアルを作るために、素材をひとつひとつ、乗算/スクリーン/オーバーレイなどの描画モードを使って合成をしていたのですが、この方法でいくつものパターンを作るだけの時間はありませんでした。
そのときにふと、フォトレタッチャーや映像系の知人から幾度となく聞いていた『PhotoshopやAdobe Fireflyの生成AIがすごい』という話を思い出して、Photoshopの『生成塗りつぶし』を試してみたら、精度の高いグラフィックが一発であがってきた。本当にびっくりしましたね」

生成塗りつぶし使用例

Photoshopの「生成塗りつぶし」で生成例①

生成塗りつぶし使用例

Photoshopの「生成塗りつぶし」で生成例②

生成塗りつぶし使用例

Photoshopの「生成塗りつぶし」で生成例③

「商品のアングルを変える/ポーズを変える/服を変える/服の色を変えるといった、これまでだったら非常に時間がかかるカンプ修正もPhotoshopの『生成塗りつぶし』でGemini(NanoBanana)を選べば、一瞬で終わります。
それからは、いまの仕事に対して『生成は何ができるのか』「どこまでできるのか』を本格的に調べるようになりました。触り始めてまだ数ヶ月なので、初心者レベルの使いかたではありますが、それでも『自分の仕事にも活かせる』と実感しています」

Photoshopの生成AIツール…削除ツール/生成拡張/調和

竹林さんは生成AIを使う前から、Photoshopに搭載された生成AIツールを活用していたと話します。どのような機能を、どのようなときに使っていたのでしょうか。

「定番ですが『削除ツール』はめちゃくちゃよく使いますね。これまでは地道にスタンプツールでどうにかしていた不要物の削除がいまは一瞬です。
広告の仕事でよく使うのは背景を自然に広げられる『生成拡張』です。広告ではキービジュアルをどのように切り出しても使えるように、大きな一枚絵として作ることが多く、縦長、横長、正方形……あらゆるメディアサイズを網羅できるようにする必要があります。極端に長いメディアではどうしても背景が足りなくなるので、『生成拡張』を使って背景を広げるという使いかたをしています。
最近の機能で便利だと思ったのが『調和』です。カンプ制作では撮影環境の異なる複数の写真を組み合わせることがよくあるのですが、背景と人物の光が合っていないときは、Photoshopで地道に補正するしかありませんでした。『調和』を使えば、こうした合成を自然に行なうことができます。リファレンス(参考画像)をつける必要もなくなり、本当にラクになりましたね」

調和使用例

Photoshopの「調和」を使うと、合成した被写体を背景に合わせることができる

平面から動画を作る「Fireflyで動画を生成」

もうひとつ、竹林さんが注目しているのが、PhotoshopとFireflyの組み合わせで実現する動画生成機能です。

「クライアントから『ちょっと動かしてほしい』『動かすとどうなるのか』というような相談を受けるケースや、動画のディレクションも含めて依頼されることがあるのですが、これまでは手書きとリファレンス動画を集めて、“こうしたい”というイメージを伝えるしかありませんでした。
いまは、Photoshopから『Fireflyで動画を生成』を選んで、Fireflyに渡すだけで簡単な動きのイメージを作ることができる。これは革新的ですよね。平面のグラフィックから、いろいろな動画の可能性を見せることができたら、提案の可能性も広がってくるんじゃないかと考えています」

動画生成例

Photoshopのオプションパネルから「Fireflyで動画を生成」を選ぶ

動画生成例

ブラウザでFireflyが開き、入力したプロンプトに従い動画が生成される(ここではボトルが激しいブリザードにさらされている動画を生成)

加工、仕上がりのシミュレーションにも使える生成AI

「いろいろと活用法を探るなかで気づいたのが、Photoshopの生成AIは箔押しや刺繍のような加工のシミュレーションにも使えるということです。
これまで、こうした提案をするときは同じ加工のサンプルをお見せするしかありませんでしたが、実際のデザインデータをもとに加工イメージを生成することで、仕上がりに近いイメージを伝えられるんじゃないかと考えています」

生成塗りつぶしで加工シミュレーション

ベースとなる素材から不要な部分を削除

生成塗りつぶしで加工シミュレーション

文字を合成し、「生成塗りつぶし」で箔押しをシミュレーション

生成塗りつぶしで加工シミュレーション

プロンプト次第で圧の強さや箔の色の変更も可能

「商品や成果物を伝える写真を作りたいときも、自分で撮った写真をベースに雰囲気のある写真を簡単に作り出せます。つい後回しにしがちだったInstagram用の写真も、これでスピード感を上げられそうです」

これまで「やってみるまでわからない」が当たり前だったさまざまな加工は、パートナーモデルのGemini(Nano Banana)を使うことで、より具体的なイメージを伝えられるようになります。日々直面する課題、悩みを解決する、デザイナーならではの生成AI活用法と言えるでしょう。

生成AI活用例

キャップにロゴを合成し、「生成塗りつぶし」で刺繍風に

生成AI活用例

商品画像も背景だけでなく、全体のムードごと生成可能

Photoshopという自分の動線上にあるからこそ使いやすい

生成AIには距離を感じていたという竹林さんが、これほどまでにスムーズにカンプ制作等に生成AIを活用できるまでになった理由はどこにあるのでしょうか。

「これまで生成AIを使わなかったのは、FireflyもGeminiもブラウザで生成してダウンロードして使うというプロセスを手間に感じていたことも要因のひとつだと思います
PhotoshopやAdobe IllustratorのようなクリエイティブツールにAI系の機能が搭載されたことで、びっくりするほど使いやすくなりました。

僕自身もそうだったのですが、PhotoshopもIllustratorも長く使っている人ほど、使い慣れたツールに頼りきり、新機能を追わなくなってしまいますよね。いままでの知識でできると思い込んでしまうんです。
ただ、その一方で新しい便利な機能を若いスタッフから教えてもらうたびに『このままでは時代に取り残されてしまう』という危機感も覚えていました。
その意味でも、いま、このタイミングで生成AIを学び、Photoshopの機能を見直すことができて本当によかったと感じています。この時代に、このツールを知っているからこそできる表現が、必ずあるはずですから」

竹林さん|ポートレート

生成AIは、ライバルではなくサポーター

カンプ制作での活用に留まらず、生成AIのさまざまな可能性を模索する竹林さんにとって、生成AIはどのように向き合うべき存在なのか。最後にAIとの付き合いかたについて伺いました。

「生成AIが出てきたとき、正直に言えば『自分の仕事が奪われるんじゃないか』と不安に感じていたこともありました。しかし、どういうことができるのかをしっかりと理解していくことで、『生成AIは自分が表現したいことをサポートしてくれるものであり、時間短縮のために使うもの』と、落ち着いた視点で受け止められるようになりました。
それに気づいてからは、不安感よりは“うまく使っていこう”という方向に意識がシフトしたと感じています。

ただ、AIは使っている人自身、目利きができないと使いこなせないとも考えています。まだ自然に合成ができない若いスタッフはついAI系の機能に頼りがちなのですが、経験がないときほど、生成AIを使う割合を減らし、自分が何を、どのように作りたいのか、そのイメージを明確にしてから触ったほうがいい。何をどのように表現したいかを的確に言語化できるかどうかで、生成AIの精度は大きく変わるからです。

クリエイティブの出発点とも言える“アイデアのコア(核)”を考えるときも、自分の頭で考えるより先にAIを使ってしまうと、PhotoshopやChatGPTが出した精度の高いアウトプットに支配され、『これでいいんじゃないか』と思考停止してしまう。そうして作られたグラフィックは芯のない、弱いものになります。
クリエイティブでもっとも大切なアイデアのコアだけは、自分自身でいろいろなものを見聞きし、資料を調べながら、かたちにしていく。そうすることで、芯のある、強いビジュアルが作られていくはずです。
たとえ荒削りでも、自分なりに考え抜いてたどり着いたアイデアのコアがあれば、生成AIと組み合わせたときにもクリエイティブの品質がブレることはない。そう考えています」

竹林さん|ポートレート

竹林一茂
アートディレクター・デザイナー
1978年 愛媛県生まれ。2004年に武蔵野美術大学を卒業。同年、株式会社グリッツデザインに入社。2011年5月、株式会社THINKA設立。2017年4月に株式会社SHA設立。広告のみならず、ブランディング、TV番組の総合ディレクション及びアートワーク、CDジャケット、パッケージデザイン、ブックデザイン等、グラフィックを軸とした、幅広いコミュニケーションクリエイティブで活動。CANNES LIONS/NY TDC/NY ADC/D&AD/ONE SHOW等、世界のデザイン賞を多数受賞。
web|https://shainc.co.jp/
Instagram|https://www.instagram.com/shainc_tokyo/