すべてはクリエイティブのクオリティを上げるため。アイディのAI・生成AI活用ポリシー|AI×CREATIVE 04
Adobe Creative Cloudで提供されるアプリケーションはいま、数多くの生成AI技術を使った機能を搭載しています。
AIによってクリエイティブが加速する現在、クリエイターはどのようにAIを使い、どのようなクリエイティブを作りあげているのか、その実践活用法を紹介する企画「AI×CREATIVE」。第4回目は、株式会社アイディで代表を務めるクリエイティブディレクターの別所誠士さん、デザインストラテジストの横平明日香さんに登場いただきました。
株式会社アイディ 別所誠士さん(左)横平明日香さん(右)
Adobe Creative Cloud+AIで加速するクリエイティブ
株式会社アイディは、“DESIGN > DELIGHT” -「デザインで未来を明るく」をコンセプトに掲げ、Webサイト制作を中心としたブランディング、デジタルマーケティング支援を行なう会社です。
別所さんが株式会社アイディを立ち上げたのは2002年。コミュニケーションの中心が紙からデジタルメディアへ、さらにSNSへと変化する激動の時代のなかで、多岐にわたるプロジェクトを担当し、現在はその経験と知見を武器に、少数精鋭の制作チームを率いています。
別所「アイディは6名の小さなチームです。それぞれがデザイン、HTMLコーディング等の専門領域をもっていますが、コーディング担当がリサーチを手伝うこともあれば、デザイナーが分析をやることもあります。
私自身、経営業務に加えて、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行なっており、案件によってはデザイン、コピーライティングも担当しています。
少人数だからこそ、各自がメイン業務以外にも守備範囲を広げながら、柔軟に活動をしている状態ですが、現在はそこにAIが加わり、業務全般の効率化を進めているところです」
株式会社アイディ https://idds.jp/
別所「制作ツールは、Adobe Photoshop、Adobe Illustratorを中心に、プロジェクトによってAdobe XD、Figma、Miroを使い分けています。
Photoshop、Illustratorに関しては約30年使っていて、いまでもアップデートに対応しながら新機能を活用していくことで、日々、知見を深めるようにしています」
Adobe Creative Cloudをメインツールに据えるアイディの制作スタイルのなかで、近年、存在感を増しているのがAIです。
現在、アイディではどのようなAIを、どのように活用しているのでしょうか。LLMの活用状況から聞きました。
別所「会社としては全員がChatGPTを使っていて、Claudeも試しはじめているという状態です。
私はClaudeをメインで使っていて、提案の前段階で、コンテクストを探し出す/コンセプトを作る/提案に厚みを加えるためのテキストを検討する、といった作業に活用しています」
横平「叩き台としての提案書をPowerPoint形式で作ってもらう/Claundeとweb系のツールを連携させて提案用のページをつくる、ということも試しはじめています」
こうしたAI活用の背景には、提案段階でより精度の高いもの、相手が仕上がりをイメージできるものを求められているという状況があります。
横平「最近は、提案の段階でワイヤーフレームに加えて、絵まで作り込む必要がある案件が増えています。これまではかなりの労力をかけてゼロイチで作る必要がありましたが、いまはプレーンなコーポレートサイトのようなものなら、Claudeに指示すれば作成できるようになりました」
別所「UIの設計でも、ボタンの位置や優先順位をClaudeに伝えて設計をしてもらうと、叩き台としてはいいレベルのものが仕上がります。
それをベースに壁打ちしながら、デザインの精度を上げていくという使いかたもできるんじゃないかと考えています」
画像修正からサイトビジュアル制作まで。幅広く生成AIを活用
アイディでのAI活用は検討、提案、検証フェーズだけにとどまりません。Photoshop、Illustratorと生成AIを組み合わせ、クリエイティブを大幅に効率化しています。
別所「Photoshopの生成AI系機能のなかで、一番よく使うのは『生成拡張』です。素材としていただいた写真のアスペクト比が違うとき、これまでは手作業で切り貼り、合成をしていたのですが、工数がほぼゼロになりました」
Photoshopの「生成拡張」を使うと、生成AIによって画像を自然に広げることができる
横平「『削除ツール』や『生成塗りつぶし』もレタッチではよく使う機能です。人物写真の髪の色を変えてほしい、顎にかけているマスクをとってほしい、写真のなかの余計な写り込みを消してほしい……そうした修正指示にも、一瞬で対応できるようになりました。
削除するにしても、拡張するにしても、色をなじませながら自然に修正してくれるのは本当に便利ですね」
Photoshopの「生成塗りつぶし」でメガネを削除したもの
別所「最近の新機能で便利だと感じたのが『オブジェクトを回転』です。ニュージーランド大使館との仕事で、ディスクポアラーの使いかたがわかる画像を作る必要があったのですが、便利さが伝わるちょうどいい角度の写真がありませんでした。そこでストック素材をもとに、『オブジェクトを回転』でパースを合わせて合成をすることで、ワインの注ぎ口にディスクポアラーをつけた画像を作成しました」
元画像(左下)に「オブジェクトを回転」を適用し、パースを調整して合成
別所「このキャンペーン用ビジュアルは、大使館の方とチームを組んでキャンペーンを進めるなかで、自主的に制作したものです。思いついたアイデアをかたちにして提案できるのは、生成AIや『オブジェクトを回転』のような機能があってこそ。撮影、合成する手間を考えると、以前なら提案ができなかったことが実現できるようになりました」
ニュージーランドワインプロモーションキャンペーン/CL:ニュージーランド大使館
別所「生成AIを使うときは基本的にAdobe Fireflyを使っていて、案件によってはFireflyボード上で共有しながら作業することもあります。
ニュージーランド大使館からご依頼いただいたニュージーランドワインのキャンペーンサイトでは、生成した画像がそのまま使われています。もともとはコーディングを担当しているメンバーがレイアウト用の仮画像として生成したものでしたが、キャンペーンのブランドイメージにも合うということで採用いただいたようです」
横平「この案件に関しては、生成AIを使っていることはお客さまにも説明をしており、Adobe Fireflyが商用利用できるAIモデルであること、権利がクリアになっている学習データをもとに生成されていることをお伝えしたことも、採用の判断につながったと思います」
Fireflyボードで生成画像をもとにビジュアルを共有、検討
Instagram投稿ガイドの画像3点はFireflyで生成されたもの https://discovernzwine.com/storyteller/
横平「株式会社丸運の採用サイトは、Illustratorの『ベクターを生成』で作ったイラストを全面的に使用しています。
もともと会社全体のサイトリニューアルをご依頼いただいたのですが、進めるなかでコーポレートサイトと採用サイトを別サイトとして切り分けることになりました。ただ、採用サイトはもともと予定になかったものなので、将来的にリニューアルすることを前提に、できるだけコストをかけず、スピーディーに、見た目も異なるサイトを作る必要がありました。
そこで活用したのが、Illustratorの『ベクターを生成』です。基準となるローポリゴン風イラストをもとに、生成ダイアログの『スタイル参照』でその画像を指定することで、バリエーションを展開していきました」
株式会社丸運 採用サイト https://www.maruwn.co.jp/recruit/
Illustratorの「ベクターを生成」を使ってサイトビジュアルを制作
AIの加入でクリエイティブの現場はどう変わるのか
Photoshop、IllustratorのAI、生成AI機能に加え、複数のLLMを駆使してクリエイティブに取り組むアイディでは、いま、AIをどう捉えているのでしょうか。導入のメリットについて聞きました。
別所「作業スピードが上がることで、クリエイティブにかけられる時間が増え、クオリティも上げられるようになったことが一番大きな変化ですね。
提案の方向性を考えるときも、AIに数パターン出してもらうだけでも、脳のリソースを節約できますし、より上位の内容に注力できることで、数年前に比べてより伝わる提案ができるようになったと感じています。
コンペの場合、大手が競合になることもたくさんあります。これまでは大手ならではの集合知、膨大なノウハウに負けてしまうこともありましたが、AIを活用することで大手にも負けないクリエイティブや提案のクオリティが出せる。いまは私たちのような6人だけの小規模デザイン会社でも、100人規模の会社に勝てるという実感があります」
横平「時間の使いかたが大きく変わりましたね。
コンサルタント会社の資料のようなプレゼンテーションすら、AIを使えば誰でも作ることができるいま、ただ生成しただけのものでは差をつけることはできません。アイディならではの提案をどう盛り込むか、差別化がこれまで以上に重要になると考えています。
そのとき、PhotoshopやIllustrator、Fireflyを活用して作業時間を節約できれば、お客さまの要望に適うストーリーをより魅力的なかたちで見せ、さらにその先のビジョンを提示することに、より多くのリソースを割くことができます」
アイディは今後、ますます進化するAI、生成AIとどのように向き合っていくのか。そしてクリエイティブのなかでどのように活用していくのでしょうか。
別所「アイディの強みは、会社を設立して以来、約25年の間に蓄えた経験値と知見、そこから生まれるオリジナリティのある提案とアウトプットにあります。AIを使うにあたっても、その経験をもとにデザインを正確に言語化できるからこそ、より自分が望むかたちでスムーズにアウトプットすることができる。そうした効果的なAIの活用法もまた、アイディの強みになっていくはずです。
この先、AIや生成AIがどれだけ進化しても、アイディのポリシーは変わることなく『クリエイティブファースト』です。楽をするため、数をこなすためにAIを使うのではなく、クオリティを上げるためにAIを使う。その意識を常にもつことが大切だと考えています」
株式会社アイディ
2002年設立のクリエイティブファーム。Webサイト制作を中心に、デジタル領域におけるブランドコミュニケーションの企画・設計から制作まで一貫して対応。時代の変化とともにニーズが変わる中で、多様な文化や価値観を受け入れる思想を根底に、異なる視点を掛け合わせることでアウトプットの可能性を広げてきた。企業から官公庁、市町村まで幅広い実績を持つ。近年はAIも積極的に活用しながら、効率化だけではないクオリティの底上げを目的に据え、「クリエイティブ・ファースト」を掲げている。デザインを通じて、クライアントのビジネスと社会に良い循環を紡いでいく、永続的な取り組みを大切にしている。
web|https://idds.jp/
別所誠士
クリエイティブディレクター
株式会社アイディ代表。サンフランシスコ州立大学デザイン&インダストリー専攻卒。帰国後、制作会社勤務を経て2002年にアイディ設立。アディダスジャパンやタイ航空をはじめ、大手テーマパークや化粧品ブランドなど、国内外の多様なWebサイトのアートディレクションを担当。DTPWORLDにて定期執筆、WAOクリエイティブカレッジにてWeb専門講師を務めるなど、デザイン教育・啓発にも携わる。ビジネスの論理とビジュアル表現の直感をつなぐ「言語化」を強みとし、感覚知をビジネス言語へと翻訳する。AI時代だからこそクリエイティブ・ファーストに立ち返り、企業ブランディングをはじめ多様な領域でクライアントに伴走している。
横平明日香
デザインストラテジスト/マネージャー
東京デザイン専門学校卒。3年制学科にてビジュアルデザイン全般を学んだのちWeb制作会社に就職。その後ファッション業界や旅行業界を経て2016年よりアイディ入社。デザインの眼差しを通して多様な業界でカスタマージャーニーをリアルに体験してきたことが強み。その知見を活かし、企画立案から戦略設計、ライティング、ディレクションまで担う。AIには代替しにくい人間的な経験と美意識を起点に、クライアントの事業課題に真摯に向き合う。