AI、モバイル&クラウドが実解する建築設計デザイン業務と表現のイノベーション

この記事は、2021年2月26日に開催したオンラインセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 建設業 建設設計デザイン業務の変革」のイベントレポートです。建築設計デザインの現場において、ITやテレワークを駆使した新たなニューノーマルにどう取り組んでいるのか、竹中工務店や隈研吾都市建築設計事務所のキーマンを招き、ディスカッションや事例発表を行いました。

コロナ禍においてあらゆる業種・業界に求められているのが、対面せずに業務を進めるためのコラボレーション環境です。しかし建築・建設業界においては、施工現場だけでなく、設計デザイン工程でも、クライアントとの綿密な打ち合わせや、意匠デザイン・構造設計など複数の担当者によるチェック、要望に合う建材・素材のテクスチャー確認など、対面でのやり取りが求められるシーンが少なくありません。

2021年2月16日にオンライン開催された「建設設計デザイン業務の変革」では、特に建築設計デザインの現場において、ITやテレワークを駆使した新たなニューノーマルにどう取り組んでいるのか、竹中工務店や隈研吾都市建築設計事務所のキーマンを招き、ディスカッションや事例発表を行いました。

建築設計で注目は「リモートワークの効率化」と「3Dビジュアライズ/動画活用」

PhotoshopやIllustratorといったアプリケーションの開発を行うことで、世界中のクリエイターの制作業務を30年以上支援し続けているアドビ。これらを用いた制作プロセスの多くは、チームの力で進められますが、建築設計デザインにおいてはその傾向が強いと言えるかもしれません。

建築設計デザインでは、建築物に求められる要件やスペックの確認から、建材・素材のチェック、意匠や構造の設計とレビューというように、直接会って打ち合わせを行ったり、素材にリアルに触れたり、目や触感でテクスチャーを確認したりなど、対面でのやり取りが必要になります。しかしこうしたやり方も、新型コロナウイルスの脅威で一変しました。

こうした状況下において建築設計デザイン領域で活用が進められている手法が2つあります。1つは人工知能を用いた最新のアプリケーションとタブレット、それをつなぐクラウドを有効活用して、効率的かつ高品質な設計業務を進める新しい様式への対応です。もう1つは、フォトリアルな3Dビジュアライズや動画の活用。いずれもリモート環境において、同僚とのコラボレーションやクライアントとのコミュニケーションを密に行い、円滑にプロジェクトを進めるために重要な要素となります。

アドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部 部長の宮下猛がホストを務めるパネルディスカッションに参加した竹中工務店 設計本部 設計企画部 専門役の鹿島孝氏は、社内でも在宅勤務が進んでいることを挙げ、「最初はコミュニケーションなど不自由なこともありましたが、現在は徐々にそうした状態に慣れて、自宅から設計業務を行うようになっています」と説明します。

図 1 パネルディスカッション(左がアドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部 部長の宮下猛)

そんな設計者の課題は、日々の業務に追われ、最新ツールやソリューションのノウハウをなかなか習得できないこと。そこで竹中工務店では、アドビの協力の下、「設計デザイナー向けの建築ビジュアライズ勉強会」を開催し、ナレッジの習得・共有に務めると共に、課題感や注目技術についてアンケートを行いました。参加した約60名の設計者は、「業務効率につながるナレッジの習得」や「タブレットやクラウドを活用して業務を行いたい」というほか、「動画制作」や「3Dビジュアライズ」に注目していることがわかったそうです。

鹿島氏によると、「動画を使ったプレゼンの機会は増えています」とのこと。加えて、設計時では、建物の外装や内装、造作の質感といったマテリアルを施工主に確認し、互いにイメージを固めていくため、リアルな質感を感じられる3次元のビジュアライゼーションは必須です。コロナ禍で、リアルな素材確認ができない状況下では、いかに本物の質感に近いビジュアライゼーションを実現できるかが重要になります。

「リアルな質感を3Dで表現し、かつ動きをつけることで、リモート環境にいても、現実に近い提案ができます。将来的には、テレイグジスタンス(遠隔存在)というコミュニケーション空間で、クライアントと設計者が直接やり取りする世界もあり得るでしょう」(鹿島氏)。

こうした声に、アドビソリューションは建築設計の現場をどう変えるのでしょうか。この問いに、続いて登場したアドビ シニアプロダクトスペシャリストの吉崎誠多が答えました。

モバイル、クラウド、AIを活用、効率的に表現力を強化する

吉崎は、建築設計デザイン現場にアドビ製品がもたらすバリューについて、「モバイル、クラウド、人工知能という3つの分野の進化により、デザイナーの業務改善に大きく貢献できます」と説明します。

アドビは近年、場所・時間を問わないクリエイティブワークをテーマに、モバイルアプリケーションの開発に取り組んできました。そうしたなか、2020年に登場したのが、Adobe Fresco、Adobe Photoshop iPad版、Adobe Illustrator iPad版の3つのアプリです。そして、これらモバイルアプリケーションのアプリの有用性を最大化し、スムーズなコラボレーションを進めるためのプラットフォームとしてCreative Cloudの様々な機能、効率よく高品質なビジュアライゼーションを実現するサービスとしてAdobe Stockを提供しています。

Adobe Fresco(以下Fresco)は、ペン入力デバイスでドローイングできるアプリケーションで、Illustratorのようなベクターブラシ、Photoshopでおなじみの質感表現を得意とするラスターブラシ、そして人工知能によって水彩・油彩をシミュレートしたライブブラシを用いた幅広い表現を可能にしました。建築・建設業においては、イメージングのドローイングに活用できます。

Photoshop iPad版は、デスクトップ版との互換性を守りながらモバイルのメリットを最大限に生かしあらゆる時間、場所でのクリエイティブワークを実現します。Illustrator iPad版も、タブレットならではの操作性を活かし、ベジェ曲線やベクターブラシを直感的に扱うことができるため、グラフィックパーツを容易に作成できます。

これら新しいモバイル環境とこれまでのデスクトップ環境を繋ぐのがクラウドです。吉崎はアドビのCreative Cloudを「ネット越しのストレージではなく、人や組織、場所やデバイスやアプリの垣根を超えたコラボレーション機能だと考えています」と言います。

Creative Cloudでは、制作過程で生まれた色や形、フォントといった要素を保存・共有し、チームで活用することができる「Creative Cloud ライブラリ」と、「クラウドドキュメント」の2つの機能でコラボレーションを促進。クラウドドキュメントは、制作中のファイルの自動保存機能や、60日間のバージョン履歴保持機能があるので、「ファイルを紛失した」「前のバージョンに戻りたい」といったリスクも削減。モバイルアプリやWebからも簡単にアクセス可能で、パンフレットや書籍編集ツールのInDesignを使えばセキュリティの高い共有レビューも可能なので、より安心・安全にコラボレーションを進められます。

また制作業務を飛躍的に効率化するサービスとして、高品質なストック素材やテンプレートを利用できるAdobe Stockの紹介も行われました。Adobe Stockは、制作物に使えるロイヤリティーフリーの写真やイラスト、動画、3Dモデル、オーディオなどを2億点以上利用できるため、効率的に高品質な提案書の作成やビジュアライゼーションが可能になります。検索時には、参考画像を元にAdobe Senseiが適切な素材を検索してくれるため、イメージ通りの素材をすぐにみつけることができます。Adobe Stockは、Creative Cloudとシームレスに連携しているためPhotoshopやIllustratorといったアプリケーションのCreative Cloudライブラリウィンドウから直接呼び出すことができます。

アドビの人工知能・機械学習フレームワークであるAdobe Senseiは、動画制作ソリューションでも広く利用されています。ここではPremiere Proに実装された数々の新機能が紹介され、作業の効率化のみならず操作に慣れていないユーザーをアシストしてくれることが語られました。

業界では3Dでの設計デザインが必須となり、高品位なビジュアライゼーションの需要がますます高まってきています。そうした需要に応えるかたちで近年アドビファミリーに加わったのが、3Dマテリアル作成ソフトウェアである「Substance」です。高度なテクスチャによるフォトリアリスティックな表現は、プレゼンテーションの説得力を増すだけではなく、モデルのポリゴン数を抑えながらバリエーションを展開できるなど、多くのメリットがあります。すでに業界で多く使われている3Dモデリングやレンダラーとの連携も万全で、既存のパイプラインへの組み込みも容易です。

図 2 Adobe Substanceについて説明するアドビ シニアプロダクトスペシャリスト 吉崎誠多

実際、アドビの動画ツールや3Dビジュアライズを設計現場に生かしている事務所も登場するようになりました。その1つが、日本を代表する建築家・隈研吾氏の「隈研吾都市建築設計事務所」です。

アドビの活用で3Dモデリングや動画制作を進める隈研吾都市建築設計事務所

隈研吾都市設計事務所は、東京・上海・パリに拠点を持ち、海外含めて300名ほどのスタッフが勤務しています。半数以上が外国籍のスタッフで、普段は事務所でコミュニケーション取りながら業務を進めているそうです。

隈氏の建築コンセプトといえば、「自然との調和」と言われるように、木や竹といった自然素材を組み合わせ、構造的にもデザイン的にも優れた建造物を生み出していることで知られています。

調和のために重視しているのが素材、つまりマテリアルです。隈研吾都市建築設計事務所CGチーム 設計室長松長知宏氏「規格がないバラバラの自然の素材をどう扱うかが課題です」と松長氏は説明します。そして、そうした素材をどう組み上げ、構造性とデザイン性を両立させるのか、コンピュータを使って解析しています」と説明します。

2020年以前は、そうした作業をオフィスのデスクトップで行なっていましたが、コロナの蔓延を機に、仕事のやり方が変わりました。自国に帰国したスタッフもいるため、半ば強制的にリモートワークとなり、「それまで社員に配布していなかったノートパソコンを全員に配布するようになりました」と松長氏はいいます。

図 3 隈研吾建築都市設計事務所CGチーム 設計室長松長知宏氏(左)、土江俊太郎氏 (右)

松長氏のCGチームに所属する土江俊太郎氏は、そんなリモートワーク環境下、「新たな街の見え方を提案する」というアニメーション制作に携わりました。内容は、「隈研吾展」で上映中のアニメーションで、猫の視点で神楽坂の路地裏を再現するというもの。実際の路地裏の写真を撮影し、Creative Cloudにアップすることからプロジェクトはスタートしました。

図 4 クラウドに保存された路地裏の写真

3次元CGの制作やアニメーションのレンダリングには専用ソフトを使い、そのなかでPhotoshopで取り込んだ写真データのエレメンツを配置することで、アニメながらリアルな路地裏を再現したそうです。コミュニケーションにはチャットツールを使い、クラウド上で成果物を共有して作業を進めることで、「3〜4カ月の制作期間中、協力会社のスタッフとリアルに会わなくとも、効率的に作業が進められました」(土江氏)と振り返ります。

図 5 Photoshopで用意したエレメンツで路地裏の質感を再現

また、松長氏も、新しい家具を作るプロジェクトにおいて、Substanceを使ってリアルな質感を再現しながら、家具のイメージを伝える動画を制作したそうです。「iPadを使い、Adobe Stockでサウンドを選んでAfter EffectsやPremiere Proで編集し、制作を進めることができました。2020年はいろいろなことがあったなかで、問題なく業務が進められるという点で、アドビのソリューションには大変助けられました」(松長氏)と締めくくり、アドビソリューションで業務をデジタル化したことを実感しているようです。

アドビは、建築設計に関わるデザイナーの皆様からの声を拝聴し、業務改善・課題解決につながるご提案を継続していきますので、今後もご期待ください。

※オンデマンド動画のご案内

こちらのブログでご紹介したオンラインセミナーを、オンデマンド動画でご視聴できます。下記URLから視聴をお申し込みいただき、皆様の業務にぜひご活用ください。

建設設計デザイン業務の変革

〜New Normalに対応し世界のライバルに勝つ〜

(本セミナーは2021年2月16日にライブ配信したセミナーのオンデマンド版です。2022年2月16日までご視聴いただけます)

https://event.on24.com/wcc/r/2955495/755A45C45082CFC30156988B7627C4B1