建設業界におけるDX コロナで加速する文書業務のデジタルシフトを建設業界で実現するには?

この記事は、2021年1月19日に開催したオンラインセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 建設業 建設業界における紙業務のDX~今こそ解決できるデジタル化の課題TOP5~」のイベントレポートです。建設業界におけるDX化の最新事例、テレワーク・ペーパーワークへの取り組み、電子サイン導入などのポイントをご紹介します。

アドビは近年、労働人口減少による人手不足の解消や、生産性向上に取り組む建設業界を対象に、柔軟なコミュニケーションやコラボレーション、環境に依存しない生産的な働き方の実現を強く訴求してきました。現在世界では、新型コロナウイルスの感染拡大により、業種・業界や規模に関係なく、三密の回避やテレワークへの取り組み、業務のデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」とも表記)が急務となっています。2021年1月19日にオンライン開催された「建設業界における紙業務のデジタルトランスフォーメーション」では、建設業界からヒアリングしたDXに関する現場の課題を元に、建設現場におけるDX化の最新事例や導入のポイントを探りました。

デジタル化は必要……しかし、業務のDX化が進まない理由

瞬く間に世界に広がった新型コロナウイルスの脅威は、ビジネスの姿を大きく変えました。建設業界も例外ではありません。最初のセッションに登壇したアドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部 部長の宮下猛は、「オフィスと設計・施工現場2つの環境を併せ持つ建設業界でも、本格的に在宅勤務に取り組まざるを得ない状況になりました」と述べ、「この過程でさまざまな課題が顕(あらわ)になりました」と分析します。

アドビではここ数年、建設業界向けに、業務のデジタルシフトやリモートワークの重要性を訴求してきましたが、この急激な変化を受け、2020年11月下旬〜12月上旬にかけ、業界関係者100名に緊急アンケートを実施しました。対象となった業種は、建設や不動産、設計事務所など建設業界の中核を担う業種です。IT部門や設計部門、建築・土木部門といった幅広い業務に従事する担当者に対し、現行の勤務形態やペーパーレス化への取り組みに関する課題を伺いました。

このアンケートによると、まず在宅勤務に関する課題としては「紙文書の業務」が最も多く、次いで「セキュリティ」「ハードウェア」が挙げられました。セキュリティやハードウェアに関しては、主にIT担当者から「情報漏洩のリスクが高い」「CAD図面作成のためのPC持ち出しは、セキュリティ上の懸念がある」といった声が寄せられたようです。

1 アンケート結果①在宅勤務の課題(右はアドビ デジタルメディア エンタープライズセールス 第三営業部 部長の宮下猛)

では、この2つを上回るハードルとして挙がった「紙文書の業務」とはどのようなものなのでしょうか。これは、一般的な承認などの「日常書類」と、業界特有のCADなどの「図面書類」に分けられます。

この2つの紙文書業務についてさらに深掘りしたところ、まず日常書類に関しては、印刷・押印などの社内承認プロセス上、「出社が必要なので、在宅勤務できない」という、シンプルですが高いハードルがあることが判明。一方、図面書類に関しては「複数メンバーや部門にまたがって確認や回覧が必要であったり、社内外での情報共有の実現や、共同編集作業の円滑化といった課題があります。具体的には、業者間のやり取りでは、デジタル化の遅れで電子文書を扱えないというケースが発生したり、複数のフォーマットにまたがるマルチファイルを扱えなかったり、押印作業が必要だったり、図版をPDF化しただけのPDF文書の二次利用や検索がやりにくいといったものです」(宮下)といいます。

2 アンケート結果②紙業務の課題について

もちろん業界としても、手をこまねいているだけではありません。アンケートによると、回答者の8割が「ペーパーレス化に関して準備や情報収集に勤しんでいる」と回答しており、共同編集・確認のための環境整備や社内承認プロセスの見直しに取り組んでいるそうです。ただ、「フリー回答によると、こうした取り組みに関しては、世代間のITリテラシーのギャップや法規制などがあり、なかなか難しいという状況にあります」(宮下)とのこと。つまり、「在宅勤務やリモートワークの必要性を理解し、実際に取り組んでいるものの、そう簡単にはいかない」という現状と言えます。

こうした課題をどう解決していけばいいのでしょうか。この点について、イエイリ・ラボの家入龍太氏、アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 プロダクトスペシャリストの永田敦子が講演を行いました。

進む建設業界のDX化、残るハードルは「紙業務」

宮下からバトンタッチで登壇した家入氏は、国内唯一の建設ITジャーナリストとして、建設業界のIT化やDXの取り組みを長年取材してきました。そんな家入氏は、かねてより、1990年代以降年々深刻化する業界の人手不足を懸念し、AI・ロボットの活用やリモートワークを強く訴求してきた実績があります。

家入氏は「肉体作業はロボット、頭脳作業はAIをアシスタントとして活用することで、人手不足を補うことに加え、生産性を上げるためには労働時間の無駄な部分を徹底的に削ぎ落とすこと。そのためにテクノロジーを活用してスピーディーにやっていく、そういう選択肢を考える時期にきています」と強く訴えます。

建設業界でいえば、生産性を生み出さず、最も無駄と認識されているのが、「施工現場への移動時間」。施工の進ちょく状況や作業品質の確認など、現場に足を運ぶことは非常に大切なのですが、そのための移動に要する時間を“もったいない”と感じている人は、実はかなり多いはずです。「そこで本格的に取り組むべきが、テレワークです」と家入氏は語ります。

「コロナ禍において、三密を避けるために、人との接触を7割削減することが求められました。ということは、これまで現場に出ていた10人のうち、7人がテレワークという状況になったわけです。これを逆に、『移動の無駄をなくすチャンス』と捉え、より生産性を高める工夫を進めてはいかがでしょうか」(家入氏)

実際、テレワークで施工管理を進めるためのキーワードとして、近年「デジタルツイン」が注目されています。これは現場の状態を画像に収め、クラウドで保存・共有することで、担当者が現場に行かなくてもリモートで状況を確認できるテクノロジーです。最近はiPhoneでも3D赤外線スキャンカメラ機能が搭載されており、岐阜県の建築設計事務所がiPhoneを使ってみたところ、寸法を正確に計測できていたとのこと。こうしたデバイスを活用し、施工管理をリモートで行う企業は今後増えていくことでしょう。

そのほかにも、現場にいる施工担当者が装着したARグラスを通し、現場監督が遠隔から指示を出したり、東大発のスタートアップであるARAV社がスマホやPCで重機を遠隔操作できるシステムを開発したり、「これまで現場に行かなければ作業できなかった」という領域でもテレワークが広がっています。

3 在宅勤務で工程管理(右はイエイリ・ラボの家入龍太氏)

では、ここまで技術が進歩しているのに、なかなかテレワークが進まない理由は何でしょうか。家入氏は「CO-NEXT社の調査によると、PCやモバイル環境の整備以外の理由として、大きく2つの理由が挙げられます」と説明します。具体的には、「FAXや電話経由での受注など、会社に行かないと注文情報が見れない」(37%)、「押印のため」(26%)の2点。いずれも、紙業務に起因する事項です。

4 CO-NECT社によるテレワークに関するアンケート結果

もちろん、FAXをインターネット経由で受け取れるサービスや、政府が後押しして脱ハンコの流れは進んでいます。こうしたものを活用してテレワークを進めても、最終的には「紙書類そのものをどうするか」という課題が浮上。家入氏は「昨今はCAD図面をメールで送ったり、請求書もPDFフォーマットが容認されるようになったりと、だいぶ状況は変わりました。これを進め、業務で使う紙文書のデジタル化を促進することで、紙にアクセスする移動時間を削減できるほか、情報共有や確認、承認プロセスも効率化できます」と話します。

その紙文書のデジタル化手段として、もはやデファクトになっているのがPDF。紙をPDF化することで、何がどのように変わり、どんな価値を得られるのか、きちんと把握することが大切です。この家入氏の講演を受け、アドビの永田が最後のセッションに登場しました。

紙は今やデメリットだらけ!? 紙をデジタル化する利点

アドビのプロダクトスペシャリストである永田が紹介したのは、建設業界のなかでも、PDFを使ったバックオフィス系のDXに関する最新情報です。

永田は「2020年12月にアドビが実施した調査によると、建設業界においては、まず『一般書類』で印刷や製本、押印に課題を抱えている方が全体の53%におよび、『図面書類』では複数人での確認や回覧、共同編集、共有、多岐にわたるファイル形式への対応といった課題が78%を占めていました」と説明します。

5 2020年12月アドビ調査結果「紙文書の業務課題」(右はアドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 プロダクトスペシャリストの永田敦子)

紙は確かに使いやすく、電源不要で簡単に取り扱うことができ、慣れ親しんだ媒体ですが、一方で「保管コストがかかる」「劣化する」「検索できない、紛失や盗難のリスクがある」というデメリットのほか、上記で挙げたような業務上の課題が生じてしまいます。

こうした課題は、実はPDFを活用することで解決できるのです。紙をPDF化=デジタル化によるDXを推進することの意義は、紙のデメリットや業務上の課題を解決し、さらに(1)業務のスピードアップ、(2)非効率な作業の削減、(3)さまざまなコストの解消、(4)セキュリティの担保、(5)情報交換や共同作業の効率化・迅速化、(6)紙と同じ見読性を担保する、この6つのメリットにあるといっても過言ではありません。

6 紙をDX化する6つの意義

永田は具体的な業務改善イメージを想起できるように、デモを交えながらPDFの機能を説明しました。PDFファイルを作成・閲覧するAdobe Acrobatでは、スキャナーやスマホのカメラで撮影した紙文書の画像データも、OCR機能を使って画像の文字をテキスト化してPDFにするので、テキスト検索が可能になります。ファイルサーバに複数の文書がある場合は、あらかじめインデックスを作成することで、複数文書を横断的に高速検索できます。

またPDFは、ExcelやWordといった汎用フォーマットだけでなく、図面作成に使ったCADファイルのレイヤーやスケール情報も保持したまま、PDFフォーマットに取り込むことができるので、複数のフォーマットの文書を確認・承認しなければならない時には非常に便利です。アドビが提供するAdobe Document Cloudは、そうして作成したPDFを自動的にクラウドにアップして、メールやWebから承認・確認に回せるので、出社する必要もありません。

PDFだけでも閲覧用パスワードを設定し、セキュリティを担保することができますが、Microsoft社が提供するAzure Information Protectionと連携すれば、細かなアクセス権を設定したり、閲覧期限を設けたりし、よりセキュアな状態で文書のやり取りができます。「紙と異なり、セキュリティポリシーに応じて強固なセキュリティを自由に設定できるのも、クラウドを活用する利点です」と永田は説明します。もしすでにBoxやGoogle Drive、Dropboxといたクラウドストレージを活用している場合は、Acrobat DCと連携して同じようにセキュリティを担保しながらPDFを活用できるので、ユーザー側に負担は生じません。

承認や確認に当たっては、AcrobatやDocument Cloudに付随する電子署名ソリューション「Adobe Sign」を活用すれば、紙と同じように手書きの署名や押印が可能。電子署名の認証の強さにはレベルがありますが、アドビでは、最もシンプルな「印影をデジタル化したスタンプ機能」から、公的なデジタル署名機能まで幅広く対応しています。

電子署名では、契約の当事者が、電子認証局に事前に申請して電子証明書を用意する「当事者型」と、当事者同士が認定した第三者の事業者が、署名の正当性を認証する「立会人型」の2つがあります。Adobe Singは、後者の立会人型の電子署名サービスとしてビジネスを支援してきました。立会人型の電子署名は、容易に署名ができるメリットがあります。電子契約の法的有効性を担保するには、これまで公的機関が発行する電子証明書が必要とされていましたが、コロナ禍以降、高まる電子契約ニーズを受け、経済産業省が立会人型の電子署名を法的に有効とする見解を示しています。今後、あらゆる電子契約において、立会人型電子署名のニーズが増大すると予想されます。

永田によると、実際に不動産仲介のアットホーム社と、不動産管理会社のジェイアメニティーハウス社がAdobe Signを使って契約を締結。ジェイアメニティーハウス社では、これをきっかけに紙業務のDX化を進めているそうです。

永田は「現場の前線では迅速なDXが難しくても、まずバックオフィスの紙業務からDXを進めることで、全体のDXが進むのではないでしょうか」と話します。紙からDXすることで、企業、そして業界全体がDX化する——アドビはそう信じて、これからも建設業界のDXを応援していきます。

※オンデマンド動画のご案内

こちらのブログでご紹介したオンラインセミナーをオンデマンド動画でご視聴が可能です。ぜひ、ご活用ください。

建設業界における紙業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)
~今こそ解決できるデジタル化の課題TOP5~

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