はち「Adobe Frescoには描くたびに驚きと発見がある」 Adobe Fresco Creative Relay 16

Adobe Frescoを使うクリエイターインタビュー企画「Adobe Fresco Creative Relay」。第16回は背景美術を専門に活動するイラストレーター・はちさんが登場です。

食品 が含まれている画像
自動的に生成された説明

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。
6月のテーマは「紫陽花(あじさい)」。日本のこの季節を象徴する美しい花をAdobe Frescoで描いて、 #AdobeFresco #紫陽花 をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第16回は背景美術が専門のイラストレーター・はちさんにご登場いただきました。

紫陽花が彩る、雨上がりの散歩道

「かえるが好きで趣味でよく描いているのですが、今回、紫陽花をテーマとしていただいたとき、まず最初に“この絵にもかえるを登場させたい”と思いました。
あとは紫陽花といえば梅雨、それなら雨の表現も入れよう、でも雨の景色だとどうしても絵が暗くなってしまうから、雨上がりの光が差し込む明るい風景にしよう、と考えながら描いたのがこの作品です。
かえるをずっと描いているせいか、『雨上がりにどんな気持ちになるかな』『フカフカの苔があったらうれしいんじゃないかな』と、つい、かえる目線で考えてしまって(笑)。そうした気持ちも込められた絵になっていると思います」

花が咲いている植物
中程度の精度で自動的に生成された説明 hachi「紫陽花に誘われて」

はちさんの道を決定づけた、2つの出会い

はちさんの専門は背景美術。背景美術とはその名の通り、アニメ・映像作品の背景、風景を描く仕事のことです。どんなにキャラクターが魅力的でも、それだけでは作品は成立せず、その世界観、空気感を演出するために、背景は重要な役割を担っています。
はちさんはなぜ、背景美術の道に進むことになったのか、その経緯を紐解いてみましょう。

「実は、子どものころから絵を描くのが好きだったわけでもなく、絵を描くことすらまったくありませんでした。絵を描くようになったのは、中学生のときに友人に『いま、おもしろいアニメがやっているよ』と勧められた『コードギアス』がきっかけです。
自分にとって衝撃的な作品で、これを見た瞬間、“自分もこんなアニメを作りたい”という衝動が湧き上がったんです。ちょうど、高校の進路を決める時期でもあったのですが、“アニメの世界に入りたい”という理由から美術系の高校への進学を選びました」

作品のファンになるという段階を飛び越えて、“作りたい”とまで思わせる。はちさんにとって「コードギアス」はそれほどの魅力を持った作品でした。

この運命的な邂逅がなければ、背景美術家・イラストレーターとしてのはちさんは生まれなかったと言っても過言ではないでしょう。

「高校ではデッサン、油絵、水彩といった絵の基礎からしっかり学ぶことができました。キャラクターデザインの授業もあって、学校生活は楽しかったですね。
ただ、アニメの世界を目指してはいたものの、同級生と比べるとキャラクターをうまく描くことができなくて。どうしようかと悩んでいたときにふと、“みんなキャラクターは描くけど、背景、風景は描かないんだな”“背景をがんばってみるのもいいかもしれないな”ということをおぼろげながら思ったんです」

背景美術……はちさんの中で漠然としたイメージでしかなかったこの仕事を、明確な目標に変えたのは、東京都現代美術館で開催された『ジブリの絵職人 男鹿和雄展』でした。

「男鹿和雄さんは『となりのトトロ』などで背景美術を担当されていた方なのですが、“ジブリ作品の風景を身近で見られるぞ”とウキウキしながら観に行ったら、その世界観に圧倒されてしまったんです。
それまでは、背景美術という仕事を意識したことはなかったのですが、この展示を見たことで、自分の中ではっきりと“この道に進みたい”という想いが生まれました」

背景美術に目標を絞ったはちさんですが、学校の授業に背景美術に関するものがなかったこともあり、独学でその技術を磨き始めます。

「展覧会の絵には使っている画材なども書かれていたので、それを参考にまったく同じ画材で風景を描いたり、写真を撮ってきてそれを水彩画にしたり、アニメ作品の背景を見ながら模写をしたり。アナログでひたすら描いていました」

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屋外, 座る, 大きい, 池 が含まれている画像 自動的に生成された説明

hachi「自慢の日傘」

アニメーションを学び、憧れの現場へ

高校を卒業し、大学へと進学したはちさん。選んだのはアニメーションを学べる学科でした。

「大学に入ってはじめて、Adobe Photoshopのようなプロ向けのツールに触れました。ただ、Photoshopの授業は写真の補正・加工が中心で、これで絵を描くという授業はなかったこともあり、絵はアナログで描き続けていました。
ここではアニメーション制作のほか、写真やDTP等、幅広い知識を身につけることができたのですが、当のアニメ制作に関しては途中でくじけてしまって……作るアニメに対して、コンセプトや意味を問われるのがどうしても苦手だったんです。
それでも、背景美術への情熱は冷めることはありませんでした」

当時、背景美術への道を志す同級生はまったくおらず、その分野を専門とする先生もいない。それでも、はちさんは努力を続け、念願のアニメーション制作会社への就職を果たします。

「テレコム・アニメーションフィルムという『カリオストロの城』などを手がけた会社に就職しました。その会社には背景美術を専門にする部署があり、幸いにも背景美術の募集があったんです。
ただ、いざ入ってみると、現場は完全にPhotoshopにペンタブレットで。それまでほぼアナログでしか絵を描いてこなかったので、慣れるまでかなり苦労しました。仕事として十分に描けるようになるまで2年、自分の思い通りに描けるようになるまでに3年。当時の記憶があいまいなくらい、基礎から叩き込まれました」

経験を重ねるなかで、作品の背景美術、そして美術監督も担当。手がける作品が増えるごとに、はちさんのスキルも上達し、表現の引き出しも増えていきました。

「背景美術の描きかたは作品ごとに大きく変わります。ファンタジーもあれば、現代的なものもありますし、ジブリ作品のような水彩のようなものもあれば、新海誠さんの作品のように緻密な背景もある。世界観をどう表現するかが何よりも重要です。この点は、いわゆる作風を持つイラストレーターとは異なる点かもしれません。

ただ、背景美術を仕事にしてから、アニメを見ても、キャラクターよりつい、背景に目がいくようになってしまって……これはもう職業病ですね(笑)」

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台の上にあるリンゴ 低い精度で自動的に生成された説明

hachi「れもんとかえる」

“負けたくない”から自宅でも絵の練習を

会社ではペンタブレット(板タブ)を使っていたはちさんですが、自宅では液晶タブレット(液タブ)とiPadを活用。もともとは入社後にPhotoshopの練習も兼ねて導入したものでした。

「会社に年齢は同じくらいなのにめちゃくちゃ絵がうまい人がいて、その人に負けたくないという想いもあって。仕事以外の時間も、自分の時間を削って絵の勉強をしていました」

描いた絵をTwitterにアップするようになると、その反応を見ながら徐々にイラスト表現もアップデート。投稿用のイラストにはSNS向けに調整をすることもあるそうです。

「Twitterでは青い絵のほうが受けがいいので、青みを加えてアップすることもあります。一方で、SNSでの評価に振り回されないようにも気をつけていて、あくまで自分が描きたいものを描くようにしています。
たとえば『夢のクジラ』は、海をテーマに描いているなかで、筆の痕跡がクジラに見えてきて、そのままクジラとして描いたイラストです。雲をなにかのかたちに見立てるのは子供の頃からやっていた遊びですが、『夢のクジラ』ではその見立てを実際に作品で表現しました」

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海に浮いている 中程度の精度で自動的に生成された説明

hachi「夢のクジラ」

「『トンネルの向こう側はどんな景色が広がっているだろう』は、Twitterが縦長のプレビューに対応する前に描いたもので、サムネールではトンネルだけが見え、開いてみると青空が見えるというしかけをしたものです。
この絵はそれまでで一番、いいね!をもらうことができました」

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屋外, 草, 建物, フィールド が含まれている画像 自動的に生成された説明

hachi「トンネルの向こう側はどんな景色が広がっているだろう」

はちさんは背景美術を仕事にする傍らで、背景美術の魅力を伝える配信をYouTubeで行なっています。それはお寿司やソース、ピザといった身近なモチーフから背景画を起こすというもので、そのユニークな取り組みはメディアでも紹介されました。

「背景美術はまだまだ知名度が低いので、もっと多くの人に背景美術を知ってもらいたくて始めました。テクニックの紹介というよりは“背景美術の人がおもしろいことをやっているな”という感じで伝わればいいかなと思っています」

皿の上の食べ物
中程度の精度で自動的に生成された説明 hachi「お寿司で南の島を描いてみた」 グラフィカル ユーザー インターフェイス, Web サイト
自動的に生成された説明 まんぷくアートスタジオ はち

Photoshopの自作ブラシも使えるAdobe Fresco

仕事でもプライベートでもPhotoshopで絵を描き続けてきたはちさんが、最近になって使い始めたツール、それがAdobe Frescoです。
Photoshopのコアユーザーであるはちさんは、Adobe Frescoの性能、描き味をどのように評価しているのでしょうか。

「とにかく使いやすいですね。これまでも、iPadにペイントツールを入れたことはあったのですが、慣れなくて、あきらめてしまっていて。Adobe Frescoは、インターフェースがPhotoshopに近いこともあり、操作に迷うことがありませんでした。
なによりも、最初にAdobe Frescoに触ったときの、“思った通りに描ける”という衝撃が強く、使うたびにあたらしい発見と驚きがある。Photoshopにはない機能がうまく補完されていて、“描くのが楽しい”と思わせてくれるツールだと思います。
タイムラプスで描いたプロセスを記録できるのは便利ですし、水彩の表現も自然で感動しました。写真をパッと取り込めるのも便利なポイントで、資料として写真を撮って描いている絵に置いておけば、色味やかたち、質感の参考にすることもできます」

グラフィカル ユーザー インターフェイス
自動的に生成された説明

イラストレーターには欠かせないブラシ機能も、はちさんがAdobe Frescoに感じているメリットのひとつです。

「ブラシは非常に重要なのですが、基本的な描画に使うのは実は1、2本なんです。あとは植物や雲を描くときのために自作したオリジナルブラシを使っています。
Adobe Frescoは、Photoshopで使っていた特殊なブラシをそのまま使うことができるのがいいですね」

ダイアグラム
中程度の精度で自動的に生成された説明 Photoshop・Frescoで使う自作ブラシの一部(1ストローク) ダイアグラム
自動的に生成された説明 Photoshop・Frescoで使う自作ブラシの一部(線・塗りとして描いたサンプル)

はちさんが使っている特殊ブラシ(上)は、色を変えながら塗り重ねていくことで、複雑な空や地面、草原をすばやく描けるようにしたもので、こうしたブラシをいくつも用意しておくことで、描画を効率化しています。
線の描画に使うブラシにも複雑なテクスチャが与えられており、何気ない線にも独特の味わいを持たせています。
機能をうまく活かし、使える時間のなかで最大限までクオリティを引き上げる。そうしたアプローチは、制作会社で背景美術を描き続けてきた、はちさんならでは工夫と言えるでしょう。
最後に、はちさんに今後の活動予定、そして目標を伺いました。

「2021年6月で7年勤めた会社を辞め、フリーランスとして活動をすることにしました。背景美術とイラストはもちろん、背景美術のおもしろさを伝えるためのYouTubeも続けていこうと思っています。
ゆくゆくは書籍の装画やイラスト、デザインのようなお仕事もやってみたいですね。
2年前からBlenderを使った3DCGも取り組んでいて、最近はUnreal Engineも学び始めました。会社に在籍しているときはできなかった、いろいろなジャンルに挑戦したいと思っています」

ノートパソコンのキーボードの上にいる少年
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イラストレーター
はち(まんぷくアートスタジオ)

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