特別支援学校高等部でポスター作りとウェブ制作に挑戦〜クリエイティブ活動が広げた思考力とコミュニケーション力
ライフイズテック株式会社とアドビは2020年12月〜2021年2月、北海道美深高等養護学校のクラブ活動でポスター作りとウェブ制作に協力し、特別支援学校におけるI Tを活用したクリエイティブ教育の可能性を探りました。
ライフイズテック株式会社とアドビは2020年12月〜2021年2月、北海道美深高等養護学校のクラブ活動でポスター作りとウェブ制作に協力し、特別支援学校におけるI Tを活用したクリエイティブ教育の可能性を探りました。
オンラインで小グループ単位のサポート
同校は、知的障害対象の道立特別支援学校高等部で、日頃は学習と就業につながる実習や対人コミュニケーションを身につけることが中心に進められており、教育現場でのICT活用については今回の活動が初めての本格的な機会となりました。今回の活動ではライフイズテックからPC等、アドビからAdobe Creative Cloudライセンスを貸し出して実施。美術工芸部の生徒がPhotoshopとIllustratorによるポスター制作、コンピューター部の生徒が教材とテキストエディタを活用したウェブページ制作に全12回にわたって取り組みました。
活動はPCで自習型で進められるライフイズテックの教材を利用し、同社のメンターが生徒2.1名あたりに1人(期間平均)ついて学びに寄り添います。本来ならば対面で行いたいところですがコロナ禍でオンライン実施となり、メンターはオンライン会議システムで参加し、学校にいる生徒たちと小さなグループを編成してサポートしました。
基本は教材で学び、期間後半で時間に余裕ができた生徒は「地域・学校の魅力を伝える」というテーマでオリジナル制作に取り組み、最終日の発表会で紹介しあいました。
IllustratorとPhotoshopを利用したポスター作品例。好きな写真を使ったり、「地域・学校の魅力を伝える」というテーマに沿って制作した。
ウェブぺージ作品例。地域の紹介ページや、既存のHTMLの一部を書き換えて作成したものも。
コミュニケーションが活性化
特別支援学校での活動にあたり、ライフイズテックでは事前に学校から生徒ごとの特性をヒアリングし、説明に視覚情報を多用したり、メンターからの言葉かけを工夫したりして、ていねいにかかわりました。
オンラインで画面越しにメンターの顔が常に見えたことやチャットを併用できたことが、コミュニケーションが苦手な生徒にとってプラスに作用します。一対一のような安心感をもてたことでその場で自発的に質問をする姿が増え、しゃべることが得意でない生徒はチャットで質問したり気持ちを伝えたりできるようになりました。
今回の取り組みを主導された加藤章芳教諭は、「リアルな会話としてはなかなか言葉には出てこなくても、心の中には伝えたいことがあり、デジタルならば伝えられるんだなということが今回わかりました」と話します。コミュニケーションができたという経験は生徒の自信となり、普段の学校生活でも、言葉にはならなくとも相手に伝えようとする姿が増えたそうです。
デジタル制作が生徒の意欲を育む
美術部顧問の寺澤亮諭も変化を実感しています。「普段絵を描いているときには、思っていた通りにいかなかったり失敗したりすると、紙をくしゃくしゃにしてしまう生徒がけっこういるんです。デジタルだと、消しゴムツールや戻るボタンひとつでやり直せるので、意欲があがったようです。『まちがった時にはどうしたらいいんですか?』と自分から言えるようになりました」。特性上失敗で落ち込んでしまうことが多い生徒でも、Photoshopや Illustratorでの作業ならば心の負担が軽くできたことがわかります。
自習型の教材を個別のペースで無理なく進めたため、達成感も生まれました。同校の業天誉久教頭(当時)は「メンターの皆さんが『どうしたの?』と傾聴の姿勢でかかわってくれたことがよかったですね」と評価します。「生徒たちは、今まで自分がやったことや話したことを相手に認めてもらえたという経験が少ないんです。今回『できた!』『わかった!』と感じられるモチベーションを上げる声かけが素晴らしかったです」。生徒には、教材のステップをクリアするたびにガッツポーズで喜ぶ姿も見られたそうです。
「伝えたいこと」を自然と思考するクリエイティブ作業
今回オリジナル制作に取り組んだ生徒たちは、「地域・学校の魅力を伝える」というテーマにあった写真を選ぶことに苦労しましたが、その過程で、自分でよく考え、まわりの人と言葉を交わしてアイディアをもらったりしながら制作を進めることができました。
北海道の魅力を伝えるために北海道のおいしいものの写真を複数選んでコラージュしたり、学校の魅力を伝えるために実習で制作した箸置きの写真を使用したり、「何を伝えるのか」を決めて、それにふさわしい写真を選んだことは、課題解決の思考と言えるでしょう。業天教頭(当時)は、日常のコミュニケーションが極端に苦手な生徒でも、制作したポスターにはその生徒のものの見方、考え方が表れていると指摘します。クリエイティブな活動が生徒の潜在能力を引き出したと感じているそうです。
同校の普段の授業では、「何を伝えたいか」ということを考えて制作したり、想像力を働かせて自分を表現するという機会があまりないということですから、今回の活動は生徒たちにとって貴重な経験になりました。
活動後は、残念ながら校内に十分な数のPCが無くアドビ製品も使えないのですが、PhotoshopやIllustratorを使っていた生徒からは「前みたいなのがやりたいな」「ソフトが欲しいな」という声も出ているとのこと。今回のデジタルクリエイティブ活動が、生徒たちのポジティブな変化を生んだ様子を見ると、今後、特別支援学校においてICTの整備や活用が広がることに大きな可能性を感じさせられます。
(文/狩野さやか)