Ally(アライ、LGBTQの理解者)にできること:ウェルカミングアウトをしていこう

6月のプライド月間に合せて、東京レインボープライド共同代表の杉山文野さんをゲストに迎え、アライシップの伝え方、誰もが働きやすい職場を作るためのヒントをお話頂く社員向けセッションを開催しました。

プライド・アット・アドビのロゴマーク

プライド月間(Pride Month)として、毎年6月には世界中でLGBTQ+コミュニティを支持する様々な活動が行われます。今年アドビでは、GLAAD(LGBTQ+コミュニティを支援するNGO)とパートナーシップを結んで「Create Change– プライド・エディション」と題し、世界各国で活躍するLGBTQ+クリエイターを招いた対談企画を実施するなど、アドビの従業員ネットワークの一つ「Pride at Adobe」がグローバルでイベントを行いました。

アドビジャパンでは、働きやすい職場、キャリア開発の促進、組織全体にポジティブな影響を与え、従業員のつながりを持ち、楽しみながら仕事ができる環境づくりを目指しています。今年のプライド月間では、これらの実現を目的に設立されたグループ「Japan Site Council」が組織するコミュニティの一つである、「Diversity and Inclusion」が、「Pride at Adobe」と共催で、社内セミナーを開催しました。

今回は、トランスジェンダーで、特定非営利活動法人東京レインボープライド共同代表理事や渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員を務める杉山 文野氏をゲスト講師にお招きし、「LGBTQと企業 ~職場でのダイバーシティを考える~」と題して、杉山氏の体験や活動などについてお話いただきました。

杉山文野氏の写真

特定非営利活動法人東京レインボープライド共同代表理事および渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員を務める杉山 文野氏

トランスジェンダーとして活動をする杉山氏

小中高は女子校に通っていたという杉山氏。物心がついた頃から自分の性に対して違和感があったものの、周囲に打ち明けられず過ごしてきましたが、高校時代に親しい友人にカミングアウト。友人の支えがあったものの、それでも周囲の理解を得ることに苦しむことも多く、日本が多様性に不寛容だから生きにくいのではと考え、大学卒業後、バックパッカーとなり世界をまわりました。しかし他国でも性別の問題からは離れられないという現実を突きつけられ、逃げられないなら、自分で生きやすいように変えていこうと日本に帰国。そして25歳で乳房切除手術を受け、以降は男性ホルモンの投与を定期的に行っています。現在は、LGBTQの活動をしながら飲食店を経営しています。友人から精子提供を受けて、パートナーが出産、現在は二児の父です。

その人の数だけ性のとらえかたがあっていい

杉山氏自身の略歴を紹介したあと、そもそも性とは何なのか、参加者に問いかけました。戸籍上の性別は、体の性で決められますが、「そんなに単純なものではなく、複数の要素が組み合わさって決まる」と杉山氏は言います。その要素としては次のようなものがあります。

これらは二分できるわけではなく、人によって、ココロは中間、好きになる対象は両方など、無限の組み合わせがありえます。この3つに加えて、「表現する性」(服装、しぐさ、言葉)もあります。多様な組み合わせがある中で、男女どちらかにするのは窮屈であると、杉山氏は話します。

続いて、セクシャルマイノリティの総称であるLGBTQの意味についても説明がありましたが、「言葉を覚えるのではなく、その人の数だけ性があるとわかってほしい」と杉山氏。

最近は、セクシャルマイノリティに限らず、誰もが関係する言葉として、SOGI(ソジ・Sexual Orientation Gender Identity)という、性的指向と性自認を組み合わせた言葉も使われるようになっています。

なお、トランスジェンダーの場合、性別適合手術をする人もいればしない人もいてその捉え方は幅広くなっています。日本では、性別違和が強い場合、性同一性障害という疾患名をつけますが、WHO(世界保健機関)は疾患から外しており、日本でも今後はなくなると考えられています。

日本では、2004年に性同一性障害特例法ができ、5つの条件を満たせば戸籍変更ができるようになりました。その条件の一つに生殖器を取り除く手術をしていることが含まれており、海外からは法律で手術を条件にすることに批判があるのも事実です。この条件に照らすと杉山氏は女性にあたるため、現在でも戸籍上は女性になっています。

目に見えないから「いない」ではなく、いることを前提に考える

杉山氏は「性の問題は目に見えない」ことが課題と言います。

「周囲にLGBTQの人がいないという人もいますが、いないのではなく、きづかないだけ。言わないのではく、言えないだけ。透明人間のような存在で疎外感を感じている人がたくさんいます。15年前に最初に本を出版した時に『自分も同じ』というメッセージがたくさん送られてきて、同じ思いの人がこんなにたくさんいたのかと驚きました。」(杉山氏)

杉山氏自身も、幼少期から自分の性に違和感を持ち、中高生の頃は精神的に辛い時期を過ごしました。当時は、ロールモデルもおらず、誰にも言えない、将来も見えない状況でした。

「LGBTQの人口は5-8%と言われており、これはAB型の人、左利きの人と同じくらいの割合ですが、職場のカミングアウト率はそのうちの10%です。職場と家庭が最も言えない場所であり、その場所が大切であるほど言い出せないのです。」(杉山氏)

これだけの人が生きづらさを抱えているとしたら、ビジネスの現場では「マーケット開拓」と「社員が働きやすい環境づくり」の2つのアプローチが必要です。

マーケットについては、ウェディング業界が同性カップルの結婚式を提供する、通信会社が婚姻関係にとらわれない家族割を提供する、生命保険会社が家族以外に受取人を拡大するなど、すでに様々な業界で新しいサービスが開発されています。

一方、働きやすい環境づくりに投資することは、採用、生産性、離職率の3つからメリットがあります。採用においては、LGBTQに配慮のある会社であることは応募者にとって魅力になります。

生産性は、アイデンティティに誇りを持てるかどうかが影響します。「仕事には関係のない話だから会社で言わなくてもいい」という人もいますが、職場内の雑談で異性愛者であることを前提にした会話がかわされることがストレスになることがあります。他にも福利厚生面で、同性カップルは結婚祝い金や冠婚葬祭の休暇が申請できない、海外の転勤でパートナーが同行できない、国によっては同性愛が犯罪になるといった問題もあります。こうしたストレスが仕事でのパフォーマンスに影響しますし、隠していることで嘘をついている罪悪感を生むこともあります。結果、職場の居心地が悪くなり、退職してしまうこともあり、離職率にも影響します。

LGBTQの理解者である「Ally(アライ)」としてできること

こうした現状に対して、杉山氏は様々な活動を行っており、全国初の渋谷区のパートナーシップ制度などにも参画してきました。では、私達はどんなことができるでしょうか。

「法律を変える、制度を変えるというと大きな話になってしまいますが、まずはすぐ近くにいる困っている人の助けになる、という小さな一歩から始めてください。LGBTQの理解者である人をAlly(アライ)と呼びますが、この人達も目に見えません。まずは、Allyとしてカミングアウトはウェルカムですよ、というWelcoming out(ウェルカミングアウト)を1日1回してみてください。」(杉山氏)

Welcoming outは、例えばLGBTQの話題がニュースになった時に、ポジティブなコメントをする、リツイートするといったことだけでも十分です。それを見たLGBTQの人は「この人になら打ち明けられるかな」と思えるからです。杉山氏は、次のように述べて講演を締めくくりました。

「社会は多様化しているのではなく、すでに多様です。セクシュアリティに関してはマイノリティでは無い方でも、他の部分でマイノリティになることもあるでしょうし、私もセクシュアリティ以外の部分でマジョリティです。みんな、どこかでマイノリティであると思えば、マイノリティの課題はマジョリティの課題であり、マイノリティに優しい社会は、マジョリティに優しい社会になります。」(杉山氏)

クリエイト・ウィズ・プライド作品イメージ

@blessthemessy #CreateWithPride

アドビのダイバーシティとインクルージョンへの取り組み

アドビは、「すべての人に『つくる力』を(Creativity for All)」というミッションを掲げています。すべての人が尊重され、平等に扱われるべきと考え、ダイバーシティとインクルージョンの拡大が、より大きなクリエイティビティ(創造性)と革新をもたらすと考えています。

多様性を尊重するアドビのカルチャーは、今から約40年前の米国での創業時、8人目の従業員として性的マイノリティ者を採用した当初から受け継がれています。従業員の公平性を重視しており、2018年には全世界男女同一賃金を達成、2019年のGreat Place to Workと米ビジネス誌フォーチュンによる「Fortune’s Best Workplaces for Diversity」では8位に選出されています。

笑顔で会話する従業員

今回オンラインで実施された社内セミナーには、リアルタイムで100名を超えるアドビジャパンの従業員が参加しました。「はっとさせられるお話だった」「当事者のお話を聞く機会がなかなかないので、勉強になった」といったコメントも寄せられ、セミナーを通じてLGBTQへの理解を深め、すべての人が働きやすい職場環境づくりを再考する機会となりました。

アドビは今後も、全世界で人種、民族、能力、性別、性的指向にかかわらず、すべての人が共に成長し、活躍できる、より良い職場環境の実現を目指します。