営業だけど営業トークはしない? アドビの法人営業チームがヒアリングと仮説提案を重視する理由

アドビの法人営業チームの営業アプローチはとてもユニークで、「営業なのに、営業トークから入らない」というスタイルが基本。その理由と、アドビの営業の面白さについて営業本部のリーダーに聞きました。

デジタルエクスペリエンス法人営業本部の大久保 有平とコマーシャル営業本部を率いる北本 大介

さまざまな業界の企業に対し、アドビのデジタルソリューションを営業しているのが、アドビの法人向け営業チームです。そんな法人営業チームの営業アプローチはとてもユニークで、「営業なのに、営業トークから入らない」というスタイルが基本。その理由と、アドビの営業の面白さについて、コマーシャル営業本部を率いる北本 大介、デジタルエクスペリエンス法人営業本部の大久保 有平に聞きました。

「商品を売る」のではなく「企業課題を掘り下げる」のがアドビの営業

データ分析からコンテンツ配信、EC、マーケティングオートメーション(MA)に至るまで、企業の顧客体験管理を支援するAdobe Experience Cloud。このExperience Cloudを軸に「ソリューション販売」という側面から、企業のデジタルトランスフォーメーションに貢献しているのがアドビの法人向け営業チームです。

一口に「営業」といっても、ターゲットとする市場はさまざまです。

北本 大介が率いるコマーシャル営業本部は、幅広い業種・業界の大手企業からSMBまでを担当するチームで、主にAdobe Marketo Engageをメインで扱うチームと、それ以外のソリューション全部を受け持つチームの2つで構成されています。

大久保 有平が所属するデジタルエクスペリエンス法人営業本部は、アドビが戦略的にターゲットとしている業界の中心企業や大企業を対象にした部門です。なかでも大久保が率いる第一法人営業本部は、契約規模の大きい大企業アカウントが中心です。

商材は同じでもターゲットが異なるので、ビジネスの特性や企業から寄せられるニーズや抱えている課題もさまざまです。北本のコマーシャル営業本部の場合、マーケティングオートメーションのMarketoの引き合いが多く、商談期間が長くて高単価の商材・サービスを扱う企業が多いとのこと。BtoC分野でいえば、不動産業界などが当てはまります。また、BtoB事業を展開する中堅・中小企業も、コロナ禍で営業スタイルのデジタルシフトが必須となり、アドビに相談を寄せるケースも増えています。

大久保のデジタルエクスペリエンス法人営業本部では、お客様に最適なコンテンツを届けるContents Management System・Adobe Experience Managerや、データ分析のAdobe Analyticsを中心に、すでに展開している施策をより拡張したり、子会社や別会社に展開したりなど、既存の取り組みを拡充していく商談が増えているといいます。

ただどちらの場合も、お客様の元へ行き、すぐに商品やツールの説明をするわけではありません。なぜならビジネスのデジタル化に当たっては、製品ありきではなく、「現場の課題をデジタルで解決したい」というニーズが出発点だからです。認知度が高く、価格的にも導入しやすいMarketoでは、「Marketoについて聞きたい」と名指しされることもありますが、基本は企業が抱えている課題を「聞く」ことがスタート。そうして仮説を組み立てて課題を掘り下げることが、アドビの営業の基本なのです。

こうした営業アプローチに関し、大久保がチームメンバーに毎回言っていることがあります。

大久保「アドビのソリューションは、データベースやメールのように『それがないと業務が回らない』というMustのツールではありません。Mustではなく、『それを活用したら、ビジネスがよりグロースする』というWantのプロダクトです。だからこそ、WantをMustにするような仮説提案がとても重要になる。そのためにお客様の課題を傾聴して咀嚼し、中長期的な観点でその課題解決に応える提案を考え、営業展開をするのが、私のチームのやり方です」

デジタルエクスペリエンス法人営業本部 第一営業部 大久保 有平

▲デジタルエクスペリエンス法人営業本部 第一営業部 大久保 有平

この「課題を聞く」というスタイルは、北本のチームも同じです。コマーシャル営業本部では、まずインサイドセールスがリードのヒアリングを行い、確度の高いリードに対して営業担当者が提案するスタイルですが、ある程度ヒアリングが済んでいても、いきなり商品・ツールの説明から入ることはほとんどありません。

アドビ コマーシャル営業本部 北本 大介

▲アドビ コマーシャル営業本部 北本 大介

北本「インサイドセールスからの情報を元に、お客様を訪問する前にチームで仮説を立て、訪問時のゴールを設定し、プレゼンする内容を詰めていきます。ただ、いきなりプレゼンするのではなく、まずは『お客様のことを教えてください』という形で、ヒアリングに一番時間をかけます。そのうえで、お客様が現在抱えている課題をお互いで合意・共有し、どういう点をどう解決していくかを話し合います。仮説と合意、まずはそこがスタートと捉えています」

プラットフォームを提供するアドビだからこそ、企業のさまざまな課題に応えられる

アドビの営業が課題の掘り下げや仮説提案を重視するのは、ほかにも理由があります。それはアドビが提供するExperience Cloudが、ポイントツールではなく、プラットフォームだからです。

ポイントツールは特定の課題に特化しているので、製品選択では機能スペックや価格が重視されるでしょう。しかしプラットフォームの場合、必要な機能をどう選択してどのように活用し、ビジネスをどう伸ばしていくかという戦略的な視点が必要になります。そしてそれだからこそ、さまざまな業種・業界の企業の課題に応えられるのです。

北本「Experience Cloudは、市場での認知からリードの獲得・育成、顧客、長期的な収益化など、すべてのファネルをカバーするプラットフォームで、これらに必要な機能をすべて提供できるのが特長です。そしてアドビ全体としては、品質の高いコンテンツを制作できるクリエイティブソリューションや、紙ベースの業務をデジタル化するドキュメントソリューションも提供しており、全方位で企業のデジタル化をカバーできる強みもあるので、DXのあらゆる課題にくまなく対応できます。このように、DX全体をカバーしつつ、より収益に直結する部分をデジタル強化できるのが、アドビのプラットフォームの価値だと考えています」

大久保「私も同意見です。一口にデジタルマーケティングといいますが、ポイント機能で競合はあっても、全体的なプラットフォームを提供しているのはアドビだけです。そんなアドビのDXは、そもそも『データ&コンテンツ』というコンセプトが土台になっていることが特徴です。これは、データを分析してお客様や自社の状況を知ること、そしてその分析結果を活用して消費者やお客様に対しより効果的な訴求を行うこと、そのためにコンテンツが重要という考え方です。こうしてデータとコンテンツという密接な関係を活用し、顧客のデジタル体験を最適化していくことができるのがアドビのデジタルマーケティングの差別化ポイントで、これら全体をカバーしているのがアドビの強みです」

日本企業のデジタル化をリードしていくのがアドビの役割

アドビが掲げる「データ&コンテンツ」の考え方は、数年前であれば、「理屈ではわかるが、実現は難しい」という企業が大半だったでしょう。しかし2020年、世界中に広がった新型コロナウイルスの脅威により、ビジネスは大きく変化しました。人と人との距離が遠くなり、業務のデジタル化が一気に加速しました。その一方、飲食業界や旅行、航空、鉄道、小売業など、人流や交流を主軸にしていた事業領域は、大変な打撃を受けています。

こうした状況で、いま企業がアドビに求めているのは、「国内DX推進支援の第一人者として、さまざまな企業のDXをリードしてほしい」ということだそうです。

大久保「今後、感染症がなくなることはないと思いますし、感染症と共存していくニューノーマルにどう対応していくかが、企業の責務になるでしょう。そしてここにおけるデジタル変革をリードしていくことが、アドビに求められる責務だと考えています。

現在、コロナで打撃を受けている業界の1つにリテール業界がありますが、実はリテール業界はいち早くECに乗り出すなど、日本のデジタルマーケティングをリードしてきた分野でもあります。ただ、これまではリアル店舗のチャネルがメインでした。コロナによってリアル店舗が閉鎖してしまった今、本来ならニューノーマル対応のためにもECに予算を割くべきですが、減収してしまった既存のリアル店舗ビジネスに予算を投下せざるを得ないという悪循環が起こっています。それに私の事業部には、航空業界などデジタルマーケティングを推進してきた企業が今苦境に喘いでいるケースも少なくありません。本当に、これらの企業をデジタルの力でどう救済していくかが今後のテーマです。ただでさえ日本のデジタルマーケティングは米国と比べると10年遅れているといわれているのに、これまで率先してデジタルマーケティングを進めてきた業界が頓挫すれば、さらにデジタル化が鈍化することにもなりかねません。そうならないように、アドビがどう貢献していくか——これが現在、アドビが取り組むべき最重要課題です」

北本「私も今、アドビが果たすべき役割は、さまざまな企業のDX化推進を支援することだと考えています。私の事業部ではSMBなど中堅・中小企業の営業活動を行なっているので、大久保が担当している大規模なナショナルフラッグの企業群と両方からアプローチしていけるでしょう。

現在、アドビに相談を寄せている企業の業種は本当に多岐にわたっています。たとえば学習塾のように、かつては生徒を集めて講義を展開していたところも、今はオンライン化施策に取り組んでいます。それに銀行や証券、保険のほか、オーダーメイドのスーツブランド、家具ブランドなども、対面接客ができなくなり、オンラインに切り替える動きが加速しています。人材派遣や転職業界も同じです。またはファンの多いスポーツ団体から、ファンとのエンゲージメント強化に向けてデジタル施策を相談されるなど、あらゆる業界がアドビに期待しています」

ミュージシャンとして活動した20代、その経験はいまの営業活動にも活きている

アドビの営業チームのトップとして活躍する大久保と北本ですが、どのようなきっかけでアドビにジョインしたのでしょうか。

大久保は10代から20代にかけて、ミュージシャンとして活動していました。ライブハウスでパフォーマンスし、テレビやラジオに出演したこともあるそうです。

ただ生活は非常に苦しかったのも事実で、「明日出演予定のライブハウスまで、交通費をどう捻出するか」と悩んだことも数知れず。アルバイトはしていましたが、ライブに大部分の時間を割いており、「いつも空腹だった」といいます。

そして30歳を機に、音楽を辞めてビジネスマンとしてのセカンドキャリアをスタート。国産ワークフローを提供しているメーカーに中途入社し、営業職に就きました。最初は営業の立ち居振る舞いもわからず、当然ながら商品はまったく売れず、「こんなことのために音楽を辞めたわけじゃない」と腐った日々が続いたそうです。

しかし頼りになるメンターと出会ってからは心機一転、営業スキルをビシバシ鍛えられ、成績もだんだんと上がってきました。その後、IT商材の商社に転職し、アドビのソリューションと出会います。

大久保にとって、アドビといえばPhotoshopやIllustratorといったクリエイティブツールのイメージでした。ミュージシャン時代、フライヤーやCDジャケットの制作でなじみがあったからです。

IT商社では、アドビのデジタルマーケティングソリューションを中心に営業活動を展開していました。国内でもトップクラスの売上だったため、パートナーであるアドビ日本法人から直々にメールをもらい、ラスベガスで開催されるアドビのセールスキックオフに招待されたそうです。

そのイベントに参加し、大久保は大いに刺激を受けました。「ここで働きたい」と思ったところ、アドビからオファーが来たそうです。以来営業の第一線で活躍しています。

大久保「20代を音楽活動に費やしたことはむしろ今の自分の財産になっています。当時は自分自身がステージで歌を歌っていたので、いわば自分が商材でした。常に自責で営業活動をしていたようなもので、そのマインドは今も変わっていません。営業のコアとなる概念や振る舞いを学んでいたのかと追おうと、決して無駄ではなかったと思います。

今の仕事のやりがいは、やはり『お客様の重要なビジネスの一翼を担う立場』として働けること。これも、アドビがプラットフォームプレイヤーであるがゆえのアドバンテージだと思います」

10代からプログラミングで営業、デジタルの面白さを追求してアドビに2度転職

北本の経歴もユニークです。中高生の頃はバスケットボールに打ち込んでいましたが、その夢が破れて16歳の時に高校を自主退学。バスケに向けられていた熱は、当時流行り始めたインターネットやパソコンに向かいました。独学でITを勉強し、Webサイトやプログラムを開発。市役所に「Webサイトを作ります」と営業をかけて契約を結んだり、サーバーの運用保守を行なったり、チャットシステムを開発して広告を掲載し、月額数十万円を稼ぐなど、IT知識をフル活用して大学の学費を貯めました。

最初はマーケティングコミュニケーションのコンサルティング会社に入社しましたが、「マーケティングに関わるITソフトウェアをお客様に提供したい」と考え、アドビに転職。当初の希望は叶いましたが、「その後、『このソフトウェアをもっと活かせるような内勤のマーケターとしてキャリアを積みたい』と考え、外資系のソフトウェア会社にマーケターとして転職しました」といいます。

その外資系ソフトウェア会社では、ソーシャルメディア担当を経て、最終的にはデジタルマーケティング全般の責任者になりました。その業務は刺激的でしたが、将来のキャリアを考え、やはり「営業」と「顧客対応」が重要になる、また大手ではなく限られたリソースの環境で力を試したいと思い、英国発のベンチャー企業に転職。カスタマーサクセスと営業の責任者を経て、日本代表も経験しましたが、ずっと付き合いがあったアドビの社員に誘われ、再びアドビに戻ることを決意しました。

北本「アドビに戻ったのは2020年の8月です。最初にアドビを辞めたのは、ちょうどパッケージ販売からサブスクリプションに切り替わった2012年のころで、それからのアドビの成長を外から見て、『すごい会社だな』と思っていました。アドビの製品が素晴らしいことは、当時からずっと知っていたので、機会があれば戻りたいという思いは、頭のなかに常にあったんです。アドビの社員から誘われた時、将来のキャリアを考えて、営業畑で実績を積みたいと思っていましたし、いいタイミングだったので2度目の転職を果たしました。

今までデジタルの世界でキャリアを積んできたのは、やはり10代の時に思った『デジタルって面白い』という情熱が続いているからだと思います。それにアドビの製品は本当に優れいおり、柔軟性も高いので、いろいろなお客様の悩みに対応できるのは、一種の面白さであり、やりがいにもつながっています。それで『役に立ったよ、ありがとう』といわれることが、今一番嬉しいですね」

異質なものを取り入れて成長する、それがアドビのカルチャー

まったく異なるバックグラウンドを持つ2人ですが、同じ営業分野でそれぞれ活躍できるのも、アドビ特有の「多様性を受け入れるカルチャー」が大きく影響しているようです。

北本「アドビは異質なものを取り入れるのがうまいんです。実際に入社するとわかるのですが、かなり無茶をするところもあるけれど最終的にはきれいにまとまっていく、そんなカルチャーがあります。だから『本当に変化し続ける会社だな』と肌で感じられます。大きな会社だけど、ベンチャーっぽさも残し、取り入れていけるんですよね。ここはアドビの優れたところです」

大久保「とにかくカルチャーがおもしろい会社だと思います。新しいものを取り入れるという文化、スピリットは非常に強い。実際に働くと、多少はいろいろあるかもしれませんが、総合的に考えると『結構いい会社だな』と(笑)。やっぱり、アドビが好きですね」

さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まり、活躍できるカルチャーがあるからこそ、多様な企業のDXに貢献できる提案が生まれる——Adobe Life Blogでは、そんなアドビで働く楽しさを、これからも多くの方にお伝えしていきます。