【イベント】College Creative Jam 2021 Futures Design Workshopレポート 参加者が得たのは「課題に取り組む新しい目」

8月20日にキックオフを迎えた大学生向けの産学連携デザインコンペCollege Creative Jam 2021。キックオフ翌日にオンライン開催されたFutures Design Workshopをレポートします。

実在する社会問題に対して、アイデアを競い合う大学生向けの産学連携デザインコンペCollege Creative Jam 2021が、8月20日にキックオフを迎えました。今回のテーマは「土壌を健康な状態に保つ、または健全にしていく有機農法を実践する農業者を増やすモバイルソリューションをつくる」。ここでは、キックオフ翌日にオンライン開催されたFutures Design Workshopをレポートします。

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「Futures Design」は、デンマーク・コペンハーゲンに本拠を置くデザイン会社Bespokeが開発した、戦略的な未来洞察を取り入れたデザイン思考の手法で、すでに多様な企業の新商品コンセプトづくりやブランド再構築で活用されています。

今後予定される「Research」「Prototype」「Design」の3フェーズに先立ち、キックオフ翌日に行われたワークショップは、Futures Designのフレームワークを活用して、課題に対する考え方を整理することが目的。講師を務めたのは、ビジネスによる社会課題解決に取り組む、株式会社メンバースの高見沢 直樹氏です。

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高見沢氏がワークショップのスタートに先立ち、参加者に求めたのは「分からないことを楽しむ」「理性より直感を」「好奇心を止めない」「普段と視点を変えてみる」「一見関係ないことをつなぐ」の5点。これらの意味は、ワークショップが進むにつれ次第に明らかになります。

前日に発表されたCollege Creative Jam 2021の課題は「耕さない」「雑草を抜かない、捨てない」「土壌を健全にする」などをキーワードにする「リジェネラティブ・オーガニック農法」を支持し、実践する日本の有機農業者を増やす、モバイルソリューションをつくること。

農業分野は、参加者の多くにとって関わりのない分野と思われるだけに、戸惑いも見られました。

そこで高見沢氏が用意したのは「Farmerとは?」「Farmerの未来は?」「未来に向けて」という3セッション。各セッションには複数のワーク(お題)が設定され、各チームがオンラインホワイトボードでアイデアを整理するというのが、ワークショップの基本的な流れです。

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学生たちが付箋を貼ったオンラインホワイトボード

セッション1で取り組んだのは、農業や農家への考察を深めること。その一つが、「STEEPV」というフレームワークに基づく分析です。

STEEPVは「Social(社会)」「Technological(技術)」「Economic(経済)」「Environmental(環境)」「Political(政治)」「Value(価値感)」の頭文字で、各観点から農業に関係がありそうな事柄を書き出すことで、論点を整理していきます。

ただしお題には、一つの条件があります。それは「まったく関係性は見えないけれど、関係していたら面白い」という事柄を、1チーム最低一つは書き出すこと。この条件は今後もたびたび登場することになります。

同様に、タイムマシンと名付けられたワークでは、農業に関する歴史上の出来事を時間軸に沿って整理しました。オンラインホワイトボードの付箋に書かれた出来事は、実にバラエティ豊か。農業というテーマは同じですが、各チームの個性が次第に浮かび上がってきます。

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農業の歴史を整理するお題「タイムマシン」

セッション2で取り組んだのは、農業の未来に関する考察です。参加チームがまず行ったのは、STEEPVのフレームワークに基づき、農業に関する注目ニュースや出来事をピックアップするワーク。一見すると無関係に思える出来事と出来事の共通点や見えないつながりを見つけ出すという試みでした。

一見無関係に思える事柄であっても、視点を変えると共通点が見えてくることは珍しくありません。関係性を見つけることは、クリエイティブの発想でもとても大きな意味を持つと高見沢氏は話します。

セッション2の最後のお題は、ここまでの取り組みを踏まえ、「2050年にこんな社会が実現できたら面白い」という農業・農家の未来を思い描くこと。ここで高見沢氏が条件に加えたのは、「大喜利に出るつもりで臨んでください」という一言。学生たちからあがったユニークなアイデアは、セッション3のワークにつながります。

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農業の未来を考えるセッション2

セッション3での最初の取り組みは、セッション2で浮かび上がったユニークな“2050年の農業の未来”に向けた道筋を具体的に考えること。ここでは、未来のあるべき姿から未来を起点に解決策を考える「バックキャスティング」と、異なる分野・領域における課題解決の構造を援用する「アナロジカル・シンキング」という二つの方法論を使って実現の道筋を考えていきます。

ここで高見沢氏が条件として加えたのは「実現可能性よりも、おもしろいと思えることを優先してください」という一言。オンラインホワイトボードには、思いもしなかったようなアイデアが次々に発表されていきます。

5時間に及んだワークショップ最後のお題は「Scoping」。今回の取り組みを踏まえ、今後調査すべき領域を絞り込むプロセスです。ここで浮かび上がった答えは、各チームが次回のRESEARCHフェーズに取り組むうえでも大きな役割を果たすはずです。

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ワークショップ最後のテーマ「Scoping」

ワークショップでは途中、フランスの作家マルセル・プルーストの言葉が紹介されました。

「本当の旅の発見は、新しい風景ではなく、新しい目を持つことにある」

本来であれば、数カ月掛かりで行う内容を5時間に盛り込んだ今回のワークショップを旅に例えるなら、参加者が得たのは課題に取り組む新しい目と言えそうです。若い世代のユニークな視点が、気候変動の解決策にもなり得る有機農法の普及という課題に、どのような答えを導き出すのか、ぜひ注目したいところです。

Special Thanks To

農業に馴染みのない学生が多いことに向けて、アドビチームは今回の課題のために学生の資料となるようにステークホルダーインタビューを実施しました。ステークホルダーとは「利害関係者」のこと。農業の様々な分野に携わる方に、それぞれが課題と感じていることについてお話をお伺いしたインタビューをオンデマンド動画にまとめ、学生にワークショップ参加前に視聴いただきました。

ステークホルダーインタビューは思いつきで始まった取り組みでしたが、とても短い準備期間の中、多くの皆様のご協力の末、無事に時間通り学生にお届けできました。お力添えいただきました皆様への感謝の意も込めて、こちらにてステークホルダーインタビューご参加者の皆さまをご紹介いたします。

松平 尚也氏

京都府で有機農業をされており、かつ農家ジャーナリストである松平氏には農林水産省が提唱するみどりの食料システム戦略について、また有機農家が直面する課題や有機農家が地域にもたらすベネフィットなどについてお話をお伺いしました。

川名 桂氏

若手で、しかも都市で「街ち中農園」として農家を営むネイバーズファーム代表の川名氏には都市農業の魅力、また農業に携わるようになったきっかけや、農家になるまでのプロセスについてお話をお伺いしました。

犬塚 龍博氏、大塚 二郎氏

農家と消費者をつなぐ流通の目線から、オイシックス・ラ ・大地株式会社の犬塚氏と大塚氏には海外でオーガニックが普及した例や、消費者に有機野菜について知ってもらう仕掛けや、流通が行う生産者のサポートについてお話をお伺いしました。

塚本 サイコ氏

オーガニックな「在り方」のライフスタイルを提唱したり、本質的な食と農とココロと音楽をボーダレスに繋ぐ活動をされているelemental life & society代表の塚本氏には、普段行っている事業や活動紹介、また消費者にオーガニック食品を知ってもらい、好きになってもらう仕掛け作りについてお話をお伺いしました。

ステークホルダーの皆様、お忙しい中インタビューへのご参加どうもありがとうございました!収録されたインタビューはこちらよりご視聴いただけます。