つくるだけで終わらない、デザイン組織を定着させる仕組みづくり〜「Creative Cloud戦略説明会」でKOELの土岐 哲生氏が講演

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デジタルが生活や仕事のあらゆる場面において中心となった現代、デザインやクリエイティビティの重要性はかつてないほど高まっています。そんな時代の流れから、社内に独自のデザイン組織を持つことが必要だと考える企業も増えています。

2021年8月25日にオンラインで行われた「Creative Cloud戦略説明会」では、NTTコミュニケーションズ株式会社のデザインスタジオ KOELのビジネスデザイナー、土岐 哲生氏が登壇。「つくるだけで終わらない、デザイン組織を定着させる仕組みづくり」と題し、組織にデザインのプロフェッショナルを生むためのプロセスについて講演しました。

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NTTコミュニケーションズ株式会社 イノベーションセンター デザイン部門・KOEL ビジネスデザイナー 土岐 哲生氏(セミナースライドより)

土岐氏が所属するデザインスタジオKOELは、2020年4月に発足したNTTコミュニケーションズ内のデザイン組織です。社内におけるデザインの専門家として“新規事業の創造”や“他組織へのデザイン面でのサポート”、“デザイナーの育成”といった業務を担っています。その名前には「あらゆるものを“超える”」という意思が込められているそうです。

NTTコミュニケーションズという大企業の中から誕生したKOEL。その立ち上げまでの貴重な経験を元に「デザイン組織の立ち上げ」「デザインの社内浸透」「デザイン組織の成長」という3つのテーマで、プレゼンテーションは行われました。

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今回のプレゼンテーションの3つのテーマの紹介(セミナースライドより)

テーマ 1:どのようにデザイン組織を立ち上げたのか?

デザイン組織を立ち上げる際に最も大切なのは「経営層の危機感を社内外から醸成し、事例で信頼を得ることです」と、土岐氏は冒頭で核心に触れました。では、実際にKOELはどのようなプロセスを経て発足したのでしょうか。

まず土岐氏らが実施したのは、社内のキーマン200名へのアンケート調査。ここから浮き彫りになった“解決すべき課題”を経営層に提示することで、現場の声を届けました。それと同時に社外パートナーによるセミナーやワークショップを開催することで外部からの声を取り入れ、組織が目指すべき理想や共通言語を“外部刺激”により形成しました。

「内部と外部、両方向から取り組むことによって経営層は危機感を募らせます。そこで次に求められるのは課題の解決策です」と土岐氏。それに応えるべく、危機感の醸成と並行して取り組んだのは”事例創出”。単に理想を語るだけでなく“実行できること”を示すため、主要プロジェクトによるクイックウィンを実行。目に見える結果を示すことで「あっ、具体的にそうやればよかったんだ」「じゃあどんどんやっていこうよ」という社内の声が高まり、2020年4月にKOELが発足する運びになったのだと、自らの成功体験を紹介してくれました。

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デザイン組織を立ち上げるまでの過程で、KOELが取り組んできた課題を具体的に解説(セミナースライドより)

テーマ 2:デザインの社内浸透に必要なこと

デザイン組織を実際に立ち上げた後、社内にデザインを浸透させる過程でKOELはある壁にぶつかります。それは「総論賛成だが、各論反対・できない理由が多くて進まない」というものでした。その壁を乗り越えるために試行錯誤を重ね、KOELが辿り着いた結論は「組織の中の適切な人材から共感を得て、中から変革すること」。つまり、本当にこのデザインが必要なのだということを実感・体感してもらうことで社内を変えていくことです。「中の人が変わらない限り変革は起きない」というのが大きな“気づき”だったと土岐氏は振り返ります。

また、デザインを社内浸透させるには「デザインプロセスを定着させ、デザイナーが自走する仕組みを設計する」ことが不可欠と土岐氏は指摘します。KOELではこれを3つのステップに分け、3ヶ年計画で設計しました。

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デザイン浸透までの3ヶ年計画をKSF(重要成功要因)とともに説明(セミナースライドより)

〈STEP 1:デザインの成功事例を作る〉 〜半年

単なる成功事例ではなく「主要戦略課題に資するテーマでの成功事例」であることが大切だと土岐氏は強調しました。つまり、会社の中で幹部も注目するような重要な施策にデザインを組み込み、しっかり成功体験を作ること。その際には、モチベーションが高い人材を巻き込むことも大切です。

〈STEP 2:デザインの礎を築く〉 〜2年

成功事例がよい前例となり、デザインの組み込みが社内へ広がり始めますが、この段階では必ずデザインチームやコミュニティを設立することが必要となります。それは中で動いているメンバーの横の繋がりをつくることで不安を取り除き、活動を活発化させるためです。もちろん賛同してもらえる上司の協力も必要になってきます。デザイン業務の“目標設定”と“評価”を明確にする管理者向けデザイン評価研修の実施により、管理者にしっかり納得してもらい、デザインを推進していく仲間になってもらいます。

〈STEP 3 : デザインを定着させる〉 〜3年

必要業務へのデザインプロセスの組み込みが完了し、100人以上のデザインスキルを持つ人材が育っています。デザインチームを組織化し、また成果をきっちり次に繋げていくような組織的な定性・定量モニタリングと改善が必要となってきます。この段階まで到達すれば、成功事例で得た知見を他の事業に展開し、社内でのデザインの活用を広げることができます。土岐氏はKOELでの成功事例を2つ紹介しました。

事業開発事例として挙げたのは、リモートワーク時代のオンラインワークスペース“NeWork™ (ニュワーク)”。このプロダクトは企画から開発までをわずか3ヶ月という短い時間で成し遂げました。これはデザインプロセスを含めても短期間で開発を行えるという成功事例となり、他の事業もこれに続こうという機運が高まったそうです。

次に、事業改善事例として紹介したのが“まなびポケット”。リサーチした結果を元に5つのコンセプトを組み立て、プロトタイプを作成。ユーザーテストを経て利用率の改善に成功しました。「この手法は既存のサービスでも簡単に踏襲できるため、横に広がるいい事例になった」と土岐氏は語ります。

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業開発の事例としてNeWork™を紹介(セミナースライドより)

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事業改善の事例としてまなびポケットを紹介(セミナースライドより)

テーマ 3:デザイン組織の成長

デザイン組織を成長させるためにまず欠かせないのは「MISSION」「VISION」「VALUE」の3つであると土岐氏は主張します。「すべての施策はそれらを軸に検討していきます」と、その重要性を説きました。それでは、KOELはどのようなMISSION、VISION、VALUEを掲げているのでしょうか。それぞれの具体的な紹介に話は移ります。

「KOELのMISSION」
デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する

「KOELのVISION」
人や企業に愛される社会インフラをデザインする

「KOELのVALUE」
問う……それは、顧客のためか。社会に明るい未来をもたらすか。
創る……それは、クリエイティブか。人の心をつかむビジネスをデザインしたか。
動かす……それは、人を動かしたか。仲間や顧客、社会を幸せにしたか。

加えて、デザイン組織成長のために土岐氏が行動指針としている3つの考え方を提示しました。

「どうすれば、デザイナーのモチベーションを高められるのか?」
「どうすれば、デザイナーが才能を最大限発揮できる環境を創れるのか」
「どうすれば、デザイナーの成長機会を多く創れるのか」

施策を考えるときには常にここに立ち戻り、本当にこれを実現できているのか自分に問いながら進めている、と語りました。

さらに「リモート環境でもプロジェクトやカルチャー作りを止めない創意工夫を続ける」ことが大事だと補足しました。例として挙げたのは、KOELで実際に実施している施策の数々。Slack、NeWork™ 、Miroといったツールを使ったコミュニケーション、Adobe Creative Cloudを使ったアウトプット、“マネージャー会議内容の公開”による上司・部下のやり取りの活性化、“オンボーディング”や“全員と30分会話”による新たなメンバーの早期定着と戦力化の実現などといった具体的な創意工夫を紹介。必ず社員に寄り添った施策になるよう改善を繰り返しているのだそうです。

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効果の即効性を縦軸、カルチャーとプロジェクトを横軸に「デザイン組織成長のための創意工夫」を紹介(セミナースライドより)

セミナーの最後に土岐氏はKOELの現状、そしてこれからの展望について触れました。「KOELのメンバーは発足当初から倍となる30名まで増えたものの、社内の期待に応えるためにはまだまだ人数が不足している状態です。アウトプットの質もどんどん高めていく必要があると考えています」とKOELの課題について言及。しかしながら、デザインの社内浸透を進めていくなかで、共感した社員たちの行動は変化していること。そして提供するサービスやソリューション、お客様の反応の変化も日々実感しているのだと付け加えました。「日々の努力の積み重ねがKOEL発足時のVISIONである『人や企業に愛される社会インフラをデザインする』に繋がり、ひいては日本の生活を豊かにし、日本の企業を元気にすると信じています。私自身楽しみながらKOELの成長、会社の成長、日本の成長に貢献していきたいと考えています」とおよそ20分のセミナーを締めくくりました。

本講演はこちらより視聴いただけます。

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