デザイナーとして聴くことが重要であるという話 | アドビ UX 道場 #UXDojo

どんな仕事も一面的ではありません。特にクリエイティブな分野は多面的です。私(シャロン・スティード)が講演の仕事を始めたとき、ステージで話をすることが私の責任のほんの一部に過ぎないことを理解するまでに、さほど時間はかかりませんでした。私にとって講演者の責任とは、1. まずコンテンツを作成し、2. 次にそれを魅力的かつ有益な方法で提供し、3. 話し終わったら参加者と向き合い貴重なフィードバックを得ることです。特に最後の部分は重要です。というのは、自分が提供したものを見直して洗練し、完璧に近づけるための作業になるからです。

残念なことに、最初の頃の講演ではやり遂げることだけに注力し、私以外の人や私個人のニーズ以外のことについてはほとんど考えていませんでした。

つい口ごもってしまう私にとって、準備した言葉をステージ上で実際に口にすることのスリルと恐怖は十分な成功に感じられました。しかし、話すという仕事に慣れて、講演前後の半日間の自分を嫌わないようになった後に、私が言いたいことをまとめるのではなく、聴衆が私から聞こうとしているポイントを中心に話の内容を構成するべきであることに気づきました。

つまり、私が上手にできていると思っていることではなく、聴衆が成功のために私に何を求めているのかを重視する必要があったのです。私は話し方を訓練し「共感」を体現しなければなりませんでした。

世界各地での講演を通じて、シャロンは聴衆との共感の体現に注力することを学んだ 出典: Amaze Labs

共感とデザイン

ここまでのストーリーは、デザイナーがキャリアの中で経験するプロセスに極めて似ています。路面店、ホテル、誰かの家、Web サイトなどを訪れたとき、すぐに気が付くものは何でしょう?色、テクスチャ、レイアウト、空間の使い方などはどれも、その施設(やページ)のデザインを構成する主要な要素です。それらはすべて、その空間に対する訪問者の評価や、その場での体験に大きく影響します。

Web サイトやブランドにおいて、デザインは顧客が最初に目にする要素であり、ビジネスの第一印象に大きく関わります。しかしデザインとは、色、線、テクスチャ、空間の使い方以上のものです。デザインはユーザーを冒険へと誘います。そのジャーニーで、本当に思い描いていた通りにユーザーに行動してもらうには、共感を持ってデザインに取り組むことが必要です。

相手の気持ちを理解したり感情を共有できる能力が共感です。共感は、ユーザーのための美しく機能的な体験の創造に必要な視点をデザイナーに与えます。そして、共感の基礎になるのが「聴く」ことです。

デザイナーとして聴く

「聴く」はいろんな使われ方をしますが、デザイナーにとって最も適切な定義は「思慮深く注意して何かに耳を傾けること。十分に配慮すること」でしょう。この定義から排除されているものに気が付きましたか?聴く側の考えです。人は、相手が実際に言っていることをそのまま聞くことはほぼありません。耳から入った言葉は、聞き手の価値観、人生経験、その瞬間の気分などのいくつかの層を通過します。つまり、人の話を聞いているのではなく、人の話に対する自分の意見を聞いているというわけです。

ですから、デザイナーの「聴く」は、忍耐と思慮深さの上に立った行為である必要があります。相手の言葉を変質する脳内のフィルターを除去するには、とてつもない粘り強さと強度が必要です。しかし、大抵の人は、どんな日であれそれを実行するだけのエネルギーを持っていません。それほど「聴く」ことは困難ですが、少しばかりそのプロセスを容易にする手段もいくつかあります。

まず注意力を維持する努力です。視界から邪魔なものを取り除きましょう。スマートフォンの画面は下向きに、パソコンの通知は消して、周囲の人と物は無視して目の前の人に集中します。あれこれ余計なことを考え始めたときは、なぜその相手と話をしているのかを思い出します。最終的な目標を意識すれば、注意を払うことがより有益に感じられます。

次は、視野の拡大です。すべてを知っている人はいません。話している相手の置かれている立場や、自分を取り巻く状況を 100%把握しているわけではないことを思い出しましょう。そうすれば相手の話を聴くことの重要性が重みを増します。それは相手が抱える問題解決のために必要なことです。

視点を増やすことは、誰もが持っている偏見から可能な限り逃れるためにも有効です。共感を基にデザインするには、まず自分の偏見を確認し、それがどこから発生したかを理解することが欠かせません。これから紹介する 3 つの質問を追求すると、デザイナーが自身とユーザーを隔てるフィルターを理解するために役立ちます。結果として、ユーザーにより受け入れられるデザインが分かるようになるでしょう。

1. 「ユーザー」は誰か?

ユーザーを知ることは、オンラインのタスクを成功させる方法を見つけるために必要ですが、それ以外にも、いろんな「なぜ?」に答えてくれます。なぜ初めての購入をしたのか?、なぜ繰り返し購入するのか?、なぜブランドを支持しているのか?デザイナーは、ユーザーが自分や自分の家族や友人と同じであるは限らないことを忘れてはいけません。

2. 「ユーザー」はコンテンツをどのように消費するか?

PC、タブレット、スマートフォンには囚われず、以下の点を考慮します。ユーザーはまず何を見るか?どこにしばらく留まるか?最も長く注意を引くものは何か?どんな色が好まれ、どんな色が嫌がられるか?どんな画像、テキストの視覚的レイアウトがユーザーに最もアピールするか?人はそれぞれ固有のニーズを持っています。デザインはそのギャップを埋めるためにあります。

3. 「ユーザー」にアピールできるビジュアル要素は何か?

デザイナーの責任は、文字通りデザインを通してユーザーに語りかけて行動させることです。物理的な導線、比喩的な導線は、ユーザーをどの方向に導いているでしょうか?デザインに配置された数々のシェイプはユーザー体験にどのような影響を与えているでしょう?最も大きなタイポグラフィはもっと読みたいとユーザーに思わせているでしょうか?ページ内のスペースはユーザーが一息つくのに十分でしょうか?

おわりに

デザインが会話であるならば、デザイナーはその方向を制御する操縦者です。デザイナーの役割は、聞き手であるユーザーが、サービスを提供している企業が伝えたい考え、感情、要望をよく理解できるように、デザインを通じて会話の場所をつくることです。もちろん、それぞれの人がデザインから受け取るものは異なるとしても、重要な点は、相手への共感がなければ、効果的なデザインはできないということです。誰のためにデザインしているのか、彼らが何を必要としているのかといったごく基本的な理解は欠かすことができません。そして、すべては聴くことから始まるのです。

この記事は The Importance of Listening for Designers(著者: Sharon Steed)の抄訳です