アドビとNPO法人キッズドア、生活に困難を抱える母親への復職や副業支援を目的とした共同プロジェクトを実施
アドビは、NPO法人キッズドアと連携して、女性の復職や副業支援を目的とした共同プロジェクト「ママさん応援企画~クリエイターへの道~ 2021」を2021年5月から10月末にかけて実施しました。
本プロジェクトの目的や内容、成果について、NPO法人キッズドア コロナ災害支援室 室長の町田裕輔氏、上野美南海氏にお話を伺いました。
■キッズドア、アドビ双方の強みを活かして、プロジェクトを推進
NPO法人キッズドア(以下、キッズドア)は、2008年より子どもの貧困を解決するために、学習支援、居場所づくりなどに取り組んでいます。コロナ禍においては、収入が不安定になる世帯が多く、困窮子育て世帯の食料、物質の支援、就労支援などが必要になりました。その一環である、ファミリーサポート事業では、全国約3,200世帯に向けて、これまでの現場での支援とは異なりLINEを使ったコミュニケーションを中心に、助成金や奨学金の情報提供、就労支援、物資支援を行っています。
「キッズドアのファミリーサポートに登録している87%が母子世帯で、母親一人で家族を支えなければならず、毎日の生活に余裕がない状態です。非正規雇用の方が54%、貯蓄も少なく収入向上のためのスキルアップに踏み出す余裕もありません。親の貧困は子の貧困に直結しており、現状の支援と同時に自立して稼げるようにする両軸の支援が必要です。」(上野氏)
NPO法人キッズドア コロナ災害支援室 上野 美南海 氏
「今回のアドビとのプロジェクトで支援をさせていただいた方たちは、クリエイティブの経験は、『1年未満』の方から『20年以上』のキャリアがある方まで、様々な方たちです。しかし皆さんが、離婚やコロナ禍での収入減や失業、お子さんの問題など、様々なご事情を抱えています。
また同時にクリエイティブをやってみたい気持ちがあるが、そのような状態の中で前向きになれず、一歩踏み出すことができずにいる方たちです。そんな彼女たちのクリエイティブへの一歩を後押ししてあげたいと、アドビと思いを一つにして当プロジェクトを開始しました。」(町田氏)
NPO法人キッズドア コロナ災害支援室室長 町田 裕輔 氏
「クリエイティブスキルをつけたいという声は多くあったので、Adobe Creative Cloudのライセンス提供があると助かるなと思っていたところ、ライセンスはもちろんのこと、プログラムの企画、講師の推薦、調整まで、プロジェクトを一緒に推進できることになりました。私達は、支援対象者のマインドの支援、情報提供はできますが、クリエイティブスキルのノウハウやクリエイターとのコネクションはなかったので、アドビと一緒に講師となるクリエイターの選定など、役割分担してプロジェクトを進めました。」(町田氏)
プログラムの内容は、多い時には1週間に1回~2週間に1回程度、両社で打ち合わせをしながら決めていきました。適宜参加者にアンケートを取って、受講の感想やこれから身につけたいスキルを調査し、グラフィックデザイン、動画・写真編集、ポートフォリオの作成など、各テーマにあわせて講師となるクリエイターをアドビで選び、オンライン講義の依頼をしました。
「講師の先生は、子育て経験があり、参加者が親近感を持てる素敵な方ばかりです。90分の講義の中で、クリエイティブのノウハウだけでなく、これまでのクリエイティブとの出会いや案件獲得の方法やクライアントとのコミュニケーション法などについても話していただきました。また、受講後のフィードバックも丁寧にしていただき、参加者の励みになりモチベーション向上に繋がったと感じています。」(上野氏)
■経験やスキルがあっても、自信がなくて一歩踏み出せない方たちに寄り添ったプログラム
プログラム参加者は、ファミリーサポートの登録者から募りました。90名の応募者の中からスキル、アドビ製品の利用経験、PCへのアクセス環境などを考慮して、17名を選抜しました。参加者の94%が母子世帯、世帯年収200万未満が約50%、コロナ禍で雇用等に影響を受けた方が90%と、苦しい環境にありながらも、クリエイティブなスキルを身につけたいという向上心のある方々です。
「90分のオンライン講義では、細かい使い方までは教えられないので、前提としては基本的なスキルがあり、講義をきっかけに自ら学べる方を選抜しました。経験やスキルがあるものの、出産や子育てで長く仕事から離れて自信を失ってしまった方、生活が困窮して新しい学びができていない方たちが、一歩踏み出してもう一度輝くきっかけになっていれば幸いです。」(町田氏)
オンライン講座なので、地方に住んでいる方も参加しやすく、手が離せない場合は音声のみで参加されることもありました。講義の内容は録画して後ほどオンデマンドで視聴できるようにしました。また、受講者のチャットルームを用意したところ、使い方や制作に関して質問が寄せられ、話が盛り上がるなど、デジタルツールを活用することでコミュニケーションが活性化しました。講義後の課題も、デジタル上で提出されるため、各々が個人のペースで作成して提出し、講師からのフィードバックが得られました。
「提出された宿題は想定以上にクオリティが高くて驚きました。アドビのIllustrator、Photoshopを使ってキッズドアファミリーサポートの紹介チラシを作成する課題では、そのうちの一つを実際に採用して謝礼をお支払いし、チラシとして配布しています。」(上野氏)
当プログラムの宿題に対しての参加者による成果物(例)
■すでに3名が案件を獲得。ポジティブな声が続々と。
プロジェクトを通して、実際に案件を獲得した方がすでに3名います。一人はコロナ失業者限定雇用のアルバイトで働いている方です。動画編集ができるPremiere Proを活用して、市長の動画制作を行ったことが、評価され、パラリンピックの採火式の記録動画の作成も担当されました。
「プロジェクト期間中にすでに3名が案件を獲得できたのは、想定以上の成果です。今後もさらなる成果が出てくると期待しています。スキルアップのためにクリエイティブの学校に通うなど、次のステップに進もうとしている方もいます。このように最初の一歩を踏み出せた方がいることが大きな成果です。」(町田氏)
当プロジェクトへの参加者からは、次のようなコメントが寄せられました。
- 「案件に応募し、Illustratorの制作をするようになりました。キッズドアさんとの出会いで私はとても成長しています。とても嬉しいです。今後も一層頑張りたいと思います。このような企画をアドビさんと設けてくださったことに感謝してもしきれません。」
- 「今回のプロジェクトで20年ぶりにアドビ製品を使用しました。久しぶりのデザインの世界は感動することばかりで、大変楽しく充実した毎日でした。同時にアドビが実施しているイベントにもオンラインで視聴参加したりしました。この企画を通して、動画制作に興味を持ち、始めた動画のナレーション業務では10件受注することができました。今後、ナレーターの仕事、様々なデザインの仕事を受注したいと思っております。」
「参加者から寄せられるコメントを読むと、末尾がポジティブに変化していることが、これまでのやり取りを通しても実感することができています。当プロジェクトが良い効果をもたらしていることが分かりとても嬉しいです。様々な社会情勢や家庭環境の問題から、落ち込んで自信を失っていた方たちが、新たなスキルを身につけることで、もう一度がんばろうと奮起することが次に繋がると考えます。
キッズドアの使命は、子どもが幸せに成長できる社会を作ることです。そのための親の収入改善、就労改善は必須であり、様々なアプローチで支援を続けてまいります。今回のプロジェクトでは、キッズドアは参加者のマインドサポート、アドビからはスキルアップの支援を行いましたが、今後もこのような取り組みを通して、女性の就労を支援していきます。」(上野氏)
アドビ株式会社 Adobe Creative Cloud エバンジェリスト 仲尾 毅
Adobe Creative Cloudエバンジェリストの仲尾は、次のようにコメントしています。
「今年7月、アドビが総合転職情報サイト『マイナビ転職』の協力のもと行った調査結果では、企業の採用担当者の7割以上が、求職者のクリエイティブツールスキルを重視する、と回答しました。非クリエイティブ職であっても、クリエイティブツールのスキルを持つ求職者には月給を平均3.4万円優遇すると考えるなど、こうしたスキルの重要性は高まっています。
今回のキッズドアとのプロジェクトでは、実際にアドビのツールに触れていただき、楽しみながらスキル習得をされたことが大きなステップアップに繋がったと感じています。アドビでは、『Creativity for All(すべての人に“つくる力”を)』をミッションに掲げていますが、今後も誰一人取り残さない、デジタル社会の実現に向けた支援に取り組んでまいります。」