【事例】Adobe Education Leader交流授業~高校美術教諭が小学生にデザインを指導

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小学生が高校の美術の先生とデザインに取り組んだら……? そんな学校の垣根を超えた交流授業がAdobe Education Leader (以下AEL)のつながりで実現しました。AELは、アドビのツールを使い実践的で革新的な教育活動を行っている小中高校、大学などの先生が1年ごとに認定されるコミュニティで、2021年度は26名の先生がAELとして認定されています。そのAELである相模女子大学中学部・高等部美術教諭の新井啓太先生が、同じくAELの印西市立原山小学校校長松本博幸先生の学校を訪れ、小学校6年生に「創造力って何?」をテーマに特別授業を行いました。

「脱テンプレ!」で真っ黒な画面からスタート

特別授業の日は、午前と午後2時間ずつ、ほぼ1日かけてAdobe Sparkを使った創作中心の活動が行われました。同校ではGIGAスクール構想の1人1台端末としてChromebookを導入し普段から積極的に活用していて、Adobe Sparkの使用経験もあり子どもたちはPCにもアプリにも慣れています。

新井先生は授業の冒頭、Sparkの便利で豊富なテンプレートのなかから好きなものを開くように指示したあとに「全部選んで消しちゃいましょう!」と声をかけました。何も配置されていない画面が子ども達の目の前に並びます。先生は、テンプレートをもとに手を加えるだけで完成度の高いデザインができるSparkの利便性をあえて封印。創ることにゼロから向き合えるように「脱テンプレート!」をかかげ、活動がスタートしました。

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相模女子大学中学部・高等部美術教諭の新井啓太先生

次々にワークに取り組み形、色、文字と向き合う

午前中は10分前後のワークに次々と取り組んでデザインの様々な要素と向き合います。まずは、白黒の丸、三角、四角だけを使った平面構成です。たくさんの形を並べて偶然性から抽象的な模様を作っていく子もいれば、意味のある具体的な何かを作ろうとする子もいて、多彩な作品がならびました。

ノートパソコンの画面のスクリーンショット
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児童の平面構成作品より。丸、三角、四角などの素材は新井先生がライブラリを作って配布した

形の次は色と文字を扱います。まず、日本の伝統色を色名とともに表示できるウェブサイトを利用して、「3色好きな色を選んでください」と新井先生。子どもたちは画面いっぱいに広がる色を次々に試しながら、「めっちゃきれい!」「あーこれいいかも」「これいいこれにしよう!」と思わず声を出しながら選んでいます。次に、ばらばらに重なりあった学校名の漢字を、自分で素敵だと思うレイアウトに並べるワークに取り組みました。色や文字に個別に向き合うことで、それらの持つ力に気付いていきます。

そして午前の最後に取り組んだのはコラージュ。Sparkでは1クリックで画像の「背景を削除」する機能があるので、素材写真や自分で撮影した写真を簡単にコラージュの素材にできます。テーマは「コラージュボーイとコラージュガール」。子ども達は動き回って写真を撮るなどして素材を集め、いろいろな顔や姿のコラージュ作品ができあがりました。

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児童が作成した文字の作品とコラージュ作品 から

YouTubeのサムネイルをデザインしよう!

午後はいよいよ自分を表現する作品作りです。自分がYouTuberになったと想定してサムネイル画像を作ることになりました。テーマは「○○はじめます」。まずは自分がYouTubeでやりたいことをどんどん書き出していき、そこからひとつ選んで、誰に見て欲しいかをイメージしてから制作に入りました。

A group of people in a classroom
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デザインに必要な要素やYouTubeの画面でサムネイルがどう表示されるかなどを確認

それぞれ、素材を探したり、画像、言葉、フォント、色などの組み合わせをさまざまに工夫しながら制作を進めていきます。見せあったり相談しあったりする姿も印象的です。

A group of people working on computers
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制作風景

Several people working on laptops
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制作風景

写真・イラスト素材を使わずにチャレンジしよう!

著作権上問題のない写真やイラストなどの素材を使って良いということでスタートしたサムネイル作りですが、制作が進んで完成し始めたところで、新井先生はさらにステップアップの指示をしました。「画像素材は使わずに、同じサムネイルをデザイン してみましょう」。これも脱テンプレートの一環です。自分で撮影した写真や自分で描いたイラストならば使っても構いません。

さて、この制約で子ども達のデザインが変化し始めました。素材写真や素材イラストの力で惹きつけるデザインが多かったものの、午前中に取り組んだ形や文字や色の扱い方に注意が向きます。素材が使えないということで立ち止まってしまうのではなく、どう表現するかをいろいろと試してみる姿があちこちで見られました。2つ目の作品には、デザインに大切な各要素とより深く向き合い考え工夫した様子が表れています結見えます。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション, Web サイト
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素材を使ったデザインと、素材を使わずに作ったデザインの変化

完成した作品は、全員が順番に前に出て発表しました。

A group of people in a classroom
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発表の様子

グラフィカル ユーザー インターフェイス, Web サイト
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発表デザイン より。素材を使わずにチャレンジしたものもあれば、素材を使ったデザインも

新井先生は最後に、「今日5時間近くかけて作った作品は、テンプレートを使ってしまえば、ひょっとしたら数分でおわってしまうかもしれません。でも今日作った作品の中には輝くものがすごくたくさんあると思います。便利な端末の中に用意されていることだけじゃできないことも、常に考えて表現をしていく、それが、最終的には創造力につながっていくのではないかと思います」と話しました。

交流授業で広がる学び

今回の交流授業を終えて、原山小学校校長の松本先生は、「子どもひとりひとりの顔が輝いていて、とても良い表情をしていました。それぞれゴールが違い、自分のイメージしているゴールに向かってチャレンジしている姿が素敵だなと思いました」と話し、普段の授業だけでは実現できない専門性の高い視点で、子どもの意欲を引き出してくれたと振り返りました。

新井先生は、「すごく楽しかったですね。サムネイルの制作は、素材 を使うとみんな似てくるしこだわり抜きにくくなるんですよね。素材を使っていいからまずやってみる。た上で、次に制限されたところでやってみて、その対比が面白かったです 」と話します。途中から子どもたちのアプローチがはっきり変わったことについて、松本先生も「面白かったですね」と共感しました。

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相模女子大学中学部・高等部美術教諭の新井啓太先生(左)と印西市立原山小学校校長松本博幸先生(右)※撮影のために一時的にマスクを外しています。

ELの学校を越えた交流授業を通して、原山小学校の6年生は自分の中の「創造力」に気づき、小さな手応えを感じる時間になったのではないでしょうか。