バウハウス再考:Adobe Stockで探るデザイントレンド

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イメージ提供:Adobe Stock/Ryan Hawthorne/AvantForm

現在の美学は、新たに生まれるビジュアルトレンドの影響を受け刻一刻と変化しています。両者が絶えず折り重なるその様子は、まるで過去から未来に向かうタペストリーを編んでいるかのよう。美術史というレンズを通して現在のビジュアルメディアを見ると、いろいろと興味深いことがわかってきます。Adobe Stockのデザイントレンド「バウハウスへの回帰(Back to Bauhaus)」は、アドビが毎年お伝えしているクリエイティブトレンドのひとつです。このトレンドをきっかけに建築やデザインの分野で偉大な足跡を残した作品を探求すれば、バウハウスが最先端のインスピレーションや現代のビジュアルの発想の源である理由が明らかになるでしょう。

現代において、バウハウスの哲学と美学は世界中で実践されていますが、その起源は1919年にドイツで設立された「Staatliches Bauhaus(建築の家)」という実験的な高等教育機関にあります。ワイマールにあった2つの学校(ワイマール芸術アカデミーとワイマール美術工芸学校)を統合した学校で、当時としては斬新なカリキュラムを提供していました。バウハウスの学生たちは、美術、建築、技術を並行して学んでいたそうです。キャンパスは最初の6年間ワイマールにありましたが、その後デッサウに移転し、1932年まで存続。1933年にはベルリンに移転したものの、ドイツでファシズムが台頭したことにより閉校となりました。

現代建築の多く、そして「リベラルアーツ教育」という概念の多くも、美学、機能、教育に対する先鋭的な考え方を持ったこの学校と、2つの世界大戦の間にドイツで一時的に盛んになった社会的進歩の試みに負うところが大きいと考えられます。第一次世界大戦後にドイツとオーストリアで花開いた知的で芸術的な文化活動はすぐに政治的弾圧を受けましたが、バウハウスの精神は今もなお、現代のデザインに息づいており、機能性、アクセシビリティ、教育の分野で広範な影響を及ぼしているのです。

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イメージ提供:左上:Adobe Stock/Good Studio 、右上:Adobe Stock/Norm Form、左下:Adobe Stock/Royal Studio、右下:Adobe Stock/Cute Designs

フォルム、クラフト、コンテキスト

職人の技能向上を信条に掲げている学校が、デジタル全盛のこの時代に影響力などあるのだろうか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、バウハウスの学校で手作りの木工クラフトが奨励されていたように、クラフト(モノ作り)を重視するその姿勢はグラフィックデザインにも生かすことができるのです。

「『バウハウスへの回帰』は、グラフィックデザインにおけるモノ作りへの回帰を浮き彫りにした最初のトレンドのひとつでした」。Adobe Stockでベクターとイラスト部門リーダーを務めるShea Molloyは、2021年のデザイントレンドであるバウハウスへの回帰についてそう語っています。「トレンド入りしたのは、2019年のバウハウス100周年が多くのデザイナーを熱狂の渦に巻き込んだのが原因ではないかとみています」

アーティストたちがバウハウスに影響を受けたり、バウハウス関連のプログラムを主催する団体のためにメディアをデザインしたことがきっかけになったのかもしれません。しかし、たんに人気が再燃するだけにとどまらず、新たな利用方法へと広がっていきました。「バウハウスへの回帰」は、強くゆとりのある構図、離れてもバランスの取れた関連性を維持できる広々とした空白、ドラマチックな陰影、そしてすっきりとしたイラストが特徴です。

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イメージ提供:左:Adobe Stock/Jokiewalker、Adobe Stock/L.Dep

また、バウハウスでは幾何学が重視され、形状の新しい利用法が模索されました。これは要素の移動、複製、反転が簡単なデジタルレイアウトや3Dデザインですぐに応用できる考え方です。

「バウハウスはかなり政治的でもありました」とMolloyは述べています。「政治的なメッセージを発信するためにデジタルデザインを活用している人たちを見れば、印象的で斬新なバウハウス風のデザインが人々の注目を集めるのにいかに適しているかがわかるでしょう。バウハウスの影響は公共広告や政治キャンペーン、壁画に見ることができるだけでなく、政治的なメッセージを共有して支援するためにデータを視覚化する際にもその手法が取り入れられています。

元々バウハウスは、ドイツで社会的解放がかつてないほど叫ばれた時代に発展しました。ファシズムが台頭して極端な反発が生まれる前の話です。この時代の緊張感は、大きく偏った現代の政治情勢と驚くほどよく似ています。バウハウスの美学は現代の社会運動や、簡明率直で読みやすさが求められる情報デザインとも相性が良いのでしょう。

最近のデータデザインの一例としては、Scoutの革新的な都市計画ツール(英語)、ジョンズ・ホプキンス大学のCOVID-19グローバルダッシュボード(英語)が感染状況が一般人にもわかりやすいと好評、NYC Open Dataの交通量の抽象的可視化(英語)がピエト・モンドリアン作「Broadway Boogie Woogie」を見事に応用、などがあります。

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イメージ提供:左上: Wavebreak Media、右上:Adobe Stock/jozefmicic、下:Adobe Stock/Alexey Brin

バウハウスの新たな流派

コンテンポラリーデザインのトレンドとして、バウハウスへの回帰は今後も引き続き建築関連のメディア、ミニマリズムを扱う雑誌表現方法、パッケージデザイン、音楽関連のポスター挿絵などの拠り所となるでしょう。

限定色のパレットはバウハウスの特徴のひとつです。特に原色のカラーブロックは、情報案内の手法として、プレス資料やプログラム資料に活用されることがあります。原色のパレットを拡張することもできますが、その場合は、核となる原色要素のトーンや色相が多様化するため扱う色にも幅が出てきます。また、レイアウトのコントラストが高まり、シンプルな数色の間に視覚的なパンチやインパクトが生まれます。

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イメージ提供:左上:Adobe Stock/blackcatstudio、右上:Adobe Stock/Wavebreak Media、左下:Adobe Stock/Pixelbuddha、右下:Adobe Stock/LUMEZIA.com

文字の関連性を知るには、Adobe FontsのBauhausの隠れた秘宝(Hidden Treasures of the Bauhaus)コレクションをご覧ください。バウハウスのデザインを再構成したタイポグラフィの逸品は、著名な書体デザイナーであるErik Spiekermann氏とそのチームが復元し、再現したものです。アイコングラフィも優れた書体で、「バウハウスへの回帰」スタイルの遊び心あふれる形が特徴。バウハウスのスタイルが、啓発や情報提供、政治的メッセージ向けのデザインの素材に最適であることが改めてわかります。同時代のロシア構成主義と同様、「バウハウスへの回帰」ではを基調とし、クールな印象を与えるや気分を明るくする黄色をわずかに加えた組み合わせが好まれます。

バウハウスの影響を受けた現代の作品の多くは、その影響を隠すことなく、インスピレーションの源であることを明示しています。Wes Karchut氏が制作したこのポスター作品のように、アートプリントには、バウハウスの文字を掲げ、本家バウハウスの代表的な建造物から多大な影響受けていることをうかがわせる作品が少なくありません。バウハウスの足跡をたどったサイトでは、今もバウハウスの分析や情報の更新が続いており、字体の研究がさらに進んでいます。線、フォルム、文字それぞれのインパクトや意図の分析に至るまで、グラフィックデザインに対して職人的なアプローチで取り組んでいるのです。

例えば、現役のテキスタイルデザイナーであるMolly Fitzpatrick氏は、バウハウスのグラフィカルで直線的なスタイルを様々な布製の家庭用品に巧みに取り入れています。米国カンザスシティを拠点とするアーティスト兼デザイナーのGreg Azorsky氏は、バウハウスのスタイルをTシャツや小物などあらゆるデザインに展開する方法を見つけました。Adobe Stockに提供しているblackcatstudioは、日用品ブランドのデザインにバウハウスのスタイルを取り入れる様々な方法を紹介しています。

ファッションか実用品かを問わず、バウハウスの影響を受けたデザイナーにとってアクセシビリティは常に重要な検討事項です。

「『アクセシビリティ』という言葉は、バウハウスの時代では労働者階級が利用できるということを意味したかもしれませんが、現代では様々な意味を持つ言葉になっています」とMolloyは述べています。アクセシビリティとインターセクショナリティ(交差性)の観点で機能性を向上させるため形状を再構築した例として、Disrupt Disabilityのカスタマイズ可能な車いすや、実用性の高い形状記憶の衣類を手掛け難民を支援しているファッションブランドのADIFFが挙げられます。

バウハウスに多大な影響を受けたアーティストにとって、これだけ崇拝されてきた思想とフォルムに自分流の解釈を見つけるのは難しい課題かもしれません。しかし、この強力で根本的な構成要素を活用すれば、歴史に裏打ちされながらも新しい進化的解釈を導くデザイン戦術を生み出すことができるでしょう。

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イメージ提供:左上:Adobe Stock/rawpixel、右上:Adobe Stock/Norm Form、左下:Adobe Stock/Raw & Rendered/AvantForm、右下:Adobe Stock/Norm Form

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この記事は2021年8月31日にSarah Rose Sharpにより作成&公開されたBuilding the Bauhaus: Delving into design trends with Adobe Stockの抄訳です。