Creators Meetup #3 | 海外での活躍・仕事の受注について【前篇】#AdobeResidency

Community Fund のメンバーで定期的に開催するクリエイターズミートアップ。毎回ゲストをお呼びして、あるテーマに沿ってお話いただいたり、質疑応答に答えてもらう学びの場。今回のゲストはイラストレーターのYohey Horishitaさん、キャラクターデザイナーのToshiki Nakamuraさん。2人ともに海外で活躍しているクリエイターさんです。どのようにして海外での案件獲得ができたのか、また継続して仕事を受注するための秘訣などをお聞きしました。今回は、【前篇】【後篇】の2部構成でお届けします。

【今回のゲストのプロフィール】

Yohey Horishita / イラストレーター, メリーランドインスティチュートカレッジオブアート教授

NYを拠点に活動するイラストレーター。日本らしい作風でコミッションワークも数多く手がけながら、メリーランド美術大学でイラストレーションを指導している。また、自身がゲイであることをカミングアウトしておりセクシャリティをテーマとした作品づくりも行う。

Instagram: https://www.instagram.com/yoheyhorishita/

Twitter: https://twitter.com/YoheyHorishita

Toshiki Nakamura / キャラクターデザイナー

日本を拠点にするイラストレーター/キャラクターデザイナー。主なクライアントにNetflix, DreamWorks, Gaumont Animation, Gold Valley Films などがある。海外REPにも所属しており、Shannon Associatesがマネージメント業務を担当している。仕事は全て海外案件のため、コロナが落ち着いたらハリウッドに拠点を移す予定。

Instagram: https://www.instagram.com/artoftoshi/

Twitter: https://twitter.com/artoftoshi

人生の転機、ターニングポイントは?

--若くから海外で活躍しているイラストレーター、キャラクターデザイナーのお二人ですが、ターニングポイントはいつでしたか?

【Yohey】:アメリカの大学に進学した時かな。理由はもちろん美術を学びたかったというのもあるけど、ゲイであることを公表している「オープンリーゲイ」として生きていくのに日本では無理だったんだよね。夢とかやりたい仕事とかじゃなくて、まず日本でゲイとして生きてくのはできないと思って。

–それは、カミングアウトができる環境じゃなかったってことですか?

【Yohey】:保守的なクリスチャンの家庭だったので、家族の宗教観とかけ離れていた。それがコアな理由だったと思う。両親には「美術も英語も学びたいから」と理由をつけて説得したけど、本当のところは自分のアイデンティティを守るためだったかな。

--当時は、今よりもオープンに語りにくい社会の雰囲気でしたよね。

【Yohey】:自分が周りの目を気にしない人間だったら良かったけど、立ち向かえる勇気も力も教育もなかったし。今は堂々とオープンにしているから牢屋に入れられない限りはどこでも生きていけるけど(笑)

–インスタグラムを見てると伸び伸びしている様子が伝わりますが、それを見て勇気づけられる人も多いんじゃないですか?

【Yohey】:「自分大好きだね」ってよく言われるの(笑)でもね、昔はあなたのイラスト大好き。暗いから」ってよく言われたのよ。カムアウトする前に描いた作品なんだけど。今見返してみてもやっぱり暗いんだよね。ゲイに対する目線、政治への失望、自己嫌悪に満ちていたのね。自分がこんなところ通ってきたんだって思うと、今「幸せそう」なんて言われると嬉しいよね。あれ、なんの話だっけ(笑)

Yoheyさんのイラストレーション

–(笑)Toshiさんは、ターニングポイントはいつでしたか?

【Toshi】:僕は大学院進学の時かな。元々は日本の大学で政治学を専攻していたんです。いつかは海外留学したいという展望があったので、国際関係を学びたかった。だから大学3年の春にはNGOでインターンしてたし、そっちの道に進むんだろうなとは思っていた。だけどよく考えてみると、そのキャリアを楽しめる自信はなかった。

【Yohey】:これを続けて幸せになれるだろうかとか、このまま隠し続けて生きていけるだろうか迷う時期はあるよね。

【Toshi】:あるある。僕は逃げの意味合いもあったかもしれない。チャレンジしたい反面、現実から逃げたいんだって。映画関係は子供の頃から好きだったし、どこかそっちに進みたいという気持ちがずっとあったんですよね。だから逃げていた気持ちと向き合って、飛び込んでみようかなと。それで、絵のスキルはほとんどゼロだったけんだけど、アメリカの大学院に進んで絵の勉強を始めました。大学院に入った後は結果を出すしかないし、そのタイミングで覚悟が決まったかもしれません。

【Yohey】:いつ転機が訪れるは人それぞれだけど、実際に海外に行けたこと、バックアップがあったことは恵まれていると思いますね。自分の環境を変えれるかどうかは自分の力だけじゃないから。スカラシップ受けていても渡航費や諸経費まで賄えるわけなじゃないし。

【Toshi】:運が良かったよね。

Toshiさんのイラストレーション

作家がバックグラウンドをオープンにするということ

--留学しても、やはり残って海外にいる人は限られますよね。どうやってキャリアのファーストステップを確立して行ったのでしょうか?

【Yohey】:最初は必死だったよ。

今みたいに映画の中でアジア人の俳優を登場させようという動きはなかったし、アジア人の地位はとても低かった。特に私はアラバマっていうアメリカの田舎の白人と黒人だけの世界に飛び込んだのね。するとフレンチフライ投げつけられたりもするし、歩いてても中国語で怒鳴られたりするのよ。差別以前に、アジア人を見たことがないからどう接していいかわからなかったのね。セクシャリティ以前の問題よね。

そんな中でもアメリカに残るためにビザを取らなきゃいけないから、ボランティアみたいなイラストの仕事も必死でした。コンペにも出しまくって名前を出してくれる可能性のあるものには全部取り組んだよね。

【Toshi】:わかる。そういう経験をしている人が過半数かもね。

【Yohey】:だからさ、**「安い金額で仕事を引き受けるのは業界にとって良くない」**という意見はわかるんだけど、それを言えるだけで恵まれた立場の人なんだって思うんだよね。それを言えるのは特権的な立場の人であって、そんなことを言ってられない人が実は沢山いるのよね。

【Toshi】:ボランティアワークといっても、作ったものはちゃんと実績にはなるからね。

【Yohey】:そう。それこそビザを取るときにも実績として認めてもらえたしね。最初にコンペに入賞した仕事はボランティアだったし。

--他人から評価を受けたことは仕事をしていく上での自信になりましたか?

【Yohey】:人からの評価っていうのはやっぱ嬉しいのよ。自分は大御所と呼ばれるようなイラストレーターのスタジオアシスタントを勤めてきたけど、誰だって、受賞の報告を聞いた時は本当に嬉しそうにしてるのよ。アメリカの重鎮がね。だから、自分も強がらないで素直に喜べばいいんだって思ったの。

【Toshi】:僕も独立直後は全然仕事がなかったですね。でも4年前に南アフリカのアニメーションスタジオから連絡があって、しばらくはそこから仕事をいただいていました。今度その映画が公開になるんですけど。

--アニメーションだと公開までそれぐらいの時間がかかるんですね。。。

【Toshi】:4年は平均的ですね。ちゃんと対価をもらえた仕事はそれが最初で、その後はコンスタントに頂けるようになりました。それと同時期に今所属しているレップ(アーティストの営業を代理で行ってくれる会社や組織)に入りました。

--レップから受ける仕事はどれぐらいあるのでしょうか?

【Toshi】:イラストの仕事はそんなにすぐには来ませんでしたね。でもしばらくして絵本のイラストを描く仕事をいただきました。パッツイー・ミンクというハワイ出身の女性活動家の方の作品だったんです。

【Yohey】:性差別撤廃の活動を行なっている有名なフェミニストだよね。

ーそれはToshiさんが政治学を学んでいたバックグラウンドでが何か影響してその仕事の依頼が来たのですか?

【Toshi】:ADがエージェントに僕のバックグラウンドを伝えてくれたみたいなんです。だから自分の出自をオープンにしていることは無駄ではなかったなと思います。

【Yohey】:意外とパーソナリティを見てくれているケースはあるよね。

【Toshi】:そうだね。アイデンティティを出している作品は想像以上に反響も大きい。そういう意味で、クリエイターとしてはオープンな姿勢でいることは大事かなって。

パッシブでパーソナルな作品は「強い」

【Yohey】:今大学の授業を持ってるんだけど、生徒の作品を見ててもクライアントを意識している作品よりも、感情表現をベースにしたものの方が絵としては「強い」よね。絵としての重みがやっぱり異なるから。

【Toshi】:パーソナルな作品の方が思い入れがあるし、熱が入るよね。

【Yohey】:そう。プレゼンテーションの仕方もまったく変わるから面白いんだよね。結局のところ絵は言葉だから。ナラティブであり、ストーリーテリングだから。

–日本にいいると難しいんだよね。例えば政治とアートを分離するするというか政治的表現が毛嫌いされるから。まだまだ。

【Yohey】 :アートって政治なのにね。学校で学ぶような絵画も政治的なものが多いし。自分の思うことを表現するのも「ポリティクス(politics)」というし、自分の考えを表現するのをスタート地点にするのもいいんじゃないかな。

でも、そもそも受け入れられなくても良くない?みたいなことも思うのよ。受け入れられようとするからダメなんだって。

【Toshi】:開き直りも大事かもね。

–クライアントにどう思われるか余計なこと考えてしまったり、空気を読むという文化がありますね。

【Yohey】:昔「あなたのイラストは受け身だ」って言われたことがあって。もっとアサーティブに出してきてって。カテゴライズはしたくないけど、確かにアジア人のイラストってパッシブな傾向があるのよ。

–パッシブとアサーティブは評価の時に出てくる言葉ですが。パッシブな表現って例えばどういうものなのでしょうか?

【Yohey】 :例えば怒っている人を描くとするじゃない。声が聞こえてくるぐらい怒っているとする。でも言葉や表情を描くことはしないの。例えばその人の手だけ描いちゃうとか、ちょっと周りくどい表現をするのよ。もっと感情を出してよって。

もちろん美的感覚は西洋と東洋で違う。西洋の感覚ではデッサンする時にみんなモチーフをを中心に置きたがるけど、自分はやっぱり日本の美的感覚も残っているから恥に置いて余白を出したりしちゃうんだよね。それを先生に指摘されたんだけど、やっぱり表現が弱いと思われちゃうんだよね、海外では。そういう感覚の違いはあるよね。


オンライン Creator Meetup の様子

ということで、1時間の予定だったミートアップも、ヒートアップして2時間超えでいろんな話が繰り広げられました。新しい気づきがありましたでしょうか?

ぜひ次回も海外と日本の違いについて語った内容をお送りします。

(後篇に続く)