Trend & Illustrations #10/ダイモンナオが描く「Breath of Fresh Air」

Adobeではビジュアルのニーズを様々な角度から分析し、その予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。2021年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。第10回目のテーマは「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」。しなやかな輪郭線と配色で植物や風景を描写するダイモンナオさんに、作品についてのお話を伺いました。

ダイモンナオ
NAO DAIMON

高知県生まれ、京都市在住。2008年より、イラストレーターとして活動を始める。主な受賞歴に、イラストノート「ノート展」第8・9回入選、「PONTOON」装画コンペ vol.5大賞、イラストレーション「ザ・チョイス」第184回準入選(藤本やすし氏審査)、2014年「ボローニャ国際絵本原画展」入選。

http://www.daimon-nao.com/
https://www.tis-home.com/Daimon-Nao/

「瀬戸内海の風景」2021年

旅先で観たい景色

Q:「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」というテーマを選んだ理由を教えてください。

自然の風景を描くことが好きなので、今回はそのテーマを選びました。京都に住みながら、町家でアトリエ・宿泊・レンタルスペースを合わせた「草と本」という場所を運営しているのですが、普段よく人と会います。人に気を遣うのか、遣ってもらっているのか、いろんな人と接しているとエネルギーを使うので疲れが知らないうちに蓄積されていて。そんなときに自然や緑に触れると、心がクリアになります。コロナ禍以前は旅によく出かけていましたが、気兼ねなく旅行もできなくなったこともあって、自分が観たいと思う風景を描いてみました。

Q:自然を求める気質は、地元が高知であることも関係していますか?

関係していると思います。生まれ育った場所は高知のなかでも山際で、空と山と川の存在が大きかったですね。東京にも10年間ほど住んでいましたが、整備された人工的な緑であまり落ち着かなくて。自然との距離感でいうと、京都はちょうどいい。山も川も近いし、食や文化に触れる環境も豊かで過ごしやすい街です。

Q:京都の風景からインスピレーションは得られますか?

日が沈むころに鴨川でボーッとしていて、山の稜線の向こう側が明るく光ると感動します。日が沈むのとは反対の東側の方角なので、夕陽の反射でしょうか。光が黄色っぽい日もあれば、少し赤みがかっている日もある。一般的なイメージだけで自然は描かなくてもいいんだな、と風景から学ぶこともあります。

Q:好きな季節はいつですか?

5月ごろ、新緑の季節ですね。植物が持つ黄緑色の美しさ、まぶしさが一番際立つ時期。そこから日が経って黄緑色が濃い緑色に変化していくのがまた観ていて楽しい。叡山電鉄鞍馬線で京都市左京区の二ノ瀬駅周辺に行くと、両脇の車窓に青紅葉の美しい景色が広がります。秋の赤い紅葉ではなく、青紅葉のほうが爽やかな色をしていて好きですね。

Q:今回描いた作品について、ご説明いただけますか。

旅先で観たい景色は何だろうと考えて、思いついたのが瀬戸内海の風景でした。地元高知の海は太平洋に面していて、割と荒くて濃い青色です。瀬戸内海は穏やかで、小さな島がポコポコと浮いているのがかわいくて大好きなんです。オリジナル作品として瀬戸内海の風景画を描くことも多いですね。瀬戸内の山や海を眺めながら黄昏れていると、頭のなかが空っぽになって心が浄化される感覚があります。

「瀬戸内海の砂浜」2021年

今回のテーマで描いた2つ目の作品。灰色、水色、緑色は特に好きで使う色だという。

風が通る場所

Q:京都に移られたのはいつですか?

2010年です。京都に引っ越す際は、中古物件に住むことだけは決めていました。リノベーションで自分たちの好きなようにできるメリットがあるからです。東日本大震災が起こる前で町家や資材が安くて、運よくいい物件に巡り合えました。織屋建の天井高になった造りの民家です。また、同じく京町家を借りて、2020年からアトリエ・宿泊・レンタルスペース「草と本」を上京区で運営しています。東京で住んでいた新築の分譲マンションは無機質で密閉された空間でしたが、京都の住まいでは季節や空気の流れをより感じます。

Q:京都や地元高知では、食にまつわるコラムの執筆や絵日記のお仕事もされていますね。

自分のSNSでも食べ物の写真が多くて、知り合いのライターやカメラマンなど、メディア関係者には食いしんぼうだと思われているようです(笑)。周りからはとてもアクティブな人間だと評価されていますが、実際は出不精で。おいしいものをたくさん知っていると言われるけれど、友人から教えてもらって気に入ったお店を巡っているだけなんです。アンテナを張っていいお店を探しまわっているわけではないので、やさしい人との出会いに恵まれていますね。

Q:「草と本」ではワークショップやトークイベントなども開かれていますが、企画はご自身でされていますか?

いえ、私は企画をほとんどしていなくて、知り合いから私のところに相談が来るんです。私が何かをやりたいと提案して始まるのではなくて向こうから話が来て、じゃあこの場所で開催しましょうか、という流れが多い。近隣の迷惑にならないように音楽のコンサートも工夫して行ったこともあったりと、飛び込んで来るアイデアを受け止めて「草と本」でできることが広がっています。そして、この場所の空気を気に入った利用者が、また別の人を呼んで来てくれるんです。訪れた人が日常から少し離れてリフレッシュしたり、新たな出会いが生まれたりするような、風通しのいい場所になっていたらうれしいです。

「灯台」2020年

東京のヨロコビtoギャラリーで開催された個展「草と本の草」展示作品。

Adobe Stockを利用して

Q:Adobe Stockのようなクリエイティブクラウドでの販売は、初めての経験ですか?

今回のお話をいただくまでは、クリエイティブクラウドのようなWEBサービスがあることを知りませんでした。どこにいても観れる、どこにいても絵を購入できるのはいいことですね。今までは絵の展示をとおして観た人が自分のことを知ってくれたり、絵を買ってくれたり、仕事につながったり、という流れがほとんどでした。WEBサイトに登録するだけで、世界中の人に作品を観てもらえる仕組みはありがたいですね。

Q:今後、Adobe Stockでアップしてみたいテーマは?

今のところ、リクエストされたテーマで描いた風景画の登録だけですが、人が使いたいと思う絵を意識して描いてみたいですね。どういう作品が好まれているのか、WEBサイトをチェックして分析してみます。今回はアナログで風景画を描きましたが、デジタルで描くことにもチャレンジしてみたいです。

Q:あらためて、「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」というテーマで今回描いてみての感想をお聞かせください。

私自身が新鮮な空気を味わいたいと思う場所が、まさに作品で描いたような瀬戸内海の風景です。水があり、空があり、緑がある場所。島が点在するあの穏やかな風景を眺めながら、たっぷりと深呼吸する日が待ち遠しいです。

いかがでしたでしょうか? 今回ご紹介したダイモンナオさんの作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションやビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくとお得にお求めいただけます。購入プランに関してはこちら を御確認下さい。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらをご覧ください。