南波タケ「シンプルでわかりやすいAdobe Frescoは絵を描くには“ちょうどいい”ツール」 Adobe Fresco Creative Relay 22
アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
1月のテーマは「雪だるま」。キーワードを聞いて、雪だるまをモチーフにしたキャラクターをイメージする人もいれば、雪が降る日、わたのように白く積もった雪をかき集めて、小さな雪だるまを作る、雪かきをしながら誰が大きい雪だるまを作れるかを競い合う……そんな経験を思い出す人もいるかもしれません。みなさんが「雪だるま」の言葉から連想したイメージをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #雪だるま をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第22回はつい共感してしまう、日常の何気ないワンシーンをストーリーに乗せ、ユーモラスに描き出すイラストレーター・南波(みなみなみ)タケさんに登場いただきました。
真冬の暗い夜、崩れかけの雪だるま
「雪だるまには、“ほっこり”とか“かわいい”というイメージがありますが、あえて逆のアプローチで、“さみしい”雪だるまを描いてみようと思いました。
ピンと張り詰めた冷たい空気、真冬の夜のコンビニ、崩れかけた雪だるまとゴミ出しをする店員、暗い道と明るい店内、あたたかいおでんとホットスナックの広告……一枚の絵でさみしさを伝えるには、絵のディテールがどのようになっていればいいのか。要素をひとつひとつ考えて描いていきました。
ただ、さみしさだけを表現しては暗い絵になってしまうので、雪だるまの顔や崩れかたに、ちょっとだけ“かわいさ”も加えています」
南波タケ「冬場の同僚」(2021)
進路に悩むなか、SNSで見つけたイラストの道
今でこそイラストレーターとして装画や広告イラストを手がけている南波タケさんですが、SNSにイラストをアップするようになったのは2018年、イラストレーターとして活動をしようと決めたのは2019年と、短い期間に大きな変化を遂げています。
南波さんは絵とどのように出会い、なぜイラストの道へ進むことになったのか。記憶を遡っていただきました。
「物心ついたころから絵を描いていたことはよく覚えていますが、“絵を描くのがなによりも好き”というよりも、数あるひとり遊びのうちのひとつという感覚だったと思います。
それでも夜ごはんを食べたあとには絵を描くというルーティーンが自分のなかにはあって、中学生くらいまではマンガやゲームの説明書の絵の模写をしていました。
よく描いていたのは『牧場物語』のキャラクターですね、『牧場物語』はすごく好きなゲームで、人生で一番やりこんだと思います(笑)」
南波さんがよく模写をしていたマンガ、ゲーム
高校へ進学すると絵よりも部活に夢中に。選んだ部活はバスケットボール部でした。
「部活が好きすぎて、高校時代はほとんど絵を描きませんでした。ノートやコピー用紙、付箋にちょっと落書きするくらい。自分でも特別絵がうまいと思っていませんでしたし、ほかにもイラストが上手な人はたくさんいたので、描いた絵を誰かに見せるようなこともなかったと思います」
「ネコいたら、ネコ見ちゃう」シリーズ(2021)
「3分と5分」(2021)
高校も終わりが近づき、進路について考えはじめた南波さんは、漠然と“ゲームが好きだからゲーム関係の仕事につけたら”と思い描くようになります。
「恥ずかしいくらい将来について何も考えてなくて……ふんわりしたイメージしか持っていませんでした。
ゲームの絵を描く仕事を目指すにしても、今のままではダメだということはわかっていましたし、もっとちゃんと絵を学ばなくてはいけないとも思っていました。ただ、そのときはどうすればその目標に辿り着けるのか、その道筋が見えなかったんです」
「初めてのデパコス」(2021)
思い悩みながら美大受験を目指す先輩や友人に話を聞くなかで、ひとりの提案が南波さんに大きな転機をもたらすことになります。
「『Twitterに絵をあげてみたら?』と言われたんです。
自分ではまったく絵がうまいと思っていませんでしたし、自分の絵を人に見てもらうということ自体、まったく考えたことがなく、TwitterやInstagramのようなSNSは、自分とはまったく違う世界の話だなと思っていました。
それでも、そのときは後先も考えずに『やってみよう』と思い、『南波タケ』という名前でイラストを投稿するようになりました」
“自由に描くより、お題があったほうが描きやすいタイプ”と自己分析する南波さん。SNSに投稿するイラストごとに明確なテーマを設定することで、迷いなく描けるようになりました。
そして、このアプローチが日常をユーモラスに切り取るイラストレーター『南波タケ』ならではのスタイルへとつながっていきます。
左:SNS初投稿作「寝坊現場」(2018)/右:「まずは丁寧にすり下ろしていきます」(2018)
思いがけないバズにとまどいながらもプロへの感触をつかむ
タイトルと組み合わせて見ることで、笑い、共感、驚きを呼び起こす“南波タケ”としてのイラストは、Twitterですぐに話題に。これには誰よりも南波さん自身が驚いたそうです。
「初めて多くの人に見てもらえたのは『出会いすぎる曲がり角』という作品です。それまで“絵がうまくないとダメだ”と思っていたので、“わたしみたいな絵でも大丈夫なんだ”と本当にびっくりしました」
描かれているのは食パンをくわえて学校に急ぐ男女が曲がり角でぶつかる、アニメでも鉄板のシーン。このシチュエーションを何組もの男女がぶつかる、ふしぎな曲がり角として描いたのがこの作品です。イラストのおもしろさはそれだけではなく、よく見ていくと一枚ずつ異なるパンの焼け具合や齧りかた、バタートーストもあればジャムトーストもあり、未開封のパンやおにぎりまで転がっている……光景の要素ひとつひとつに込められた情報量は圧倒的。ついつい見入って、なにか隠された意図を探りたくなるのではないでしょうか。
センスを感じさせるユニークなタイトルと、そのテーマに基づいて綿密に計算された構成は、それまでのバズるイラストとはひと味異なる、ユーモラスなしかけとして動作しています。
「出会いすぎる曲がり角」(2018)
「次に大きな反応を頂けたのが『運命の人、生きてないとかあるんだ』という作品です。これをきっかけに“イラストレーターになる”という選択肢が自分のなかで初めて生まれました。当時はまだ絵がヘタだという自覚があったので、“本気で絵を勉強すればもっといけるはず”とも強く思うようになりました」
天国へとつながる運命の赤い糸を描くことで、運命の人がすでにこの世にいないことを表現したこの作品は、タイトルと絵が一体となってはじめて成立するもの。絵はタイトルによって、より一層感情を沸き立たせるものになっています。広告コピーとビジュアルのように、相乗効果によってお互いがお互いを高め合う。このアプローチもまた南波タケさんならではの魅力と言えるでしょう。
左:「運命の人、生きてないとかあるんだ」(2019)/右:「ネコにお昼寝を教えてもらう授業」(2019)
Instagramで過去の作品を遡ってみると、2018〜2019年の作品はそれぞれ描きかたが少しずつ異なっています。主線のない、質感のある塗りで構成された画風にはどのようにして辿り着いたのでしょうか。
「このころはまだ作品をアップし始めたばかりということもあって、画風も定まっていませんでした。線画に色をつけることもあれば、厚塗りで描くこともあり、一枚一枚、試行錯誤しながら描いていて。何枚も描くうちに主線なしのほうが描きやすいなと思うようになりました。
自分のなかで画風が固まってきたと感じたのは、2019年に描いた『ネコにお昼寝を教えてもらう授業』ですね。Photoshopで気に入ったブラシが奇跡的に作れたんです」
初投稿作品「寝坊現場」からわずか3か月。南波さんを取り巻く状況は一気に様変わりしていきました。
南波さんが参考にしていた技法書、画集
2回のバズを経験してほどなくして、Twitterを通じてイラストの仕事が舞い込みます。
このとき手がけたTeam Unsui 第3回公演「ジャンプ」の告知ビジュアルは、イラストレーター・南波タケとしての初仕事になりました。その後もweb広告、装画等、依頼は続き、活動の幅は広がりを見せています。
右:Team Unsui 第3回公演「ジャンプ」(2019)/右:ディアボーテ「HIMIWARI」CM「ふしぎな雨男」シリーズ・web広告イラスト(CL:クラシエ/2020)
左:『新米フロント係、探偵になる』(著:オードリー・キーオン/翻訳:寺尾 まち子/発行:原書房/2021)/中:『非日常の謎 ミステリアンソロジー』(発行:講談社/2021)/右:『深夜の博覧会』(著:辻真先/発行:東京創元社/2021)
多機能すぎないAdobe Frescoは“ちょうどいい”ツール
SNSにアップされたイラストはすべて、Adobe Photoshopで描かれています。それまでにもPhotoshopは使っていたのかというとそうではなく、実は「南波タケ」としてイラストをアップするにあたって身につけたそうです。
「学校でちょっと使ったことはあったのですが、そのときはあまり機能を覚えられなかったんです。
Twitterに絵をアップすると決意したとき、Photoshopと液晶タブレットを買って、あらためて学び直しました。いろいろなペイントツールがあるなかでPhotoshopを選んだのは、ユーザーの分母が多いので、How to動画が探しやすいですし、ノウハウも豊富だと思ったからです。
Photoshopは完全に独学なので、ほかのイラストレーターさんのように使いこなせているとは言えません。でも不便だとは思わないんです。面倒だからとレイヤーすら作らず、一枚ですべてを描いてしまうくらいですから(笑)」
メインの作業環境はMacBook Pro+液晶タブレット
Photoshopの機能を無理に使わず、絵を描くための機能だけを使っていた南波さんの目に、Adobe Frescoはどのように映ったのでしょうか。
「Photoshopを使っているからか、操作に迷ったり、ストレスを感じることはまったくありませんでした。“スポイトを長押しすると、その部分が拡大されて色が拾える”というような動作も、“こうすればこうなりそう”ということがなんとなくわかる。直感的に操作できるのはすごくいいですね。
あとは個人的な話なのですが、左手を腱鞘炎で痛めているので、ショートカットを使わず、すべて右手で完結できるのはすごくありがたいです」
南波さんの作業画面。左にパネル、右にツールを置く構成
機能面で南波さんが気に入っているのがエクスポート機能とPhotoshopとの連携。ほかにも使ってみたい機能があるそうです。
「iPadで描いていた絵をすぐにJPEGとして書き出せるクイック書き出しは便利ですよね。パソコンでPhotoshopを立ち上げたとき、Adobe Frescoで描いていたデータがクラウドドキュメントとしてすぐに開けるのも感動しました。
いまはまだ使えていませんが、一点透視図法、二点透視図法、三点透視図法のガイドが設定できる遠近グリッドも便利な機能だと思いますし、アニメーションにも挑戦してみたい。Adobe Frescoは複雑な機能がないぶん、わたしにとっては本当にちょうどいいツールなんです。雪だるまの絵を描いてからも使っていますし、これからも使っていきたいと思っています」
左:「青い夏」(2021)/右:「放課後の一服」(2021)
これまで主線のないスタイルで描いていた南波さんですが、最近ではタッチを変えた絵も描くようになりました。これまでのTwitterアカウント「南波タケ」とは別に「後頭部」というアカウントを作り、作品を発表しています。それまでの絵とは異なるアプローチで作品を描くようになったきっかけは何だったのでしょうか。
「これまで一貫して、“ポップでかわいいものを描くぞ”と思っていたのですが、絵を勉強していくうちに、主線のあり/なしや絵柄そのものと、絵の良し/悪しはあまり関係がないということに気づいたんです。もし主線のある“かわいい”を追求した絵でも仕事ができたら、これまでとは違う楽しさがあるはずと思ったんです。このタッチのイラストで、児童文学や教材のような子ども関係の仕事を手がけられたらと思っています」
左:「ゲーミング女の子」(2021)/右:人物カット(2021)
南波さんがチャレンジしたいことはこれだけではありません。南波さんの胸には好きなこと、好きなものにイラストを通して関わっていきたいという気持ちがあふれています。
「テレビゲームはもちろんカードゲームやTRPG、アニメ、野球(特にソフトバンクホークス)も好きなので、仕事で関わることができたらうれしいですね。あとはかわいいキャラクターも大好きなのでサンリオさんともいつかお仕事をしてみたい。とにかくやりたいことがたくさんあるんです(笑)」
南波タケ
web|https://minatake.com/
Twitter(南波タケ)|https://twitter.com/tooiikara
Twitter(後頭部)|https://twitter.com/iikoutoubu
Instagram|https://www.instagram.com/minaminami_take/