世界的自動車グループ会社ステランティスのチーフデザインオフィサーに日本から大学生が直接デザイン提案

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アドビがYouTubeで公開している「Learn from Artists: How to Build Your Career in Design」(海外デザイナーに学ぶ!キャリアとチャンスをつかむ方法)は、世界で活躍するデザイナーに直接インタビューして構成された番組で、キャリアや仕事内容について生の声をお届けしています。2022年3月に公開された回では、世界的自動車グループ会社ステランティスのチーフデザインオフィサーRalph Gilles氏にお話を聞き、カーデザイナーを志す日本の学生が自分のデザインをGilles氏に提案するという夢のような機会が実現しました。

世界で活躍するカーデザイナーに直接プレゼンテーション

Gilles氏にデザインを提案したのは女子美術大学芸術学部デザイン工芸学科プロダクトデザイン専攻3年生の大亀碧さん。早くからプロダクトデザインに興味を持ち女子美術大学附属高校を経て大学に進みました。現在企業でのインターンなどを積み重ねカーデザイナーを志しています。

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大亀さんが車のデザインに興味を持ったのは、ご両親がカーデザインに携わってきた影響もありましたが、中学生の頃にマセラティというブランドの車のデザインに心を奪われた経験が大きく、自分の専門領域として意識するまでになりました。現在は免許も取得し運転するのも大好きで毎日のように車で出かけているそうです。

Gilles氏がチーフデザインオフィサーを務めるグループ会社ステランティスは、アルファロメオ、クライスラー、フィアット、プジョーなど名だたるブランドで構成されていて、マセラティもそのうちのひとつ。まさに大亀さん憧れのグループ会社のデザインのトップに直接デザインを見てもらえるチャンスです。大亀さんはどのような準備をして臨み、Gilles氏への提案を通して何を感じたのでしょうか。

「Find my cozy」をコンセプトにCMFデザインを提案

大亀さんが今回取り組んだのはCMFデザインと呼ばれるColor(色)、Material(素材)、Finish(表面加工)のデザイン。CMFデザインは、プロクトの形ではなく、表面に特化したデザインを行う分野で、どのようなプロダクトにおいても注目されています。

大亀さんはGilles氏より素材提供を受け、クライスラーのコンセプトカーであるAirflow ConceptのCMFデザインに挑戦。10年後、2032年の若者をターゲットにアイデアを練り上げ、「Find my cozy」をコンセプトに、朝焼けの空のように穏やかで居心地が良く、明るく前向きな気持ちになるデザインを提案しました。

Cgで描かれた車
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大亀さんが提案したCMFデザインの全体像

質感を伝えるためにPhotoshopでていねいに加工

大亀さんのデザインは、落ち着いた微妙な色合いや、シートの包み込むような素材感、表面処理のさりげなくもきらびやかな印象などが特徴です。これらを伝えるためにはビジュアルでの再現力が必要でした。大亀さんは元となる写真にPhotoshopで多くの加工を施して表現しています。

コンピューターのスクリーンショット
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オリジナルの写真素材(左)をPhotoshopで想定したデザイン通りに加工(右)

大亀さんは普段の授業でもPhotoshopとIllustratorを使ってきましたが、過去にインターンとして企業の現場のデザイナーの仕事に触れ、より実務的な使い方を学んだことが、今回のCMFデザインの提案にとても役立ったそうです。例えばインテリアの細かな縫い目を効率よく選択して色を変える方法や、表面処理のギラギラした感じを演出するコツなど、実務に即した作業工程を知ることができ「とても勉強になりました」と大亀さんは振り返ります。

プレゼンで伝えるための工夫はIllustratorで

自身のCMFデザインをプレゼンテーションするにあたり、「どこを変えたのかわかりづらく、何をデザインしたのか伝わりづらいと思ったので、いろいろな工夫をしました」と大亀さん。Illustratorでプレゼンテーション資料を作成する際に、部分的に極端に拡大して見せたり、プレゼンテーション時にビフォー、アフターの変化をスライドショーで見せたりなど、様々な工夫をしました。

文字の書かれた車
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表面処理の提案。適宜拡大して質感を伝える工夫をした

提案デザイン自体の表現を磨くことに加え、プレゼンテーションのデザインにも細やかな意識を向けたことが資料から伝わってきます。

デザイナーの視野の広さに気づく

プレゼンテーションを受けGilles氏は、大亀さんが車をサードプレイスとして捉え、日常のストレスから逃れられる場所にしようとした視点に注目します。リラックスできるインテリアのデザインはそれを実現する力強いアプローチだと評価しました。

大亀さんがGilles氏に未来の車のデザインについて意見を聞くと、「ある層では車のシェアが進むでしょう」と予測。同じ車を様々な人が使うことになるので、使う人の好みに合わせて使っている間だけインテリアの側が変化するようなデザインのあり方を、ひとつの未来像として示しました。現在もCMFデザインは非常に重視されていて、グローバルに展開する車では国ごとの事情に合わせて様々なアレンジがされているそうです。

ドアの前で写真に写る男女
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対談の様子。Ralph Gilles氏(右上)、プロデュース兼通訳Ishioka Yuki氏(左上)、大亀碧さん(下)

Gilles氏の話を振り返り、「私は視野が狭いんだなと思ってしまいました」と大亀さん。「いつも自分の身の回りの問題を意識して作品作りをしていたので、マーケットによってCMFが変わるというお話にはっとしました」。「デザイナーになるのであれば、もっと多角的な視点、車が使われる場所以外にも、シェアのような所有の仕方によって用途が分かれていくということを頭においておかなければと思いました」。

直接Gilles氏に意見を聞けたことで、デザイナーとしての大切な視点が大亀さんの心に強い印象として残ったようです。

便利にしたい!自分で作る!を実現するアドビ製品

大亀さんのデザインの原動力は、「人が笑顔になるようなものを作りたい」「困っていることを解決したい」という思い。日常的に自分で不便だと感じることがあったら、自分で作ってしまおうとデザインすることもあります。手を動かしスケッチしたり紙で試作をしたりしますが、「実際に形にするときにとても便利なのがIllustratorですね。図面を書いて印刷して組み立てると簡単に正確なモックアップを作成できます」。最近では自分の思い描く用途にぴったりのバッグをデザインして実際に革で制作し、毎日のように使っているそうです。

大学の授業では、実際に造形したり手書きのスケッチをしたり様々な方法でプロダクトデザインに取り組んでいて、PhotoshopやIllustratorなどのアドビ製品は、図面を書いたり、作品を撮影して写真を加工したり、プレゼンテーション資料を作る際などによく使っています。

じょうごグラフ が含まれている画像
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学校の授業で作成したプロダクトデザイン。軽快でとても便利そう

落ち着いた様子でプレゼンテーションをした大亀さんですが、本当はとても緊張しやすいそうで、たくさん練習をして資料をていねいに準備して臨みました。「今回自信を持って発表できたことが、今後の大きな自信につながりました」。デザインのスキルはもちろん、今回のような経験を積極的に積み上げ未来に向けて力をつけていく姿がとても楽しみです。