Adobe Stockのモーショントレンド「Metaverse Mix」に見る新しい仮想世界
ブログやフォーラムから、オンラインゲーム、チャットルームに至るまで、共有デジタル空間は多くの場合、私たちを取り巻く現実の世界とは対照的な世界です。それは架空の世界、ひいては仮想の世界であり、現実を代替する存在だといえるでしょう。しかし、ここ数年間でそのような認識に変化が生じました。これらの仮想空間が以前にもまして、仕事、遊び、エクササイズ、社交、探求、消費の場として利用されているのです。
仮に私たちが日常生活の大部分を仮想世界で送る場合、仮想世界は実際に触れたり味わったりできる現実世界よりもリアリティーに欠けると言い切れるでしょうか。哲学者のDavid Chalmers氏の言葉を引用するならば、「バーチャルリアリティは本物のリアリティー」です。
このインタラクティブな共有仮想空間を表す便利な言葉、それはもちろん「メタバース」です。2022年のAdobe Stockのモーショントレンド「Metaverse Mix(メタバースミックス)」では、メインストリームカルチャーにおけるメタバースの台頭や、日常生活のシーンでの活用、将来的に需要やオーディエンスの反響が見込まれるストックコンテンツなどの分野に対するメタバースの影響をご覧いただけます。
このモーショントレンドでは、不思議、楽しさ、解放感、安全性、さらにはちょっとした不安など、共有仮想体験に関する要素を様々な面からとらえています。インスピレーションあふれるMetaverse Mix(メタバースミックス)のギャラリーには、仮想風景や未来的でシュールな文字表現から、テクノロジーを体験している人々の映像に至るまで、厳選されたストック素材が幅広く含まれており、私たちをメタバースの世界へと誘います。
メタバースの到来
2021年は「メタバース」に対する世間の関心が高まった一年でしたが、その存在は文学、ビジュアル、インターネット、ゲームなどの分野で実はかなり前から認知されていました。「メタバース」という言葉は、1992年のNeil Stephenson氏の小説『Snowcrash』の中で初めて登場しており、「サイバースペース」というコンセプトを掲げたWilliam Gibson氏などの作品から、デジタルでアクセスできる共有空間というアイデアが少なくとも1980年代からあったという事実がわかります。さらに遡ると、仮想の共同空間内で架空のキャラクターを設定して操作するという体験は、1970年代の『Dungeons and Dragons』のようなロールプレイングゲームで既に定着していました。
開放性、遊び、共有デジタル空間または仮想空間というこれらのアイデアは、大容量のデータを流せるインターネット環境と、複雑な仮想世界をレンダリングできる高い技術力があれば、現実性を持ったものになっていきます。
21世紀に入ってからの最初の数年間に、『Runescape』や『World of Warcraft』などファンタジーをテーマにしたゲームから、『Second Life』や『Sims Online』など、より現実世界に即したゲームに至るまで、MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、マッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム)が爆発的に普及しました。現代でも、スケールが大きくて人気も高く、文化的影響力の大きい『Minecraft』、『Apex Legends』、『Fortnite』などのゲームは実質的にすべてMMORPGです。
多くのVR、AR、オンラインゲーム(『ポケモンGO』など)で使用されているゲームエンジンで有名な開発会社のUnityは、数十億ドルを投資して、Peter Jackson VFX studio Wetaなどのテックアセットを買収しています。Microsoftが最近買収したActivisionは、『World of Warcraft』、『Call of Duty』など、ゲーム史に燦然と輝くロングランヒット作品を保有する企業でした。また周知のとおり、Facebookが未来のあるべきところというビジョンを掲げ「Meta」に社名変更したのは記憶に新しいところです。
メタバースの美学
メタバースが主流になってきたことでビジュアルの在り方に変化が生まれ、それが今年のストックコンテンツに影響を与えて盛り上げてくれるだろうとアドビは予想しています。これは、共有仮想空間内で花開いたメタバースの美学(スタイル、カラー、テクスチャー、イデオロギー)がどのようにしてビジュアルトレンドにまで上り詰めたのかを考えると明らかです。
このメタバースの美学は、穏やか、あいまい、ノスタルジック、庶民的、最先端、コテージコアなど、あらゆる物事に対する文化的な解毒剤であることです。それは、ビデオゲームのキャラクターや仮想風景の、極端に激しく、まばゆい、ネオンできらめく外観に表れています。デジタル操作を新たな高みへと導くことに大きな喜びを覚え、写真、ビジュアルエフェクト、モーショングラフィックス、3Dモデリングの境界をあいまいにします。
今やBryan Huynh氏のようなアーティストがVogueの表紙を飾り、ナイキの広告やGrimesのプロモーションを担当して、デジタル、シュールレアリスム、SFとファンタジーを併せたテーマで、写真の境界線を否定してさえいるような作品を制作しています。また、メタバースの美学を語るうえではCharlotte Rutherford氏も注目に値します。同氏の作品も同様に、未来的で幻想的な風景で初期のTumblrの美学を彷彿とさせる過激な表現により、Lil’ Nas X氏の目に留まりました。
Metaverse Mix(メタバースミックス)ギャラリーでは、シュールで拡張性が高く、未来的で幻想的なこのビジュアルが、ストックビデオの多くのビデオグラファー、コンポジター、デザイナーにどのようにインスピレーションを与えているかをご覧いただけます。Dmitryのようなレトロで未来的なデザインのクリエイターから、unlimit3dのテクノオプティミズム、designprojectsの宇宙的な冒険に至るまで、幅広い素材をご覧ください。
メタバースで生まれ、メタバースを超えた存在に
メタバース空間では数億もの人々が時間のみならずお金さえも消費しており、その効果が実生活に波及することは必然と言えるでしょう。メタバースと日常生活は一方通行ではなく、相互に行き来できるものなのです。メタバースのデジタルエフェクト、グラフィック、モーションデザインは私たちの現実世界に影響を与え、現在進行形の進化によって、メタバース空間のデザイン、外観、感じ方は刻々と変化しています。
メインストリームのカルチャー、セレブ、メジャーブランドも注目
昨年、Ariana Grande氏の「Rift Tour」がFortniteで開催され、ゲーム内でコンサートを楽しめるほか、バッジ、衣装、「スキン」などのデジタルアイテムがバーチャルストアで販売されました。Gucciのようなハイファッションのブランドは、メタバース内でインスタレーションとバーチャルストアを展開し、ブランド認知の向上を促進。John Deereのような老舗のブランドでさえ、メタバースのアセットを作る誘惑には抗えず、Minecraftを通して新規顧客の獲得に努めています。
著名人や有名企業がメタバースのカルチャー空間に参入している状況を考えると、小さな独立系ブランドやニッチなブランドも今後その流れに追従すると見てよいでしょう。エージェンシーやクリエイターがクライアントにアピールするためには、コンセプトのビジュアルや根拠が必要です。そしてクライアントには、コンテンツそのものがどのように見えるのかと同様、クライアントのコンテンツと組み合わせたときにどう見えるかも提示します。これがMetaverse Mix(メタバースミックス)ストックコレクションにビデオやモーションコンテンツも収録されている理由で、メタバース空間そのもののレンダリングに加えて生身の人間がメタバース空間で相互にやり取りしている様子も描いています。
メタバースの活用
Metaverse Mix(メタバースミックス)は2022年にアドビが取り上げる最初のモーショントレンドですが、デジタル空間とその美学は一時の流行ではありません。これまで見てきたように、DnDやCyberpunkからFortniteやGucciの最近のマーケティングキャンペーンまで、共有仮想空間と私たちを取り巻く世界との関係性は現在も継続し、相互に影響を及ぼしながら蓄積されています。
伝統的なビジュアル世界で、新しいアイデアと古典のリバイバルが絶え間なくダイナミックに行き交うのと同じように、メタバースは持続的に変化を遂げ、順応し、ひいては新たな作品が生み出される場所を作っていくでしょう。
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