デジタル環境の幸福度を向上する「マインドフルな体験」をデザインしよう | アドビ UX 道場 #UXDojo

デジタル環境のウェルビーイングを向上する製品デザインに役立つ Maddy Beard の無料のワークシートが公開されています。

この数年、AI を始めとする新しい技術に支えられた「アテンション・エコノミー」が大きな注目を集めています。本当にたくさんの良いことのために使えるであろう信じられないような技術の進歩がありましたが、その多くはビジネスの収益を得るための行動パターン解析に使われてきました。その一方で、持続可能性、アクセシビリティ、倫理への注目も高まりをみせています。しかしこれまでのところ、これらの人や社会のための活動と、新技術のムーブメントが組み合わされることはごく稀でした。これが変わり始めています。

「The Social Dilemma」のようなドキュメンタリーが公開される以前でさえ、人々はアテンション・エコノミーの負の影響に気づきつつありました。ユーザーを操ろうとする心理的な戦術からは、より多くの企業が距離を置くようになり、代わりにユーザーのニーズや利益に注力し始めています。今後、精神衛生に害をなす製品に見切りをつける人々がますます増えることでしょう。

自社の顧客のウェルビーイングを本当に大切にし、それを優先事項に掲げて製品やサービスをデザインする企業こそが、目覚めた顧客の関心、そして市場シェアを獲得し維持できる企業です。今こそデザインを通じてデジタル・ウェルビーイングを推進するべきなのです。

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よりマインドフルな製品をデザインする方法について学びましょう。これは、どのような企業、顧客、チームと仕事をする場合でも通用します。

「デジタル・ウェルビーイング」のためのデザインとは?

「デジタル・ウェルビーイング」は、テクノロジーやデジタル体験が、ユーザーの精神的、感情的、身体的健康に与える影響を表したものです。そして、デジタル・ウェルビーイングのためのデザインとは、こうした健康への影響を、ビジネスや技術的な施策と同じレベルの重要なものとして扱う協調的な取り組みです。より広い意味では、テクノロジーは生活を向上させるために使われる道具であるべきで、生活を妨げるべきものではないという信念とも言えます。

ユーザーのデジタル・ウェルビーイングが最初から考慮されていないと、社会的、あるいはビジネス固有の影響が発生します。社会的な面では、デジタル・ウェルビーイングを規定する法律がないまま進み続けると、特にソーシャルメディアでは、より多くの若い世代がメンタルヘルスの問題に悩まされることになるでしょう。ビジネス視点からのリスクは、ユーザーの信頼を失う可能性です。人々は倫理的な企業を支持しようとします。それは、食品分野であっても、衣料品分野であっても、そして技術分野であっても同じです。テクノロジーによって、企業と顧客間の透明性の強化が容易になった現状を踏まえると、心配りのされた倫理的なアプローチをとり、ユーザーと強い関係を築いている企業は、そうではない企業を押しのけていくことになるでしょう。

リアルなユーザーと共感リサーチを実施する

ユーザーと人間同士として語り合う共感リサーチは、デジタル・ウェルビーイングのためのデザインを成功させる秘訣です。アテンション・エコノミーのように単純化されて人から切り離された定量的データに依存するのではなく、定性的データ(厄介ではありますが)にもっと頼るということです。

マインドフルな製品のためのリサーチはニーズの特定から始まります。当たり前のように聞こえるでしょうが、課題を発見し、その課題を経験する人のために解決策を創出することに集中するほど、最終的な解決策が配慮の行き届いたもの、すなわちマインドフルになります。実際に人々が抱える問題には微妙なニュアンスがあり、定量的なデータだけで完全に理解することは不可能です。ですから、実際の人間と対話し観察することが常に重要なのです。製品をデザインする際、この種のリサーチは際限なく続けることができますが、必ずしも大規模に行う必要はありません。これは、単純な繰り返し作業としてではなく、むしろ企業価値として取り組むべき行為です。

一人ひとりと対話することの大切さは、これまでに関わったプロジェクトから学びました。一人だけの意見を根拠にデザインを決定することはできませんが、1 対 1 の会話を重ねて意味のあるパターンを見いだし、それを製品に反映させることは可能であり、すべきことです。私の場合は、プロジェクトの要件に応じて一定の条件を満たす 12〜15 人と話をしました。その際、本当に製品を使い、話を聞く価値のある体験をしている人を確実に選ぶことには気を配りました。おかげで、意思決定に役立つパターンを見つけられただけでなく、その人たちの存在を意識しながらデザインすることができました。彼らの真の問題の解決に集中し、私の仕事を有意義なものにできたのはそのためです。

行動心理学を社会的利益に役立てる

認知心理学を学んだデザイナーは、成功への道を見出せるでしょう。あまりにも長い間、多くの企業が、人間の脳の脆弱性についての知識を利用して、ユーザーを誘導しようとしてきました。今こそその考え方を反転させて、認知的な感性を支援し、ユーザーとの信頼関係を構築する時です。

私たちの脳が生まれつき持つ特性を理解すれば、それを補助することも悪用することもできるようになります。例として「社会的証明」を挙げてみましょう。ソーシャルメディア上で注目を集めると、人間の脳はドーパミンを少しばかり分泌することがわかっています。これは快楽物質で、この報酬を与えている外的要因をさらに求めるよう人々を動機づけます。ほとんどすべてのソーシャルメディアアプリは、人々をできるだけ頻繁にアプリに引き戻すためにこれを利用しています。しかし、デジタル・ウェルビーイングを第一に掲げるなら、1 日分のアラートを収集・整理し、ランチタイム、あるいはユーザーが指定した時間に通知をするシステムをデザインしているかもしれません。

もし、提供している製品が問題を実際に解決しており、その利用体験が使いやすく楽しいものであるならば、ビジネスゴールの達成のために心理的な戦術を用いる必要はありません。ToDo リストアプリの TeuxDeux には、気配りの感じられるアプローチに何年も感心させられています。デジタルペンと紙のようにシンプルですが、柔軟性があって役に立つよう意図された機能が提供されています。本当に人間的だと思える瞬間があって、たとえば、その日の最後の ToDo を完了してチェックを付けると、飛んでいる猫が画面を横切ってお祝いをしてくれて、画面の裏側から微笑んでいるクリエイターの存在を感じられるのです。TeuxDeux は通知機能すらありませんが、毎日何度も開いて使っています。日々の生活に望むままに適合し、思い通りにコントロールできます。実際に料金を支払って使っていますが、それは体験の素晴らしさと、ブランドへの信頼と尊敬の念が理由です。

よりマインドフルなデザイナーになるために

よりマインドフルなデザイナーになるため、そして、他のチームメンバー、ステークホルダー、クライアントにも同調してもらうためのアドバイスは「すべてを疑え」です。もし、何か操作されているように感じたら、立ち止まって疑ってみましょう。あたりまえとされていることに挑戦し、何か代わりのデザインやアイデアを考える習慣を身につけましょう。他のアプリが採用していることが最もマインドフルな解決策とは限りません。もしチームが躊躇するようなら、テストして確認してもよいかを聞いてみましょう。そして、デジタル・ウェルビーイングをまったく考慮していないチームやクライアントと仕事をしているなら、非難することなく、彼らを感化することに全力を尽くしましょう。たとえば、次のような発言をしてみましょう。「面白そうな記事がありました。特に XXX についてのこの箇所は、私たちチームとして検討すると、とても有益かもしれません」

テクノロジーに没頭してより多くの時間を過ごすことが、人に与える有害な側面は無視しがたいものです。それでも、そこで失望してしまう代わりに、デザイナーの仕事を今よりも影響力のあるものにする機会だと捉えるよう努めることはできます。

画面をデザインしてそれを次のステップに渡すだけでは、「マインドフルなデザイナー」とはいえません。マインドフルなデザイナーは、プロセス全体を通じて、もちろん完成して公開された後でも、種々の異なる視点を考慮に入れつつ、ユーザーの側に立って関わり続けるものです。デザイナーの役割がとても強力なのは、製品やユーザージャーニーを実際に方向づける出発点にいるからです。つまり、デザイナーは、よりマインドフルな姿勢を打ち出し、すべての段階で自身のビジョンに忠実であることによって、チーム全体、製品、さらには業界にまで、波及効果を生み出すことができるのです。

この記事は Design more mindful products that promote digital well-being(著者:Maddy Beard)の抄訳です