Adobe CCによるデザイン内製で時代に即応したコミュニケーションを構築するNOINの戦略
会社のビジョンは『明日の自分に、ドキドキしよう』
ノイン株式会社(以降NOIN)は2016年に創業し、化粧品業界でECサイト、メディア、オリジナルブランドという3つの事業を展開している会社です。
スマホアプリ「NOIN」はリリース後3年で280万ダウンロードを達成し、購入会員数は14万人を突破。Instagramでのコスメ情報発信との相乗効果によって、SNSと親和性の高いミレニアル・Z世代の支持を集めるなど、それまでのコスメECサイトとは一線を画す展開を見せています。
ドラッグストアやバラエティショップで販売されるプチプラコスメから、デパートで販売されるデパコスまでを取り揃え、クチコミサイトで評価される以前の商品もすばやくキャッチアップ。これまで売り場が分散していた化粧品をNOINのサイトに集約することで、現在では“ほしい化粧品が見つけられるプラットフォーム”へと進化を続けています。
2020年にコンビニエンスストア・ファミリーマートで販売を開始したオリジナルブランド「söpö」は店頭売り上げ100万本を突破し、メディア、ECに加わる3本目の柱へと成長しました。
NOINはなぜ、このように短期間で大躍進を遂げることができたのでしょうか。
その背景のひとつに“デザイン・制作の内製化”があります。NOINではクリエイティブをどのように捉え、かたちにしているのか。代表取締役CEO・渡部 賢さんとクリエイティブチーム・木村 辰さんに話を伺いました。
左:代表取締役CEO・渡部 賢さん/右:クリエイティブチーム・木村 辰さん
渡部「僕たちはいま化粧品を売っていますが、最初から化粧品販売を目的にスタートをしたわけではありません。もともとはお客さまがまだ見ぬ自分を楽しみにして、そこに向かうための一歩を後押しするような存在でありたい。そうした想いを抱くなかで、“化粧品はそれができる魔法のツールなんじゃないか”と考え、取り扱いを始めるようになりました。
現在のメイン事業はスマホとwebで展開するECサイトですが、もともとはSNSに特化した動画メディアからスタートし、ECサイトはその後に立ち上げています。“なぜECがメディアの後だったか?”というと、ファッションに比べて化粧品はECサイトでは買いにくいという課題があったからです。洋服なら写真を見るだけでどういうものかがわかりますが、容器に入った化粧品ではそれが伝わりませんよね。結局、インフルエンサーの発信やクチコミの評価で判断するしかありませんでした。
そうした状況を打開するためにも、化粧品を魅力的に見せ、コンバージョンにつなげることができる方法をメディア制作を通じて研ぎ澄ませる必要があると考えたのです」
NOINのInstagramを見ると、そこには実際に編集部員によるレビュー付きの商品紹介やテーマごとにコーディネートされたアイテムが並んでいます。プチプラからデパコスまで、そして定番商品から発売まもない商品まで、編集部員がユーザーと同じ目線になって情報を届ける。こうした等身大のコミュニケーションこそが、NOINがSNS世代を中心に厚い支持を受ける理由と言えるでしょう。
NOINのInstagramページ。フォロワーは2022年5月現在24.6万人
渡部「以前であれば、“デパコスしか使わない”という人もいたと思いますが、SNSで自分たちの写真、動画をアップするのが当たり前になったいま、メイクはファッションであり、自己表現のひとつになりました。そのための化粧品は、ブランドだけで選ぶのではなく、ほしい色、テクスチャが出せるアイテムを買う、そういう流れへと変わってきています。ポーチのなかでプチプラ、デパコスという区別はされなくなってきているんです」
NOINがドラッグストアやバラエティショップで販売される化粧品からデパートでしか買えないものまで取り揃えているのは、こうした時代の変化を受けてのこと。ほしいと思ったものが同じ場所で買える……一見、ごくふつうに思えることが難しかったのがこれまでのコスメECだったのです。こうした課題を解決するためにも、NOINは『本当にほしい化粧品が見つかって、それが当たり前に買える世の中をつくる』をミッションに掲げ、ブランドの拡充と情報発信を続けています。
スマホアプリ版「NOIN」。EC機能だけでなくレビュー記事も掲載されている
渡部「NOINなら、プチプラを買い続けてたまったポイントで、憧れだったデパコスにチャレンジできる。これこそまさに僕たちが目指す“明日の自分にドキドキしよう”なんですよね。
レビューサイトがクチコミ評価の数で勝負しているのに対して、僕たちがとっているのはお客さまと深く、長くつながるアプローチ。つまり、NOINのオススメなら買ってみよう……そう思ってもらえるロイヤリティユーザーを増やすことで勝負をしています。そのためにもコミュニケーションが何より重要だと考えています」
コミュニケーションを重視するNOINでは、配信されるコンテンツの量も膨大です。しかも、そのひとつひとつにNOINならではのディレクションが行なわれているため、企画からデザイン・制作に至る作業も相当量に。より効率的なコンテンツが求められるなかで、NOINがとった手法は、Adobe Creative Cloud(Adobe CC)による内製でした。
NOINの事業はPremiere Proによる動画から始まった
渡部「Adobe CCは創業当時の2016年から使っています。当時はFacebookで料理動画等が増えてきたころで、“これからは動画がくるぞ”と、直感的に感じていました。NOINはこうした状況の中で、メイクや化粧品の情報を動画で作ることからスタートしたのですが……当時は僕がAdobe Premiere Proで動画を編集していたんです(笑)。あまりに手が足りないので主婦の方にも協力をいただいて、パソコンを触ったことがないところから1ヶ月でPremiere Proを教え、メイクから撮影、動画の編集までしてもらう。コンテンツに関しては完全に内製化していました。
Premiere Proを選んだのは当時、YouTuberが一番使っていたからです。触ってみると、多機能ではあるものの、どうすればどうなるのか、イメージが湧きやすかったですね」
自らPremiere Proで動画を編集し、発信すること。そこには先を見据えた渡部さんならではの理由がありました。
渡部「もちろん当時はコストの問題もありましたし、会社が大きくなれば、いずれは外注を含めて分業せざるを得ないとは考えていました。
一方、組織のなかでリーダーとなる人間はすべての工程を理解しておく必要があるとも思っていて。どの段階でどのような作業が発生するのか、その作業にどの程度の負荷がかかるのか、全体の流れを一気通貫でわかっているからこそ、最適な組織づくりができますし、コミュニケーションも円滑になるからです。これはデザイン業務に関わらず、すべての事柄に当てはまると思いますし、会社としていまなおこだわり続けていることなんです」
ファミリーマートで展開されているNOINオリジナルブランド「söpö」
事実、オリジナルブランド「söpö」では商品企画担当者がSNS広告を社内デザイナーに依頼し、出稿も行ない、広告の予算設定からパフォーマンス測定まで担当しているとのこと。そしてこうしたNOINのスタイルは、デザイナーの可能性をも広げています。
渡部「2022年3月に発表したボタニカルヘアブランド『ABUR』(アブール)では、パッケージのデザインからブランドサイト、店頭什器のデザインまで、すべてのデザインを木村が担当しました。
ブランド構築では、お客さまとのコミュニケーションにおいてデザインが重要な役割を果たします。目にしたとき、手に取ったとき……あらゆる接点で統一した世界観を作り上げる必要がある。そのためにはグラフィックだけでなく、パッケージやwebも含めて社内で担当するというのが僕たちNOINの考えかたなんです」
木村「もともとはwebデザイナーとして働いていたのですが、NOINに参加するようになってからは、それまで経験がなかったパッケージデザインや店頭什器、POPのデザインまで担当することになりました。
Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorはそれまでも使っていたので、スキル面でのハードルを感じることはありませんでしたし、たとえやったことがないデザインでも、大変さよりも楽しさのほうが勝っていて。ブランドのデザインを一通り、担当できることなんてなかなかありませんから」
NOINオリジナルブランド「ABUR」
前述の「ABUR」はNOINが大田由香梨さんをクリエイティブディレクターに招いて立ち上げたブランド。NOINでは内製を推進する一方で、こうした外部クリエイターとの協業にも取り組んでいます。
渡部「考えかたに多様性を持たせたいということもありますし、さまざまな業界のクリエイターと仕事の経験を積むことは、社内のデザイナーにとっても宝物になっていくと考えているからです。むしろ積極的にすすめています」
「ABUR」のペーパーアイテムもすべて社内で制作されている
Adobe CCによる内製化でビジネスを加速する
NOINで現在、Adobe CCを活用しているのは、クリエイティブ、撮影、SNSの3チーム。それぞれ、目的に合わせてツールを使いこなしています。
木村「クリエイティブチームのメインツールは、Photoshop、Illustratorです。webを作るときはAdobe XDも使っていますね。フォントはサブスクリプションサービスに加入をしていますが、より多くの欧文フォントから選びたい場合や日本語フォントに変化をつけたいときには、Adobe Fontsでイメージにあうフォントを探しています。
最近では自社ブランドのロゴや写真素材を、CCライブラリを使って社内で共有するようになりました。アプリケーションを切り替えても、必要なときにすぐに素材を利用できるのは便利ですね」
木村さんの専門はwebだったがNOINに参加以降、メディアを超えたコミュニケーションそのものをデザインすることに
NOINのクリエイティブチームは現在2名。web出身の木村さんのほか、エディトリアル出身のデザイナーも在籍し、Adobe InDesignでも制作が行なわれています。
撮影チームにはフォトグラファー2名、レタッチャー2名が在籍し、撮影からAdobe Photoshop Lightroomによる現像、Photoshopによるレタッチまで対応。SNSチームはInstagram等にポストする画像をPhotoshopで作成しています。コミュニケーションの接点には常に、Adobe CCのツールが使われているのです。
渡部「社内にスタジオを作り、撮影から行なうようになったのは、“商品をすばやく、かつ魅力的に見せるためには写真を自分たちでコントロールする必要がある”と感じたからです。撮って終わりではなく、リアルな色味を再現するために、フォトグラファーだけでなく、レタッチャーも必要でした。
化粧品の色の再現性、忠実性は、その商品を売るNOINにとって非常に重要であると同時に、メーカーが僕たちに信頼をおいてくれるかどうかのキーファクターにもなっていて。それを実現するLightroomやPhotoshopは、NOINのコンテンツにとって欠かせないツールになっています」
個人のSNSや“使ってみた”系動画なら、多少の色の違いは大きな問題にならないかもしれません。しかし、メーカーのPR案件やECへの誘導を行なうNOINのコンテンツでは、色の再現性は非常に重要なものになります。スピードとコミュニケーション力が問われるSNSの世界であっても、メーカーとの信頼、ユーザーとの信頼を損なうことがないよう、LightroomやPhotoshopを活用する。こうした誠実なコミュニケーションは、NOINの大きな強みになっていると言えるでしょう。
社内スタジオでは撮影からレタッチまで担当。バック紙等も豊富に揃う。デザイナーと相談しながら撮影できるのも内製化のメリット
InstagramのポストはPhotoshopで作られている
写真にはクオリティを求める一方で、テキストやデザインは時代のトーンに合わせることを重要視していると渡部さんは話します。
渡部「僕たちはよく、“その言葉、ふだんから使ってる?”という確認をするんです。広告的な言い回し、教科書的なコメントでは共感は得られません。
デザインについても同じで、そのときSNSでよく使われている表現手法を取り入れながら、そのときの空気感にフィットするように調整し、あくまで見る人と同じ目線で情報を発信しています。デザインの良し悪し以上に、共感してもらえるかどうかのほうが重要なんです。ただ、こうしたトレンドは移り変わりが激しいので、少なくとも3ヶ月に一度は言葉遣いやデザインを見直しを行ない、テイストに変化をつけています」
内製化は配信のペースアップだけでなく、PDCAサイクルをより早く回すことにも貢献しています。NOINがSNS世代を中心に支持を集めるのには、こうした些細な変化を敏感に感じ取り、反映するしくみがあるからこそ。そしてそのためにもAdobe CCによる内製化は欠かせない選択肢だったのです。
渡部「NOINのバリューのひとつに“とにかく早くやろっ”というものがあります。思いついたら何よりもまず行動し、圧倒的なスピードで壁を突破する。あれこれ考えて行動を起こさないのは一番のリスクだと考えています。そのためにもクリエイティブチームの距離感は近いほうがいい。内製の一番大きなメリットはそこにあると思っています。
外注しているとどうしても相手のスケジュールに合わせる必要があったり、こちらが表現したい微妙なニュアンスをすり合わせるために時間がかかったりしますよね。共有しきれない部分を“まあ、これでいいか”で済ませてしまうかもしれない。でもこうした小さな妥協は、全体の綻びになりかねません。具体的な数値として出すのは難しいですが、外注を内製と比べたとき、トータルのコストは倍以上になると感じています」
内製にはコストパフォーマンスを上げ、スピードを出せるというメリットもある一方で、クオリティは担当個人の力量に依存してしまう側面もあります。渡部さんはこのコントロールをどのように行なっているのでしょうか。
渡部「基本的には“好きなようにやっていいよ”と言っています(笑)。
商品の世界観をどう表現するか、何を使ってどうデザインするかも、担当の裁量で判断していいと思っていて。そのとき、熱量がある人なら“こうしたい”という提案ができるはずなんです。
こちらから“こうしてほしい”と言い続けていると、言うのを止めた瞬間に成長が止まってしまってしまうかもしれない。そうした組織は自発的な成長ができなくなります。主体性を持って、“こうしたい”“こうしたほうがいい”というポイントを見つけて、次の仕事に組み込んでいく。こうしたサイクルを実現するためには、外注よりも内製のほうがはるかにやりやすいですし、熱量も担保できると考えています」
NOINは2016年の設立から6期目にしてコスメECとしてはトップクラスに登り詰めました。大手コンビニチェーンとともにオリジナルブランド「söpö」を展開し、「ABUR」ではSDGsへの取り組みも推進。短期間にスピード感のある成長を続けるNOINにとって、Adobe CCはどのような存在なのでしょうか。
渡部「情報を伝える媒体は時代によって変化しています。動画から始まり、webをベースに展開してきたNOINの事業も、いまはリアルな商品を作り、店頭で売るための印刷物も作るようになりました。そうした変化にも柔軟に対応ができるAdobe CCは、僕たちにとって必要不可欠なツールなんです」
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