成功するデザインチームをつくる Part 3: チームの構造と戦略 | アドビ UX 道場 #UXDojo
出典:Bhavya Minocha
成功するデザインチームの構築は、まず、優秀な人材を見つけることから始まります。これはとても重要な、そして当たり前のステップですが、実際には必要なことのほんの一部に過ぎません。チームの成功の度合いを決めるのは、人材を見つけた後に何をするか次第です。
まずリーダーは、チームに力を与え、サポートし、全員が同じ戦略的方向性の元に行動できるようにする必要があります。また、こうした連携を実現するには、デザインチームとしてしっかりとした戦略を持つことが鍵です。もし、デザイン戦略や強力なリーダーシップが欠けていれば、チームは戦略的な推進力にはなれず、代わりに単なるデリバリー部隊になってしまう危険すらあります。
私(コナー)がお気に入りのリーダーシップの指針は、元原子力潜水艦司令官でリーダーシップコーチのデイヴィド・マルケが以下の動画の講演で述べた、「最高の情報を持っている人(通常は顧客に最も近い人)に権限を持たせる」です。デザインチームをつくること自体、十分に難しいことですが、企業規模でそれを行うとなると、すべてがずっと複雑になります。そうした状況において、正しいアプローチを見つけるために役立ってきたのが下の動画です。もちろん、このアプローチを十分に遂行するために目標として掲げた行動からは、まだほど遠い自分を日々認識していることは認めます。つまり、私は優れたリーダーシップを目指す、長い学習曲線の途中にいるのです。
現在、BT/EE/Plusnet グループには、約 180 名のデザイナーが在籍しています。この規模になると、効果的かつ効率的なコミュニケーションも、優れたデザインリーダーシップも実現することは困難です。そうした状況に対処するために、私は、定期的なフィードバックと継続的な改善をサポートできる、可能な限り最高のクリエイティブな環境をつくることについて学ばなければなりませんでした。
私は今でもデザイナーですが、現在は文字通りに「デザインチームをデザインする」立場にいます。すなわち、製品をデザインと同じように、チームのデザインも反復的に学んでいます。また、私の素晴らしいチームの存在は、この目標の達成の助けとなりました。
デザインチームの構成例
大規模でありながら、調和のとれた生産的なデザインチームをつくるために、私たちは分散型モデルをデザイナーに適用しています。全デザイナーは機能横断型の製品チームに所属し、同時に中央集約型のデザインイネーブルメントチームによる支援を受けます。このイネーブルメントチームは、すべての管理業務を担当します。
このような分散型モデルに従い、私のデザインチームは 4 つの能力分野に分かれています。
- 製品デザイン: リーダーはリッチ・チョンです。このチームは、75 人以上の製品デザイナーから構成されています。所属するデザイナーは、UX デザイン、インタラクションデザイン、ビジュアルデザイン、ユーザージャーニー制作、分析などの複数のスキルを持ち、ユーザーと製品との関わり方や体験をデザインします。コンテンツデザイナーと協力し合って、引き継ぎのないプロセスで作業します。
- コンテンツデザイン: リーダーはレベッカ・ヘイルズです。このチームは、75 人以上のコンテンツデザイナー、コンテンツエディター、SEO スペシャリストから構成されています。コピーライティング、CMS 編集、ビデオ制作、ユーザージャーニー制作、コンテンツ戦略、ペアライティング、分析など複数のスキルを駆使し、ユーザーが本当に求めているコンテンツを作成し、照合します。
- インクルーシブデザイン: リーダーはジャネット・クレメントです。このチームは、現在 11 名のユーザーリサーチャー、アクセシビリティスペシャリスト、サービスデザイナーから構成されています。BT グループの大規模な経営モデルにおけるエンド・ツー・エンドの体験と、ユーザー向けサービス開発のフロントエンドからバックエンドまでの最適化を考慮して、誰もが使用できる製品をデザインします。
- デザイン業務: リーダーはマット・ゴットシャルクです。このチームは、 7 名のデザイン業務マネージャー、リサーチ業務、コンテンツ業務、デザインシステム部隊から構成されています。デザインチームが最高の仕事をできるように、チームに最高のツール、プロセス、メソッド、環境を提供する役割を担っています。
新しい働き方を求めて
この体制における最適な協業の方法を探す過程は、試行錯誤そのものです。もちろん、最高の仕事をするための新しい試みを恐れたことはありません。例えば、すべての製品部隊には、最低 1 名ずつの製品デザイナーとコンテンツデザイナーを配置します。この 2 つの役割が連携しながら働くことで、チーム内に仕事の壁をつくらないようにしています。概要や要件リストを手渡しする代わりに、社内の BML キャンバスのようなコラボレーションツールを使います。また、ユーザーニーズ、ビジネスゴール、テストすべき仮説を特定するために Miro を使って協業します。さらに Miro でユーザージャーニーの作成を行い、ステークホルダーを含む全員がいつでも見られるように公開します。これらの活動がつくり出すユーザー中心設計の文化は、組織の別部門にも波及しています。
以上の抽象的な作業の次は、製品デザインやコンテンツデザインのツールに移行して、互いに協力しながら制作に着手します。今や過去のものとなった制作プロセスは、要件定義書を作成し、コピーライターが Word 文書でコンテンツを作成し、UX デザイナーがワイヤーフレームを作成し、ビジュアルデザイナーがすべてを美しいデザインにまとめ、ステークホルダーにスライドデッキでプレゼンテーションを行って承認を得て、最後に開発者にすべてを渡すというものです。実に多くの段階がありました。
今はその代わりに、全員がクラウドベースの同じツールで一緒に(リモートからでも!)仕事をすることができます。最小限の労力で最小限の資料を作成することに注意しつつ、ユーザーやビジネスに提供する価値を最大化します。すべての段階で、チーム全体に透明性が確保されており、部隊のすべてのメンバーは常に一緒に働きます。
分散型チームの管理
リモートチームの管理に必要なのは、柔軟性と順応性です。パンデミックが始まり、多くの職場がリモートワークへの移行を強制されてから、これらのスキルが新たな形で試されています。
私たちが挑戦したのは、日々発生する固有の課題をあるがままに受け入れるということでした。例えば、ある人がパートナーと育児を分担しているために、ある日 1 時間おきに勤務時間と休憩時間をとる必要ができたとしたら、そのとおりにするのです。それが機能する限り、どのような働き方でも受け入れます。
また、私たちは意図的にコミュニケーションを過剰に行っています。Slack チャンネルの使い方、コミュニケーションスタイル、仕事の進め方、会議は、いずれもこれまでにない程の開放性を確保し、短時間で集中型のコミュニケーションと休憩の組み合わせにしました。そして不要な会議は削除・縮小しました。ビデオ会議では外向的な人たちの後ろに隠れてしまうような人たちに、少しばかり手を差し伸べることが、チーム全体に大きな違いをもたらしています。それから、通常は対面で行うような、ちょっとした個人的なおしゃべりや、近況の確認、楽しい交流のためのスペースを常に確保するようにしています(遠隔から参加できるちょっと変わったトリビアクイズもあります)。
先月は 11 人がデザインチームに新しく加わりましたが、デザイン業務チームのおかげで、何とか初めての完全リモートの新人研修を行うことができました。さらに、毎月の全員参加のミーティング、日々のワークショップ、ユーザビリティテストもすべてリモートです。この切り替えが数日で行われたことを考えれば、私たちは状況や環境をとても素早く学び、適応しているといえるでしょう。
デザインシステムで創造性をシステム化する
デザインシステムには創造性を殺してしまう可能性があるという考えは、ある程度の真実を含んでいます。ただしそれは、システム構築とその最適化の方法、それから運用方針にも依存します。例えば、デザインシステム構築の最終的な目標を業務全体の効率化にすることもできますし、創造性の体系化を試みるという、より高い目標に向けて努力することもできます。
私たちは、3 つのブランドに単一のシステムで対応する新しいデザインシステムを構築したところです。まだ初期の段階ですが、創造性をデザインシステムに確保するために採用したツールのひとつは、私たちが「デジタルデザイン言語」と呼んでいる、ブランドガイドラインとデザインシステムをつなげるリンクです。
私たちはブランドガイドラインによって明確なルールを定めていますが、デジタルデザイン言語は順守すべきルールではありません。また、一連のコンポーネントの説明やアトミックデザインの要素でもありません(それらはデザインシステム内に存在しています)。
デジタルデザイン言語は、抽象的な世界観をメタファーとビジュアル表現によって記述したものであり、下の 3 つの主要な基本領域についての考え方を網羅しています。
- 物理: シェイプ、スペース、奥行き、触覚、テクスチャ
- 動き: 振る舞い、コレオグラフィ、パーソナリティ、態度
- 関係: インタラクション、配置
この 3 つの抽象的な指針により、デザイナーは、新しく体験の課題が発生するたびに、新しい表現を再発見する余地を確保しつつコンセプトを探求できます。
言い換えると、常にパターンライブラリーから既存のパターンを再利用しなければならないとか、新しいパターンを採用したためブランドのガイドラインを破ってしまったなどと感じることはありません。シェイプ・スペースからコレオグラフィ・配置まで、広く境界を定義したブランドのデジタルマニフェストには、創造性だけでなく、継続的に体験を改革する発想も確保する狙いがあります。
私たちは、既存アプローチからの逸脱の容認だけに留まらず、積極的な逸脱の奨励さえも視野に入れて、軽量のガバナンス構造も構築しました。その際、効率は厳しく測定されます。つまり、継続的に仮説が駆動するデザイン文化が歓迎され、期待されているということです。これによって達成された一貫性は「常に継続する変化」です。
もちろん、完璧なチーム、完璧な働き方、完璧な製品体験を実現する過程に、多くの課題や制約があるのはどの企業でも同じです。しかし、それがデザイナーであることの楽しみの半分でもあります。制約は革新へのきっかけです。デザイナーは制約を特定し、それに挑戦し、現状維持やすぐに見つかる簡単な答えを拒む存在であるはずです。デザインリーダーとしては、正しい意図を持つよう心掛け、透明性を保つことに注力しています。正しいことを正しい理由で行おうとしているのであれば、通常は前に進み続ける道が見つかるでしょう。
デザインに関して、私たちが持っている大きな野望は、何千万人もの人々の生活を真に向上させる製品を開発する実証された手法として、ユーザー中心設計をビジネス全体に根付かせることです。といっても、完璧さや正しさを求めているのではなく、恒常的に「間違いを減らす」ことが狙いです。もし毎日少しずつでも間違いを減らせたなら、おそらく何か正しいことをしていると言えるのではないでしょうか。
デザインリーダーシップの黄金期
デザインリーダーシップは黄金期を迎えています。そう言えるのは、デザインの価値がこれほどまでに可視化され、認識されている時代はこれまでなかったからです。デザインリーダーは、デザインチームの管理者というよりは、ビジネスの言葉を話し、経営陣に加わり、ビジネスリーダーとしての活動が求められるようになっています。以前はデザインと関わりのなかった責任を負い、他の領域と説明義務を共有しなければならなくなったおかげで、デザインについての新しい考え方を切り開く道が生まれました。デザインがいかに素晴らしいかを伝道する代わりに、それを証明することが期待されています。世界は急速に変化しており、経営陣は既に解決されているべき問題を抱えています。
今こそ、企業にとって以下の能力が重要な時です。
- ユーザーのニーズを深く理解できる能力
- 顧客の行動を素早く学ぶ能力
- ニーズをよりよく満たすために、迅速に適応・対応するための適切な方法を活用する能力
これらを保持する企業が、生き残り、成功し、繁栄する企業です。デザインは、これらの能力に関して、明らかに重要な役割を果たすことができます。
BT デザインチームのブログでは、私たちの活動をより詳しくご紹介しています。
この記事は How to Build a Successful Design Team — Part 3: Structure & Strategy(著者: Conor Ward)の抄訳です