メタバースで見つかる、デザイナーのキャリアの新しい可能性

出典:Adobe Stock / grandfailure

ドン・アレン III は、XR(Extended Reality)と総称される、没入型体験のクリエイター兼デザイナーです。急速に進化する拡張現実や仮想現実(AR & VR)の世界で活躍するために彼が用いているキャリア戦略のひとつは、常に、繰り返し、毎週必ず自分から仕事を奪うことです。

「過去の自分を失業に追い込むようなスキルを毎週学ぶように努力しています。私はこれを『タコ型』と呼んでいます。複数の異なる触手を持ち、業界内のスペースやツールごとに使い分けるのです。デザイナーは、学校でスキルを学び、成功に必要なものはすでに持っていると教えられることが多いのですが、それは、過去のものとなった考え方です」

メタバースはクリエイターにとっての機会

上のアレンの言葉は、メタバースと共に現れた新たな機会が、過酷なものであることを示唆しているように響いたかもしれません。確かに、動きのある作品の制作、世界観の構築、没入型デザインなどは、ますます混雑しつつある分野であり、Microsoft、Roblox、Epic Games、NASCAR、The Coca-Cola Company などの、世界的なメディアやハイテク企業が多大な人材とリソースを投入しているのは事実です。

しかし、アレンが実際に感じていることはその真逆です。新興の機会が速いペースで変化しているために、適切なスキルを持ち、さらに重要なこととして、新たな学びに対してオープンであることにより、若いクリエイターでも多様なクライアントとの新しいキャリアに進出できるのです。メタバースのプラットフォームの急成長に伴い、ブランドの拡張や、さらにはメタバースでスニーカーの販売を試みた Nike のような、店舗やコマースの機会も登場しています。

完全な没入型の仮想現実の制作であれ、ウェアラブルやアプリを用いた拡張現実の制作であれ、企業や製品を際立たせるために必要な幅広いデザインの才能が必要とされています。ブルームバーグ・インテリジェンスは、メタバースが 2024 年までに 8000 億ドル近いビジネスチャンスになると推定し、数十の競合プラットフォームが主導権を争い、エンターテイメント市場だけで 4000 億ドルを上回る可能性があると伝えています。

「AR、VR、Web3 の分野で輝いている人たちは、好奇心に溢れています」と、Coursea で製品デザイナーとして働くキム・アルバンは語りました。彼女は、仮想空間のデザインのための、一連のビデオチュートリアルとリソースハブを作成した講師でもあります。「常に空間的な理解と思考に努め、学び続けることが重要です。私は、最新情報を把握するために技術ニュースレターを購読し、企業が何に価値を置いているかに注意を払いつつ、他の人たちが何をしているのかを見極めるようにしています」

2D のスキルは 3D に適用できる

特に 2D のデザインスキルやアプリを熟知している人にとって、AR や VR への移行は面倒に思えるかもしれません。しかし、多くの 2D のスキル、経験、そしてアプリでさえも、拡張現実に適用することが可能です。特に、人工知能の飛躍的な進歩は、必要最小限のグラフィックスを洗練されたレンダリングに変える「CG to Real」を可能にしました。より迅速により本物らしい表現を作成できるようになって、より没入感のあるデジタル体験をこれまで以上に容易に生み出すことができます。今や Adobe Illustrator のように広く使われているツールが、2D のスケッチを簡単に 3D グラフィックに変換してくれます。

アルバンもアレンも、世界観の構築への取り組みと、実験する意欲の重要性を口をそろえて強調していますが、それと同時に、伝統的なグラフィックデザインのスキルが、XR 分野におけるキャリア成功への橋渡しになるとも述べています。また、デザイン思考のスキルも XR に通用します。特に企業のプロジェクトでは、最終成果物だけでなく、デザイン関連の主要な決定がどのような思考プロセスを経て行われたかに興味を持つクライアントがいるものです。そのフィルターは何故あるのか、すでに市場にあるものと比べてどうなのか、制作時に仮定していたことは何か、そして最も重要なのは、デザイナーとして自分が制作したものについて伝えられるかどうかです。

優れた構成とワークフローは常に重要であるとアレンは指摘しています。特に、2D 作品のコンセプトの多くは VR に簡単に持ち込めます。アレンが 3D アセットを作成する際、Photoshop で画像を作成したり、Illustrator でベクターグラフィックスを作成することがあるのはそのためです。

視点をリフレッシュし、動きや空間をデザインする閃きを得るために、アレンがクリエイターに推奨するのは、古典的なアニメーション作品を見直して、ストーリーボード作成やストーリーテリングの観点から思考することです。よりアクティブで没入的なメディアで成功するためには、デザイナーは、少なくともある程度、映画監督のように考える必要があるでしょう。

https://blog.adobe.com/media_159483acee8f53bdca5cecc811e4aced47eb4fbd1.mp4

マリア・マルティネスがつくり上げた美しい世界。Substance 3d マガジンに制作過程が紹介されている

メタバースにあるクリエイターのチャンス

クリエイターにとって、メタバースは新しいチャンスの宝庫です。

例えば、メタバースに参加するプレイヤー向けには、ウェアラブルファッション、キャラクターやバーチャルインフルエンサーの創造がクリエイターにとってのチャンスになるとアレンは考えています。人々は、メタバース内の自分自身をつくり変えようとします。つまり、プラットフォームのアバターが着用する衣服やアイテムなど、新しいデジタルな個性に貢献する製品づくりの機会があるのです。また、サザビーズがメタバースにバーチャルアートのギャラリを構築したり、ウェンディーズとチボトレがバーチャルレストラン環境を提供したように、従来のデザインコンセプトとモーショングラフィックのスキルの融合による、ブランドと提携したコマースの機会もあります。

複数の仮想世界の存在もチャンスです。クリエイターにとって、メディアを横断して作業できることは、ビジネスとクリエイティブの両面における本当に重要なスキルです。今は実験的な時代で、オープン性やカスタマイズ性の異なるさまざまなテクノロジーが競い合っています。そのために、異なるメタバースプラットフォーム間でプロジェクトを移植できる柔軟性を持つことは非常に有利です。「制作した作品を、異なるメタバースそれぞれに合わせて仮想化できることは重要です。例えば、シリアスなデザインをアニメ風にしてみるのはどうでしょうか?」とはアレンの提案です。

既存のトレンドを分析し、適応することは簡単です。新しいデザインを公開したら、デザイナーはそれを各プラットフォームで共有し、インプレッション、共有、ユーザーが特定のフィルターを使って写真や動画を撮影した回数といった指標を追跡できます。さらに、作品の市場性を高めるために、ソーシャルメディアや NFT を通じて作品の配布や宣伝を行うことができます。

小さく始める

メタバースのための制作だからといって、最初からビデオゲームを目指す必要はありません。アルバンが始めたばかりのデザイナーに提案するのは、フィルターの作成およびデザインに集中することです。すなわち、現実の画像の上に重ね合わせて、操作したり、共有できるデジタル効果の制作です。

数多くの VR や AR の世界が著名なゲームエンジン上に構築されていますが、そうしたプラットフォームの学習は時間がかかる行為です。アルバンは、初期のエフェクトを Adobe Aero を使って構築しはじめました。それらは、カメラアプリでユーザーの顔の上に回転する渦巻きのイメージを重ねるような、ごく単純なものです。彼女は、Aero 内に Pinterest ボードのようなものを作成し、それをインターフェイスのアイコンとデザインで埋め尽くし、様々なインタラクションや振る舞いを試しました。そうして、追加の次元における要素の扱いを理解し始めました。

特に最初の頃は、技術について学習するよりも、実験に取り組むことの方がより重要です。「自分が遊んでいるという感覚を身につける必要があります。その一方、最初から素晴らしいものでなければならないという感覚は捨てるべきです」とアルバンは語ります。「私が Photoshop を学んだときも、ただ何時間も遊んでいたものです。メタバースでも同じようなアプローチがお勧めです」

メタバースに飛び込んで制作を始めたいと感じていますか?そのための入口はすでに用意されています。Adobe Substance 3D のエコシステムを使えば、XR 体験を今すぐつくり始めることができます。また、企業サイズに関わらずメタバースへの対応を進める方法についての、より詳しい情報もご覧ください。

この記事は Design careers find a new dimension(著者: Matt Rozen)の抄訳です