#AdobeforAll Summit レポート 誰もがどこかでマイノリティ。自分のマイノリティ性を意識することで理解が進み、共感が生まれる

アドビでは、誰もが働きやすく、キャリア開発ができる職場を作るために、毎年「Adobe for All」の取り組みを行っています。

2022年のテーマは「Let's belong together」。アドビでは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン) のための取り組みとして、Aspire、Connect、Ally、Impactをキーワードに、人材多様性を推進し、お互いにリスペクトしてつながり助け合い、顧客や社会にポジティブなインパクトを与えることを目指しています。

アドビジャパンでは、2022年9月27日にイベントを開催しました。イベントの企画、進行、運営は、従業員のつながりを深め、働きやすい職場環境作りを目指す有志によるグループ「Japan Site Council」が担いました。イベントの様子はオンラインでも中継され、英語、中国語、韓国語での同時通訳もつけて、日本以外のアドビでも視聴されました。

セッションには、LGBT をはじめとした多様な人材の就職・転職を支援するダイバーシティ求人情報サイトを運営する株式会社JobRainbow 代表の星 賢人さんをゲストスピーカーにお招きし、「DE&Iとクリエイティブ」をテーマに講演をしていただきました。

■活動を始めるきっかけは、友人の就職活動での理不尽な体験

星さんによると、日本では性的マイノリティは11人に1人(8.9%)いると言われており、星さん自身も当事者の一人です。自身がマイノリティであることに気づいたのは中学1年生の時でしたが、周囲にカミングアウトすることはできませんでした。そのうちに、いじめられるようになり、先生に相談したものの「女々しいのが悪い」と言われ、不登校になってしまいました。一方、家庭でもLGBTのタレントをテレビで見た親から「こんな風になったらだめ」と言われてショックを受けました。

大学に入り、LGBTサークルの代表になり、いろいろな人と出会うことができました。その中の一人が、高校までは男性として過ごし、大学からは女性となったトランスジェンダーの友人です。大学時代は、生き生きとしていた彼女ですが、就職活動で面接官から「あなたのような人はうちの会社にいない」と言われ、ショックを受けて大学を辞めてしまいました。

「自分も学生だったので、助けることができず悔しい思いをしました。しかし、少子高齢化の日本において多様な人材が活躍できないのは、社会的損失です。誰もが自分らしく働けることは、当事者本人はもちろん、企業、社会にとってもプラスであると考え、会社を立ち上げることになりました」(星さん)

■誰もがある面ではマイノリティになり得る。多様性を理解することで、新しい価値観が生まれる

「DE&I」は、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンのこと。D&Iは多様な人材が組織にいて、お互いに違いを理解し認め合うことを指します。エクイティ(equity)とは、公平さのこと。イクオリティ(equality)は、全員を同じように扱うことですが、エクイティは個々のニーズに合わせて、手段の提供や配慮をし、機会へのアクセスを平等にすることだと、星さんは話します。

ダイバーシティには、大きく2種類あるといわれています。それは、見える違いと見えない違いです。例えば、肌の色など人種の違い、年齢、性表現(ジェンダー)は、見える違いです。一方、価値観、経験、家族構成、性的指向などは見えない違いです。

「これまでのD&Iは、人種差別撤廃、世代間/男女間の平等、車椅子の方に向けたバリアフリーといった”見えやすい違い”にフォーカスしてきました。しかし、障がい者でも内部疾患や精神疾患は見えませんし、LGBTQ+も見えたり、見えなかったりします。時代の視点が見えづらい方の違いにシフトしていっているので、チームやお客様のそれぞれの見えにくい違いに気づき、違いを知ろうというマインドを持ってほしいです」(星さん)

セッションでは、LGBTQ+の定義が紹介されました。出生時の性、性自認、性表現、性的指向が複雑にからみあって、性のあり方が決まります。

「どれか一つではなく、それぞれの要素のグラデーションが無限にあって、重なりあっています。LGBTQ+の人、そうではない人で壁があるように思うかもしれませんが、それぞれの人にグラデーションがあって、その延長線上に性的マイノリティがいると考えてください。セクシャリティは一人ひとり違うことが当たり前になれば、購買行動、価値観にも影響してくるでしょう」(星さん)

日本の現状を見ると、LGBTQ+の自殺未遂数はそれ以外の人の2-6倍多い、職場で差別的な発言を受けた経験が半数以上といったデータがあります。星さんもカミングアウトした友人から「俺のことを襲うなよ」と悪気なく言われることがあったと話します。こうした言葉は、「Micro Aggression(些細な攻撃)」と呼ばれ、意図的かどうかに関わらず、マイノリティを軽視し、侮辱することになります。例えば、「○○人なのに、△△大学出てるなんですごいね!」と言ったとき、相手を褒めながらも、○○人に対する隠れた攻撃があると星さんは話します。

「LGBTQ+の問題に取り組んでいると、誰もが何かしらのマイノリティだと感じます。僕はセクシャリティはマイノリティですが、他の部分ではマジョリティである部分があります。人に言えない弱みは誰でもあるので、自分の中のマイノリティ性、マジョリティ性を意識すると、他のマイノリティに共感できるようになり、どんな言葉は避けるべきかわかるようになると思います」(星さん)

■今求められるメディア表現

Netflixは、登場人物にLGBTQ+が出てくるドラマや映画が多くあります。配慮しているのかと思いきや、若い世代に人気のコンテンツを提供していった結果だそうです。マイノリティを扱うことが社会的にもビジネス的にもよい影響を与えています。

広告クリエイティブにも表現の変化が見られるようになっています。素材サイトのゲッティイメージズの2007年のベストセラーは肌の露出の多い女性の写真でしたが、2011年には力強いイメージの女性の写真が選ばれるようになっています。LGBTの写真も家族のイメージが人気になっています。ある調査では、D&Iの配慮をしたクリエイティブは広告経由の売上に貢献すると回答した人は64%となりました。

事実、 LGBT就活生の髪の毛の悩みに寄り添ったパンテーンのCM、ジェンダーにとらわれないデザインパッケージの生理用品などが登場しており、受け入れられています。

「DE&Iを実現すると表現の可能性が増えます。知っていることが増えることはワクワクすることですし、表現の幅を広げる気づきを与えてくれるので、イノベーションに繋がります」(星さん)

質問コーナーでは、星さんに次のような質問がありました。

Q:歴史物など古い時代を表したクリエイティブについてはどう対応するべきでしょうか。

A:アメリカ建国の父の一人であるアレキサンダー・ハミルトンの生涯を描いたブロードウェイミュージカルでは、実在した白人の歴史的人物の役を黒人やラテン系など有色人種の俳優達が演じました。批判もありましたが、ミュージカルは好評で、トニー賞を受賞しました。

この配役は建国の父の固定概念を変えるもので、建国の父の物語の再定義とも捉えられました。批判を恐れずに挑戦することがイノベーションにつながると思います。

Q:子どもが当事者だった場合、親はどのように接するべきでしょうか。

A:「ありのままのあなたがすばらしいんだ」ということを伝えてほしいです。同時に、性的マイノリティの自分のイメージを押し付けないこと。女性の体だけど、心は男性とカミングアウトしたときに、「じゃあ男らしい服を着よう」と押し付けないでほしいです。子どもの声に耳を傾けてどんな格好をしたいのか聞いてみてください。お子さんが悩んでいるようであれば、ロールモデルが必要なので、多様な人が出てくる漫画や小説でお互いに学ぶということでも良いと思います。

私が親にカミングアウトしたときは、口頭では伝えにくかったのでLINEで伝えました。否定されるのではないかと不安で、半年くらい悩んだ末のことでしたが、「あ、そうなんだ」と自然に受け止めてもらいました。本心では驚いたようですが、いつもどおりに振る舞ってくれたのはうれしかったです。今では、正月にパートナーを連れて実家でご飯を食べることもあり、関係は良好です。

■ヘルスキーパーとして働く視覚障がいを持つ従業員の紹介

続いて、エンプロイーストーリーとして、視覚障がいを持ちながら2019年4月からアドビ東京オフィスでヘルスキーパーとして働く沼橋 大樹さんが紹介されました。

子どものときは、今よりも視力があったため、わんぱくに過ごしたという沼橋さん。先天性小眼球症という疾患で、成長するに連れ視力が低下し、現在は窓ガラスの結露した状態で世界を見ているような感じだそうです。高校卒業時は、ネガティブに捉えてふさぎ込むこともありました。

その後、マッサージの資格を取得し、同じ境遇の友達や家族の支えがあり、障がいへの思いが変化したといいます。学生時代にアドビを見学する機会があり、働きやすそうな環境に憧れ、採用試験に応募し、アドビのメンバーとして働くことになりました。

コロナ禍では、在宅勤務になりマッサージサービスを提供できなくなり、不安を感じたといいます。ヘルスキーパーチームでできることを考え、社員の健康支援の一貫として、オンラインでのストレッチ講座、ウォーキングイベントの開催を行いました。ウォーキングイベントは、毎回100名以上の参加があり、年に2回定期的に開催することになりました。

6月からオフィスが再オープンし、マッサージサービスを再開しました。今後もオンラインでの健康支援やウォーキングイベントは継続し、ハイブリッドな働き方をしていきたいといいます。

見た目では沼橋さんは障がいがあるとわからず、そのことを伝えると驚かれることもあるといいます。しかし、昔の友人に思い切ってカミングアウトしたら「困ったことがあればいつでもいって」と言われて気持ちが楽になったそうです。「障がい」に限らず、誰しもが見た目ではわからない悩みを密かに抱えているのではないか、私のように思い切って打ち明けてみれば、思いがけない周囲のやさしさに気づくかもしれません、と締めくくりました。

オフィスですれ違っても、沼橋さんは気づかないことがあるそうです。「ですから、ぜひ皆さんの方から、名前とともに声をかけてください」と沼橋さんは呼びかけました。

セッションのあと、東京オフィス内で飲み物やスナックを囲んでの社員同士の交流会行われました。