研究成果をAdobe Expressで手軽にウェブ発信〜北海道大学大学院水産科学研究院

北海道大学大学院水産科学研究院では、「Fish of the Month」というウェブサイトで、研究成果を積極的に発信しています。魚介藻類の魅力を生物学や水産学の視点で伝えるコンテンツが、写真を生かした印象的な構成で展開されています。このウェブサイトの制作に使用されているのがAdobe Expressです。同大水産科学研究院 教授 澤辺智雄先生に、ウェブでの情報発信を始めた背景やAdobe Expressを選んだ決め手についてお話を伺いました。

水産科学研究院の研究成果をウェブで発信

「Fish of the Month」では、1〜2ヶ月に1度、一魚種を取り上げて記事を掲載しています。「鮭鱒」「昆布」「鰻」「海月」「秋刀魚」など馴染みのある名前が並び、バリエーション豊か。それぞれの魚種に関連した研究をしている先生方から記事と写真の提供を受け、澤辺先生がAdobe Expressでウェブページの制作作業を行っています。澤辺先生自身も専門の海洋微生物に関して海鼠(なまこ)などのページで記事を書いているそうです。

澤辺先生はアドビ製品の利用経験が長くウェブの制作にも早い頃から取り組んでいて、他社製品も含めさまざまなツールを試してきました。「誰でも簡単にレイアウトできるものずっと探していて、たどり着いたのがAdobe Spark(現在のAdobe Express)でした。試してみると非常に魅力的なページがとても簡単にできるんですよね」と澤辺先生は振り返ります。当時、試作ページをまわりの先生に見せると、とても評判が良かったそうです。記事ページの制作にAdobe Expressを使用することに決め、目次の役割をするトップページはAdobe Dreamweaverで制作をしています。

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ウェブサイト「Fish of the Month」。トップページ(左/プロジェクト紹介部分)と海月のページ(右/画面をスクロールした数箇所を合成)

写真が生き生きするデザインで魅力を紹介

澤辺先生は、中高生など若手人材に大学の研究を紹介したり英語で海外に情報発信したりするには、視覚に訴える印象的なデザインが重要だと考えていました。写真をベースにした魚の情報サイトを想定し、そのイメージにぴったりだったのが、Adobe Expressで作るウェブページのデザインだったのです。「このレイアウトは他のソフトではできません。写真の見せ方がうまくて、なぜか映えるんですよね。魚が生き生きした感じに見えます」。

さらに、操作が簡単で手軽に制作できることも大きな決め手でした。「Adobe Expressは本当にレイアウトが簡単なので、写真と文書がそろっていれば30分くらいで1ページできてしまいます」。研究で忙しい中でも負担にならない作業量で更新ができているそうです。

ウェブで公開する情報は、写真にテキストが添えられているような印象になるよう情報量を抑え、原稿を提供してくれる先生にはできるだけ簡単な表現で書いてもらうようにするなど工夫をしています。とはいえ学術的な情報ですから内容は深く、それぞれの先生の独自性や思い入れの伝わる研究内容が掲載されていて貴重な写真もあるのだとか。例えば秋刀魚ページの最初の写真は、孵化して数日の秋刀魚の仔魚で、非常に珍しいそうです。他にも、海鳥にGPSとビデオロガーをつけてデータを解析した研究があることや、鮭鱒のページが人気で情報量も多いこと、北海道大学はSDGsに関連する研究も強いことなどを澤辺先生は次々に教えてくださいました。

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各魚種の記事ページの例。左が橈脚類(かいあしるい)で右が秋刀魚

こうした興味深い情報は論文として発表されてもなかなか一般の人が知る機会はないので、ウェブサイトで公開されていることで知の共有として意義のあることではないでしょうか。記事には論文を参照できるリンクもあり、より詳しく知りたい人はさらに知識を深められます。

図書館、博物館機能を併せ持つ新施設でデジタル創作活動を

現在、北海道大学水産科学研究院・水産科学院・水産学部のある函館キャンパスでは、博物館と図書館の建て替えに合わせて新たな施設の建築計画が進んでいます。実は澤辺先生が「Fish of the Month」を立ち上げたのは、新施設の寄付を集めるために広報を強化するというねらいもありました。

2024年オープン予定の新施設は、図書館と博物館の機能を併せ持ち、学習やイベントなどに利用できるホールスペースも備えます。学生の利用はもちろん、地域に開いた場として大学の知が共有される拠点となるのです。子ども向けのワークショップなどが行えるラボスペースも設けられ、なかでも“マリンメディア・ラボ”には、デジタルコンテンツの制作に十分な設備を整える予定です。

学生は発信力をつけることが大切

北海道大学では近年インターネット上での発信に力を入れていて、同じく水産科学研究院では、同大の研究成果を動画などで学ぶことのできるオンライン教材システム「Learning and Study by Balance de Ocean System(LASBOS)」も運営しています。学生だけでなく、北海道大学で学ぶことを志す高校生など若手人材や、一般、海外に向けて研究を公開するという考え方は「Fish of the Month」と同じです。教育・研究機関として、世の中に知を共有するという方針が根付いています。

澤辺先生は、同大の学生が自ら学び、海が大好きで熱心にフィールドワークに取り組むことを評価する一方で、情報発信に関しては消極的なのでデジタルツールを活用して発信力をつけて欲しいと考えているそうです。「もっと海洋生物の魅力を発信してもらいたいですね。研究というのはなかなか一般には伝わりづらいですから、自分の研究を発信できると、さまざまな層の人の目に触れて何かにつながる可能性があります」。

そんな発信力をつけるひとつの取り組みとして、8月には大学院の授業の一環としてアドビによるデジタルクリエイティブ基礎講座が実施されました。特にマリンメディアに特化した内容で、Adobe Expressはもちろん、Photoshopによる画像加工や、Premiere Proによる動画編集を扱いました。研究成果を発信する手段として、デジタルコンテンツの制作方法を身につけることが注目され始めています。

簡単でスピード感を持って発信できるAdobe Expressと、より高度な加工と制作が行えるPhotoshopやIllustrator、Premiere ProなどのAdobe Creative Cloud製品をうまく組み合わせることが、大学などの研究機関の発信力を高めるひとつのヒントになりそうです。