【事例】探究のゴール・アクションをビジュアルで効果的に伝える~カネディアン・アカデミイ

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兵庫県神戸市のインターナショナルスクール、カネディアン・アカデミイ(Canadian Academy)では、小学校高学年にあたる4・5年生が探究(Unit of Inquiry)の学習の一環でAdobe Expressを使った表現制作を行っています。同校のICTインテグレーショーンスペシャリストでAdobe Education Leader(AEL)としてもご活躍の茂田可愛先生に、教科を超えた学びのアウトプットツールとしてAdobe ExpressやiPad版Adobe Photoshopを使った活動事例や児童の作品を紹介いただきました。

探究のアウトプットツールとしてAdobe Expressを導入

国際バカロレア(IB)の認定校であり、グローバル社会で活躍できる人材育成を目指す教育プログラムを小学校から高校まで一貫して実施するカネディアン・アカデミイ。IBの初等教育プログラム(PYP)を展開する小学部では、年間を通して6つのテーマのもとに探究ユニットを計画、実施しています。Adobe Expressは特に4・5年生で複数の探究ユニットで活用する他、児童・教員とも自由に使っている状況です。

子どもたちのテクノロジースキルを多方面から支援する茂田先生は、「探究が学びの中心で、ゴールにアクションありき。様々な機会で自分の考えやアイデアをビジュアルで表現することが必須です」と同校のクリエイティブ活動やアウトプットの多さ、その重要性を強調します。

一人一台ChromebookでAdobe Expressを操作する同校4年生の様子

一人一台Chromebookを利用する4年生は、年度初めにAdobe Expressの導入としてビデオを制作

約3年前に小学校3〜5年生の一人一台端末をChromebookに切り替える際、ブラウザ上で動作する新たなクリエイティブツールを探し求め、導入したのがAdobe Express(旧Adobe Spark)でした。ログインや管理がしやすく、機能がシンプルで子どもたちが安全に使えること。またアドオンによってGoogle Classroom上で直接Adobe Expressのアセットを使えるようになり(※同校はGoogle Workspace有料版を利用)さらにアクセシビリティが向上したことも、児童・教員ともに大きなメリットになっているそうです。

ビジュアルを通して自分や周りの人々の行動変容につなげる

授業では茂田先生のイントロダクションをもとに、子どもたちも実際に手を動かしてAdobe Expressの使い方や様々な表現手法を身につけていきます。昨年度4年生が導入ワークとして取り組んだのは、1分ほどの短いビデオ制作。学校のルーティン・ルール紹介(児童作品例 “Morning Arrival”)や争いの解決法(児童作品例 “Fighting”)について、子どもたちのロールプレイングを交えながらグループワークで作り上げました。

友達とのトラブルを解決する方法について話し合いながらAdobe Expressでビデオにまとめるグループの様子と作品

Extended Learning Opportunities(縦割り横割りで授業・クラスを超えた活動)の時間に「Conflict Resolution(争いの解決法)」のビデオを制作。友達と衝突したときにどう解決できるか提案した。

学年によっては導入後どのツールを使うかは基本自由ですが、デジタルシチズンシップの授業の最後に設けた「Sharing Your Kindness Online(オンラインで優しさ・いたわりをシェアしよう)」というアクションでは、Adobe Expressを使いステッカーをデザイン。印刷したものを図書室に置き、他の学年の児童にも配布しました。

Adobe Expressを使ってデザインしたステッカーを図書館で配布

オンラインの交流で大切にしたいことをアイコンとスローガンを組み合わせて表現

5年生では「Who We Are: Growing and Changing (私たちは何者か: 成長と変化)」という探究ユニットで、Wellbeing(ウェルビーイング / 幸せ・健康)のアクション・ゴールのポスターを作成。インフォグラフィックを学ぶワークでもあり、いろいろな情報をもとに自身の考えを深め、自分なりの答えとして幸せに生きるためのエッセンスをAdobe Expressで表現し、他者と共有します。

昨年度5年生が制作したWellbeingポスター

Wellbeingのインフォグラフィックポスター(昨年度5年生の作品)。制作をとおして情報をわかりやすく視覚的に表現する手法を同時に学ぶ

手を動かしながらデジタルアートの基礎、クリエイターの視点を学ぶ

さらに今年度は、ビジュアルアートクラスの中でAdobe ExpressやiPad版Adobe Photoshopを使ったデジタルアートに取り組んでいます。

4年生はAdobe Expressを使い、レイヤー、色調補正、背景の削除など、デジタルアートの工程で欠かせない画像加工の種類や方法を体感的に学びます。

ビジュアルアートクラスでAdobe Expressを使っている様子


一瞬で背景が消せたり、自然と全く違う色に変わったりする様に「わお!」と驚きの声があがることも

習得したことを元に、次はプロのアーティストの作品を自分なりに分析。どんな技法が使われているか、どんなねらいが込められているか…「受け手の消費者としてだけでなく、クリエイターの視点を持ってほしい」と茂田先生は話します。これらの学びは、続く「風景画」の授業で手描きにはない色使いやテクスチャー表現など、アートの授業で習ってきたコンセプトをデジタルで再現する中で活かされることを期待しています。

5年生ではさらに一歩踏み込み、iPad版Adobe Photoshopを使った「自画像」にチャレンジしています。子どもたちは鉛筆でスケッチブックに自画像を描いたものを、iPadで撮影してPhotoshopに取り込み、背景、テクスチャーなどをデジタルの描画で自由に変えていきます。

鉛筆で描いた自画像をiPad版Adobe Photoshopに取り込みデジタルの描画を加えている様子

アナログとデジタルの表現を組み合わせ、それぞれの特性を活かした自画像を描き出す。自分が課題にしているもの(貧困問題や、ゴミ問題)をテーマに合わせてどんどん変えていく

他にも、複数の画像を使って合成写真を作りながら構図を学ぶ実践も行っています。 iPad版Adobe Photoshopを使ったPhoto Compositionのワーク

子どもたちは茂田先生がいるMakerspaceとアートの先生がいるアートスタジオを行き来してアドバイスを求めながら進めていく

自分なりの答えを相手に伝える力・方法を身につける

同校の中・高等部ではAdobe Creative Cloudユーザー指定ライセンスを導入しています。こうしたAdobe Expressや小学部最終学年でiPad版Photoshopを積極的に使った学びは、今後PhotoshopやIllustratorなど実社会で使われるクリエイティブツールへの橋渡しを意識したものなのでしょうか。

茂田先生は、活動を通してクリエイティブツールを使う上で必要な知識を習得できることは認めつつも、「ただツールのマスターがゴールではありません。探究の問いに対して出した自分なりの答えを、相手に伝える最適な表現を選び取れるようになることが大事」と話します。

「学びのゴールに必ず『自分ができる身近なアクションは何か』と問われるのが探究。何かを変えたい、誰かを動かしたいとき、Web ページを作る子もいれば、パンフレットを作る子もいる。表現の仕方は子どもによって様々でも、人に伝えることがマスト」。だからこそ茂田先生は、子どもたちに「自由に使える武器」として多種多様なクリエイティブツールや表現手法を与え、選べることを見せている、と熱を込めます。

また、実際に自分で作るからこそ学べることがあると話します。「Photoshopでの加工をフェイクというのか、アーティスティックな表現と捉えるのか。自分でやってみた経験があるからクリティカルに見る目も養われるはず」と、あらゆる情報がネット上にあふれる現代で体験的に学ぶ価値にも言及します。

さらなる学びの充実に向けて、国内外の最新事例にアンテナを張り、プロクリエイターとも積極的にコンタクトをとり情報交換する茂田先生。同校の子どもたちが先生のもとで得たクリエイティブな武器を手に、新しい時代を創造的に切り拓いていくのが楽しみです。


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カネディアン・アカデミイ小学部ICTインテグレーションスペシャリスト茂田可愛先生