日本の文字文化を守り、情報コミュニケーションを支えるモリサワ|Adobe Fontsパートナー紹介11

モリサワフォント 見本

文字に豊かな表現力を与えるフォントは、クリエイティブには欠かせない道具のひとつです。アドビが展開する「Adobe Fonts」は、グラフィックデザインやweb、映像といったさまざまなフィールドでフォントをより自由に使えるようにするクラウドサービスで、2022年12月現在、600を超える日本語フォント、Adobe Fonts全体で2万以上のフォントを利用することができます。
この記事では、Adobe Fontsに参加する170を超えるフォントメーカーのなかから、一社をピックアップし、歴史や特徴、オススメのフォントを紹介していきます。

写植時代から現代まで日本語を支え続けるモリサワ

今回紹介するフォントメーカーは、およそ100年にわたり文字を通じて、日本の情報コミュニケーションを支え続けてきたモリサワです。モリサワの文字は印刷物のみならず、社会のあらゆるところで目にすることができ、いまや社会における情報インフラの一部を担っていると言っても過言ではありません。
印字、印刷技術が移り変わるなかで、モリサワはどのようにその文字を守り、伝え、社会貢献へと繋げていったのか。その歴史を紐解くと、そのはじまりは活字に変わる新しい印字技術として開発された「写真植字」(写植)にたどり着きます。

時は1923年、モリサワの創業者・森澤信夫さんは当時在籍していた星製薬の図案部長・長沢青衣さんから、ひとつの話を聞かされます。それは「海外では活字を使わずに写真の技術を使って文字を印字する方法が研究されている」というものでした。
活字活版印刷では、印刷する文字の数だけ活字が必要となり、書体ごと、サイズごとに活字を用意する必要がありますが、この写真植字は文字のネガに光を当て、印画紙に文字を焼きつけることで、文字の複製、拡大・縮小を可能にする画期的な技術でした。
星製薬のなかで印刷部主任を務めていた森澤信夫さんはこの話に深い興味を持ち、日本語の写真植字機の開発を決意。1924年には同僚の石井茂吉さん(のちの写研創業者)とともに「邦文写真植字機」として特許を申請し、翌1925年に特許を取得します。

森澤信夫さんと写真植字機の開発模型

左:星製薬に在籍していた頃の森澤信夫さん(23歳)
右:邦文写真植字機の発明模型

その後、森澤信夫さんは石井茂吉さんとともに「写真植字機研究所」を設立し、写真植字機は実用機の完成に至ります。森澤信夫さんは終戦後の1946年から大阪で写植機の製造を開始し、1948年にはこの工場を「写真植字機製作株式会社」として法人化。「MC型」と呼ばれる独自開発の写植機を完成させると、1954年に名称を「株式会社モリサワ写真植字機製作所」と改めて独立し、生産・販売を一貫して行なう体制へとシフトしました。
翌年からは「中明朝体AB1」「中ゴシック体BB1」といったモリサワ独自の書体を次々と発表し、西のモリサワ、東の写研と言われるほど、写植の世界で急成長を遂げていきました。

テロップ専用機/MC-6型

左:東京オリンピックTV放送用に開発されたテレビテロップ専用写真写植機「MD-T型」
右:万能型手動写真植字機「MC-6型」

欧文専用写真植字機や、テロップ専用機、モリサワ-ライノタイプ電算写植システム等、持ち前の技術力を活かした革新的な開発はその後も続き、1987年にはアドビと日本語ポストスクリプトフォントの共同開発・販売契約を締結。DTPという言葉すら一般的とは言えなかった時代、来たる未来を見据えて結ばれたこの契約は、のちの日本語DTPの基礎を築く画期的なものでした。こうして、手動写植、電算写植と受け継がれてきたモリサワの文字は、パソコンによる印字・組版(DTP)へと受け継がれていくことになります。
2021年にはともに写真植字機の開発、写植の発展に尽くしてきた写研との間で、写研書体のOpenTypeフォントを共同で開発することに合意。写真植字機の発明からちょうど100年にあたる2024年には「石井明朝ニュースタイル大がな」「石井明朝オールドスタイル大がな」「石井ゴシック」の3ファミリー・13書体をリリースすることを目指し、開発が進んでいます。
組版・レイアウトが写植からDTPに移り変わるにともない、数多くのフォントメーカーから多種多様な書体が発売されるようになりましたが、いま現在に至るまでモリサワフォントがスタンダードであり続けることができたのは、写植時代から文字と向き合い、その品質を磨き上げてきたからにほかなりません。

写研書体

2022年11月に発表された写研書体。モリサワ、字游工房、写研の3社で共同開発が進む

文字が使われる場所はいま多様な広がりを見せています。表示媒体の中心は紙のような物理的なメディアからスクリーンメディアに変わり、日常生活のありとあらゆるところで、わたしたちは文字を通じて情報を取得しています。モリサワではこうした社会の変化、環境の変化にあわせ、常に最適かつ高品質なフォントを提供してきました。
近年、そのデザインバリエーションは、一層の広がりを見せており、2022年にはモリサワグループ全体で25種の日本語書体ファミリーと49種の欧文書体ファミリーを追加*。基本書体だけでなく、デザイン書体、欧文書体にも力を入れています。 *Morisawa Fontsへの追加数

モリサワグループ新書体(1)

モリサワグループ新書体(2)

モリサワグループ新書体(3)

2022年にMorisawa Fontsに追加されたフォント(一部)

モリサワフォントの価値は文字のデザインだけには留まりません。ユニバーサルデザイン(UD)への対応や最新文字コレクションへの準拠、フォントテクノロジーの面でも業界をリードする取り組みを進めています。
たとえば、アドビがDTP向けに策定した文字コレクション「Adobe-Japan1-7」に準拠したPr6/Pr6Nフォントでは23,060ものグリフが必要になります。モリサワの明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体のほとんどはこのPr6/Pr6Nフォントとして提供されており、そのフォント数はゆうに100を超えます。
人名のように多様な表記が必要な情報であっても、より正確に伝達できる……「文字を通じて社会に貢献する」を社是とするモリサワのフォントは情報コミュニケーションにおけるインフラとしても重要な役割を担っていると言えるでしょう。

現在、Adobe Fontsで提供されているモリサワグループのフォントは、モリサワフォント・7書体、タイプバンクフォント・4書体、字游工房フォント・2書体の合計13書体。明朝、ゴシック、丸ゴシックといった基本書体を中心に、UD書体・8書体、Pr6Nフォント・8書体を含む、充実の内容となっています。ウェイトはいずれも本文等のテキストに使いやすい細めのもので揃えているので、表情の変化を確認しながらフォントを選ぶことができるでしょう。

Adobe Fonts / Morisawa

https://fonts.adobe.com/foundries/morisawa

モリサワでは2022年10月より、これまでのフォントサブスクリプションサービス「MORISAWA PASSPORT」に代わるサービスとして「Morisawa Fonts(モリサワフォンツ)」をスタートしました。
モリサワグループのモリサワ、タイプバンク、字游工房のフォントだけでなく、SCREENグラフィックソリューションズのヒラギノフォント、昭和書体フォントといった日本語フォント、さらには欧文フォント(ラテン文字)、中国語(簡体字・繁体字)フォント、韓国語フォント等、多くの国・地域で使える高品質なフォントを提供するクラウド型フォントサービスで、利用できるフォント数は1,500以上。日本国内向けの制作だけでなく、多言語展開にも対応できるラインナップとなっています。
Adobe Fontsで試したフォントとは異なるウェイトがほしいときや、さらに多種多様なデザインの文字を使いたいときは、「Morisawa Fonts」の導入を検討するとよいでしょう。

Morisawa Fonts

モリサワのフォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」 https://morisawafonts.com/

Adobe Fontsで使えるモリサワグループのフォント

Adobe Fontsで使えるモリサワグループのフォント・18書体を会社ごとに紹介しましょう。モリサワから提供されているのは以下の7書体です。

明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体が各2書体ずつセレクトされており、文字幅が80%で設計されたコンデンス書体「UD新ゴコンデ80 Pr6N L」も用意されています。丸ゴシック体「じゅん」を除き、Pr6Nフォントとして提供されているので、異体字が多く登場するテキストでも安心して使用することができます。

Adobe Fonts / モリサワフォント見本

タイプバンクから提供されているのは以下の4書体です。

明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体のUDフォントに加え、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(読み書きが困難な学習障がいのひとつ)の子どもにとっても読みやすく学びやすい、手書きの筆跡に近いかたちで構成されたユニバーサルデザイン書体「UDデジタル教科書体」も利用することができます。

Adobe Fonts / タイプバンクフォント見本

字游工房から提供されているのは以下の2書体です。

透明感のある、端正な文字で定評のある字游工房の明朝体、ゴシック体を各1ウェイトずつ利用することができます。いずれも本文にも使いやすい太さのPr6Nフォントとして提供されているので、書籍や広報誌から日常的なドキュメントまで幅広く活用することができます。

Adobe Fonts / 字游工房フォント見本

書籍や名刺、名簿にも使える豊富な文字が揃うフォントが集結

Adobe Fontsで使用可能な多くのフォントのなかから、イメージや目的にあわせて厳選して提供する「フォントパック」に、収録文字数の多い基本書体をまとめた「漢字・記号が豊富な基本書体パック」が追加されました。23,060ものグリフを揃えるPr6Nフォントなら、正確な表記が求められるシチュエーションでも安心して使用することができるでしょう。

Adobe Fontsでフォントパック「漢字・記号が豊富な基本書体パック」を見る
https://fonts.adobe.com/collections/large-character-set

フォントパックイメージ

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https://fonts.adobe.com/

Adobe Fontsでモリサワのフォントを見るhttps://fonts.adobe.com/foundries/morisawa

モリサワ
web|https://www.morisawa.co.jp/
Morisawa Fonts|https://morisawafonts.com/