神山すむ「色を塗る楽しさが味わえるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 34

神山すむ|メインビジュアル・Fresco画面

アドビでは毎月、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストコンテストを実施しています。応募は簡単、Twitterで アドビ公式アカウント をフォローして、 #Frescoイラコン をつけてTwitterへ投稿するだけです。
1月のテーマは2023年の干支にちなんで「うさぎ」。年賀状や新年のあいさつのために描いたうさぎの絵はもちろん、ペットのうさぎや擬人化したうさぎ、うさぎをモチーフにした物語……表現のかたちに制限はありません。うさぎにまつわるイラストをAdobe Frescoで描き、#Frescoイラコン をつけて投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第34回はサイバーパンクスタイルでクールなイラストを描く、神山すむさんに登場いただきました。

Adobe Frescoイラストコンテストhttps://blog.adobe.com/jp/publish/2023/01/10/cc-design-frescocontest

サイバーパンクに彩られる月とうさぎ

神山すむ|うさぎ

「もともと女の子の絵を描くことが苦手で、普段は男の子のイラストばかり描いていたので、“うさぎ”というテーマをいただいたとき、最初はいつものスタイルで描くのは難しいかもしれない、と感じました。
ただ、仕事を通じていろいろな絵を描くうちに、女の子を描くことに対する苦手意識も薄れてきたところだったので、今回はうさぎっぽい女の子にチャレンジしてみました。色合いや服装にサイバーパンクやテックなイメージを取り入れたことで、自分らしさが出せたんじゃないかと思っています」

『ドラゴンボール』が育んだ圧倒的画力

神山さんが“女の子を描くのが苦手”だったのはなぜでしょうか。それを知るために、神山さんのこれまでを振り返ってみましょう。

「幼稚園に通っていた頃から絵を描くのが好きで、時間さえあれば絵を描いていました。当時はポケモンが大好きで、小学校に上がったあとも、みんなが外でドッジボールをしているときにも教室でひたすらポケモンを描いては友だちに見せたりして。参考にする本やイラストを学校に持っていくわけにはいかないので、家でひたすら模写して、描きかたを覚えて、学校ではその記憶を頼りに描いていましたね」

小学生当時、“ポケモンがうまく描ける”というスキルは誰しも憧れるもの。神山さんの絵を見た友だちが喜ぶ様子は、また次の絵を描く原動力ともなりました。
その神山さんが中学生になったとき、その後の人生に影響を及ぼす、衝撃的な作品と出会います。それが鳥山明さんが描く少年漫画『ドラゴンボール』でした。

「中学一年生の時、TVで映画『ドラゴンボール Z 神と神』を見たのですが、“なんだ、この映画は…!”と衝撃を受けたんです。『ドラゴンボール』自体は以前から知っていたはずだったのですが、この映画を見た瞬間、そのかっこよさにすっかりハマってしまって……中学の三年間と高校の三年間、とにかく『ドラゴンボール』ばかり描いていました」

親に頼み込んでコミック全巻を買ってもらい、ボロボロになるまで読み込みながら模写をした。もらったお年玉はすぐに鳥山明さんの画集へと変わり、深夜3時、4時まで練習し続けていた……こうしたエピソードからも、神山さんがいかに『ドラゴンボール』にのめり込んでいたかが窺い知れるでしょう。

神山すむ|ドラゴンボールのスケッチ

本棚には『ドラゴンボール』のほか画集、イラスト集が並ぶ。右は当時描いていたスケッチ

神山さんはTwitterにアップした絵を通じて、『ドラゴンボール』を知る国内外のファンからフォローされるようになりますが、極端なまでの傾倒はひとつの弊害をもたらします。
筋肉モリモリのキャラクターたちをひたすら描き続けたことで、神山さんは圧倒的な画力を手にした一方、それ以外のモチーフ、たとえば“かわいい女の子”を描くことができなかったのです。

「とにかく“かっこいい”ものを描きたかったので、“かわいい”に目が向かなかったんでしょうね(笑)。だからいざ女の子の絵を描こうとしても、体のラインも表情もどう描いていいのか、まったくわかりませんでした。
ただ、仕事でイラストを描くには、自分で描きたいものだけを描けばいいわけではなく、どんなものでもしっかりと描けるようにならなくてはいけません。そのために大学に入ってからはとにかく練習を重ねて、少しずつ苦手意識を克服していきました」

脱『ドラゴンボール』で独自のスタイルを作り上げる

神山さんはいま、プロのイラストレーターでありながら、現在も武蔵野美術大学に在学する学生でもあります。
しかし絵を描くのが得意だからこそ、自然と美大の道を選んだのかというとそうではありません。高校在学時、美大進学はおろか、イラストを仕事にすることすら考えていなかったと話します。

「絵を描くのは確かに好きでしたが、それを仕事にできるかというと厳しいだろうと考えていました。高校時代、興味があって画塾にも通ったこともありましたが、学校が進学校だったこともあり、受験の頃にはごくふつうの国公立を目指すようになっていましたね」

現役合格は叶わず、浪人することになった神山さんですが、ここで思わぬかたちで絵の道へと引き込まれることになります。

「翌年の受験に向けて予備校に入ったものの、その頃からSNSを通じて、イラストの依頼をいただくようになったんです。9時から18時まで予備校に通い、それから22時までは依頼されたイラストを描く……イラストの仕事が増えてからは、朝から夜までイラストを描くこともありました」

神山すむ|浪人生時代

浪人生時代のイラスト

「そうした生活をするうちに、ふつうの大学を目指して安定を取るか、不安定かもしれないけれどイラストを仕事にするのか、自分の将来や目的をあらためて考えるようになって。出した結論は、“勉強よりも好きでワクワクする。しかも相手にも喜んでもらえることをしているのに、その道に進まないのはもったいない”ということでした」

時は11月、受験もすぐそこに迫っていました。
神山さんは自身の決断を親に伝え、4年間の計画をプレゼンテーション。必死の思いで同意を得ると、センター試験(現在の大学入学共通テスト)でよい結果を収め、武蔵野美術大学の合格を勝ち取ることに成功します。国公立を目指して続けていた勉強は思わぬかたちで功を奏したのです。

「入学してからはそれまでの価値観が全部ひっくり返りました。それまでは勉強する人にばかり囲まれていたのに、大学に来てみたら自分と同じように絵が好き、デザインが好きな人たちばかり。感性が爆発するような、わくわくした気持ちになりました。
ただ、同時に自分が井の中の蛙だったということも突きつけられました。『ドラゴンボール』しか描けない自分には、オリジナリティがなかったんです」

イラストレーターとして、自分だけのスタイルを見つけるために、神山さんはそれまで6年間、熱中し続けてきた『ドラゴンボール』のスタイルから離れるを決意。自ら『ドラゴンボール』の絵を封印しました。

「表現の幅を広げるために、それまで依頼でいただいた報酬はすべて画集の購入にあて、イラストのスタイルや描きかたを研究しました。古いものから新しいものまで、時代もジャンルも問わず、とにかく買い漁って。
『ドラゴンボール』の絵を投稿しなくなったことで離れるSNSのフォロワーもいましたが、当時はそれ以上に自分のスタイルを作り上げることが大切だと思ったんです」

そして、自分が納得できる絵が描けるようになったとき、“イラストレーター・神山すむ”として再スタート。神山さんが“『ドラゴンボール』の絵を描くイラストレーター”ではなく、ひとりのイラストレーターとして自立した瞬間でした。

神山すむ|大学入学後

大学入学後のイラスト

もともとの画力にオリジナルティのあるスタイルが加わったことで、TwitterやInstagramでも多くの人の目に留まるようになり、2021年からはエナジードリンクZONeの学生アンバサダー「ZONe STUDENT BOOSTER」(ZSB)に着任。
2023年1月にはAdo Live TOUR 2022-2023 「蜃気楼」のプロモーション映像向けにイラストを提供するなど、その活動の幅は一気に拡大していきました。

神山すむ|ZONe

エナジードリンク「ZONe」

「こうしたお仕事はすべて人から紹介していただいたものです。特別、画力があるわけでもない自分がこうしてイラストレーターとしても活動できるのは、周りの人に助けていただいているからこそだと思っています。
絵のクオリティはもちろん大事にしていることではありますが、それと同じくらい対人関係が大切だと思っているんです。仕事は結局、人と人のつながりでできるものですから」

不思議と手になじむ、使いやすさがあるAdobe Fresco

神山さんの制作環境は、MacBook Pro+液晶タブレットがメイン、Adobe FrescoはiPadで使用しています。そんな神山さんがデジタルツールとはじめて出会ったのは中学三年生のとき。当初は着彩のためだけに使うものだったそうです。

「いまとなってはソフトの名前も思い出せないのですが、紙に描いた線画をスキャンしてマウスで色を塗っていましたね。中学三年生の冬に、友人がペンタブレットを貸してくれてからは線画を含めてデジタルだけで絵を描くようになりました。
浪人生時代にiPadを導入して、しばらくはiPadで描いていたのですが、“どこでも描ける”というiPadの特性が、逆に性に合わなくて。寝転びながらでも描けてしまうとなると、仕事のスイッチが入らないんですよね(笑)。それからはMacBook Proと液晶タブレットで描くようになりました。そのほうが集中して作業ができるんです」

神山すむ|作業環境

メインの作業環境はMacBook Pro+液晶タブレット。Adobe FrescoはiPad版を使用

Adobe Frescoで一枚のイラストを描き切るのは今回がはじめて。その感触はどのようなものだったのでしょうか。

「最初は慣れるまで時間がかかるかなと思っていたのですが、びっくりするほどすぐに使えました。使いかたを調べる必要もなく、不思議と手になじむ感じがして。シンプルなUIは、イラスト初心者にもわかりやすいのではないでしょうか。
特にすごいと思ったのは、ライブブラシの水彩ですね。今回、服はすべて水彩で描いているのですが、自然に色が広がり、なじんでいくことで、意図しない色と質感ができあがる。それが本当におもしろい。色を塗っていて“楽しい”と感じたのは本当にひさしぶりです。
ブラシそのものも非常に豊富で、追加でダウンロードできるのもいいところです。人物の描画だけでなく、背景の描画に使えそうなブラシも多く、今回、月の表面を描きながら、背景を描く楽しさに気づくことができました。使ってみたいブラシはまだまだたくさんあるので、これからも少しずつ使ってみようと思います」

神山すむ|Fresco画面

洋服の色の濃淡はAdobe Frescoの水彩で描画

Adobe Frescoならではのタッチや質感を活かし、普段とは違う描きかたにも挑戦しています。

「いつもは線画を描いて、そこに色を乗せていくスタイルで描いているのですが、アナログの画材のように使えるAdobe Frescoの特性を活かして、今回は厚塗りの手法で色を重ねていきました。線画のもとに決まった場所に色を置いていくという普段の描きかたよりも、遊び心が出せるのがAdobe Frescoのいいところですね」

『ドラゴンボール』という殻を破り、自分のスタイルを確立した神山さんは、いままた趣味で『ドラゴンボール』の絵を描くようになったそうです。それは画風を模索し、表現が揺れ動く時期を抜け、揺るぎないオリジナリティを手に入れた証とも言えるのではないでしょうか。神山さんはこの先、何を目指すのか。将来について聞きました。

「自分が置かれている環境は、ほんの数ヶ月でガラッと変わってしまうということを、これまでに何度も経験をしてきました。いまはイラストレーターとして活動をしていても、3ヶ月後はまったく新しいことを始めているかもしれません。だから、この先ずっとイラスト一本で行くと決めてしまうのももったいないとも考えていて。絵と同じくらい、人と関わることが好きなので、大学生活を通して、イラスト、デザインとの関わりかたを見つけていきたいと思います」

神山すむ|近作

神山すむ
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