まかろんK「わかりやすさ、使いやすさは想像以上。ブラシもおもしろいAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 32

まかろんK インタビュー メインビジュアル

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募は簡単、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
11月のテーマは「どんぐり」。秋になると道のそこかしこで見かける、いろいろなかたちのどんぐりは、秋を感じさせるアイテムのひとつではないでしょうか。そんなどんぐりにまつわるシーンをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #どんぐり をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第32回は映画・ドラマのワンシーンを切り取るような、感情を揺さぶる絵を描くまかろんKさんに登場いただきました。

どんぐりのリースを編む、幼なじみのふたり

まかろんK 作品

「どんぐりくらべ」(2022)

「“どんぐり”と聞いたときは……正直、難しいテーマだなと思いました(笑)。
どんぐりはとても小さいものなので、テーマとしての存在感をどうやって出せばいいのか、頭を抱えてしまったのですが、試行錯誤するうちに“どんぐりのリースにすれば、秋らしい色味や華やかさを出しながら、自分の絵のスタイルでもある“物語のあるシチュエーション”に持っていけるんじゃないかと思いついて。そうして描いたのが、この『どんぐりくらべ』という作品です」

悩みに悩む中で見つけた“どんぐりのリース”というキーアイテム。これを見つけたまかろんKさんは、頭のなかでは次々とイメージが湧き上がったと話します。

「どんぐりってすごくたくさん種類があるんですよね。大小、色とりどりのどんぐりを使ったリースはモチーフとしておもしろいかもしれないと思いついてからは、“花屋の少年にリースを作らせよう”、“ちょっと恋心を寄せている幼なじみの女の子にリース作りの邪魔に入らせよう”というようなイメージがぽんぽんと湧いてきました。
いつもは自分のなかで思い浮かんだシーンを絵として表現するということが多く、今回のように特定のテーマやモノから膨らませるという描きかたはほとんど経験がなかったので、とても勉強になりました。
ひと目見たときは華やかな印象になるように、よく見ると“こんなものまで描いているんだ”と楽しんでもらえるように、いろいろなかたちのどんぐりを散りばめたので、ぜひじっくり見てもらえたらうれしいです」

まかろんK Fresco画面

まかろんKさんの制作環境は、Windows+液晶タブレットにiPad。今回のイラストは、iPadで描き進め、Windows版Adobe Frescoで仕上げています。ふだんとは異なるツールをまかろんKさんはどのように感じたのでしょうか。

「Adobe Frescoのことは以前から知っていましたし、色のなじみかたにとても興味を持っていたのですが、実際に作品作りに使うのは今回がはじめてでした。
最初は不安だらけでしたが、実際に描いてみると想像していた以上に、わかりやすくて使いやすかったです。ブラシのタッチや質感が本当におもしろくて、かたっぱしから描き味を試しました(笑)。そういう作業も楽しかったですね。
仕様が複雑すぎないので、感覚的に“こうするにはこれかな?”と試してみると、イメージ通りに操作ができます。イラスト初心者の人にもわかりやすいでしょうし、いまほかのペイント系ツールを使っているのなら、すぐに使えるようになるんじゃないかな」

まかろんK 制作環境

まかろんKさんの制作環境

断裁した紙のハギレに絵を描いていた幼少期

人と人の関係性、揺れ動く感情、その背景にある物語……無限に広がる世界を一枚の絵に凝縮するまかろんKさん。切り取られる瞬間はいずれも映画やドラマのハイライトシーンのような魅力を持っています。
まかろんKさんはどのようにして、圧倒的な画力と精密、精緻な表現力を身につけていったのでしょうか。幼少期から振り返ってもらいました。

「ほかのイラストレーターの方と同じように、幼少期、物心がついた頃から絵に関わってきたと思います。どこに行くにも紙と鉛筆を持ってでかけていて、親戚の家にはいつもスケッチブックが用意されていました。
持ち歩いていた紙はちょっと特殊で、横は20cmくらいなのに縦は50cmくらいあるような、細長いものばかりでした。というのは、父の知人が紙を扱う会社を経営していたのですが、そのツテで断裁した後のハギレをいつも大量に持って帰ってきてくれたんです。おかげで我が家は紙に困ることはありませんでした(笑)。
幼い頃だったので、父の知人に関する記憶はないのですが、絵を描くきっかけをくれたことには本当に感謝していて。いまでも会えるのならお礼が言いたいくらいです」

まかろんK 作品

左「目を合わすこともできなかったけど」(2021)
右「あたしの特等席」(2022)

家の方針で漫画を読むことはできなかったため、ジブリ映画などのキャラクターを3歳上の兄と競い合うように絵を描いていたまかろんKさんですが、中学生になったころ、ふたりとも絵を描くのをやめてしまいます。

「自分が描いた絵を人に見られるのが極度に苦手で……人前で絵を描くのが恥ずかしいと思うようになりました。ほかにも熱帯魚にも夢中になったり、受験勉強で忙しくするうちに、絵からは離れてしまったんです」

高校を目指す当時のまかろんKさんには「高校生になったらアメリカに留学に行く」という大きな目標がありました。その夢は高校一年生のときに、語学留学というかたちで実現することになりますが、そこで思いがけず役立ったのが、幼い頃に描き続けていた絵の才能でした。

「留学先では美術を専攻しました。絵の描きかたはそれまで完全に独学だったので、ここではじめて構図やパースについてしっかりと学ぶことができたのですが、一日一枚、絵を描くという課題がとにかく大変で……でも、描いた絵をきっかけに留学先で友だちができるようになったんです。色鉛筆で描いたぶどうの絵は、友だちができるきっかけを作ってくれた思い出の一枚です」

まかろんK 作品/高校時代

小説の挿絵をきっかけにイラストレーターの道へ

留学先で絵の描きかたを学んだのをきっかけに、まかろんKさんは再び絵の道を進み始めたのかというとそうではありません。それ以降は再び絵からは離れ、高校卒業、大学進学、一般企業に就職と歩みを進めていきました。
しかし、思いがけない出会いによって、まかろんKさんは再び筆を取ることになります。

「勤め先に描いた絵をカレンダーにして販売し、その売り上げを寄付するという活動をしている先輩がいたんです。自分も同じようなことができないかと思い、会社に副業申請を出してカレンダーを作り、砂漠緑化団体に寄付する活動を始めました。
その頃描いていた絵はいまとはまったく違うタッチのものです。1ヶ月見続けても見飽きない絵にしよう、どこにでも置けるように個性的になりすぎないようにしようと考えながら描いては職場の人に見てもらって。アドバイスをもらいながら描いていました」

まかろんK 作品

「たった一瞬でいいから、あの人が私を好きになってくれたら」(2022)

「いまのようなタッチの絵を描くようになったのは、2017年に小説を書いていた知人が挿絵を描いてくれる人を探しているとき、興味本位で立候補したのがきっかけです。
小説投稿サイト『エブリスタ』で一緒に活動をしているうちに、ほかの作家志望の方からも“表紙絵を描いてほしい”というような依頼をいただくようになりました。ただ、自分としては“まだまだ勉強中の身”と思っていたので、それをご理解いただいたうえで無償で引き受けていたんです」

この間、まかろんKさんが無償で描いた絵は80枚近くにもなるそうです。絵一枚に費やす時間も短くないなかで、なぜ、無償で絵を描き続けていたのでしょうか。

「挿絵を描くにあたって中途半端な知識ではいけないと思い、装画の勉強もかねて書店を周っていたのですが、そのときにイラストレーター・げみさんの作品集に出会ったんです。げみさんは書店に行くと見かけないことがないくらい、いろいろな装画を手がけられていて、この作品集を手にしたことをきっかけに、いつしか“自分もげみさんのようなイラストレーターになりたい”と強く願うようになりました。
そのためにはいろいろな方の小説を読み、その物語からイメージする世界を描いていく練習が欠かせないと思ったからです」

エブリスタの作家から来る相談はジャンルもさまざま。ミステリーもあり、ホラーもありと、まかろんKさんが描いたことのないものばかりでしたが、それがかえって力をつけるきっかけにもなりました。

まかろんK 作品

「何年たっても君を思い出す」(2022)

「依頼のたびに書店に行ってはそのジャンルにふさわしい表現を研究しました。そのうえで作家の希望を聞きながら、意に添うように仕上げる……これはすごく勉強になりましたね。
作家さんによってはキャラクターごとに参考写真やセリフ例をこと細かにまとめてくださるのですが、その熱量が本当にすごくて。その熱意に応えるためにも、(無償だからと言って)自分も中途半端に描いてはいけないなと、気持ちを改めるきっかけにもなりました」

そこで学んだのは絵の技術だけでなく、言わば“依頼されて絵を描く”ことに対する覚悟のようなものだったのかもしれません。
こうした地道な努力、作家との交流は程なくして実を結び、2019年、文春文庫とエブリスタが開催していた第3回バディ小説大賞受賞作『空 戦国あやかし恋華』の表紙絵を担当することに。受賞作家の小花衣ゆりさんがイラストレーターを探しているとき、エブリスタで交流を深めていた作家がまかろんKさんを推薦してくれたのです。
この作品はまかろんKさんが商業イラストレーターとしての道を歩む、第一歩となりました。

まかろんK 作品

左:小花衣ゆり『空 戦国あやかし恋華』発行:文藝春秋(2019)
右:しのき美緒『帰蝶と信長:一、蝶は旅立つ』発行:BEKKO BOOKS(2020)

まかろんK 作品

「あの頃へ」(2019)

まかろんKさんの存在は同年、Twitterに投稿したある一枚の作品を通して、さらに多くの人に知られることになります。それがカフェの窓に過去の姿を写した「あの頃へ」。この絵には14.8万ものいいねがつき、フォロワーも一気に増加。まかろんKさん自身、“何が起こったのかわからなかった”と当時を振り返ります。

「映画のワンシーンのように頭に浮かんだシチュエーションを描いたものでしたが、多くの人がこの絵を見てくれるなかで、詩をつけてくださったり、イメージに合う曲を教えてくださったり、自分の経験に重ね合わせたり……本当にいろいろな反応をいただいて。
絵を通じて、世界が広がっていくということを初めて経験した作品です。これを機に、物語を感じられるような絵を目指して絵を描くようになりました」

見る人の感情を揺さぶり、ときに記憶を呼び覚ます、まかろんKさんの絵。一枚に含まれる情報量は、画力、表現力の向上とともにますます磨き上げられていき、出版社やレーベル等各所から依頼が届くようになりました。

まかろんK 作品

左:新馬場新『グッバイ、マスターピース』発行:双葉社(2022)
右:梅野小吹『右から二番目の夏』発行:KADOKAWA(2022)

まかろんK 作品

「まったく、手のかかる大人ですね」(2021)……“ビジュアルからインスパイアされた曲を作る”をコンセプトに活動するユニット・ミセカイは、2022年9月、このイラストをもとに楽曲「アオイハル」を発表

仕事と並行して進めていた自身初となる作品集『Moment』は、およそ2年半の歳月をかけて2022年11月に完成したばかり。これまでの軌跡に、描き下ろしのドラマティックなシーンイラストを加えた「Moment」と、幼なじみ3人の物語をイラストと漫画で描くオリジナルストーリー「ぼくらのワルツ」の2編で構成され、イラストのひとつひとつが広大な物語を内包する珠玉の作品集に仕上がっています。

「げみさんのように画集を出すことを目標にがんばってきたので、まさに自分の夢がひとつ叶ったところです。いまは絵でできることも多岐にわたっていると思うので、今後もチャンスをいただけるのなら、いろいろな分野にチャレンジをしていきたいと思っています」

画集に収録された「ぼくらのワルツ」は、これまで瞬間、瞬間を切り取ってきたまかろんKさんが、ストーリーに挑戦した作品とも言えます。まかろんKさんの絵が誰かの心を動かし、詩を、音楽をつけてくれたように、「ぼくらのワルツ」を見た人が映像化を願い出る……そんなことも起こり得るのではないでしょうか。

「動画に対する憧れは常にあります。自分が描いたキャラクターや物語がアニメーションになる……そんな夢のようなことが実現したら、きっと泣いてしまいますね(笑)」

まかろんK 作品集

『Moment まかろん K作品集』発行:KADOKAWA(2022)

まかろんK web|https://r.goope.jp/macaronk
Twitter|https://twitter.com/macaronk1120
pixiv |https://www.pixiv.net/users/22237732