猫とろ「Adobe Frescoは紙にアナログで描いている感覚を取り戻せるツール」Adobe Fresco Creative Relay 33

猫とろ 作業画面

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募は簡単、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
12月のテーマは「ケーキ」。クリスマスや誕生日のような特別なシチュエーションはもちろんのこと、自分へのごほうびで買うものもあれば、誰かへの贈りものとして渡すこともあるでしょう。どんなときでももらえばうれしい、ケーキには相手を幸せにする特別な魔法が込められているのかもしれません。そんなケーキにまつわるシーンをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #ケーキ をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第33回は揺れ動く感情、心の動きをやわらかいタッチで描き出す、猫とろさんに登場いただきました。

ふたりで過ごす大切な時間を切り取った一枚

猫とろ イラスト ケーキ

「わたしは普段、カップルのイラストをメインで描いているので、“ケーキ”というテーマをいただいたときも、“日常のなかでこんなシチュエーションがあったらかわいいな”と思えるシーンとして、一緒にケーキを作るカップルの様子を描きました。
好きな人、恋人といるときって、一瞬一瞬がすごく思い出に残る時間だと思っていて。その一瞬を思い出として閉じ込めたような、なつかしいイメージを意識しました。私はほかのイラストレーターさんと違って、線をしっかりと描くほうではありませんが、そのぶん、あたたかみのあるイラストにはなったんじゃないかなと思います」

猫とろさんのイラスト制作環境は基本的にiPad。複数のペイントアプリを使い分けて描いています。

「ふだんはCLIP STUDIO PAINTと仕上げにAdobe Photoshopを使っていて、ネームやラフを描くときにはアイビスペイントを使うこともあります。以前はパソコンで作業をしていたのですがどこに行っても絵が描けるようにしたかったので、いまはiPad Proだけで制作をしています」

猫とろさんがAdobe Frescoに触れるのは今回がはじめて。その感触はどのようなものだったのでしょうか。

「わたしはずっと水彩やアクリルで絵を描いていて、ここ数年でようやくデジタルで描けるようになったばかりなので、ほかのツールと比べることは難しいのですが、Adobe Frescoのブラシをはじめて使ったとき、アナログで紙に描いているような感覚が思い出せて。描いていて純粋に“なんか、いいな”と思えました。
今回のイラストではフルーツやクリームのようにふわっとさせたいところには水彩のライブブラシを使っているのですが、色が広がっていく感じや、水の量を調整できる機能が本物の水彩のようで本当にすごいですよね。
ブラシの種類が豊富なのもAdobe Frescoのいいところで、わたしもいろいろなブラシを試すなかで、自分らしい、ふんわりした線を描けるものを見つけることができました。どんな線を描くイラストレーターさんでも、きっと自分の個性を出せるブラシが見つかるんじゃないかな」

猫とろ Fresco画面

Twitterで広がるイラストの世界

人の想い、心の揺れ動き、感情の変化をイラストやショートコミックに展開する猫とろさん。その作品は若い女性の共感を呼び、圧倒的な支持を得ています。
高校生時代にすでにTwitterのフォロワー数が10万を超えていたという猫とろさんは、どのように絵と出会い、学びを深めていったのでしょうか。

「絵を描くのは小学生の頃から好きでした。それがそのまま中学生、高校生になっても変わらず好きで……そのまま、いまに至っています(笑)。
いまでこそ、自分の絵のスタイルが確立してきたかなと思えるようになりましたが、小さい頃からいつも“画力が足りない”と思い続けていて。中学生のときはとにかく上手に絵が描けるようになりたくて、岸本斉史先生の『NARUTO -ナルト-』をひたすら模写していました。
いまのタッチになったのは高校一年生のときで、Twitterをはじめたのも同じタイミングです。それまでは純粋に絵を描くのが好きだっただけでしたが、この頃から自分だけの、オリジナルの絵を描きたいと思うようになったんです。試行錯誤しながらいろいろな絵を描くなかで、カップルの絵をTwitterに載せたとき、フォロワーさんが“かわいい”と言ってくれたのがすごくうれしくて。自分でもその絵のタッチが気に入っていたこともあって、それからずっと今のスタイルで描いています」

猫とろ イラスト

イラストレーター名「猫とろ」は、Twitterをはじめた高校一年生のときにつけたもの。猫とマグロのトロ、好きなものをかけあわせた結果、生まれた名前でした。

「最初はただリアルの友人たちとフォローしあって、好きなものや遊びに行った場所の写真をあげるくらいだったのですが、授業中に何気なく描いた落書きをアップしたら、イラスト関係の方がフォローしてくれたり、コメントをしてくれたりするようになって。“こんな世界があるんだな”とそのときはじめてわかったんです。
落書きではなく、家でちゃんと描いたものを載せるようになってからは、よりたくさんの方にフォローいただけるようになり、いつの間にか、わたし個人のアカウントというより、イラストレーター“猫とろ”のアカウントになっていました」

高校一年生の夏、もし友人がTwitterに誘っていなかったら、イラストレーター・猫とろさんはいま存在していなかったかもしれません。絵を通して、Twitterを通じて、猫とろさんはより広い世界へとつながることができたのです。

猫とろ イラスト

「絵を見ていただいた方からの反応がなかったら、きっと描き続けることはできなかったでしょうね。絵に対してあたたかいコメント、やさしい言葉をかけていただくなかで、自分が好きなものをほかの方も好きだと思ってくれていることがわかる。“好きなものを共有できるっていいなぁ”と思えましたし、その感覚はわたしの創作にも生きていると思います」

高校在学中からイラストレーターとして活動

Twitterにイラストを投稿するようになってからは、猫とろさんの絵にも少しずつ変化が訪れます。思いつきで描くシャープペンシルの落書き(=未完成品)ではなく、スマホアプリによる着彩や水彩を使った表現などを取り入れながら、“完成品”として作品を仕上げるようになったのです。さらに自分の頭のなかにあるストーリーが見る人にもっと伝わるように、ショートコミック作品を作るようになっていきます。

「私の表現力では、一枚の絵に伝えたいことをすべて集約するのが難しくて。それならどうすれば見る人にわかりやすく伝えられるかを試行錯誤するなかで生まれたのがショートコミックでした。背景や状況、心理描写、表情、時間の流れを含めて物語を描くことで、より多くの人にわたしの絵のいいところを見せられるんじゃないかと思ったんです」

猫とろさんがアップしたショートコミックは瞬く間に広がっていき、いいねやRT、フォロワーも一気に増加。それがきっかけとなって、高校生にして仕事の依頼が届くまでになりました。

「サンキューマートさんから、“商品を出しませんか?”とお声がけいただいたのが、わたしにとってはじめての仕事です。そんなことをさせてもらえるなんて、本当に貴重な機会でしたし、当時はものすごくウキウキしながら描いたことを覚えています。
そのすぐあとに、KADOKAWAさんから“書籍を出しませんか?”と連絡をいただいたときは、もううれしさを通り越してびっくりしてしまいました」

https://twitter.com/thankyoumart/status/638233965908750336

猫とろさんの初仕事となった、サンキューマートコラボグッズ

猫とろ 書籍

左『ほんの小さな幸せをきっと君は奇跡だという』発行:KADOKAWA(2015)
右『君が好きだと言った空の色を僕は一生忘れないと思う』発行:KADOKAWA(2018)

高校生にして多くの経験を得た猫とろさんは、その後、さらに技術を高めるために絵を学べる学校へと進学します。

「学校ではデッサンやいろいろな画材を使ったイラストの授業があり、グラフィックデザインを学ぶこともできました。PhotoshopやAdobe Illustratorにはじめて触れたのもこのときです。
その学校に来ていたのは本当に絵が好きな人ばかりでした。みなさん自分の絵のスタイルがあって、しかもイラストだけではなく、デザインができたり、CGができたり、コンテストで賞を取っていたり。Twitterをがんばっていただけの自分と比べると、“すごい人っていっぱいいるんだなぁ”と圧倒されるばかりで……そのなかで自分らしさ、自分だけの個性を出すには、カップルのイラストだけじゃなくて、もっと違うシチュエーションも描けるようにならないといけない、いまのスタイルだけに固執してはいけない、と考えるようになりました」

猫とろさんが学校で得たもの。それは知識や技術だけでなく、本気で絵に取り組んでいる人たちとの出会いを通して気づいた、自分の絵に対する課題だったのかもしれません。そして、それを乗り越えることで、猫とろさんの世界はさらに大きく広がっていきました。

猫とろ 文化祭

文化祭ではグッズも販売。すでにイラストレーターとして名が知られていたため、“猫とろさんですか?”と話しかけられることもあったそう

在学中から仕事を受けていた猫とろさんは、卒業後、そのままイラストレーターとして活動を開始。装画やPRコミック等、さまざまなフィールドで活躍を続けています。

「いろいろなお仕事をいただけるようになってから、制作をデジタルに切り替えました。できればアナログのまま描き続けていきたかったのですが、アナログでは修正依頼に対応するのが難しくて。いまでもアナログの頃の作品を見ると、やっぱりいいなぁと思います。
この手書きの質感はデジタルツールでは難しいと思っていたのですが、今回、Adobe Frescoで描いたイラストでは、わたしがイメージした通りの、ふんわりした感じに仕上げることができました。描いていてもすごく楽しくて、自分は絵が描くのが好きだということ、自分の絵が好きだということをあらためて感じることができました。
これからも、いろいろな絵を描く機会を作っていきたいと思いますし、そのときはアナログのように描ける、Adobe Frescoをメインツールとして使っていきたいですね」

猫とろ イラスト

江崎グリコ ポッキー/超ポッキー部(2019)

猫とろ イラスト

猫とろ
Twitter|https://twitter.com/necotoro_m