ユーザーペルソナをデザインに活用しよう! | アドビ UX 道場 #UXDojo
ユーザーペルソナという言葉は、特に UX デザインに携わったことがある人ならば、聞き覚えがあるでしょう。ユーザーペルソナは、デジタル製品のデザインに広く使われているツールです。ペルソナのポイントは、一般的なユーザーではなく、特定のユーザーを念頭に置いて製品を開発することにあります。ペルソナの有用性は今では普遍的に認められるようになりました。適切に使用すれば、このツールはデザイナーの大きな力になります。
この記事では、ユーザーペルソナが重要な理由と、その作成方法を説明します。
ユーザーペルソナとは何か
ユーザーペルソナとは、ユーザーの原型として、代表的なユーザーグループのニーズを反映した目標や特徴を持つユーザー像を表現したものです。一般的に、ペルソナは 1~2 ページの文書で表現されます(下の図はその例です)。この文書には、行動パターン、目標、スキル、性格、経歴、および活動環境などが含まれます。通常、ペルソナを現実的な人物らしくするために、いくつかの架空の個人情報(例:リアルなユーザーの発言の引用)や、コンテキスト固有の情報(例:銀行アプリであれば、投資経験や主な支出)などが含まれます。
ユーザーペルソナのテンプレート 出典:Xtensio
ユーザーペルソナが重要な理由
製品を提供する対象の深い理解は、優れた製品を生み出すための基礎になります。ユーザーペルソナは、製品チームにとって最も重要な質問のひとつである「誰のためにデザインするのか?」に対する答えを見つけるのに役立ちます。ユーザーの期待、懸念、動機を理解することができれば、ユーザーのニーズを満たす製品をデザインし、その結果として成功へと近づくことができます。
以下は、デザインプロセスでペルソナを使用するいくつかのメリットです。
共感の構築
ユーザーに喜ばれるものをつくりたいと思うデザイナーにとって、共感は根幹となる価値です。ペルソナは、デザイナーがエンドユーザーを理解し、彼らに共感するための助けになります。ペルソナがあればデザイナーは以下のことを達成できます。
- ユーザーと同様の視点を得られます。ペルソナを作成することで、デザイナーは自身の外側に一歩踏み出して、それぞれの人が異なるニーズや期待値を持っていることを認識できます。架空のペルソナのニーズを考えることにより、実際のユーザーが必要とするものをより的確に推測できる可能性があります。
- デザインの対象を常に意識できます。実在の人物であるかのようにペルソナを捉えて関わるほど、デザインプロセスを通じてペルソナに配慮し、ペルソナのために最高の製品をつくりたいという意欲が湧きやすくなります。
デザイン思考のプロセス 出典: d. School of Design
デザインに関する判断を導く
ユーザーペルソナは、製品戦略の策定からユーザビリティテストに至るまで役立ちます。ユーザーの振る舞いやニーズを深く理解すれば、ユーザー側の視点から、誰のためにつくるのか、何が必要で何が不要なのかを定義することが可能になります。すると、チームは機能への要望に優先順位をつけられるようになります。また、デザインに関する判断についての議論をまとめるためにも役立ちます。例えば、送信ボタンの大きさを決めようとしている場面で、「プライマリペルソナであるキャロラインは常にスマートフォンを使用するため、タップの対象になるオブジェクトは大きくして、インタラクションコストを最小限に抑えるべきだ」という会話があるかもしれません。
ユーザーペルソナは、陥りやすいデザインの罠を逃れるのにも役立ちます。
- 自己投影によるデザイン:これは、デザイナーが自分達のためだけに製品開発をしているかのようにデザインすると出来上がるものです。実際には、デザイナーは、本来デザインの対象であるユーザーとは全く異なる存在です。
- ユーザー像に揺らぎのあるデザイン:これは、人によってユーザーの解釈が異なると出来上がるデザインです。それぞれのステークホルダーが自分の都合に合わせてユーザーを定義していると、製品に関わる意思決定に揺らぎがでます。
ユーザーペルソナは、機能の優先順位をつけるために利用できますが、優先順位をつけるための唯一の道具として使うべきでないことは覚えておきましょう。ビジネス側のニーズと目標も考慮しなければなりません。デザイナーは、ビジネスとユーザー両者のニーズの適切なバランスを見つけ、調和の取れた解決案をつくり上げる必要があります。
調査から発見されたことを伝える
ほとんどのデザイナーは、異なる専門知識、経験、視点を持つメンバー達から構成される、分野横断的なチームの中で働いています。その際、デザインに関する判断については、チーム全員が共通の理解を持つことが必要です。ペルソナは、ユーザーに関する最も重要な情報を、全てのチームメンバーやステークホルダーが理解し共感できるように、まとめて伝えることができます。
優れたペルソナの特徴
ユーザーの特徴をいくつか選んで記述して、それをペルソナと呼ぶことは簡単です。しかし、真に効果的なデザインツールとなるユーザーペルソナを作成することは、それほど容易ではありません。
以下は、優れたペルソナの主要な特徴です。
- ペルソナの記述は、そのあらゆる側面が、観察や調査から得られた実際のデータに基づいている必要があります。対象となるユーザーの考えを推測して作成されたつくりものであってはなりません。
- ペルソナは、実際のユーザーに見られるパターンを反映したものであるべきです。組織内で割り振られている役割の反映ではありません。
- ペルソナは、現在の状態において、ユーザーがどのように製品に関わるかに焦点を当てます。将来、ユーザーがどのように製品に関わるかを記述するものではありません。
- ペルソナはコンテキストに依存します。開発する製品に特有の領域に関連する振る舞いや目標に焦点を当てます。
ユーザーペルソナの作成
ユーザーペルソナの作成に必要な調査は、通常、デザインプロセスの初期に行われます。デザイン思考のプロセスでは、デザイナーは 2 番目の「定義」の段階でペルソナの作成に着手するのが一般的です。ほとんどのデザイン要素と同様に、ペルソナも繰り返し修正を重ねることがあります。ペルソナ作成後は、デザインプロセスのあらゆる段階において、チームがデザインについて判断する際にペルソナが参照されます。
デザイン思考プロセス 出典: NNGroup
ペルソナはさまざまな方法で作成が可能で、最適な方法は、予算、プロジェクトの種類、収集できるデータの種類に依存します。ペルソナ作成の詳細な説明を一つの記事に収めるのは困難ですので、ここでは一般的な流れを 5 ステップで紹介します。
1. ユーザーの情報を収集する
最初のステップは、ユーザー調査の実施です。目的は、対象であるユーザーの考え方、動機、振る舞いの理解です。最も正確なペルソナは、実際のフィールド調査に基づいて、ユーザーへの綿密なインタビューや観察データから抽出されたものです。従って、対象のユーザーグループを代表する十分な数の人々の調査を行い、ユーザーに関する情報や知識を可能な限り多く収集することが重要になります。リサーチャーがより多くを観察して捉えるほど、より現実的なペルソナに近づけられるでしょう。
時間あるいは金銭的な理由により、正確なペルソナの定義に必要なユーザー調査を行えない場合、チームがユーザーについて持つ知識からペルソナを作成することは可能です。既に実際のユーザーがいるケースであれば、カスタマーサポートの記録やサイト解析に頼ることもできます。このようにして作成されたペルソナは暫定ペルソナと呼ばれ、実際のペルソナが作成されるまでの優れた代用として使えます。
このステップでは、実際のユーザーの実態には全く関係ない、ステレオタイプなユーザーペルソナの作成を避けることが非常に重要です。ほとんど(あるいは全く)調査せずにつくられた、想像上の人々の完全に架空の物語は、デザインプロセスに何の価値ももたらしません。実のところ、害になることさえあります。また、不適切に構築されたペルソナは、この手法の信頼性をごく簡単に損ないます。
2. 調査データから行動パターンを特定する
次のステップは、調査結果の分析です。目的は、ユーザー調査から得られたデータの中からパターンを見つけ出し、似たような人々をタイプごとに分類できるようになることです。この作業に関しては、Kim Goodwin が提案する簡易的な戦略があります。
- 調査が終了したら、行動変数(ユーザーの行動の異なる側面)のすべてを一覧表にします。
- インタビューしたそれぞれの相手(または現実のユーザーの属性)を、適切な変数の組み合わせに対してマッピングします。
- 傾向を特定(6 つまたは 8 つの変数にまたがるクラスターに属する人々の集団をみつける)します。これらのグループが持つパターンは、各ペルソナの基礎になります。
3. ペルソナを作成して優先順位を付ける
次のステップでは、行動パターンを中心に、ペルソナの記述を組み立てます。その際、ユーザーを理解するのに十分な情報と共感を表現したペルソナにすることが重要です。この作業を行うときは、個性の詳細を追加したいという誘惑に注意しましょう。1 つか 2 つのちょっとした個性の表現はペルソナを生き生きとさせますが、あまり詳細が多くなると邪魔になり、ペルソナの分析ツールとしての信頼性を下げることになります。Don Norman はこの件について「ペルソナは現実的であれば十分で、リアルである必要はなく、必ずしも正確である必要すらない(ユーザー層を正確に特徴づける限りは)」と述べています。
一般的に、ユーザーペルソナのテンプレートには、以下の情報を含めます。
- ペルソナ名
- 写真
- デモグラフィック(性別、年齢、居住地、配偶者の有無、家族構成)
- 目標、動機
- 不満、課題
- 関連する行動
- パーソナリティ(個性を捉えた引用や標語など)
George Olsen が開発した「Persona Creation and Usage Toolkit」は、このステップで役立つ素晴らしいツールです。彼は、ペルソナの記述のために考慮できるあらゆる要因の包括的なリストをつくり上げました。
調査に参加した人や知り合いの実名あるいは詳細を使用することは避けるべきです。これは、ユーザーペルソナの客観性に偏りを生む原因になります。その結果、似た特徴を持つ人々のグループではなく、特定の人のためのデザインになってしまうでしょう。
多くの場合、リサーチャーは個々の製品に対して複数のペルソナを作成します。ほとんどのインタラクティブな製品は複数のユーザーセグメントを持つため、複数のペルソナを作成すること自体は論理的です。しかし、ペルソナが多すぎると、このプロセスは手に負えなくなってきます。というのは、ペルソナ同士の違いが不鮮明になってくるからです。そのため、このステップではペルソナの数を最小限に抑えることが重要です。すると、デザインに集中できるようになり、成功をより確実なものにできます。ペルソナの数に特に決まりはありませんが、経験的には、ほとんどのプロジェクトで 3~4 のペルソナがあれば十分です。
ペルソナが複数ある場合は、最も重要なものをプライマリペルソナとして選択し、「プライマリのためにデザインする。二次的なペルソナには便宜を図る」というルールに従うとよいでしょう。デザインに関する判断はプライマリペルソナを念頭に行い、その後、思考実験を通じて二次的なペルソナに対する確認を行います。
4. インタラクションのシナリオを見つける
ペルソナは、それ単体では何の価値もありません。ペルソナは、シナリオと結びつけられて、初めて価値を持ちます。シナリオとは、ペルソナがある特定の状況下で最終目標を達成するために、どのように製品と関わるかを記述したものです。シナリオは、デザイナーが主要なユーザーフローを把握するのに役立ちます。ペルソナとシナリオを組み合わせると、デザイナーは要件を集めることができ、その要件からデザイン案を作成できます。シナリオは、ペルソナの視点から書かれるべきで、起こりうるユースケースを、通常は概要レベルで明確に記述します。
目標手動型デザインは、ペルソナ、シナリオ、ゴールの 3 つを考慮する 出典: Smashing Magazine
5. 発見を共有し、チームから承認を得る
ステークホルダーの間でペルソナの存在が認知されることは、デザインチームが前進するために非常に重要です。すべてのチームメンバーとステークホルダーは、ペルソナに肯定的に関わり、そこに価値を見出しているべきです。ペルソナに慣れるにつれて、人々はペルソナを実際の人間であるかのように話し始めます。適切に構築されたペルソナは、まるでチームのメンバーの一人であるかのように扱われるようになります。
一般的に、Word や PowerPoint のようなデジタル表現よりも、ポスター、カード、アクションフィギュア、その他の物理的なオブジェクトによる表現の方が、ペルソナを伝えるには効果的で、ペルソナを常に念頭に置いて作業するためにも役立ちます。
おわりに
ペルソナは強力なツールです。適切に作成されたユーザーペルソナは、複雑なデザインプロセスを緩和し、アイデアを磨くプロセスを導くガイドとなり、対象のユーザーにとって良い体験をつくり出すというデザイナーの目標の達成を支援します。ペルソナを、デザイナーのすべての作業の中心に置くと、デザイナーはより配慮の行き届いた仕事ができます。
この記事は Putting Personas to Work in UX Design: What They Are and Why They’re Important(著者: Patrick Faller)の抄訳です